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2.名前

「な、名前……?」


「うん、名前。だってどっちも蓮二じゃ困る。とはいえ、困るのは俺だけな気もするけど……俺の事だから、本名で異世界は生きないよねぇ?」


「当然!」


 良い笑顔だった。


「ま、そうだよね。後なんとなく異世界って言ったけどさ。俺は女になってるし、もう一人俺がいる上に若いし、絶対日本じゃないよねこれ」


「うん、絶対違うな。日本ってか地球じゃないと思う。一応、最後の希望として夢の可能性はあるけど……」


 同時に頷く。

 お互いの手がお互いの頬に伸びる。


 ぎゅぅぅぅ……!と頬を抓る。


「「痛いっ!!」」


 アホ二名の声がハモった。


「ゆ、夢じゃないね」


「夢じゃないな。ってか女の子のくせに力強すぎないか……めっちゃいてぇ……」


「いやそっちの俺も見た目女の子の俺に力強く捻りすぎだろ……痛いっての……」


 ちょっと涙目になっている。

 お互いに。

 そんな姿を見て。


「「あははははっ!!」」


 本気で笑ってしまった。

 何も状況は好転していないが、なんとなく……気が緩んでしまったのだ。

 少なくとも、自分は一人じゃない。

 それが嬉しくて。


「えーと、名前だったよな。実は俺、異世界に転生とか召喚されたら、こう名乗りたいって名前があったんだよなぁ」


「あー。名乗っちゃうのか」


「お、流石俺。分かっちゃう?分かっちゃうよな」


「そりゃ、自分ですから」


「おう!俺の名前は」


「「アーネスト!」」


 一字一句間違えずにハモる。


「知ってた」


「はは。で、俺はアーネストで良いとして、流石に女の子になるとか予想してなかったからなぁ」


「っていうか、転生した場合の名前で考えてなかった?見た目俺の若い頃のまんまだし、名前負けしてない?」


「言うなよ、そこは考えないのが異世界物の常識だろ……」


 あ、凹んでる。

 まぁ俺は見た目良いわけじゃないからなぁ。

 むしろ見た目良かったら独身じゃなかったよきっと、多分。


「っていうか、なんでもう一人の俺は女の子の上に、こんなに可愛いんだよ!どうせなら俺もイケメンにしてくれたって良いじゃないか!」


「そこなのかよ」


「そこが大事だろ!?」


 やかましい俺だった。

 気持ちは分からなくもないけど。


 なんていうか、今の俺は大和撫子みたいな見た目をしているのだ。

 巫女衣装を着たら、随分と似合うんじゃないかと思う。

 瞳は黒じゃなく、何故か透き通るような緑、エメラルドグリーンなのだが。

 なんかエルフっぽい。

 耳は人間だけどね。


「はぁ、まぁ俺の事は良いや。で、名前どうする?俺的には、蓮二のレンは残してほしかったりするんだけど」


「一文字も残してないアーネストがどの口で言うのか」


「うぐっ……」


「まぁでも、その気持ちは俺もあるよ。だから、そうだな……蓮華ってどうだろ?」


「レンゲか、あのラーメン食う時についてくるやつ?」


「そっちじゃなくて花の方だよ!」


 スパコーン!と小気味良い音がする。


「いだぁ!?」


 つい頭を叩いてしまった。

 いやでも今のはアーネストが悪いだろう。


「あ、あぁ、蓮華草の蓮華か。確か花言葉は、あなたと一緒なら苦痛がやわらぐ、とかだったか?」


「うっ……よくそこまで覚えてるな」


 花は好きだったので、よく育てていた。

 なので、相手が俺なら覚えているのも当然なのだが。


「ま、良いんじゃないか。蓮華、良い名前じゃん」


「お前ならそう言ってくれると思ってたよアーネスト」


「花言葉を理解してると、なんか告白みたいだよな?」


「俺が俺にかよ」


「「ははっ!!」」


 二人して笑いあう。


「あ、二人とも目が覚めたんだね」


 そんな中で突然の第三の声が聞こえ、身構えた。


「誰だ!」


 アーネストが、俺の前に出て尋ねる。

 突然の事だったが、俺を守ろうとしてくれているのだと理解する。


「おい、アーネスト……」


「良いから、後ろにいろ。何かあったら、お前だけでも逃げろ蓮華」


「!!」


 俺のくせに、格好良い事を言いやがってと思う。

 でも、そうはいかない。


「ばーか。確かに見た目は女だけど、俺も男だぞ。俺は俺を見捨てないからな」


 そう言って隣に立つ。

 それを見たアーネストは、不敵に笑った。


「ああ、俺だもんな」


 と言いながら、前を見据えている。

 そんな姿を見て、優しい笑みを浮かべた女性が言う。

 どこかの魔女のような出で立ちをしているのに、不覚にも見とれてしまう。

 その表情が、優しくも儚く見えたのだ。

 だが、次の言葉でそれも吹き飛んだ。


「君達というか、君を呼んだのは私なんだ」


「「なにぃ!?」」


 またもハモりながら、俺達が叫んだのも、無理はないだろう。





「さて、少しは落ち着いたかな?」


 女性が飲み物を用意してくれたので、飲む。

 甘くて美味しい。


「はい。それで、状況を説明して貰えますか?」


 とアーネストが答えた。


「うん。まず君達は、ここ“ラース”という世界に召喚されたんだ。ま、召喚したのは私なんだけれど」


 ラース、それがこの世界の名前なのか。

 なんか地球の英語呼びに似てるな、とか考えていたのだが。


「あ、そうそう。言葉が分かるのは、私が魔術を用いて君達の脳に伝えているからだよ。そして、私は君達の声を魔術で変換して聞いているから、会話が成立するんだ」


 なんて言ってきた。


「ま、魔術!やっぱり魔術とかあるんですね!?」


 とアーネストがくいついた。


「うん、あるよ。魔術と魔法がね」


 魔術に、魔法。

 異世界の定番のような言葉を聞いた。

 だけど、まず最初に俺は聞きたい事を聞く事にした。


「えぇと、まず最初に。この世界の事よりも、貴女の名前を教えてほしいんですけど……」


 と至極真っ当な疑問を口にした。


「あっは。ごめんごめん。そうだね、私の名前はマーリン。よろしくね」


 その名前を聞いた俺は、伝説の剣の物語を頭に思い浮かべたけど……。


「師匠の名前はマーガリンですよね?嘘はいけませんよ?」


 という第四の人物の声によって、掻き消えた。


「ロキ、私はマーリンだよ?マーリンだからね?」


 若干涙目である。

 突然現れた第四の人は、綺麗な金髪をしており、上品なローブを身に纏っている。

 漫画やアニメでよく見た王宮に居る宮廷魔術師のような格好をしていた。


「はぁ……えぇと、貴方は?」


 黙って見ていても仕方ないので、聞いてみた。


「これは失礼を致しました。私はマーガリン師匠の一番弟子、ロキと申します。まぁ私は人ではありませんが、それは後程」


 ……簡潔なのに強烈な自己紹介だった。


「なぁ蓮華。俺頭がついてかないんだけど」


「まだ何も始まってもいないよアーネスト」


 二人してがっくりとする。


「コホン。話を戻すよ。戻していいよねロキ?」


 マーガリンさんは不安そうだった。

 なんか可愛いと思ったのは秘密だ。


「どうぞ、進めてくださいマーガリン師匠」


「……はぃ。ええと……どこまで話したっけ?」


 ガクッときたのを堪えるのに苦労した。

 だって……。


「まだラースという世界である事と魔術と魔法があるって事しか聞いてませんけど……」


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