69話.目が覚めたら知らない人が居た
目を覚ましたら、窓から見える外はまだ暗くて。
このまま寝ようと思ったけれど、なんとなく喉が渇いていたので、冷蔵庫の飲み物を取ろうと下に降りた。
すると、知らない人がそこに居た。
一瞬、漫画の世界から来たのかな?と真面目に考えてしまった。
だって、どこかで見た事がある服装してる。
戦乙女とか、そんな感じの。
今からエインフェリアでも探しに行くと言われたら、行ってらっしゃいって言える。
いやいやそうじゃなくて。
「もう起きて大丈夫なのか?」
知らない美女にそう言われる。
「えっと、はい。あの、貴女は……」
「ユグドラシルから何も聞いていないのか?」
「今起きたばかりで……」
「成程。私はアテナ。ユグドラシルの……恋人だ」
こ、恋人!?ユグドラシルとって事は、この人も神族か!
"友人です。私に変わって突っ込んでください蓮華"
「え、えっと、ユグドラシルが友人ですって言ってるよ」
「照れているだけだ、気にしないでやってくれ」
"蓮華、変わりますね"
私が返事をする前に、ユグドラシルが表に出た。
「いだだだだ!冗談、冗談だろう!?」
美人さんが、頭をぐりぐりされて涙目になっている。
というか、ユグドラシルが問答無用でこんな事をするのが初めての事で、なんか新鮮だ。
「ゴホン、失礼した。ユグドラシルの友人でアテナと言う。よろしくな」
今さっきは恋人という言葉で気付かなかったけど、アテナと言えばアスモから聞いた昔話で、ユグドラシルと引き分けたっていう、あの!?
「あの、アテナさん」
「アテナで良いぞ。その代わり、私もレンと呼んでも良いか?」
「あ、はい。それは別に構いませんけど……」
「そうか、ありがとう。それで、なんだレン?」
「えっと……昔に、ユグドラシルと戦った、んですよね?」
「ああ、その事か。そうだ、私はユグドラシルを倒そうとした」
「それは、どうしてですか?」
「レンも知っているだろう?ユグドラシルが下界の為に、世界樹と成ろうとした事を」
勿論知っている。
だからこそ、私はこうして居るのだから。
「私はそれに反対した。言っても聞かないから、力づくでな」
ああ、成程。
ユグドラシルは一度決めたら、譲らない所がある。
頑固だもんね。
どこかでお前が言うなって言われた気がする。
「ま、結果は知っての通りだ。私はユグドラシルを止められなかった」
「でも、引き分けたんですよね?」
そう言ったら、アテナはバツが悪そうな顔をした。
どうしたんだろう?
「引き分けたというか、ユグドラシルは攻めてこなかったからな。ずっと守りに入っていた。あれを引き分けと言うなら、どんな神も引き分けれると思うぞ」
な、成程。確かにそれなら……と思ったら、ユグドラシルが否定した。
"違いますよ蓮華。防御に集中するしかなかったんです。アテナは攻撃面でなら、私よりも上です"
驚いた、それはもう本気で。
母さんや兄さんですら認めていて、更には最強の女神と呼ばれているユグドラシル。
そんなユグドラシルをして、そう言わしめる事に。
「ま、昔の事は良いさ。それよりも、少しの間私もここで世話になる事になった。あ、もちろんこの家でというわけじゃない。このユグドラシル領は広いだろう?その一部をマーガリンに貰ったんだ。そこに家を建てて、隠れ蓑にするつもりだ。よろしくなレン」
「は、はい。よろしくお願いしますアテナ」
「はは。そう畏まらないでくれ。気軽に、そうだな、友人のように接してくれて良い」
そう笑うアテナは、とっても美人さんだった。
喉が渇いていたのを思い出し、冷蔵庫を開けてカルピスソーダを取り出す。
コップに半分より下くらいまで注いでから魔法で氷を入れる。
カラン、という音と共に、コップの中に氷が入った事を確認してから、また注ぐ。
「何をしてるんだレン?」
気付けばアテナが後ろに居て、興味深そうに見ていたので、教える。
「へぇ、そんな風に飲むのか。私も貰っても良いか?」
なんて聞いてくるので、同じように注いであげた。
「ンク……美味しい!なんだこれ、水じゃないのか!?」
今まで味の付いた飲み物を飲んだ事が無かったんだろうか?
コップを一瞬で空にしてしまったのを見て、もう一杯要るか聞いたら、何度も頭を縦に振るので笑ってしまった。
まるで、子供のように純粋で。
「プハッ!美味しい!これは本当に美味しいなレン!」
そう笑うアテナに、私はすっかり気を許してしまった。
この人なら、私も仲良く出来そうだ。
そう思ったから。
翌日、私は昨日と同じく大精霊の皆と戦いをする事に。
昨日とはメンバーを変えて、今度は派生属性である光、闇、炎、氷、風、雷の6人だ。
事情は昨日のうちに他の大精霊の皆から聞いているようで、快く手伝ってくれる。
サラなんて元の竜の姿に成るし、やる気出し過ぎだからね!
アテナは世界樹の近くに家を建てたいらしく、私達の家とそう遠くない場所に家を建てたみたいだ。
午前の戦いを終えて、お昼休憩をしている時に、アテナが誘いに来てくれたので、皆でお邪魔した。
うん、古代ギリシャの宮殿かな?木々に囲まれたユグドラシル領に、違和感バリバリである。
「少し派手さが足りない気もするが、どうだろうか?」
「「「十分派手だからっ!」」」
私と母さん、アリス姉さんの言葉がハモる。
懐かしいこの感じ。いつもはアーネストとだったけど。
「はは、ありがとう」
待って、どうしてそこで礼を言うの。
別に気遣って言ったんじゃないよ!本当に派手だから派手と言ったんであって、アテナを傷つけないように派手じゃないけど派手と言ったわけじゃないんだよ!?
「天上界の宮殿のようにしてどうするんですかアテナ。周りとの調和を考えなさい」
流石兄さん!直球で教えてる!
「成程。つまり大きな木を中に植えれば良いんだな!クロノス!」
「ハッ!ただちにっ!」
ちがーう!そうじゃない!確かに周りは木だらけだけどっ!
そうして、宮殿の真ん中に、大きな木が植えられた。
もう、何も言わない……。本人がそれで良いなら、良いよね……。
兄さんも同じ考えに至ったようで、私と目を合わせて頷き合った。
「そうだレン、牛を飼いたいんだが、良いだろうか?」
「え?それは勿論構わないと思うけど、どうして?」
「この牛乳というものを飲みたくてな!」
買ったら良いんじゃないかな。
そう喉元まで出かかった言葉をなんとか我慢する。
アレはダメこれもダメと、拒絶する言葉はすぐ言える。
だけど、まずは本人の意思を通してあげて、その後でこういう手段もあると伝える方が、聞いてもらえると思ってる。
「ユグドラシル領は広いから、母さんが良いと言った場所でなら、好きに色々として良いと思うよ。でも、そこに住む動物達や精霊達に迷惑を掛けないようにだけ、注意してね」
だから、そう伝える事にした。
するとアテナは、本当に楽しそうに笑った。
「レン、お前は良い奴だな。頭ごなしに、否定をしない。お前のそんな優しさに、惹かれる者は多いだろう。ありがとう、了解したよ。クロノスも良いな?」
「はいアテナ様。蓮華様、ありがとうございます」
笑って言ってくれるアテナに、恭しく頭を下げるクロノスさん。
母さん達の知り合いは、色んな意味で濃い人達が多くて困る。
それからアテナ達と別れて、午後は再度大精霊の皆と魔法の訓練をした。
昨日よりも魔力を上手く扱えているのを感じられて、充実した一日になった。
そうして数日、訓練を続けていたある日。
思いがけない報告をノルンから受ける事になった。




