29.王都案内
王覧試合に出る事になったのはひとまず置いておいて。
私は今、かねてからの約束だった、王都を案内して貰っている。
にしても、道行く人全員が、一度はこちらを振り向くのはどうにかならないものか。
やっぱりロイヤルガードが案内なんてしてるから、どうしても悪目立ちするんだろうなぁ。
「蓮華様、王都は広いですから、とても一日では案内しきれませんし、明日も宜しければご案内致しますよ」
なんて言ってくるんだけど。
「あ、ううん。シリウスもロイヤルガードの仕事があるでしょ?基本的な所は今日シリウスのお蔭で覚えられたから、大丈夫だよ。ありがとね」
とやんわり断ったら、凄く残念そうにされた。
なんでだ。
「うぅ、蓮華様の真摯さが辛いですけど、そう言われたら仕方ありません。今日は時間一杯、案内させて頂きますね蓮華様!」
「う、うん。お手柔らかに……」
なんで案内でこんなに張り切っているのか、私には理解不能だった。
そうそう、ディーネは屋敷でお留守番をしている。
「お二人で楽しんでらしてくださいね」
との言葉だった。
何故かシリウスはその言葉で喜んだような、気のせいかな。
その頃。
-アーネスト視点-
「蓮華が王覧試合に?」
「はい。毎年行われている催しですが、今回レンの行った国が、参加国の一つだったのです」
なんて、俺が元の世界の皆に別れを告げてから、戻ってきていきなり聞いた。
「蓮華、厄介事に巻き込まれる速度が尋常じゃないな」
もはや苦笑するしかない。
「ならばアーネスト、君も参加したらどうだい?」
なんて兄貴が言ってくる。
「え、俺も?っていうか、出れるもんなの?」
母さんが微笑んで言ってくれる。
「大丈夫よアーちゃん。確か、今回の開催国は二人とも行った事が無い場所だけれど、参加国の2つは、二人ともそれぞれ行っている国だからね」
「俺も行っている国?」
「確か、アーネストは王都・テンコーガに行きましたね?」
「うん、行ったよ兄貴。あれ?でも確か、あそこのインペリアルナイトは今2人だった気がするんだけど」
そう、確か1人は遠征に出て、帰ってきていないと聞いた。
インペリアルナイトの一人は俺と同じくらいの若い奴だったけど、もう一人、老齢のインペリアルナイトは、かなりできる印象だった。
「だからこそ、出れるというわけだよアーネスト。幸いにも、オーブの件で知らぬ仲じゃないだろう?それに、マーガリン師匠が口添えしてくれるでしょう」
「そうねぇ、レンちゃんも出るんだし、アーちゃんも出るなら楽しそうだから、人前に出るの苦手なんだけど、頑張っちゃおうかなぁ」
なんて母さんが言ってる。
「そういえば、自然に蓮華の居る国に助っ人するんじゃなくて、敵対する側に入る流れだけど、良いの?」
「そりゃぁねぇ、レンちゃんの圧勝じゃない、そのままじゃ」
「ですねぇ。どうせなら、蓮華とアーネストの戦いが見たいですからね」
流石の二人だった。
息が揃いすぎだろう、俺はこの二人が大好きだ。
多分、いや絶対蓮華もそうだろうけど。
「っていうか、ウンディーネも良い性格してるよな。絶対蓮華に黙って教えてくれたんだろ?」
ニコッと笑って。
「はい」
というウンディーネが割と本気で怖い。
味方に地雷抱えてるぞ蓮華。
まぁ、それに乗っかる俺、いや俺達もあれだけども。
「母さんは国王全員と知り合いなんだっけ?」
「うん、そうだよ。まぁ、私人前だと極度に緊張しちゃって、硬くなっちゃう時期が長くてね……今はそんな事ないんだけど、もうそれで通してるから、雰囲気違っても嫌わないでねアーちゃん」
「当たり前の事言わないでくれよ母さん。でもそっか、なら参加の話をつけに行くのに、母さんもついてきてくれるかな?俺だけだとすんなりいかないと思うし」
「うん、良いよアーちゃん。それじゃ、今から行こっか」
「了解!」
「それでは、私はこれで戻りますね。帰って私が居ないと、レンに怪しまれますので。当日は楽しみにしていますよ」
と言って消えるウンディーネ。
そうだ、先に言っておかないと。
「母さん、兄貴。俺、本気で蓮華に勝ちに行きたいんだ。だから、試合前日まで、俺に修行つけて貰ってもいいかな?」
その言葉に。
「うん、良いよアーちゃん。当日は、両方応援するけどね」
「ええ、良いですよアーネスト。私はテレビで観戦させてもらいますが、頑張りなさい」
温かい二人の言葉に嬉しくなる。
蓮華、こんな機会中々ないからな。
俺はお前に勝ちに行くぜ。
-アーネスト視点・了-
夕方、シリウスの家に着いたら、ディーネがソファーで座って寝ているようだったから、声を掛ける事にした。
「ディーネ、帰ったよ。起きて」
「……レン、お帰りなさい。シリウスもご苦労様。楽しめましたか?」
「はい、ありがとうございますディーネ様」
と笑顔で答えるシリウス。
私達は王都の宿で良いと言ったのだが、是非家で泊まっていってくださいと言われるので、厄介になる事にしたんだ。
いや、最初は断ったんだよ?でも凄く悲しそうにするんだよ、仕方ないじゃないか。
「ディーネ、祠には先に行く?」
「いえ、もし間に合わなければ目も当てられませんし、終わってからで良いのではないですか?」
「そっか、そだね。それじゃ、そうするよ。明日からまた王都を散策しようと思うんだけど、ディーネも行くよね?」
「ふふ、分かりました。付き合いましょう」
その言葉に羨ましそうにシリウスがしているように見えたが、シリウスは暇じゃないでしょ!
そして、王覧試合当日がやってきた。




