45話.レヴィアタン領について
アーネストの生徒会長室に集まり、レヴィアタン領の現状を皆に伝えた。
すると、アリシアさんとタカヒロさんが盛大に溜息をついた。
「おいアスモデウス。いくらなんでもここまで酷いとは聞いてないぞ」
「私だって知らなかったのよ。だって、何の問題も上がってこなかったのよ?」
アリシアさんとして学園に居るけれど、アスモデウスさんは本来レヴィと同格の責任者の立場だし、タカヒロさんに至っては魔王軍参謀なわけで。
仲間の事で頭を抱えてるんだろうな。
「一応、私とノルンで街や集落を見てきたけど、それぞれが機能してちゃんと生活してたよ。ただ、やっぱりギルドで悪さする奴らがいたり、街でも好き勝手してる奴らがいるのを見かけたね」
「ふぅ、すまないな蓮華。それは俺達の方でなんとかしないといけない問題だ。報告助かった、リンスレットにも伝えて……」
「待ってタカヒロさん。良い機会だから、レヴィと一緒に一から整備していきたいと思ってるんだ。もちろん、私やノルンだけじゃ無理だから……知識を借りたくて、皆に相談に来たんだ」
学園に来た目的を話す。
「つってもよ蓮華。お前が手を出すのは良いのか?なんつーか、魔界には魔界のルールっつうのかな、そういうのあんだろ?」
アーネストが至極真っ当な事を言うので、驚いてしまった。
「アーネスト、大きくなったんだな……」
「お前は俺のおかんか!?つか、こんな事で感動されても嬉しくねぇ!」
皆が苦笑する。冗談はこれくらいにしておこう。
「勿論分かってるよアーネスト。命令を下すのはレヴィだからね。私達は裏方だよ。あと、そのままレヴィの領で働いてくれる人を見つけたいんだ。私達がずっと居るわけじゃないし」
「それは助かりますけど、魔界のレヴィアタン領からも出さないといけませんよ蓮華さん?」
アリシアさんがそう言ってくるのに同意しつつ、レオン君とリタちゃんについても話す。
「成程……元々レヴィアタン領の住人なら、良さそうですね」
「アーネスト。生徒会に政治に詳しい人で、地上で働く事に固執してなさそうな人って居ない?」
そう聞いたら、アーネストは溜息をつきつつ、答えた。
「あのな蓮華。レヴィアタン領の最高幹部に成れるって事だろ、その話。誰だって飛びつくぞ、その話を聞いたら」
「え、そうなの?」
周りを見たら、皆うんうんと頷いた。
あれ、分かってなかったの私だけなの?
「え、ええと……なら、アーネストが任せても大丈夫って思える人、居る?」
「お前な……。はぁ、分かった。俺の方で当たってみるわ。多分、すぐOKしてくれると思うぜ。何人くらい必要なんだ?」
「何人くらい必要そう?」
流れるようにオウム返しでノルンの方へ振る。
「アンタね……。私も詳しいわけじゃないのよ。官僚って事よね。でも大勢居てもまとまらなかったら面倒だし、5人くらい居たら良いんじゃないの」
「5人だってアーネスト」
「聞こえてるわ!伝言ゲームしてんじゃねぇぞ蓮華!」
「あはは、ごめん」
アーネストに突っ込まれたので、苦笑して返す。
だって分からないんだから、聞くしかないじゃないか。
「うーん、5人でも少ないですけど、最初限定でそうしましょうか。ただ、魔界の領の統治は、地上と違って楽だとは思いますよ」
「そうなの?」
私のイメージでは、めんどくさそうとしか思わない。
何を決めるにも話し合いが必要だし、承認が要るはずだし。
「ああ蓮華、魔界は領の支配者が決まってるだろ?だから、決めたらこうするって伝えるだけだからな」
「え」
「反論があるなら、支配者に立ち向かえばいい。倒せば支配者は入れ替わるから、自分の好きな政策を施行できるんだからな。ま、これが魔界は力が全てって言われる象徴なわけだ」
それはなんとも……。なら、よりちゃんと考えないといけないね。
私は政治については、ほとんど知らない。
国家を運営する組織が複数必要で、主義も色々とあったはず。
けれど、魔界ではそういった物は必要なくて、君主制に近いのかな。
君主制、貴族制、共和制、民主制、独裁制とあったんだっけ?民主主義とか権威主義とか、もう色々あって覚えていないけど。
「今のレヴィアタン領は、レヴィアタンによる庇護を受けながら、その対価を払っていない状態だ。これは権利だけ主張し、義務を放棄しているに等しい。この体制を続けていれば、いずれ領内で台頭する者が出てくるだろうな」
「全領じゃなく、レヴィアタン領の一部をよこせって感じで、レヴィアタン領の取り合いが起こるって事か」
タカヒロさんの言葉に、アーネストが反応する。
タカヒロさんは頷き、危機感を露わにしていた。
「レヴィアタンは強いが、大罪の悪魔達に及ばなくとも、強い魔族はたくさん居る。そいつらが手を組めば、厄介な事になるだろうしな。今のうちにしっかりとルールを作り、支配者が誰なのかを知らしめる必要があるだろう」
「そういえば、街道とかはレヴィの指示で作ってたんじゃないのかな?」
「蓮華さんは魔界で戦争がずっと続いてた時の事、知っていますか?」
「うん、聞いた事だけは……」
「ふふ、なら予想できると思います。今はリンの仲間達で分割してますけど、昔はそれぞれに支配者が居たんですよ。その支配者が、自分の支配する街は整備していたんです」
「あ、成程。その名残って事?」
「そういう事ですね。ですので、レヴィアタンが何かを行ったという事は、聞く限りではないでしょう」
そう言うアリシアさんは、なんだか疲れた顔をしている。
やっぱり、仲間がそんなんで、心労が堪ってるんだろうか。
「法の整備が急務だな。アスモデウス、幸いお前はどこも担ってないんだし、最初だけ手伝ってやったらどうだ?」
「え"」
タカヒロさんの言葉に、アリシアさんが変な声を出して、ちょっと笑ってしまった。
「生徒会の仕事は、他の奴にも割り振れるだろ?けど、レヴィアタン領の問題は、リンスレットの問題でもある。手を貸しても良いだろ?」
「そ、それは、でも……」
珍しくアリシアさんの歯切れが悪い。
すると、アーネストがそれを見てニヤッと笑って言った。
「ああ、今俺達の後任を育ててるんだけどさ、そいつらに任せてみようぜ。んで、俺もレヴィアタン領に行くから、お前も手助けしてやれよ」
「行きます!会長も行くのなら!」
脊髄反射で答えを反転させたアリシアさんに、私とタカヒロさん、それにノルンまで笑うのを我慢している。
当の本人は気付いていないのか、なんか顔を引きつらせている。
アーネスト、お前鈍感系主人公じゃないんだから、分かってるんじゃないのか?
「お、おお。行くのかよ。嫌がってたんじゃねぇのか……」
うん、気付いてないなこれは。ていうか、今のもアリシアさんが嫌がってると見て、誘ったのが裏目に出た感じか。
「というかアーネスト、お前も行くのか」
「当たり前じゃん。こんな面白そうな事に俺を混ぜないつもりかよ」
「良いけど、ちゃんと正式に行って良いって事になってないんだから、ちゃんと帰れよ?」
「分かってるって!そんじゃ、ちょっと人を見繕ってくるぜ!」
そう言って、アーネストは会長室から出て行った。
「なんか予想外な事になったわね蓮華」
ノルンが苦笑しながら、ソファーに腰かける。
「あはは。ま、あいつが来るなら騒がしくなるのは確実だね」
「俺も行ってやりたいんだが、アスモデウスにそれは任せる。俺は生徒会の方を見ておく事にするさ」
「任せたわよタカヒロ。私はちょっと買い物に行ってくるわ」
「今からか」
「ええ。だってこれから少しの間とはいえ、会長と一緒なんですよ?」
「お前、いつも一緒に居るだろ」
「それは副会長としてだもの」
「……そうか……まぁ、頑張れ……」
「?……とりあえず、すぐ済ませるから、会長が戻ってきたら待つように言っておいてね。じゃないと、会長は平気で私を置いて行こうとするので」
「「「………」」」
そのセリフに涙が出そうになった。
アリシアさん、そこまで分かっていながら、何故……!
「わ、分かった。ちゃんと引き留めるし、あれなら蓮華が言ってくれる」
「うん、絶対に先に行かないから、大丈夫だから……」
「え、ええ、お願いしますね……?それじゃ、行ってきます」
首をかしげながら、不思議そうな顔をして、窓から外へ飛んで行った。
そこから行くんかい。
「ノルン、アリシアさんって……」
「ごめん蓮華、言わないであげて」
「……」
アリシアさん、どうしてアーネストなんですかね。
不憫すぎて胸が一杯になった私は、アイテムポーチから飲み物を取り出して、皆に配って飲んだ。
イチゴジュースで甘いはずなのに、ほんのり苦いのはなんでだろう。
それからアーネストとアリシアさんが戻って来るまで、私達は静かに待っていた。




