76話.蓮華・ノルンVS初音
街の高台から、蓮華達を見ている者達が居た。
「凄いスピードだな、蓮華先生にノルン先生は。本当に人間なのか?」
「魔族でもあそこまでのスピード出せるのなんて中々居ないよな。それに、凄い美人だし」
「そうだよな。ポーション作る時も近くで教えてくれたんだけど、甘くて良い香りがしたぜ」
などと、呑気に会話していた。
蓮華とノルンが魔物達の方へ向かってくれた為、街の北側出入り口付近で待機している者達にはまだ余裕があった。
南側に戦力を回した方が良かったかもしれないが、どこから敵が来るか分からない為、南側と同等の戦力を配置している。
「お、おい!あれ見ろ!蓮華先生とノルン先生が!」
「なんだあれ!?あれだけの数の魔物達を、一瞬でっ!?」
「す、すげぇ……あの二人、もしかしたらレヴィアタン様より強いんじゃ……」
北側の者達は見ている事を下で待機している者達にも伝え、大いに盛り上がっていた。
その時。
突然、魔物が目の前に現れた。何の前触れもなく、いきなりである。
「ま、魔物だっ!皆、応戦し……ぎゃぁぁっ!」
「なんでこんな近くに!?転送は効かないように結界があったはずだろう!?」
「お、俺の上に、魔物が乗ってっ……た、たすけ……ぐあぁぁぁっ!」
突然現れた魔物達が襲い掛かってきて、街は大混乱に陥った。
「イシスさん、無事かっ!」
「はいロジャーさん。病院の皆も大丈夫です。蓮華様から頂いていたお守りが、皆を守ってくださいました」
「そうか……!しかし、何故魔物が突然……!」
「ロジャー!ミア達を連れてきた!どうすんだ!?」
「よくやったユリィ。まずは病院内の魔物を掃討する。その後は病院を起点に、街の人達の救助に向かうぞ。蓮華様達ですら予測できなかった事態だ、皆油断するなよ!」
「「「おおおっ!!」」」
騎士隊のロジャーを筆頭に、魔者達も協力して病院内の魔物を駆逐していた。
街中で突然現れた魔物達により怪我を負った者達は、ギルドと病院に駆け寄り、治療を受けてから街を守ろうと戦力に加わっていくのだった。
「はぁぁぁっ!!」
キィィィンッ!
「こんのっ!」
キキンッ!
剣と剣が弾けあう。
私達の攻撃を、まるで柳のように受け流す彼女。
「ふふ、楽しい踊りですわね。ですが、こう単調なのは飽きてしまいますわ……少しテンポを上げますわよ?ついてきてくださると嬉しいですわ」
キキキキキキンッ!!
「「くっ!?」」
右手の剣で私を、左手の剣でノルンを相手する彼女は、これまでより更に速い動きで剣を振るう。
それも、片腕づつでやっと防げるレベルな為、仮に私だけで突っ込んだ場合、その二刀の刃を防ぎきる事が出来ない。
だから私達は常に二人で攻めている。
「やりますわね。このスピードでもついてこられるなんて……成程、大罪クラスはあるという事ですわね。なら、少し力を使うとしましょうか」
「「!?」」
瞬間、体が凄く重くなる。いや違う、これは私達の周りに何かっ……!
「『グラビティプレス』。重いでしょう?今貴方達の周りに、重力の力場が発生しておりますのよ。重力万倍といった所ですわね。その状態で、同じように避けられるかしら?」
まずい、そんなもんゴ○ウでも動けないんじゃないの!?
地面が凹み、私とノルンを中心に軽くクレーターが出来あがる。
「れん、げ……!アンタはまた、こんな時にアホな事を、考えてんじゃないわよ……!」
だからなんで分かるのぉ!?
ぐっ……本当にアホな事を考えてる場合じゃない!
まずはこれを解かないと……!
「『アンチマテリアル』!シュート!」
私はソウルを銃の形に変え、なんとか腕を上げて彼女を狙い撃つ。
「甘いですわ」
彼女はその剣で軽く斬り裂いた。それを狙ってたんだ!
「なっ!?」
斬り裂かれた銃弾は割れ、彼女の全身を覆う。
瞬間、私達の周りにあった重力場は消える。
「やるじゃない蓮華!行くわっ!」
私もノルンに続き、彼女の元へ駆ける。
「やりますわね。絶魔糸で創られた弾丸ですわね。継続魔力を使用する魔法には効果的な手段ですわ」
「「はぁぁぁっ!!」」
「けれど、まだまだですわね」
彼女の剣が、私達を斬り裂く。
障壁は一瞬で突き破られ、数メートル後ろへと吹き飛ばされる。
「がはっ!くっ……」
胸からお腹にかけて、斜めに傷を負う。
『ヒーリング』を掛けるが、効果がいつもより遅く、中々治らない。
「私から受けた傷は治りが遅いですわよ?腐食させようと魔素が侵食してますもの。治療のスピードが下回れば、すぐ死に至りますわ。そんな死に方はしないでくださいね?もっと、私に付き合ってくださいな」
妖艶に微笑む彼女は、悪魔のようだった。
そして、滅茶苦茶強い。
私はユグドラシルの特性で、ダメージが半減している。
それに加えて、少しづつ回復していくはずなんだけど、それが今は効力を発していない。
そうだ!ノルンは!?
気が付いてノルンの方を見ると、倒れて起き上がっていない。
すぐに傍に移動する。
「の、ノルンッ!しっかりして!ノルン!」
「れん、げ……ごめ、なさい……私は、回復魔法を、使えない……から……後は……」
全てを言わせる前に、私はレニオンを召喚する。
「酷い傷……任せて蓮華」
「うん、お願い」
状況をすぐに察してくれたレニオンは、ノルンに回復魔法をかける。
「へぇ、大精霊。それも魔界に不在だったレニオンだなんて……美味しそう、ですわねぇ」
ぞくり、と背中に寒気が走った。
捕食者が獲物を見つけた、そんな顔をしているように思う。
でもここでレニオンを還せば、ノルンが死んでしまうかもしれない。
「お前の相手は私だ!」
ソウルを彼女へと向ける。
彼女は面白そうに私を見つめてきた。
「二人で押せなかったのに、一人で勝てるかしら?それとも、何か秘策でもあるのかしら?」
「……」
あることは、ある。
だけど、毎回頼んで良いものかどうか……
"構いませんよ、蓮華。ただ、勝てるかどうかは分かりませんが"
突然ユグドラシルにそう言われ、唖然としてしまう。
あのユグドラシルが、そう言うなんて。
"私が使うのは、あくまで今の蓮華の体ですからね。まぁ、やれるだけやってみましょう"
ユグドラシル、ありがとう。
いつも助けてもらってばかりで、ごめんよ。
ユグドラシルの力を借りなくてもいいぐらいに、強くならないと……!
そうして、私の意識は奥へと沈む。
「あら……?髪の色が変わった……?いえ、それだけじゃないですわね。この魔力の力強さ、それに……内から感じるもの。先程とは別人のようですわね?」
そう彼女が言うのを、ユグドラシルは澄ました顔で答えた。
「貴女の様な化け物と問答するつもりはありませんよ。大人しく消え去るならよし、そうでないなら……」
ソウルイーターを構え、彼女を睨む。
「ここで、消します」
彼女は嬉しそうに笑った。本当に心から笑ったように見える。
「あははっ!あはははははっ!良い、良いですわ貴女。凄く良い……!その自信に満ち溢れた言葉に態度、そしてそれを裏付ける魔力の質……素敵よ、素敵。あぁ、この感覚がどこまで本物なのか、確かめさせて頂戴ね!」
私とノルンが戦った時には見せなかった構え。
二刀の剣を構え、ユグドラシルと相対する。
私が見ても、一分の隙も見当たらない。
どこから切り込んでも返されると思う。
そんな構えに、ユグドラシルは行動を開始した。




