28.シリウスの頼み
王都・オーガストに転移する。
少し歩いた先に、以前会った門番の人が居たので、手を振っておく。
すると。
「れ、蓮華様!蓮華様であらせられますね!?」
な、なんだぁ!?
「そ、そうですけど?」
びっくりしたので声がうわずっちゃったよ。
「し、少々お待ち頂けませんか!?なにとぞ、お願い致します!」
なんて土下座せんばかりに言ってくるので。
「何かあったみたいだね。良いよ、待つよ」
そう答えたら、それはもうすんごく嬉しそうにしてくれた。
「あ、ありがとうございます!どうぞこちらへ!お連れの方も、どうぞ!」
そう言って案内しようとしてくれる。
「よく分かんないけど、行こうかディーネ」
「クス、レンと居ると退屈しなくてすみますね」
なんてディーネが言ってくるけど、これやっぱり厄介事のフラグだよね、勘弁してほしい。
以前通された部屋に着いた。
座ったら座っただけ沈む柔らかいソファーに座る。
うはぁ、これ人をダメにするやつぅ……とか思いながら座ってたら、ディーネに頬をつんつんされる。
「ひゃぁめぇろぉ」
つんつんされてて、ちゃんと喋れなかった。
ディーネが笑う。
何やってるんだ私は。
そんな事をしていると、足音が近づいてきた。
「蓮華様!!」
いきなり抱きつかれた。
「シリウス、久しぶり、という程でもないかな?」
「いえ……少し会わない間に、大きくなられましたね」
「嘘言うんじゃないよ」
二人して笑う。
すると、ディーネに気が付いた。
「申し遅れました。私は王国親衛隊・ロイヤルガードの一人、シリウス=ローランドと申します」
そう自己紹介していた。
「そうでしたか。私は大精霊・ウンディーネ。今はディーネとして、レンの仲間として居ます」
なんかすっごいシリウスが驚いているのが分かる。
「な、なんと……大精霊様でしたか、ご無礼をお許しください」
「いえ、構いませんよ。明かしたのも、レンの友人のようだったからです。他の方には他言無用ですよ」
「ハッ!」
うん、やっぱディーネって凄い存在なんだよね。
なんか一緒に居るとすぐ忘れちゃうんだけども。
「蓮華様は、やはり凄いですね。どんどん遠くに行かれてしまう」
あれ?なんかこっちに飛び火した?
「あー、えっと、それで何か話があったんじゃないの?なんか凄い勢いで呼び止められたんだけど」
その言葉にハッとしたように見えるシリウス。
うん、今思い出したね?
「蓮華様、恥を忍んでお頼みしたい事があります」
そう、真剣な眼差しで言われた。
「まぁ、内容によるけど、言ってみて」
「はい。実は、今日から丁度7日後に、王覧試合があるのですが、それに蓮華様にご出場願いたいのです!」
「はいぃぃ!?」
ちょ、いきなり何言ってくるかな!?
王覧試合ってあれでしょ、王様の前で戦うやつでしょ!?
はいそこ、そのまんまやんって言わないの!
「いや、常識的に考えて無理でしょ。無理って言って」
「無理でしたらお頼み致しません蓮華様!」
ですよねぇ、可能だから言ってるんだよね!知ってたよ!
「な、なんで私?」
「蓮華様以上に適任の者など、この国におりません!」
なんてきっぱり言ってくる。
っていうかですね、私はこの国の者じゃないんだけど……。
「大丈夫です蓮華様。この仮面をつけてロイヤルガードの正装をしていただければ、誰にもばれません!」
「えぇぇ……」
いや、ばれるでしょ。
なんでそんな自信満々なのさ。
ディーネが凄く笑ってる、他人事だと思って!
「えーと、王覧試合って、どんなのなの?」
肯定的と受け取ったのかシリウスが元気よく言う。
「はい!両国の国王の御前で、ロイヤルガードとインペリアルナイトの3名づつ競い合う、親善試合のようなものです!」
成程。
国の力を見せるってわけかぁ。
それに私が出るのかぁ……。
「それに私が出ちゃまずいでしょ!?」
「蓮華様なら大丈夫です!」
なんでだよ!と突っ込みたい。
「なんでですか?」
今まで黙って、いや笑っていたディーネが答える。
お前が言うんかい!
心の中でしか突っ込めない私のあほぉ……!
「蓮華様は特別公爵家のご令嬢様ですので、仮にばれても咎にはならないのです。どの国にも味方できる存在ですから」
「成程、確かにそうですね」
あ、ああ、成程。
そういうちゃんとした理由もあったのね。
というか、その特別公爵家のご令嬢が戦うという点について、誰も何も言わないのだろうか。
顔に出ていたのか、シリウスが答える。
「蓮華様、“あの”マーガリン様が、ご令嬢に受けいれた方というだけで、もはや全貴族達から注目の的なのですよ?」
うっそん。
母さん、どんだけ顔広いの……。
あれ、ちょっと待てよ。
それならアーネストも出る可能性あるんじゃないか。
仮に、仮にだけど……私が参加する事が公になったら、間違いなくアーネストは相手方に行くと断言できる。
だって、その方が面白いから。
でも、私は嫌だ。
だから、シリウスに言う。
「シリウス、参加しても良いけど、条件がある。絶対に、絶対に私が参加するって事を伝えない事。それが守れるなら、良いよ」
その言葉に、凄く良い笑顔で答えるシリウス。
「はいっ!ありがとうございます蓮華様!」
うん、まぁ良いか。
この笑顔を見てそう思ったのだけど。
もう一人、ヤバい存在を忘れていたのだ、私は。
ディーネがすっごく良い笑顔をしていた事に、私は気付いていなかった。




