56話.大精霊・レニオン『後編』
再度天空城の近くに着いた。
着いたと言うか、空の上だけど。
ただ、最初に来た時と違って、なんかこう……完全武装形態と言いますか。
城を凄い壁が覆ってる。そして、その周りを凄い数の何かが飛んでる。
"どういう事なのこれ"
"どうやら、警戒されているようですね"
もしかして、また来るねって言葉を、侵略するねとでも取ったのだろうか。
いやいや、そんなわけ……
『しょうこりもなくまた来たのね野蛮人!私とこの【ユートピアパラダイス城】を奪いに来たんでしょう!?そうはさせないわ!』
スピーカーから聞こえてくるような、大きな声がした。
まぁ、周り何もないし、私の他に聞こえてるのは妖精さんくらいだろう。
というか、濃い名前の城だったんだね……なんていうか、聞くだけで楽しそうな城だ。
現実は、黒光りした2丁の砲台が所狭しと並んでいて、その全てが私に向いているという、パラダイスよりもヘルなんですけども。
「えっと、話を聞いてくれないかな。私は君と契約というか……話をしに……」
『契約!?そう、そういう事ね!私を奴隷にして、言葉にはできないあんなことやこんな事をっ……!ひぃぃっ!?』
うん、これ無理。
この子、被害妄想が酷過ぎる。
『そんな事させない、絶対させないんだからっ!全砲門、侵入者を討てぇっ!!』
レニオンの言葉と共に、一斉に銃弾が放たれる。
だー!要塞じゃないんだから!?
撃ち続けられる銃弾を、全て回避していく。
なんとか避けられるけど、これじゃ城に近づけない!
"蓮華、当たってもそんなに痛くないかもしれませんよ?"
え、そうなの?それじゃ、ちょっと当たってみようかな?
ガガガガガガガガッ!!
「いだだだだだだっ!?」
動きを止めたら、集中砲火を受けた。
凄まじく痛い。
"……痛かったみたいですね"
"ユグドラシルゥー!!"
『そんなっ!?光の力を存分に込めた弾丸なのよ!?あれだけ直撃して、まだ倒れないなんて……化け物!?』
酷い言い草だ。これ、普通の人じゃ死んでるよ本当に。
"それでは蓮華、少し変わりましょうか。お手本を見せてあげましょう"
"うぅ、最初からそうしてよ。これじゃ私痛い思いしただけだよ……"
"ふふ、ごめんなさい。その代り、確実にレニオンと会話させてあげますから"
それから、私の意識は奥へと沈む。
自分の体の奥深くへと。
『なっ!?貴方、髪の毛の色が変わるとか、スーパーなんちゃらなの!?』
ん、んん?レニオンからおかしな単語が聞こえたぞーう。
「さて、今の私は加減が効きませんから。少し壊れても、撃ってきた貴女が悪いですからね?」
『ひっ!?』
ユグドラシルから、凄まじい殺気を感じる。
いや中に居て感じるっていうのも変かもしれないけど、証拠にレニオンの声が本気で震えている。
『う、撃て、撃てぇっ!そいつを近づけるなぁっ!』
再開する砲弾の嵐。
けれどその凄まじい数の銃弾が、ユグドラシルに当たる直前で止まった。
「術者がそんなに離れていて、コントロールを奪われるとは思わなかったのですか?さぁ、返しましょう。被害が出ても、自業自得ですよ?」
ニッコリと笑うユグドラシルが、自分の周りの銃弾を全て反射したように見える。
ドゴンバゴンと城の外壁が崩れていく。
『いやぁぁぁっ!?私の【ユートピアパラダイス城】がぁっ!?』
うん、叫んでるのは分かるんだけど、名前のせいでそこはかとなく真面目に思えないのはなんでだろう。
『や、やめてっ!降参、降参するからっ!これ以上私の友達を苛めないでっ!』
友達?
"ユグドラシル、そこまでにして貰って良い?"
"ええ、構いませんよ。ただ返しただけですけどね。蓮華にそれだけの攻撃をしていたのですよ?それを自覚させてあげただけです"
なんというか、ユグドラシルも母さんや兄さんみたいに、過保護な気がしてきたんだけど。
というかそれなら、最初になんで受けさせたのか。
考えていたら、城のシェルターが解除され、中身が出てきた。
最初に見た、綺麗な城だ。
庭園の真ん中に、レニオンが立っていた。
その顔は泣いている。私は、というかユグドラシルは、その場に降り立った。
「レニオン、私はユグドラシルです。話を聞いてもらえますね?」
「は、はい、お母様。お母様だとはつゆしらず、失礼を致しました……」
へ?お母様?
「ああ、その子から聞いたのですね?」
「はい。その方だけでは、半信半疑だったそうです。ですが、ユグドラシル様が表に出た事で、確信したとの事でした。この度は失礼な真似をして、大変申し訳ありません……」
ど、どういう事?話が全然見えない。
「蓮華、天空城は生きている意思ある城なのです。その命は、大精霊・レニオンが誕生するよりも前から。ですので、私の事も当然知っています。私の事を、レニオンに伝えたのでしょう」
そういう事か。
「えっと?」
「私の、というよりは……この体の本来の持ち主に説明したのですよレニオン。それが、蓮華です」
「で、でも、男って……」
「レニオン」
「は、はい……」
「話をしてみなさい。そうすれば、貴女の思う男との違いが、分かるはずです。貴女の知識は偏っていると言わざるをえません。それを、蓮華と話をして改善しなさい。でなければ、大精霊の座を他の者に変えなければならなくなります。これは脅しではありませんよ」
「はい……」
ユグドラシルに説教を受けて、レニオンは沈んでしまっている。
でもきっと、レニオンがそう思うようになった理由があるはずなんだよね。
"それでは蓮華、後は頼みますね。レニオンも元は素直で良い子なんです。お願いします"
そう言って、私が表に出る。
「っ!!」
ビクッと体を強張らせるレニオンに、出来る限り優しく声をかける。
「えっと……どうして、そんなに男性が嫌いなの?」
「……ついてきて」
そう言って城の中へ入っていくので、後ろに続く。
あんまり近づくのもあれなので、少し距離を開けて。
それからしばらく進んだら、扉の前についた。
重々しい扉だ。なんというか、玉座の前というか、そんなイメージを受ける。
「ここよ。ここに、全てがあるの」
ごくりと喉をならす音が聞こえた。
ギィィッと扉が開いて、中に入る。
そこには、大きなタンスがズラッと並んでいて、凄まじい数の本が並べてある。
「ここは?」
「聖典を置いてるの。手に取って読んでみて」
言われたとおり、適当に一冊手に取る。
ラノベとか漫画は好きだけど、ずっしりと分厚い本って苦手なんだよなぁって思ったら、あれ?なんだか一冊一冊は凄く薄い、ような?
パラッとめくると、そこには男性と女性がいたしてるシーンが。
「っ~!?」
「ね?」
ね?じゃないからっ!これはいわゆる薄い本じゃないかっ!
「そこに全てがあるの。男なんて、男なんて……!」
ちょっと待って。もしかして、ここにある本全部?いやまさかそんな。
「え、えっと。色々と言いたい事はあるんだけど、ここにある本、全部こんなんだとか言わない、よね?」
「当たり前でしょ」
そりゃそうだよね。良かった、全部そうだったら……
「向かいの部屋にだってあるんだから。その奥はもっとハードなのを集めてるわ。そこら辺は比較的純愛物よ」
……。
「ねぇレニオン、そこに正座」
「え?なんで……」
「正座」
「は、はい」
「いい、レニオン。こういう本はね、内容は作り話なの。妄想で出来てるの。現実でこういう事をしてる人なんて、ほとんどいないから、オーケー?」
「う、嘘よ!皆頭の中がこうなら、現実だってこうに決まってる!」
「そんなわけないからっ!皆現実と妄想の違いを楽しんでるだけだからっ!」
「それじゃ、王族と平民の恋愛ストーリーは嘘だと言うの!?」
「い、いや、それはあるかもしれないけど……」
「そうでしょう!?」
うぐぅ、この子の説得を私にできるのか……。
それから数時間、あーでもないこーでもないと、本の話で盛り上がってしまった。
「ふぅ。蓮華、貴女の魂は男かもしれないけど、認めるわ。その心は女性よ。それに、器は女性なんだから、何の問題も無いわ。契約だったわよね、蓮華なら良いわ。私とここまで本で語り合えた貴女が、私は気に入ったもの」
「そう、ありがとう……」
ぐったりしている私は、力なく答えた。
レニオンが凄まじい勢いで本の内容を語るので、後半は聞いていただけだった。
けれど、そのどの話も、好きだというのが伝わってきて。
ただ、その、良い子が見れない話も好んでいて、その話を振られるたびに反応に困った。
その話に出てくる男が、それはもう下種で屑な奴で、そりゃそんな話ばかり読んでたら、嫌になるとは思ったけど。
でも、それはお話の都合上仕方なく作者も出してるんであって、全ての男性があんなんじゃないと説明するのが非常に大変だった。
だからこの次に、私の片割れであるアーネストと会わせる事を約束した。
あいつなら、男だけどレニオンも心を開きやすいんじゃないかな、と思う。
また、私が読んだ事のある面白い本も、紹介しようと思う。
「レニオンは男が嫌いだから、この城に?」
「ううん。私はピアと……あ、【ユートピアパラダイス城】の事なんだけどね。ピアと友達だから。一緒に居たいと、思って。やっぱり変、かな?」
そう不安げに聞いてくるので、笑顔で伝える事にした。
「そんな事ないよ。友達と一緒に居たいって、普通の事だよ」
私はその普通が普通じゃないとよく言われるけど、これは普通だよね?若干自信がなくなってきつつある私なんだけど。
「……うんっ!」
可愛い笑顔でそう返事してくれるレニオンに、間違ってなかったと思う。
もう少し、ここでのんびりしていくかな。




