50話.放課後(違)デート(違)
「つーわけで、俺と蓮華は街に遊びに行くからなアリシア」
「そんな、会長!?」
魔界に戻ってから、アスモに開口一番にそう告げるアーネスト。
アスモはまるでこの世の終わりの様な表情になっていて、物凄く不憫だ。
「ど、どどどどうしてですか!?それなら私も行きます!」
「いやお前は無理だろ。そいつらに教える事まだまだあるだろ」
「で、ですけど!」
尚も食い下がろうとするアスモに、アーネストは無情にも言った。
「アリシアは学園の経歴に、出身国魔界って書いてるよな?」
「え?は、はい。リンの首都、イウルーンと書きました」
「なら、自国の事でって理由になるから、まだここに残ってても大丈夫なわけだ。けど、俺はそうはいかねぇ。今日で二日目だし、蓮華が倒れたからって理由もあるから、今日までは学園を離れてても大丈夫だ。けど、流石に三日連続はまずいってのは分かるだろ」
「そ、それは……って、ええ!?蓮華さんが倒れたんですか!?」
アスモが本当に驚いた顔をして、私を心配そうに見てきたので、答える。
「大丈夫、今はもう母さん達が治療してくれたからね。心配してくれてありがとうアスモ」
そう笑顔で言ったら、安心したのかアスモもホッとしたのが分かる。
「つーわけで、俺がこの街に居れるのは今日で一旦最後だ。なら、蓮華と街を見てまわりてぇんだよ」
「な、なら私も今日一日くらい街を見て回ります!明日以降も居なきゃならないなら、一日くらい遅くなっても大丈夫ですよね!?」
アスモが更に追い縋るけど、続くアーネストの言葉に撃沈した。
「何言ってんだ。お前が長い間居ないと俺が困るだろ。早く片付けて、戻ってこいよ?」
「~っ!!」
アスモの顔が真っ赤だ。この無自覚たらしめアーネスト。
レヴィが物凄く笑ってるし、生徒会の皆も流石に気付いたらしい。
皆生暖かい目で二人を見ているし、気付いていないのはレオン君にリタちゃん、それに当の本人であるアーネストくらいだろう。
「うぅ、分かりました。会長の為に!一刻も早く終わらせて見せましょう!」
「お、おお?頑張ってくれよ。そんじゃ蓮華、行こうぜ?」
「あ、ああ。ええと……ノルンは」
「私はついでにアスモデウスの話を横で聞いておくわ。これからの事に役立ちそうだし、アンタも会長もこの手の事は知らないんでしょ?なら、私が知っておいた方が良いでしょ」
私達の今後の事も視野に入れてくれているノルンに、頭が下がる。
本当は私も参加した方が良いんだろうけど……昨日聞いて分かったのは、分からない事が分かりました。
なんとなくは分かるんだよ?でも、分かった気になっているというかね……頭の良い人ってやっぱり違うなぁって思うわけでして。
「はぁ、アンタが今何を考えているか、手に取るように分かるわ。人には得手不得手があるんだから、苦手な事は任せりゃいいのよ」
そう横を向いて言うノルンに、私は思わず笑ってしまった。
「ありがとノルン。それじゃ皆、勉強頑張ってね!」
「蓮華!私も行くぞ!」
「レーヴィーアーターン……?」
「ヒィッ!?」
般若のようになったアスモが、レヴィを子猫のように持ち上げた。
アスモの方がレヴィより体が小さいので、異様な光景だ。
「それでは会長、一日でも早く終わらせるためにビシバシ行きますので、お任せくださいね!」
「お、おう。頼んだぜ……?」
アーネストの顔が心なしか引きつっていた。
そして、城の外に出る。
「ふぅ~、そういや二人きりって久しぶりだな蓮華」
「そうか?……そうだな。でもなぁ、お前と二人きりって、情緒もへったくれもなくないか?」
「お前が言うな!良いじゃねぇか、なんの気兼ねも無く話せる奴なんて、俺にはお前くらいなんだぜ?」
「えー。アーネストは誰に対しても変わらないじゃないかー」
「いやまぁ、そうなんだけどよ。それでも、個人ごとに感じる感情は違うぜ?」
そうなのか。アーネストは私と違って、誰に対しても分け隔てが無い。
私も女性になった以上は、丁寧な言葉遣いを気にしてはいる。
だけど、そうするとどうしても、地では話せなくなる。
でもアーネストだけは、そんな地の私で話ができる。
母さんや兄さん、アリス姉さんは、そんな私も認めてくれているけど……どうしても、地で話せるのはアーネストだけなんだ。
「それによ、女性と話すの未だに苦手なんだよなー」
アーネストが両手を頭の後ろで組んで、空を見上げながらそう言った。
私はその言葉に反応してしまう。
「うっそだろ!?お前が!?」
「なんでそこで驚くんだよ。お前だって苦手だろ」
「いや、そうなんだけど……お前あれだけ女生徒の皆に声掛けられておきながら……」
「全部断ってんのも知ってるだろ」
「も、もしかして、それが理由で?」
「まぁ正直それもある」
……開いた口が塞がらなかった。
お前、それだけ立場もあって力もあってモテてるのに、苦手だから断ってきたって、おい……。
「ならアスモは?」
「あー、あいつはなんつーか……口うるさい姉貴?みたいな?」
「……」
開いた口が塞がらないパートⅡ。もうお前、なんでそんなにめんどくさいの!?
それでも私の元か!しかし、ここで私がアスモの気持ちを言うわけにはいかない。
それはあくまで、アスモが自分の口で言うべき事だから。
「はぁ……まぁいいや。それで、どうするんだ?」
「どうするって、決まってんだろ?」
そう言うと、アーネストは私の手を取って、走り出した。
「お、おいアーネスト!?」
「街の探検だっ!ついでに露店巡りして、買い食いと行こうぜ!」
「!!ははっ!分かった、楽しもうか!」
「おうっ!」
そうして私達はレヴィアスの街を駆け回り、露店で売っている食べ物を買って食べたり、珍しいアクセサリーなどを買ったり、元の日本でもあった射的のゲームとか魚すくい(金魚ではなく)をやったりして、夕方になるまで遊んだ。
「はぁ~、楽しかったな蓮華!」
「ああ、私もかなりリラックスできたよ。ありがとなアーネスト」
「ばっか、なんで礼を言うんだよ。こんなの当たり前の日常だろ」
「はは、そうだな。でもさ、色々あって……こんなにはしゃげたのは久しぶりだったから」
そう言ったら、アーネストは少し沈んだ顔をした。
「そうだよな、お前は今女の子なんだもんな。すまねぇ、俺は……」
「謝るなよアーネスト。お前が私を女の子扱いしてないのは知ってるし、お前に女の子扱いされたら気持ち悪い」
「お前な!?」
「あはは、だからそれで良いんだよアーネスト。お前はお前のままで居てくれ。お前がそうしてくれたら、私はこのままで居られる」
「蓮華……」
「さ、戻ろうアーネスト。実は病院の事も話さないといけないし、私も明日はアスモの話に加わるつもりだからな」
「そっか。俺は生徒会の事もあるし、後任達の事もあるから、明日は流石にこれねぇけど……出来るだけ早く、お前と一緒に旅ができるようにする。だから、それまで楽しんでろよな!」
「ああ、ありがとアーネスト」
こうして、楽しい一日が終わった。
アーネストは地上に帰り、今日は私もレヴィの城で泊まる事にした。
久しぶりに、リフレッシュできたな。




