表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/714

68話.戦女神アテナ来訪

 蓮華が魔力の全てを使いきり倒れたのと同時に、ロキは何もない空間へと目線をやり、声を掛ける。


「それで、いつまでそこで見ているつもりですか?」

「ロキー、放っておいて良かったんじゃない?邪魔しなかったんだし」

「結界を素通りして来たのですよマーガリン。少しは警戒した方が良いでしょう」

「だって、こんな事が出来るのは限られてるし……見えなくても見当はついてるからねー」


 ロキとマーガリンの視線を受け、魔法を解除して姿を現した。

 要所のみを守り、動きを阻害しない身軽な鎧を身に付けたその姿は、戦乙女ワルキューレと似た服装をしている。

 主神オーディンの直轄部隊であり、同じ鎧で統一された戦う天女達。

 『ワルキュリア』と呼ばれる彼女達は、『神の正義』の名の元に行動をする。


「これは驚きました。まさか貴女とは……」

「戦女神、アテナ……!」


 アテナは両手をあげ、敵意は無い事を示す。


「久しぶりに起きたら、クロノスから下界の話を聞いてな。それで、ユグドラシルの事を聞いたんだ」


 アテナのすぐ傍で控える者を二人は見た。

 天上界の大地神ガイアの息子であり、本来ゼウスやアテナよりも立場が上の神である。

 最高神とも呼ばれ、元々神界に居た彼は、今はアテナと共に地上に降りている。


「クロノス、貴方程の神が地上に降りていたとは。道理で私やマーガリンでも、見つけられなかったはずですね。貴方の力で行方を眩ませていたわけですか」


 ロキの言葉に、クロノスは微笑んだ。


「アテナ様がそう望まれましたからね」

「クロノスには感謝してる。私だけじゃ、世界樹の近くで静かに眠るなんて出来なかったから。他の神々ならともかく、ロキの千里眼を掻い潜れる自信は無かったから」

「やれやれ、それで今まで眠っていたお姫様が、今更何の用です?」


 ロキの挑発とも取れる言葉に、アテナはただ笑う。


「ユグドラシルに、会いに来た。その子、なんでしょ?」


 意識を失い、大精霊達に身を抱かれている蓮華に視線を移す。

 大精霊達は蓮華を守るように、その前に立ちはだかった。

 それを見て、アテナは微笑み、優しく伝えた。


「安心して欲しい。危害を加えるつもりは無いんだ。ただ、話がしたい。それだけなんだ、本当に」


 優しい目をしてそう伝えるアテナに、大精霊達も警戒を緩める。

 マーガリンとロキが動かない事も、判断材料となっている。

 何よりも蓮華の安全を重視する二人が、何もしないからだ。


「ありがとう、信じてくれて。でも、その少女はユグドラシルではないだろう?」

「そうですね。そして、その中に居る者もまた、ユグドラシルであって、ユグドラシルではありませんよ?」

「はは、禅問答(ぜんもんとう)のようだな。良いさ、分かっている。それでも、会って話がしたい。記憶は、あるんだろう?」


 その言葉に頷く二人。

 アテナはゆっくりと蓮華の傍に歩む。

 大精霊達は蓮華を寝かせ、少し後ろに下がった。


「ユグドラシル、頼む。出てくれないか。話がしたいんだ」


 そう祈るように言葉を掛けるアテナ。

 それに応えるように、蓮華の黒髪がユグドラシルの緑色の髪へと変わる。


「全く、マーリンもロキも、アリスもそうですが、皆寂しがり屋すぎませんか?」

「わ、私は違うよー!?」

「言うに事欠いて、何て事を言うんですかユグドラシル」

「寂しがってなんかないんだからねー!?」


 三者三様に言い返してくるのを笑って見て、ユグドラシルはアテナの方を向いた。

 アテナの瞳には、宝石のように零れる涙が流れていた。


「ユグ、ドラシル……!」


 アテナはそのまま、ユグドラシルに抱きついた。

 その顔を胸に埋め、ただただ泣いて。

 そんなアテナを、ユグドラシルはただ黙って抱きしめていた。


「ロキ、アリス」

「……仕方がありませんね」

「うん。大精霊の皆も、一旦家に帰らせるね」


 それを見た三人は、その場を後にする。

 こみ上げる想いが抑えられない気持ちが、とても良く分かるから。

 そうしてクロノスも姿を消しており、その場にはユグドラシルと、アテナのみが残された。

 空を闇が覆い始め、星々が煌めき始めた。


「……落ち着いた?昔から泣き虫なのは変わらないのねアテナ」

「ち、違う。これは久しぶりだったから……!」

「そう?昔も良く泣いていたじゃないですか」

「今は違うんだ!私ももう大人なんだからな!」

「あらあら、ずっと眠っていただけの大人って、ダメな大人ですよね?」

「っ~!ユグドラシル、久しぶりに会ったのに、なんで苛めるんだ!」

「ふふ、ごめんなさい。懐かしくて、つい。……大きくなったわねアテナ」


 そう言ってアテナの頭を優しく撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めるアテナは、まるで猫のようだった。


「言葉と行動が一致してないだろ!」


 しかし、すぐにハッとして言い返す。

 子供の頃に戻ったような懐かしさを感じつつも、アテナは笑っていた。


「はぁ、お前は変わらないなユグドラシル。見た目は小さくなってるのに」

「そのうち元の私くらいまで成長するでしょう。私の化身ですからね」

「化身、か。でも、ユグドラシルは今もそこに居る。世界樹として、ずっと。お前は、ユグドラシルの残滓なんだろう?」

「そうですね。私はいずれ消えるでしょう。記憶の残りカスのような物ですからね」

「……教えてくれ。どうしたら、お前を救える?その為なら、私の全てを捧げても良い」


 アテナは真剣な表情でユグドラシルに伝える。

 心からの言葉だった。

 けれど、ユグドラシルは顔を横に振る。


「それは違いますアテナ。私は、犠牲になんてなっていません。だから、救うという言葉は違うんです」


 その言葉に、アテナはハッとする。

 自分はまだ、ユグドラシルは世界の犠牲になったと考えていた。

 だから、ユグドラシルは否定する。

 そうじゃない、ユグドラシルは望んでそうなったのだから。


「……すまない。言い方を変える。ユグドラシルを元に戻す方法は、無いのか?」

「無いですね」

「……そうか」


 アテナは項垂れる。もしかしたら、ユグドラシルなら何か知っているのではないか、そう思っていたから。

 けれど、その続く言葉にアテナは瞳を輝かせる。


「元に戻す方法はないですけど……世界樹を維持したまま、私とイグドラシルを存在させる事は、可能かもしれません」

「本当に!?」


 アテナは身を乗り出して言った。

 その言葉を、ずっと欲していたから。

 ユグドラシルとまた、一緒に生きる事が出来るのなら。


「それは、どうすれば!?」

「落ち着きなさいアテナ。それにはまだ、蓮華の力が足りません」

「よし、蓮華を強くすれば良いんだな!?任せてくれ!」


 やる気を漲らせるアテナに、ユグドラシルは溜息をつきながら答える。


「落ち着いてくださいアテナ。貴女が手を出したら、蓮華が死んでしまいます」

「そんな!?」

「貴女はアリスとは別の意味で手加減が出来ないのですから、本当に遠慮してくださいね」


 ユグドラシルの言葉に、ずーんと沈むアテナ。

 流石に不憫に思ったのか、ユグドラシルは言葉を掛ける。


「ただ、もしかしたら貴女にも何か頼むかもしれません。その時は、力を貸してくれますか?」

「!!も、勿論だ!いつでも言ってくれ!なんなら今すぐにでも……!」

「だから落ち着いてください。貴女は本当に、昔から変わりませんね……」


 はぁ、と溜息をつきながらも、ユグドラシルのアテナを見る目は優しい。

 それはまるで、手のかかる娘を見るようで。


「アテナ、ゼウスに気をつけなさい。彼は……」


 ユグドラシルが全てを言い終える前に、アテナは頷く。


「分かってる。だけど、私とパパは多分互角。戦えば、手勢の差で負けちゃう」

「それで、私の件を理由に行方を眩ませていたのですか?」

「それは偶々タイミングが重なっただけで……というか、私はまだユグドラシルが世界樹に成った事、許してないから!」


 アテナの言葉に、ユグドラシルは苦笑する事しか出来ない。

 自分の本体が今何を考えているのか、それは自分にすら分からないのだ。


「それで、今日はこの後どうしますか?このまま帰る、わけないですよね貴女は……」

「当然。折角会いに来たのに、なんでこのまま帰るの。そこら辺で寝るから気にしないで」

「どうしてそんな所だけ野生溢れる回答をするんですか。はぁ……マーリンに話しますから、ついてきてください」

「本当!?やった!」


 まるで少女のように笑うアテナに、ユグドラシルはやれやれと思いながら、家の中に案内するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ