71話.ニガキの提案
「お初にお目にかかります、蓮華様。私はDMS団首領のニガキと申します。今日は、蓮華様に協力したいと思い、参りました」
その言葉を聞いて、私は確かめずにはいられなかった。
「えっと、失礼だけど、違ってたら言ってね?お兄さんにDr○チガキって人居たりしない?」
「ぶほっ!?ゲホッ!ゴホッ!」
思いっきりむせた。ビンゴだ、絶対この人転生者だ。
知らない他の皆はきょとんとしているからね。
「も、もしかして、蓮華様も!?」
「うん、そうだよ。面白かったよね、幽○白書」
「~っ!蓮華様……!」
元の世界の漫画で、一気に距離が近くなった私達。
漫画やアニメで繋がれるのは、元の世界だけだと思っていたけれど。
「コホン、失礼致しました。その、蓮華様。私の名前に霊界探偵のお話は関係ありませんので……」
「あはははっ!そっか、ごめんね。それで話って?あ、そこに座って良いからね」
立たせておくのも悪いので、ソファーに座るように勧める。
ニガキさんは腰かけて、こちらを真剣な表情で見つめてきた。
「蓮華様、まずは謝罪をさせてください。大精霊様の名を利用した事、誠に申し訳ありませんでした」
そして、深々と頭を下げる。
でも、名を利用ってどういう事だろう?
「ちょっと待って。私としては、何もされた覚えがないのに謝られても、許すも許さないも無いんだ。まずは、教えてくれるかな?」
「はい。実は……」
それからニガキさんが語る身の上話は、とても心を打った。
横で話を聞いていた皆も、しきりに頷いている。
魔物が家族だった。そしてその魔物は、ニガキさんを守る為に、ニガキさんを外へと出した。
ニガキさんが家族とまた過ごせる世界にしたくて、魔物と共存する世界を目指している。
「そして私は、仲間を集める為に……大精霊様の名を利用したのです。謝って済む問題ではないと、重々承知しております」
「待った待った。私は話を聞いて、大精霊の皆を利用したと思ってない。だから、謝罪はいらない。自分を育ててくれた魔物達の為に、共存する世界にしたい……その為に、大精霊の力を名前だけとはいえ、借りた。うん、全然悪いと思わないよ私は」
「ですが蓮華様……!」
尚も食い下がってくるニガキさん。
なら、証拠を出そう。ニガキさんの信仰している大精霊を呼ぼう。
「ドライアド、出てきて」
「はぁい~。呼んだ~れんげちゃ~ん?」
「な、ぁ、えぇぇっ!?」
ニガキさんが凄まじく驚いた顔をして、言葉にならない言葉を発している。
ドッキリ成功だろうか。
私が言っても聞かないのなら、本人に諭させてやれば良い。
「ドライアド、少し前の記憶を私の中から見れる?」
「れんげちゃんが開いてくれるなら~」
「うん、良いよ。ここ少しの時間だけね」
「は~い~」
そうして、ドライアドに触れる。
ドライアドは目を瞑り、私の記憶を覗いてるのが分かる。
そうして少し経ったら、ドライアドは目を開けた。
「そっか~、良い子だね~にがきちゃん~」
ドライアドは、固まっているニガキさんの頭を撫でた。
ニガキさんの顔が真っ赤に染まる。
「あ、え!?ど、ドライアド様!?」
「良いんだよ~。頑張ったんだね~。えらいえらい~。人間にだって~、悪い子は居るよ~?人間よりも、良い魔物だって居るよ~。仲良く、出来たら良いね~」
のんびりとして、おっとりした声でそう言うドライアドに、ニガキさんは涙を零した。
「はいっ……はいっ……!俺、必ず皆とまた、笑って暮らせる生活を手に入れて見せます……!」
それは、ニガキさんの本心だというのが分かる。
ドライアドは、そんなニガキさんの頭を、ずっと撫でていた。
ミアちゃんは貰い泣きしてしまっている。
ロジャー君、ゴミが目に入っちまったとか、目を背けてもバレバレだからね?ホントもう、良い人が集まったよね。
それから少し経って、ドライアドが戻った後。
ニガキさんが話を戻した。
「蓮華様、俺が……ゴホン、私が今日ここに来たのは、蓮華様が病院を開業された事に協力できないかと思ったのです」
「病院を?あ、それとニガキさん、話しやすい方で良いよ?」
そう言うと、ニガキさんは笑ってくれた。
「では、俺と言わせて貰いますね。蓮華様も、俺の事はどうぞニガキと呼び捨ててください」
「うーん、私の事は様づけなのに?」
「そ、それは……勘弁してください蓮華様」
「あはは、分かったよ。それじゃ、間をとってニガキ君って呼ぶね。組織の首領にそれも失礼かな?」
「とんでもない。蓮華様ならば、俺の事をなんと呼ぼうと誰も気にしませんよ」
「そっか、ありがとう。それで、協力っていうのは?」
私と同じ世界出身の彼なら、私の思いもよらない方法を提案してくれるかもしれないと、少し期待していた。
まさか、予想をはるかに飛び越えて凄い提案をしてくれるとは、思っていなかったけれど。
「私達の組織で創った魔者達を、使って頂けませんか」
「魔物を?」
「はい。ですが、漢字は違います。モンスターの事を、魔物と呼びますが、私達の創ったのは魔の者。人間を呼ぶ時に使う者、の方です」
そう、言ってきたからだ。




