26.それぞれの道へ
それからアーネストが学園に編入学する事を聞いた上で、母さんと兄さん、それにアーネストへ、私の考えを話した。
三人とも黙って聞いていてくれた。
そして、私の考えに。
「そっか、レンちゃんがそう決めたなら、私から言う事は何もないよ。レンちゃんは役目を果たしてくれた。後の時間は、レンちゃんだけのものだから。でもね、辛くなったら、いつでも帰ってくるんだよ?ここは、レンちゃんの家なんだからね?」
そう、優しく言ってくれた。
「蓮華、私は承諾致しかねる所なのですが……蓮華の兄として、妹の考えを尊重したいとは思っています。だから、マーガリン師匠はいつでも、と言っていますが、定期的に必ず帰ってきなさい。元気な姿を時々見せてくれるなら……良いでしょう」
と兄さんも言ってくれた。
私の事を想って言ってくれているのは、本当に良く分かる。
だから。
「うん、ありがとう兄さん。ちゃんと時々は帰ってくるから」
そう笑顔で言った。
「っても、再来年は蓮華も学園に行くんだろ?俺は今年16になってるし、この後学園に編入学する事になるけど、蓮華はまだ14と少しだから入れないもんな」
そう、全王国から一斉に入学する事になるマンモス学園、モンスターハンターや冒険者、王国騎士団等、今後の国を担う者を集め、育成する機関。
幼い時はそれぞれの国で教育を受け、その中で優秀な者が、全王国から一つのマンモス学園に入る事になるのだ。
その入学年齢が16歳から18歳までの期間。
特に優秀な者は飛び級とかもあるらしい。
アーネストは16歳と少し経っているので、入学式はとうに終わっている為、編入学という手段を取るそうだ。
これから編入学するまでの間、母さんや兄さんからみっちり勉強させられるそうだ。
私はと言うと。
「うん、だから学園に入学するまで、大精霊とできるだけ会いに行こうと思うんだ」
そう、私は大精霊と会う事に決めた。
その後に、学園だ。
「そっか。ならレンちゃんは、またオーブの祠巡りだね。今回は地上を守る為っていう名目がないから、案内がつかないけれど……大丈夫?」
心配そうに聞いてくる母さん。
「うん、大丈夫。それに、期間内に全部の大精霊と会えなくても構わないんだ。学園が終わった後だって、それはできるからね」
「そっか」
母さんが安心したように言う。
「蓮華、先に学んでおくからさ、入学したら俺が色々教えてやるよ」
アーネストが笑って言う。
つられて私も笑いながら。
「ああ、頼りにしてるよアーネスト」
そう言った。
それから母さんが落とした皿の片づけを皆でして、ご飯を食べて、今日は寝る事にした。
アーネストとオーブの事やこれからの事で色々話したりして、夜は更けていった。
翌朝、アーネストを元の世界へ返す魔方陣を母さんが描いていた。
母さんだけだと、魔力の消費が大きすぎて大変なのと、こちらへの帰還の目印に、私という楔を打つ必要があるとかで、私も協力している。
ただ、一つだけ疑問があって。
「アーネスト、元の世界に戻ったとして、お前若いんだけど、どうするんだ?」
「あ”」
うん、考えてなかったな。
まぁ、友達には合わずにスマホで連絡するだけで良いとしても、両親には確実に会うし。
兄さんは離れてるから、まぁ連絡しかできないだろうけど。
そして、私も思いついた。
「あ、あ!アーネスト!私のPCとかHDDとかの中身を!」
その言葉に、親指をグッ!とするアーネストに、お前が神か、とか思ったのは秘密だ。
私が何故慌てたのか分からない母さんと兄さんは、私達を見て首を傾げている。
良いんだ、これは召喚された男なら、誰だって思う事だから。
例にもれず、私もそうだったというだけだ。
まぁ、若い姿も、異世界へ行ったという事の証明になるかもしれない。
姿が変わってるならともかく、若い頃に戻っただけだし、両親なら分かってくれるだろう。
そして、準備が完了した。
「それじゃ、“行ってくるよ”母さん、兄貴、蓮華」
アーネストが言った。
行ってくる、そう、帰るのではなく、行く、と。
私も母さんも、兄さんもその言葉に気が付いた。
だから、送る言葉を言う。
「「「いってらっしゃい」」」
その言葉の後、笑ったアーネストは消える。
この世界から、アーネストが消えた。
少し、しんみりとする。
だけど、こうしてはいられない。
「それじゃ母さん、兄さん。私も大精霊に会いに行ってくるよ。時々は、ちゃんと帰ってくるからね。アーネストが帰ってきたら、もう行ったって伝えておいてね」
その言葉に、一瞬悲しそうな表情をする母さんだったけど、すぐに切り替えて笑顔で。
「うん、分かったよレンちゃん」
と言ってくれた。
「蓮華、マーガリン師匠と私は、蓮華の味方です。もちろん、アーネストもね。いつでも、頼りなさい。分かりましたね?」
いつも、ずっと、兄さんは優しくこう言ってくれる。
母さんも、ずっと私の事を想ってくれる。いつも私の意思を尊重してくれる。
大事にされている、だけど籠の中の鳥にはしない。
その気持ちが痛いくらい分かって、自分で決めた事なのに、揺らぎそうになる。
溢れだした気持ちを抑えきれなかった。
「ありがとう、二人とも大好きだよ」
と笑顔で言った。
少し涙がはしに溢れてたけど、気にしないでくれたら良いな。
こんな事、元の世界でも言った事はなかった。
アーネストが、蓮二として……両親に言ってくれている事を願おう。
私はもう、あの二人を両親とは呼べないだろうから。
私の母さんは、目の前で涙を浮かべながらも、笑顔で見送ってくれる、マーガリン=フォン=ユグドラシル、この人だけだ。
さぁ、これからは私の物語だ。
この世界に来た役割は終えた。
これからは、私が私の為に、行動する時だ。
行こう、外へ。
決められた目標はないけれど、楽しい毎日を送る為の、未来の為に。
私は、この夢のような世界を生きて行く。
-第一章・オーブ編・完-
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
これにて、第一章・オーブ編は終わりとなります。
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