36話.エイランドでの買い物と夕食
バニラおばあちゃん案内の元、王都エイランドのお店巡りを楽しんだ。
驚いたのが、認識阻害の魔法を掛けなくても良いと言われた事だ。
先の学園でのヤマタノオロチとの戦いが、全国にテレビで放映されたことにより、私達は一躍時の人となっていたみたいで。
普通ならもみくちゃにされそうな事態だけど、そこは各国の王様が直々に命令を出して、国を救ってくれた英雄達に迷惑を掛けてはならないって意味のルールを施行してくれたらしい。
学園内に居たから、そういう事全然知らなかったよ。
お蔭で、もう認識阻害の魔法を掛けなくても普通に歩ける。
まぁ、滅茶苦茶見られる事は多々あるし、店員さんも凄く緊張してるのが伝わってくるけど、そこは諦めた。
そうそう、店内で好きな物を皆で見て回っている時の事。
「玲於奈、その香水の香り、前使ってたのに似てないか?」
「ゲ、兄ちゃんそンな事覚えてンの?」
「そりゃ大切な妹の事だからな!」
「キモイ」
「ガーン!!」
なんてコントのようなやり取りをした後、玲於奈ちゃんはその場から離れようとしたから、声をかけた。
「どうしたの玲於奈ちゃん?それ使ってたなら、カゴに入れて良いよ?」
すると、玲於奈ちゃんは困った顔をして言った。
「ン……その、香水って、嗜好品じゃン?生活に必ず必要なもンってわけじゃないし……自分の金ならともかく、世話になってンのにこれ以上迷惑かけらンねぇよ……」
玲於奈ちゃん……なんて良い子なんだ!
でも、玲於奈ちゃんは一つ誤解している。
私は迷惑だなんて思っていない。
そして、私は今無駄にお金がある。使う予定のない多額のお金が。
そりゃ日本で働いていた時は節制というか……正直あんまりお金使わなかったし、コンビニで定価の物を買うよりスーパーで特売の物を買うとかしてた。
貯金が趣味みたいなものだったし、まぁそれもアーネストが一回戻った時に全部使いきったからあれなんだけど。
それを元手にして今のお金が増える環境を作ったとも言えるけど……まぁ実際働いているのは私ではなくて、バニラおばあちゃんや社員の方々なんだけれど。
生活も別にお金が無くてもできる。
でも、大抵の人はお金で必要な物を買って、生活している。
お金はマナと同じくらい、大事な物だし、経済を回す為にお金を持っている人が散財するのは大切な事だろう。
という建前の元で、私は言う。
「玲於奈ちゃん、この棚の一番右端から、一番左端までの全ての商品を買うのと、玲於奈ちゃんが望む物を買うの、どっちが良い?」
「なぁっ!?」
「うーん、私今無性に大人買いをしたい気分なんだけど、この中のどれかに玲於奈ちゃんが欲しい物があるなら、全部買っちゃおうかなぁ」
「ちょ、ま!蓮華サン!」
「あー、多分我慢されたら毎回こうなっちゃうかもしれないな~?」
なんて露骨すぎたかな。これは玲於奈ちゃんだけじゃなく、皆にも伝えたかった事だから。
遠慮なんてしなくて良いし、むしろそう思ってくれるからこそ、私もしてあげたいと思うのかもしれない。
私だって聖人ってわけじゃないし、最初から尊大な態度で居る人に、してあげたいなんて思わないだろうし。
でも、相手の事をちゃんと思いやれる人になら、私もしてあげたいと思うんだ。
「はぁ……それじゃ蓮華サン、もう遠慮しないけど、良いンよな?欲しいの、カゴに入れちまうかンな?」
「うん、もちろん。皆もだよ!自分の部屋に置きたい物とか、どんどん追加してね!持ち運びはアイテムポーチがあるから心配いらないよ!」
それから、皆で凄い量の買い物をした。
遠慮しないなんて言いながらも、要らない物は買おうとしないあたり、しっかりしていると思う。
日記帳やペンも買っていたけど、元の世界に戻る時に持って帰れるのかな?持って帰れると良いよね、大切な思い出にしてくれると嬉しいな。
この世界に居てくれて良いと言ったのは本心だけど、きっと皆は元の世界に帰ると思う。
優しい人達なのは疑いようがないし、ずっと居てほしいとも思う。だけど魔王……王であるなら、守るべき者達が多く居るという事だから。
その人達の為にも、帰らないという選択はしないだろう。
それでも、私達に何かを返してからと思ってくれている。
なら私はその時まで、この世界を楽しんで貰えるように、出来る事をしてあげようと思っている。
買い物を終えて、ユグドラシル本社の受付に戻ったら、春花ちゃんと明先輩が居た。
二人とも笑顔で話をしていて、仲の良さが伝わってくる。
「久しぶりだねレンゲさん。俺も参加して良かったのかい?」
学園で最後に見た時よりも、筋肉がついているのか、少しがっしりとした感じがする。
「もちろん。春花ちゃんの護衛は必要でしょ?」
そう言ったら、明先輩は笑って言った。
「あはは!レンゲさんが一緒なら、そんな心配はしていないよ。でもありがとう。俺も努力はしているけど、いつも一緒にいられるわけじゃないし……そんな中で、春花がバニラ様の近くで働けているのは安心できるんだ」
「もうお父さん!私そんなに弱くないんだからね!」
「「「「「お父さん!?」」」」」
このデジャヴ感。
明先輩はどう見ても20歳前後にしか見えないし、春花ちゃんは10歳前後にしか見えないとはいえ、すでに働いている成人女性だ。
この世界では学園を卒業する18歳はすでに成人として認められているけれど、単純計算で明先輩は30歳を超えている事になるわけで。
そんな歳には絶対に見えない。
というわけで、驚くのは無理もないんだけど……。
何故か皆私を見てから、明先輩と春花ちゃんを見て、何かを悟ったらしい。
「えっと?」
「まぁ、蓮華さんの友人だもんな……」
「だよな。蓮華サンの友人なら、なンか事情があンだろ」
この兄妹の私を見る目が、何かおかしい気がするのは気のせいかな?
隣でずっと笑いを堪えてるノルンに軽く肘鉄を食らわせたら、首をチョークスリーパーのように絞められた。
これ痛いんですけど!皆笑って見てるけど、これ本当に痛いからね!?
軽く紹介を済ませてから、バニラおばあちゃんの家に行く事になった。
外で食べようと思ったんだけど、バニラおばあちゃんがロイヤルガードという事をすっかり忘れていた。
どこに行ってもVIP待遇というか、凄い歓待を受ける。
それはちょっと今回の親睦を深める趣旨に合わないので、それならという事でバニラおばあちゃんが家に招待してくれたのだ。
「バニラさんって偉い人だったんですね……」
「うふふ~、役職だけなんだか大層なものを頂いちゃってねぇ~」
なんてコロコロと笑って言うけれど、バニラおばあちゃんが凄いのは役職じゃない事は、もう皆理解してる。
自然とバニラおばあちゃんって心の中で呼んでるので、皆の前でおばあちゃん呼びしそうになる事があるのが、ちょっと困ってるけど。
こんな若くて(見た目)綺麗な金髪ハイエルフをおばあちゃんって人前で呼んだりしたら……考えるだけでも恐ろしい!
なんて考えていたのがいけなかった。
「あの、蓮華お姉ちゃん。バニラおばあちゃんって、どういう事?」
「なっ!?」
「「「「「え?」」」」」
し、しまったぁー!リタちゃんは心を読めるんだった!
あ、あれ、でも私やノルンは読めないって言っていたような気がするんだけど!?
「あ、うん。蓮華お姉ちゃんや、ノルンお姉ちゃん……それに、ミレイユお姉ちゃんやスラリンお姉ちゃん、後ハルコお姉ちゃんもほとんど読めないけど……時々、単語みたいな言葉が聞こえてくるの。その中で、バニラおばあちゃんって聞こえて、それで……」
あ、ああ……そういう事。
そりゃ、その単語だけ聞こえたら、ん?ってなるよね。
で、我慢できなくて聞いちゃったわけか。
バニラおばあちゃんを見ると、ニッコニッコしてる。
貴女のせいなんですけどねぇ!?
「レンちゃーん、もう皆の前でも……」
「却下です!」
「ショボーン」
くっ、殺せっ!
そんな可愛く言ってもダメです!
しょうがないので、皆に事情を説明した。
反応は様々だけど、皆一様に同情の目線で見てきた気がする。
「じゃぁ、皆そう呼ぶなら私もそう呼びます」
「「「「「なっ!?」」」」」
ふふん、私だけを犠牲になんてさせないよ。
死なばもろともだー!
という事で、皆との話し合いの結果、無事にバニラさん呼びを獲得した私。
一体何と戦っていたのか……。
あ、レオン君とリタちゃんはバニラおばあちゃんって呼ぶ事にしたようだ。
バニラおばあちゃんは本当に嬉しそうだった。
皆リタちゃんの天使の翼と悪魔の翼を見ても、態度を変えなかったし、リタちゃんも皆に気を許している。
母さんが言うには、リタちゃんは天魔という種族らしい。
まだ詳しい事は聞いていないけれど、重要な事があれば母さんから話してくれるだろうから。
春花ちゃんも弟と妹ができたみたいって喜んでいた。
それを見る明先輩の目は、お父さんだったよ。
明先輩、まだ若いので違和感が半端ないですとは言えない。人の事言えないし(重要)
食事をしながら、ナイトメアについてそれとなくバニラおばあちゃんに伝えておいた。
なんでも、地上でも最近強力な魔物が増えてきているらしい。
王国騎士団も鍛錬を強化しているらしくて、国家間での合同訓練等も行っているとか。
また、冒険者のレベル向上の為、国の実力者達による指導も導入してるとか。
色々と地上でも動きが出ているみたいだった。
「レンちゃん、キメラの事だけれどぉ……オーブの遺跡にも居たのよねぇ?」
「うん。オーガストの遺跡だったよ」
「そっかぁ。恐らくなんだけどねぇ……オーガストに、実験場があるかもしれないわねぇ」
「!!」
「オーガストのどこかの実験場で作られたキメラを、人の立ち入らない遺跡に捨てたんじゃないかしらぁ?」
確かに、その可能性は高い気がする。
「ふむ、なら妾達は今後、そのオーガストとやらで情報を集めるとするのじゃ」
「だね。ついでに、その実験場見つけたら壊してしまおう!」
「兄ちゃん、それは早計すぎ。見つけたら、まずは調べた方が良いに決まってンじゃン?実験場がそこだけとは限らねぇンだし」
「あ、そっか」
「相変わらず~、妹様の方がしっかりしてらっしゃいますよね~」
「スラリンのその毒舌も相変わらずだけどな!」
うん、皆になら任せても大丈夫だろう。
「ま、アンタ達なら無茶はしないだろうし、任せて大丈夫なんじゃない蓮華」
「うん、私もそう思ってたよ。ノルンも言ったけど、私も皆に任せようと思う。何かあれば、スマホで連絡をくれたら良いからね」
「レンゲさん、俺達も気になった事があったら、連絡を入れるよ。最近はちょっと物騒な事も起こっているからね」
「物騒な事?」
「明く~ん?」
「あ!い、いや、レンゲさんが気にする事じゃないんだ。それより、新しい大精霊とはもう契約できたのかい?」
なんか露骨に話を逸らされたけれど、バニラおばあちゃんもまだ話さなくて良い事として判断しているのなら、聞き返しても仕方ないだろう。
そう判断して、これまでの事を話して食事を楽しんだ。
ちなみに、夕食を食べて家に帰ったのは夜で、夕食の用意をして待っていた母さんと兄さん、それにアリス姉さんから凄く悲しまれた。
怒られるより、すっごく効きました。
報連相って大事とか思ってて、家族に連絡いれるの忘れてたよ……ごめんなさい。




