77話.蓮華(inユグドラシル)VS初音 ☆
「ロキ、アリス!この力はっ!」
「ユーちゃんだ!」
「ええ、そのようですね。ふむ、蓮華でも勝てない敵が現れたという事ですか」
マーガリンの言葉に、アリスティアとロキは同意する。
「こうしちゃいられない!」
慌てて飛び出ようとするアリスティアを、マーガリンは慌てて止める。
「ま、待ちなさいアリス!アリスが行ってもどうしようもないでしょ!?」
「にゃー!そうだったー!」
マーガリンがアリスティアを抱きとめているのを、離れた所から見ているミラヴェル。
体を壁に預け、どこか思い悩んでいるように見える。
「何か思い当たる節でも?ミラヴェル」
ロキはミラヴェルが何かを悩んでいる事に気付き、尋ねた。
しかし、ミラヴェルは顔を横に振った。
「いや、なんでもない。恐らく思い過ごしだろう」
「ねーミラ、知ってる?そういうのって蓮華さんいわく、フラグって言うらしいよ?」
「フラグ……?」
ここに蓮華が居れば、アリスティアの口を塞いだ事だろう。
「良いから、話してみなよー。思い過ごしでも良いじゃない?」
アリスティアは微笑みながらミラヴェルの横に並び、同じように壁を背にした。
「それに、ここにはマーガリンとロキが居るよ。今の私は頼りにならないかもしれないけど、この二人は昔と変わってないよ」
その言葉にマーガリンは苦笑し、ロキはやれやれといった表情でソファーに腰かけた。
「ふむ……そうだな。お前達は蓮華の力に注目したようだが、私は違う。冥界の王メビウスの知人、初音の力を感じた」
「「「!!」」」
初音という名前が出た途端、三人の表情が厳しさを増す。
「あの化け物が、冥界の外へ出たの?どうやって?」
「それは分からない。だが、この力を私が忘れるはずがない。だが初音が蓮華に戦いを挑む理由が思い当たらない。だから、思い過ごしだとは思うのだが」
マーガリンの質問に、目を閉じながら答えるミラヴェル。
アリスティアが真剣な表情でマーガリンとロキを見た。
「もしあの初音が蓮華さんと戦ってるなら、不味いよ。いくらユーちゃんでも、地上の本体から遠く離れてる魔界じゃ力が借りられないし、今すぐ助けに行かないと!」
「落ち着きなさいアリス」
「でもロキ!」
「私とマーガリンが助けに行けば、命は助かるでしょう。けれど、それでは蓮華の心を縛ってしまう。蓮華とアーネストがいつも言っていた言葉、覚えているでしょう」
「!!……そう、だね。でも、でもぉ!」
「分かっていますよ。蓮華にアーネストが私達に近い強さになれば、仲間として戦えるでしょうが……今のままでは、それも敵わないでしょう。だから、身近な私達では無い者に、助けさせましょう」
「え?もしかしてミレニア?」
「アリス、それミレニアに言ったら怒られるからね?」
「あ、あはは、やだなーマーガリン、冗談だよー。冗談だから、言っちゃ駄目なんだからねー!?」
案にミレニアは身近ではないと言った事に対して、マーガリンに告げ口されそうで焦るアリスティア。
そんなアリスティアを見て、ミラヴェルは笑った。
「フッ……楽しそうだな、アリスティア」
「今の状況を見てどうしたらそう思えるのー!?」
アリスティアは叫ぶが、ミラヴェルは笑っていた。
ロキはソファーから立ち上がり、アリスティアの元へと歩む。
アリスティアは気付いたが、別段距離を開けたりはしない。
そうして、アリスティアの元に着いたロキは、アリスティアの頭の上に優しく手を重ねた。
「えっ!?」
「魔界にはあの男が居るのですよ。恐らく力は感じているはずですからね。連絡をしてみましょう。ミラヴェルの思い過ごしであれば、それで構わないでしょう」
「そ、それは良いんだけど、どうして私の頭に手を置くんだよー!?」
「蓮華が居ないからですよ」
そう言うロキに、マーガリンとアリスティアは遠い目をした。
「蓮華さんとアーくんの人形、こっそり創っちゃ駄目?マーガリン」
「だ、ダメよ、ダメダメ。そんな事したら、レンちゃんに本気で嫌われちゃうじゃない!?そんな事になったら、私もう生きていけないからね!?」
本気で嫌がるマーガリンに、しつこく言いすがるアリスティア。
果てはあのロキまでもが、アリスティアに便乗していた。
その姿を見て、昔を知るミラヴェルは驚きっぱなしだった。
「まったく……あの三神がこうまで変わるとはな……長生きはするものだ」
そう独りごつのだった。
魔界の空。
緑色に包まれた閃光と、黒い闇に包まれた閃光が交差する。
「「はぁぁぁっ!!」」
何度も刃を交えるが、その身を傷つけるには至らない。
魔法はその身を貫こうとするが、同じく魔法により相殺される。
「うふふ、楽しいですわ!素晴らしい時間、いつまでもこうしていたいですわね……」
「そうですか。私は結構ですね」
恍惚の表情を浮かべ、初音がそう言う。
対してユグドラシルの表情は変わらない。
まるで煩わしい虫を払うかのように、冷たい視線を向けていた。
「その眼も素晴らしいですわ。今更ですが、再度名乗りましょう。恐らく、貴女には初めてですわよね?私は初音、黄泉比良坂から魔界へと移住し、魔界の奥深くで魔族を見ながら生きてきましたわ」
その言葉に、ユグドラシルの目が見開く。
「冥界の……!では貴女が……!?」
「ふふ、やはり知っていますのね。という事は、貴女はもしかして……」
初音が微笑むと、ユグドラシルは表情を戻した。
「私の名は蓮華。もっとも、今から消える貴女には覚えて頂かなくても構いません」
ユグドラシルがソウルイーターを初音へと向けたその瞬間、初音はニヤリと笑った。
「そうですか。でも残念ですわね。そんな魂と体が継ぎはぎだらけの状態で、私と戦うから……」
ドクンッ
ユグドラシルは突如苦しみだし、胸を押さえた。
「ぐっ……まさか、これは……『魂魄乖離法』……」
「博識ですわね。けれど、少し違いますわ。乖離ではなく、貴女の魂に私の魂を混ぜましたの。少しづつ、気付かれないように。それは徐々に量を増し、今貴女の体の5%程を占めましたわ」
ユグドラシルは徐々にその高度を下げ、地上へと降りていく。
初音もまた、それに合わせて地上へと降りた。
地上に降りた途端、ユグドラシルは片膝をつく。
「知っているかしら?人間の血液は体重の13分の1、体重40kgなら3リットル程度。1リットル失われると立てなくなり、1,5リットルで命を失う危険性があるのですが……これは何も、血液だけに限った話ではありませんわ」
「魂の侵食……ですか」
「ふふ、その通りですわ。冥界の住人は、魂の扱い方に一日の長がありますの。その証拠に、防げませんでしたわね?」
その言葉に、悔しそうに顔を歪めるユグドラシル。
今の体はユグドラシルの体ではなく、蓮華の体。
いくら化身とはいえ、元の魂は違う。
その隙を突かれた形だ。
「貴女のその強大な力、奪わせて貰いますわね。もう、動けないでしょう?」
口元を歪ませ、そう告げる初音に、ユグドラシルは落ち着いて言った。
「そうですね。少しだけ、任せます」
「何を言っているのか分からないけれど……観念して頂けて嬉しいですわ。あぁ……楽しい時間でしたわ蓮華。さようなら……喰らいなさい『暴食』」
初音の全身から黒い闇が出現し、ユグドラシルが居る場所を包み込む。
そしてその闇はそのまま、初音の元へ戻った。
「ふふ、あっけなかったですわね。ですが……これほどのご馳走を食べたのはいつぶりでしょうか……。……おかしいですわね、確かに最高級の食事をしたはずなのに、味も魔力が増える感じも、いえ、それどころかこれは……」
「如何ですかな美しきレディ。流石に蓮華嬢を食させるわけには参りませんので、代わりと言ってはなんですが、少々濃い毒をプレゼントさせて頂きましたが……お口に合いましたかな?」
そこには、黒い紳士服をまとった男が立っていた。
横にはユグドラシルが居て、魂の浸食を解除している。
「助かりましたアンジェ。このお礼は必ず」
「いえいえ。淑女を助けるのは紳士の嗜みでございます。それに、懐かしい友人から連絡を受けましてな。あの頑固者が頼むなど……いやいや、長生きはするものですな」
アンジェラスの言葉に、ユグドラシルはピンときた。
蓮華は誰の事か分かっていないようだが、アンジェラスの事を知っているユグドラシルは、すぐに連想出来たのだ。
「ここは私に任せて構いません。あんな呪法、二度は受けませんよ。アンジェは街を」
「いえいえ、それには及びません。街にはナイツオブラウンドの騎士達がすでに到着しておりますからな。あの程度の魔物達に、後れを取る者達ではありませぬ」
そう言われて、ユグドラシルは街を見る。
普通ならば見えない距離だが、ユグドラシルのスキルにより、まるでその場に居るかのように見て、聞く事ができる。
「突き立てよ!我らの騎士の牙を!」
「貫け!友の無念を晴らす為に!突き立てよ!騎士の信念を突き通す為に!我らナイツオブラウンドの力を、魔物共へ見せつけよ!!」
「「「オオオオオオッ!!」」」
そこにはナイツオブラウンドの騎士達を筆頭に、魔物達を圧倒する姿があった。
蓮華の連れてきたヴィクトリアス学園の生徒達も、一丸となって魔物達と戦っている。
イシス達は怪我人の治療を行い、ミア達はポーションで支援を行ったり、怪我人の誘導をしていた。
皆、自分の出来る事を頑張っている。
それを確認したユグドラシルは、初音へと視線を戻す。
「どうやら、大丈夫そうですね。アンジェ、私は今本体から力を受け取れません。それ故に、少し押されています。手伝って頂けますか?」
「勿論ですとも、レディ」
ユグドラシルにお辞儀をし、葉巻を咥えるアンジェラス。
ふわっと煙が立ち昇った。
「アンジェ、煙草は指定の場所でって蓮華が言っていますよ」
「これは失敬、レディ」
苦笑するアンジェラスだったが、一切の隙は無い。
初音は先程の事を考察していて、答えに至った。
「成程、ナイツオブラウンド『魔神将』アンジェラス=トリスティア=リーニュムジューダス。時を操る魔神でしたわね。中々お会いできない猛者に、こうしてお会いできるなんて……光栄ですわ」
そう言って、初音は貴族の令嬢がするように、カーテシーをした。
「私をご存知とは、世界は狭いですな。しかし、我が友人に手を出すのであれば、容赦は出来ませぬぞ」
徒手空拳。アンジェラスは武器を使わない。
その構えから発する絶大なオーラを前に、並みの者ならば逃げ出すであろう。
しかし、初音は笑った。
「楽しい踊りになりそうですわね」
挿絵ははるきKさんからのFAです。
ありがとうございます。




