80話.起死回生の一手
私の名は、シリウス=ローランド。
ローランド侯爵家の長女で、王国オーガストのロイヤルガードの一人だ。
しかしてその実態は、蓮華様の従者に成る事を夢見る乙女だったりする。
蓮華様の強さに憧れ、その美しさに目を奪われ、その優しさに惚れこんだ。
そんな蓮華様からの手紙に内心ドキドキしながら読んだ中身は、トキメキとは程遠い内容ではあった。
だが、蓮華様が私を頼ってくれた。その事が嬉しくて、全面的に協力をする事にした。
この世界ではなく、他の世界から来たと言う彼らは、話してみればどこにでも居るような、普通の者達だった。
私とそう変わらない年齢で、話しやすくすぐに打ち解けられた。
化粧についてとても詳しい玲於奈嬢の事は、思わず師匠呼びしてしまう程だった。
断られてしまったのは悲しかったが、ナイトメアの事やキメラの事を調べさせている数日の間に、色々と教えて貰った。
私も城での仕事があるが、同じロイヤルガードの同僚アルスや、王国最強のロイヤルガードであるグルヴェイグ様から、蓮華様の依頼があるのなら、そちらを優先して良いと言われている。
理解のある同僚で嬉しい。
それから、私の部隊の者達ですら街におかしなところは見つけられなかった。
情報もこれといって無く、途方に暮れた。
なので一応、キメラが出た場所も調べてみる事にした。
ここでも何もなければ、少なくとも王都では何も行われていなかったという事になる。
しかし、事態は変わる。
玲於奈嬢が、オーブの安置されている間で不可思議な事を発見したからだ。
私には、何の変哲もない蝋燭にしか見えなかった。
だが、玲於奈嬢は違いを発見し、隠し階段を見つけてしまったのだ。
この事実は、王国内部に裏切り者が居る事に他ならない。
言葉少なく、階段を降りる。
私は国家の裏切り者をあぶりだす為に、皆にここで捕まえる事を提案した。
快く受諾してくれたので、私達はここで隠れて待機する事にした。
そう時間が経つ事も無く、男が階段を下りて行く。
私達はばれないように追う。すると男が魔物をどこかから取り出し、その魔物が消えたと思ったら、新たな魔物が出現した。
あんな呪法を私は知らない。
間違いなく国家を脅かす事態だ。
ここで捕まえ、吐かせなければならない。
そう思っていたら、後ろから突然声を掛けられる。
気付いた時にはすでに遅かった。
照矢殿が倒れ、人質に取られてしまった。
「ご安心をご安心を。なーに、簡単な契約でございます。レンゲ=フォン=ユグドラシルの肉体を、ここへ持ってきてほしいのですよ。ただ、それだけでございます。それで彼を解放すると約束致しましょう。勿論、貴方達に手を出す事も致しませんとも」
この悪魔は今、なんと言ったのか。
蓮華様を、差し出せ、だと?
はらわたが煮えくり返るのを何とか抑え、声を絞り出す。
「そんな事を認めると思ったか悪魔め」
私は剣を抜いた。いくら照矢殿が人質に取られているとはいえ、この人数差で掛かれば勝てるはず。
そう思っていたのだが、ミレイユ嬢はそう思ってくれなかったようだ。
シャイターンと名乗った悪魔に背を向け、私の方に向き合った。
「すまぬ。その悪魔は、恐らく妾でも倒せぬ。じゃから、お主を今は……倒させてもらう。シャイターンとやら、この者の命まで取れとは言わぬな?」
「ククッ!勿論でございますとも。私は悪魔ですから、こういう展開は大好物でございますからして。良いですねぇ、楽しいですねぇ」
「チッ……マジでやンのミレイユ」
「……今は、従って欲しいのじゃ、レオナ」
玲於奈嬢も悩んだのだろう。頭を掻いた後に悔しそうに、私の方を向いた。
敵として、認識を変えたのだろうな。
「すまねぇシリウスサン。兄ちゃんを助ける為に、今は敵対させて貰う」
私の背には、敵がまだ居るが……どうやら傍観するようだ。
目の前のミレイユ嬢、玲於奈嬢、ハルコ嬢を見る。
む……?何か、誰か一人忘れているような……私達は5人、だったか?
頭を振る。今は雑念を捨てるべきだ。
彼女達は強い。それは訓練の時にも分かっている。
ロイヤルガードの称号を得た私は、蓮華様の強さに一度は折れた。
しかし、より強く、熱く、私の剣は再度磨かれた。
全ては、蓮華様に追いつく為。
今までの修練よりも厳しい修練を毎日繰り返してきた。
蓮華様に、強くなったねと笑いかけてほしくて。ただ、それだけを望んで。
そんな蓮華様を要求したこの悪魔を、私は許さない。
剣を構え、口上を叫ぶ。仲間と思った者に剣を向けるのだ……気合を入れる為に、お腹から精一杯の声を絞り出す。
「我は王国オーガストのロイヤルガードが一人、シリウス!参るっ!」
私の横薙ぎの剣を、玲於奈嬢は受け止める。
蓮華様に、私の剣はまっすぐすぎると言われてから、色々と工夫をする訓練をした。
その剣技の一つが、これだっ!
「防げるか玲於奈嬢!『ラピッドムーブ』!」
「うぉっ!残像かっ!?」
凄まじい速度で動き、斬りまくる単純な技だが、避けるのは至難だ。
しかし、玲於奈嬢は一刀の元に技を放ち、私の動きを止めた。
「『ギガスラッシュ』ってな。すげー速さで残像が出てるだけなら、本体は一つじゃン?」
私はこんな時だというのに、微笑んでしまう。
抜群の戦闘センス。玲於奈嬢のような部下が居たら、どれだけ楽しい毎日になった事だろう。
「そ、それ!『クリムゾンエッジ』!」
瞬間、ハルコ嬢による火の刃が飛んでくる。
後ろにバックステップで避けると、追いかけてきた。
「追尾式、です!当たると痛いですよ!」
「なら、切り払おうっ!」
愛刀で向かってくる火の刃を一閃する。
ボシュッという音ともに、火の刃は掻き消えた。
「ひんひんっ!?魔法を剣で消すとか、この世界の人どうなってるんですかー!?」
「いや、割とそれ出来る人多いじゃン……」
玲於奈嬢が冷静に突っ込んでいるが、私も蓮華様の事がなければ、出来たかどうか分からない。
努力は、私を裏切らない。
「良いですねぇ、面白いですねぇ。貴女は戦わないのですかぁ?」
シャイターンがミレイユ嬢にそう言う。
私は二人を睨む。すると、ミレイユ嬢は溜息をつきながら、答えた。
「そうじゃな、もう確保は済んだかスラリン?」
「はーいー。テリー様はもう大丈夫ですよー。私が魔素を食べておきましたからー操られる事もありませんー」
「「「「「!!」」」」」
なん、と。そうか、誰かを忘れていると思っていたら、スラリン嬢だったか!
「すまぬなシリウス。敵を騙すには、まず味方からと言うじゃろう?気取られぬように、従う振りをしておったのじゃ」
「おま、そういう事は先に言えよ!?私思いっきりシリウスサンに敵対しちゃったじゃン!?」
「ひんひん!私もですよう!」
「いや、お主ら演技下手そうじゃからなぁ……」
「「うぐっ!」」
言葉に詰まる二人がおかしくて、私は笑ってしまった。
「ははっ。そうか、良かった。シャイターン、形勢逆転だな」
「これはこれは。ええ、ええ。驚きました。まさか貴女、魔王クラスの力をお持ちとは。いえいえ、これは私が相手を見くびりすぎておりましたねぇ。スライムに擬態した魔王とは、いやはや……これは一本取られました」
「……貴方、ムカつきますねー」
照矢殿を覆っていたスラリン嬢が、人型と成る。
最初に見た時は透明だったのが、今は本当の人のように見える。
「私、この世界の者じゃないんですよー。だから、見逃してあげようかと思ってたんですけどー……テリヤ様を餌にするつもりでしたねー?それはちょっと、いえかなり腹が立ってるんですよねー」
スラリン嬢から、凄まじい魔力が吹き荒れる。
この力は……!?
「ローズ、抑えよ。ここでお主が全力で戦えば、遺跡が潰れる」
「でもミレイユ様ー」
「いやはや、これは凄まじい。貴女方の様な素晴らしい者達に出会えたのは、収穫でございました。マサト、ここは放棄しますよ。構いませんね?」
「ああ。データはとれたし、カードに戻したから問題ない。ここにあった本はもう必要ない」
「それは僥倖。では皆様方、今日はこの辺で失礼いたします。また、お会いしましょう。その勇者様にも、よろしくお伝えくださいませ」
「「!!」」
「逃がすかっ!」
急ぎ駆けるが、『ワープ』を使われたようで追いつけなかった。
「くっ!」
逃げられてしまったか。
「この世界には、恐るべき力を持つ者がいるのじゃな。これは中々に厄介な者に目をつけられたやもしれぬ」
「ミレイユ様、テリヤ様の事を誰も話していないのに、シャイターンは勇者と言いましたねー。つまり……」
「うむ……」
色々と話したい事が増えてしまったが、ひとまずは。
「皆、照矢殿を頼めるか?目を覚ましたら、一旦家に帰ろう。この場所の事も王に伝えねばならないし、先程の事もあるからな」
「ン。その、シリウスサン。ゴメン……」
「ごめんなさい、シリウスさん……」
玲於奈嬢とハルコ嬢が頭を下げる。
しかし、大事な兄を人質に取られたのだから、仕方がないと理解している。
「それを言うなら、私はお前達の兄を見捨てたと言って良い。罵倒される事はあっても、謝られる事はない」
「ンな事ねぇよ!シリウスサンは、兄ちゃんを見捨ててなンかねぇ!」
玲於奈嬢の言葉に、私は心が軽くなるのを感じた。
「ありがとう玲於奈嬢。私を信じてくれて」
それから私達は、この場所の物をアイテムポーチに入れ、あの者達に再度利用される事はないだろうと、とりあえず破壊はしない事にした。
これから、王国をあげての調査が始まるだろう。
蓮華様にも、この事を伝えねば。
どう手紙を書こうかと、少し胸をときめかせながら……私達は帰路についた。




