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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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74話.初音

 すでに集まっていた冒険者の皆に守りを任せ、私とノルンは出来るだけ街から離れた所で対峙しようと、前へ進む。

 魔物の大群の進む地響きの音が大きくなる。

 近づいている間も、その大きなゴーレムの巨体はずっと見えている。

 その肩の上に腰かけ、髪を右手で押さえながら、こちらを一瞬たりとも目を逸らさず見ている女性。

 真っ白な着物を着ており、腰まで届く髪は黒い。遠くからでも見られている事が感じられるその眼は、獲物を狙う猫のように鋭く、黄金色に輝いている。


 彼女の情報を、ニガキ君から少し聞いた。


「あの女は恐らく、大罪の悪魔のスキル、『暴食(GLUTTONY)』を所持しています」

「ぐらとにー?」

「はい。食べて、奪うスキルです」


 うん、分かりやすい。ってそうじゃなくて!


「それじゃ、暴食の悪魔のベルゼバブは食べられたって事!?」

「いえ、それは確認させましたが、生きています。それに、もしかしたら『強欲(GREED)』のスキルも所持しているかもしれません」

「強欲って、なんでも欲しがるって意味だよね?スキルの効果って暴食と似たようなものなの?」

「それは……分かりません。ただ、『強欲(GREED)』が発動して、『暴食(GLUTTONY)』を使ったのではないかと……でなければ、あの女の目的がまったく分からないのです……」


 苦虫を噛みつぶしたような表情で、そう言うニガキ君。

 そうだよね、仲間を食われてしまったんだから……。


「ニガキ君、『暴食(GLUTTONY)』のスキルについて、分かっている事はある?」

「そうですね……まず食べるとは、直接口で食べる事だけではありません。スキルですので、魔力で飲み込む行為そのものです」


 それはヤバイな……使われたら、避けるしかないって事だね。


「ただ、あの女はそれを、殺した後にしか使いません。なんらかの条件があるのかもしれません」


 という事は、戦闘中は気にしなくて良いのかな?ううん、ただの予測だし、戦闘中も使えると思ってた方が良いよね。


「そして、『暴食(GLUTTONY)』を使って食った相手のスキルを、自身も使えるようになるようです。力の向上とスキルの会得、それが確認された効力ですが、他にもあるかもしれません」


 相手の力を自分の力にするって、セ○か何かですか。生体エネルギーを頂くとかそういうの?

 エネルギー波を今じゃー!とか言って吸収したりするんだろうか。

 この場合魔力に置き換えたら……まずい、勝てる気がしなくなってきたんだけど。


「蓮華様が今恐らく考えられた通り、戦いの最中でも使えるのなら、魔力も吸収されてしまうかもしれません。そうなると、相手を更に強くしてしまう事に……ですから、できるだけ近接で、けれど『暴食(GLUTTONY)』を使われないように注意しながら、戦わなければならないと思います」


 なにその無理ゲー。そんな厄介な相手初めてだよ……。

 というかニガキ君?どうして私がそう考えたって分かったの?転生者だから?


「が、頑張ってみるよ……」

「お願いします、蓮華様。俺達では直接力に成れず、すみません……」

「ううん、私を頼ってくれてありがとう。やれるだけやってみるよ」


 そう笑ったら、ニガキ君も笑ってくれた。

 きっと、自分で部下達の仇を取りたかったはずだ。その想いを、私に託してくれた。

 なら、その想いに応えなきゃ、男じゃないよね。男じゃないけど。


「アンタ今、アホな事を考えたでしょ」


 横で静かに聞いていたノルンに突っ込まれた。アリス姉さんといい、私そんなに分かりやすいの?


 以上の事から、まずは話ができる距離まで近づいて、話をする。

 それで彼女達が引いてくれれば、ニガキ君には悪いけれど、この場はそれで凌ぐ。

 時間が足りな過ぎて対策も十分じゃないし、今度はこちらから攻めるのもありだと思う。

 どうにもならなければ、先手必勝で周りの魔物達を魔法で一気に殲滅してから、彼女と戦う。

 それがノルンと考えた最善手だ。


 先頭を歩いていたゴーレムが立ち止まると、魔物達の歩みも止まる。

 まるで統率された軍隊のようだ。

 私達も立ち止まる。すると、ゴーレムの上からふわりと彼女が降りてきた。

 凄い、(すそ)が翻らなかった。どうなっているんだろう?


「蓮華、またアホな事を考えたわね?時と場合を考えなさいよ」


 だからなんで分かるんだよう。

 気を取り直して、地面に降り立った彼女を見る。

 妖艶。それが文字通りピッタリくる。

 けれどそれはミレニアやミレイユといった、妖しくも美しいというものではなく……恐怖を感じる美しさだ。

 その黄金色の眼でじっと見つめられると、寒気のようなものを感じる。

 ほんのりと赤い唇がゆっくりと動き、言葉を発した。


「ごきげんよう。私は初音(はつね)と申しますわ。貴方達の事は聞いていましたけれど、実物はそれ以上に良いものですわね」


 耳に残る、甘く重い蜜のような声が脳に響き、蜘蛛の糸に全身が雁字搦(がんじがら)めにされたかのような感覚に陥る。


「蓮華!気をしっかり持ちなさい!」


 ノルンに体を揺すられ、正気に戻る。


「あら、中々の耐性をお持ちのようね。楽しいわ、そうでないと面白くないですもの」

「今、何を?」

「ふふ、特に私の意思で何かをしたわけではないの。魅了(チャーム)が言霊に乗ってしまうの、ごめんなさいね」


 はっきりと分かる。ニガキ君が魔女と言った意味が。

 この女は、危険だ。ただそこに居るだけで、人を惑わし争わせる、傾国の美女だ。


「一つ、聞きたい。貴女はどうして、魔物を引きつれて街を襲うの?」

「ただの退屈凌ぎですわ」

「え……?」

「退屈がどれだけ辛いか、若い貴女達にはきっと分からないでしょう。そうね……人の命は短いでしょう?その短い命で、出来る事は限られるでしょう?だから、退屈を感じる暇もない」

「そんな理由で魔物に襲わせてるのかっ!」

「そんな理由?一番の理由ですわ。例えばですわよ?寿命を無くし、夢を全て叶えた人間は、どうなると思いますの?」


 夢を叶えた後?それは……どうなんだろう、想像した事が無かった。

 だって、夢には果てが無い。

 果てが来る前に、命は尽きてしまうからだ。

 だから、そんな事を人は考えない。だけど、その前提条件が無くなるのなら。

 自分のやりたい事をやり続けて、やがてやりたい事がなくなって。

 そうなったら、どうなるんだろう?


「退屈になるのですわ」

「「!!」」


 その言葉に、私達はビクッとしてしまう。

 その言葉の重みに。恐らく彼女は……私達とは比べ物にならない時を、生きている。

 もしかしたら、母さんや兄さんと同じような時を生きているんじゃないだろうか。


「だから、退屈な生に一瞬の楽しさを求めて、人の世に介入しているのですわ。どうせ、死んでも増えますもの」


 その眼が妖しく光る。

 ダメだ、彼女に言葉は通じない。

 戦うしかない、それが分かった。


「ノルン」

「ええ。こいつはヤバイ奴よ。ここで、潰す」


 私とノルンは武器を構える。

 私はソウルイーターを。ノルンはリンスレットさんから貰ったという聖剣ミストルティンを。

 それを見て、彼女は妖艶に笑う。


「ふふ……心地良い闘気に魔力ですわね。ですが、まずは私の相手になるかどうか……試させて貰いますわね」

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