46話.法の作成と小さな異変
アーネストが一緒に連れてきた5人は、生徒会メンバーだった。
何度か話した事もある。物腰の柔らかな人達だし、アーネストが選んだなら大丈夫だろう。
それから少し経ってから戻ってきたアリシアさんは、アスモデウスさんの姿だった。
アリシアさんの時は制服姿だけど、アスモデウスさんの時は露出の多い、色気の漂う姿をしていて、5人の生徒達もアリシアさんを知っているはずなのに、見惚れていた。
3人が男性で2人が女性なんだけど、男女問わず見惚れるくらい、アスモデウスさんは美女だ。
そんなアスモデウスさんに、アーネストはというと。
「お前、今から行くってのにどこ行ってたんだ?」
「秘密です。女性はミステリアスな方が魅力的でしょう会長?」
「どうせトイいでぇ!?なにすんだ蓮華!?」
五月蠅い、それは言わせない。
とまぁ、普段と全く変わらない。こいつ目が死んでるんじゃないかな。
私が男なら、照れて話せないレベルの美女だぞ、ノルンもだけど。
いや心は今でも男なんだけど。
「あ、あの会長、その方もしかして……」
「ん?ああ、アリシアだよ。知らなかったっけ?」
「「「「「副会長!?」」」」」
「ああ、貴方達はこれから魔界に行くんだし、正体をばらしても問題ないわね。私の名前はアスモデウス、魔王リンスレット様の配下よ。事情があって学園に居たの。これから貴方達が仕える事になるレヴィアタンとも、言わば同僚ね」
5人が凄い驚いているけど、無理もないだろうね。
男だと思ってた人が、女だったって分かった衝撃に似てるんじゃないかな?
うん、違うな。阿呆な事を考えるのは止めよう。
「それじゃ、『ポータル』を使うね。流石にこの人数を一度には無理だから、ノルンも手伝ってね」
「はいはい」
そうしてレヴィアタンの城に戻って、皆に自己紹介をして貰った。
最初、レヴィアタンを見て驚いていたけど、話をするうちに
「姉御!俺一生ついて行きます!」
「私も!姉様の為に身を粉にして働きますね!」
「お、おお?そうか、私は頑張る奴は好きだぞ!何か私の力が必要な時は遠慮なく言え!けど、政治は私には分からん!だからお前達の力を借りる!」
「「「「「はいっ!姉御(様)!」」」」」
とまぁ、レヴィアタンの姉気質に触発されたのか、皆やる気になっていた。
正直、私も政治は良く知らないし。税金の種類だって、消費税や住民税といった、支払う事が多かった事しか知らないし。
なので、そういう事はそういった勉強をしてきた専門の人達に任せるのが一番だよね。餅は餅屋というか。
その中で私は、直接的な力や物資が必要になったら手を貸すという事で落ち着いた。
魔界の領の話なので、アスモデウスさんが一時的にまとめ役になって、話を進めている。
勿論レヴィも一緒だけど、気付けば居眠りをするレヴィを金の棒で叩き起こすアスモデウスさんに、笑うしかない。
ハリセンだと効かないもんね。
レオン君とリタちゃんも参加して、真面目に話を聞いている。
一生懸命ノートにメモをきちんととっている。偉いなぁ。
「なぁ蓮華、俺達はここに居てもしょうがねぇし、街を見て回らねぇ?」
「うーん、そうだね……」
アスモデウスさんの視線が一瞬こっちを向いたのに、私は気付いた。
ここで私が同意したら、間違いなくアーネストは外に行く。
そうすると、ここを離れられないアスモデウスさんは、必然的にアーネストと別れる事になる。
ぐっ……ここは心を鬼にしよう。
「でも、私も政治の話を聞いておきたいんだよ。付き合ってよアーネスト」
「マジかよ……しゃーねぇなぁ」
そう言って、机の上にぐてんとするアーネスト。
うん、お前は聞く気0だな。
それを見ていたら、アスモデウスさんが私に一瞬微笑んだ気がした。
「悪いわね、蓮華」
すると、ノルンが言ってきた。
「あはは……まぁ、アスモデウスさんが居なくても大丈夫になったら、皆で街を巡ったら良いからね」
まぁアーネストは夜には帰らないとダメだけど。
アスモデウスさんは自国の事だし、理由を話せば大丈夫だけど。アーネストは直接関係が無いから、外出申請は問題なくても、泊まりは出来ないのだ。
まぁ、タカヒロさんが残ってくれているし、何かあっても上手く誤魔化してくれるだろうけど。
というわけで、税だったり物流だったり、ギルドや各施設の責任者を置くといった、必要最低限の法を施行する為に、文をまとめていった。
「私がこれを全部言うのか!?」
なんてレヴィが青ざめた顔をしていたけど。
「覚えなくて良いわよ。どうせ貴女は覚えられないでしょ」
「ああ、無理だ!」
「はぁ、威張って言う事じゃないのよ……」
レヴィの言葉に、アスモデウスさんは本当に頭が痛そうだ。
「というか、お前が治めれば良いじゃないかアスモデウス!私はお前の配下で良いぞ!」
「黙らっしゃい。リンの采配に文句を言うつもり?」
その瞬間、アスモデウスさんからとてつもない悪寒を感じた。
まるで、抑え込んでいる闇が、零れたかのような……。
「い、いや、そんなつもりじゃないんだが。すまない、軽率な事を言ったな」
「はぁ、分かれば良いのよ。レヴィアタンは強いんだから、出来ない事は配下に任せなさい。貴女はそこに居るだけで良いのよ。カリスマがあるんだから」
「そうか?アスモデウスにそう言われると、照れるな!」
そう笑って言うレヴィに、アスモデウスさんも微笑んだ。
なんだかんだで、仲が良いと思う。
けれど、さっき感じた悪寒はなんだったんだろう。
私はまだ、アスモデウスさんの事を全く知らないのかもしれない。
「今日はこんくらいか?それじゃ、せめて飯くらい食って帰るぜ!ただ勉強して帰るって、俺きた意味ねぇじゃん!」
「いや、勝手についてきたのアーネストだろ」
「ぐっ!そりゃそうなんだけどさ!」
皆も苦笑している。
「それなら、私がとっておきの料理を出してやろう!」
「却下。レヴィアタンの料理は魔物の丸焼きでしょ。そんなもの料理とは言わせないわよ」
「美味しいんだぞ!?」
「貴女はそもそも丸呑みでしょう。それとも、食事もその姿で取るようになったのかしら?」
「そうだぞ!だから、何回かに分けて食べれるように、斬るようにはなったぞ!」
「丸焼きを否定していない時点でアウトに決まってるでしょうが」
「なにー!?」
……うん、レヴィはそこから教えないとダメなのね。
「それじゃ、私が作るよ。アスモデウスさんも手伝って貰っても良い?」
「ええ、喜んで。蓮華さんなら安心です」
という事で、調理場に案内して貰う事にした。
後ろでアーネストがアスモデウスさんに、なんか耳打ちをしているけれど……何かあったのかな?
「おいアリシア」
「なんですか会長?」
「お前これちょっと飲んでくれ」
「媚薬ですか?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ!?」
「そんな物を使わなくても、はっきりと私を求めてくだされば……」
「違ぇからな!ったく、からかうのもそれくらいにしとけっての」
「……割と本気なんですけど」
アスモデウスが小さく零したその言葉を、アーネストは聞こえていない。
気を取り直し、話を続けた。
「これはスタミナポーションだ。蓮華からさっき余分に貰ったんだけどさ。俺はこれがフルーツジュースみてぇな味がして、美味かった」
「はぁ。では飲んでみますね。ン……美味しいですね。それに、失った体力が回復した気がします」
「……そうか。これな、蓮華は不味いって言ったんだよ」
「!?」
「やっぱ驚くよな」
「蓮華さんは味覚障害という事ですか?」
「いや、そうとは思わねぇ。だってよ、今まで同じ料理を食べてたし、美味しいって言ってたんだよ」
「成程……少し、その症状を調べてみましょう」
「助かる。あいつ、自分の事をなんも言わねぇからさ。お前が気に掛けてくれたら、安心だわ」
心配そうな顔をしていたアーネストが、優しい表情に変わる。
その違いを目の前で感じ、アスモデウスは胸が高鳴るのを感じた。
「っ!!もう、そういう所ですよ」
「何がだ?」
「ふふ、いいえ。それより、耳に息がかかってくすぐったいですよ会長」
「!?す、すまねぇ!」
他の人に聞かれないように、アスモデウスに近づいて話をしていたアーネストは、その事を指摘されて咄嗟に離れた。
「と、それじゃ料理も味見してみてくれな!俺は少し城を見てくるわ!」
そう言って駆けて行くアーネストの後ろ姿を、アスモデウスは微笑んで見ていた。
「まったく、恋は盲目とはよく言ったものですね。どうやったら会長は私を見てくれるかしら?」
そう零しつつ、アスモデウスは調理場に向かうのだった。




