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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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35話.バニラおばあちゃんとの再会

「成程。その者達はマーガリンに任せて良いか?こっちもソロモンが転生した事で対策をしていてな」

「えー、あいつ転生しちゃったの?魂を残しちゃうなんて、リンにしては珍しい失態じゃない?あ、異界の者達の件は了解よ」


 蓮華達が王都エイランドへと向かった後、マーガリンは魔界の王リンスレットと連絡を取っていた。

 原初回廊を使った専用魔力による会話で、誰にも盗聴される心配がない為、二人はよくこの方法を使い連絡を取り合っている。


「私が手を下したわけじゃないからな……。ソロモンの指輪の色が戻ったとべリアルから話を聞いてな。やれやれ、私もお前のように統治をすれば良かったと後悔しているよ」

「ふふ、私達には力はあるけれど、どの分野においても凄いってわけじゃないわ。他者の能力に合った地位を与えて、任せれば良いのよ」

「身に染みて痛感している。まぁ魔界では力が至上主義な所があるからな、地上の様な土台がないんだ」

「だから、統治者を置いたんでしょう?」

「まぁな……サボってばかりの奴もいて、頭が痛いが」


 魔王を名乗る者達による魔界の長きに渡る戦争の後。

 唯一魔王と成ったリンスレットの配下である、大罪の悪魔達で支配する領地を分け、魔界を区切った。

 昔の魔界は力ある者が自由に領地を治めていたが、隣接する領地や広大な領地を支配する魔族を倒し、自身の領地を広げようとする者が後を絶たず、常に戦争状態だった。

 それを変える為に、魔王リンスレットが最初に行った事が、魔界を7つの領土に分け、それぞれを直属の配下の領地とする事で争いを無くした。

 また領海・領空は全て魔王リンスレットの領土な為、そこで争う事は王族に弓引く事と同意になる。

 絶対的強者であるリンスレットが存在する事で、魔界に新たなルールが生まれたのだ。


「あー……レヴィアタンとかベルフェゴールは放置してそうね」

「追加で、きな臭い奴も居てな」

「サタンでしょ?あいつはソロモン寄りの思考だもんね」


 スッパリと言い当ててくる友人に苦笑を漏らすリンスレット。

 間違っていないのだから性質(たち)が悪い。


「はぁ。まぁ魔界が落ち着けば私も自由な時間が増えるし、その時はユグドラシル領の別荘で私も過ごさせてくれよ?」

「え、もう知ってるの?」


 蓮華が友人達の為に作った家の事だ。


「私の暗部は頼りになるからな。情報伝達の速さは折り紙つきだぞ。もちろんプライベートには干渉させないようにしているからな」

「頼むわよー?うっかり殺しちゃったら、蘇生めんどくさいんだからー」


 友人のあんまりと言えばあんまりな言葉に苦笑してしまうリンスレット。


「あ、そうだリン。レンちゃんからナイトメアって組織について聞いたんだけど、そっちも何か掴んでる?」

「アンジェから聞いている。蓮華とノルンは早速色々とやらかしているらしいな?」

「あはは。まぁレンちゃん達に任せるつもりだけど、もしオイタが過ぎるようなら……ね?」

「フ、分かっている。お前を敵に回す馬鹿共に同情するよ」

「そうそう、あー!ロキ!レンちゃん達に隠れて追うなんて許さな……こらアリスー!貴女もお留守番でしょー!!」


 いきなり甲高い声が聞こえてきて、耳で聞いているわけでもないのに、両耳を抑えるリンスレット。


「お、おいマーガリン」

「ごめんリン!また後で連絡するから!こらロキ!アリスー!」


 そうして通信が切れる。

 残されたリンスレットは、笑っていた。


「はは。全く、あの氷の大魔女が、なぁ」


 昔を想い、地上の者達と触れ合うマーガリンは、鉄仮面のように表情が変わらなくなった。

 そして、他者を見つめる冷たい眼差しから、いつしか氷の大魔女と呼ばれていた友人。

 しかしその姿は、最初からそうだったわけではない。

 ユグドラシルとイグドラシルが共に居た頃は、今のように良く笑い、感情豊かだったのだ。

 通信が再度来るのを待っているリンスレットは、段々と昔に戻っていると感じる友人と、再度話せるのを楽しみに思っていた。







 泉の『ポータル』石から、王都エイランドの『ポータル』石へと移動する。

 一応バニラおばあちゃんには、スマホを使って連絡済みだ。

 ほら、報連相って大事だし。


「すっげぇ!兄ちゃん!車が走ってンよ!?」

「ああ!しかも浮いてる!というかあの車今人をはねなかった!?」


 その言葉を聞いて振り向く。

 そこには赤いスポーツカーの様な車に乗った、バニラおばあちゃんが見えた。


「はーろーレンちゃんー!お久しぶりねぇ!」

「う、うん。バニラお……バニラさんも元気そうだね。相変わらず人をピンポン玉みたいに弾き飛ばすのを見るのは慣れないんだけど……」


 その言葉を聞いた照矢君と玲於奈ちゃんが顔を青ざめた。


「え、蓮華サン、この世界では車で人をひいても事故にならないン?デンジャラスすぎじゃン……?」

「道を怖くて歩けないんですけど……ひかれた人達、どうして笑ってるんですか?なんで怪我一つないんですか!?」


 二人にどう説明しようか悩んで、言おうとしたその時、私は息が出来なくなった。


「レンちゃーん!」

「ぐむぅ!?」


 バニラおばあちゃんに抱きしめられたからだ。


「もうもう、もっと会いに来てくれないとぉ、寂しいじゃないー!」

「ぐもぉー!」


 息ができないから!苦しいから!必死に背中をバンバンと叩く。


「あっ!ごめんねぇレンちゃん」


 そう言って離れてくれるバニラおばあちゃん。

 母さんといい、私の周りの年齢が上の(見た目は若いけど)淑女の皆さんは、どうしてこう抱きしめ癖があるのか。


「その子達が、そうなのねぇ?」


 バニラおばあちゃんが照矢君達を見回した後、私の方を向いて聞いてきたので、頷く。

 すると、ぱぁっと花が咲いたように笑うバニラおばあちゃん。


「皆さん初めましてぇ。アタシは王国エイランドのロイヤルガードが一人、バニラ=ハーゲンダッツって言うのぉ。よろしくねぇ?」

「「ハーゲンダッツ!?」」


 予想通りというか、照矢君と玲於奈ちゃんが名前に食いついた。

 私はバニラおばあちゃんの、バニラの方に食いついたけどね。

 二人とも高いアイスクリームに慣れてたんだろうか。


「兄ちゃんがいつも買ってくれなかったアイス名じゃン」

「こ、こら!だってしょうがないじゃないか、高いんだよハーゲンダッツは……美味しいけどさ……」


 違った。中々手が出ない理由でだった。


「うふふ。二人もレンちゃんやアーネスト君とおんなじなのねぇ」

「「!!」」

「ここで自己紹介もなんだからぁ、まずは場所を移しましょうかぁ。さぁ、乗ってねぇ?」


 私は事前に用意していた車をアイテムポーチから取り出す。


「あらぁ、レンちゃん?」

「流石にこの人数は全員乗れないでしょ?私運転できるし、半分はこっちで助け……ゴホン、預かるよ」

「そうねぇ、それじゃそうしましょっかぁ」


 なんて笑顔のバニラおばあちゃんをよそに、私の言葉に首を傾げている皆。

 そうだよね、予想できないよね。

 バニラおばあちゃんの車は、運転手のバニラおばあちゃんを除けば4人乗れる。私の車も同じだ。

 私、ノルン、リタちゃん、レオン君、照矢君、玲於奈ちゃん、ミレイユ、スラリン、ハルコさんとバニラおばあちゃんで合計10人。

 丁度半々に別れる事になる。

 まず私の方で救う事が確定しているのは、まだ幼いレオン君とリタちゃんだ。

 ノルンはバニラおばあちゃんの事を知っているから、多分最初から譲らないだろうし……という事は、照矢君達から一人、救う事になるんだけど……。


「私はミレイユ様の首に、マフラーみたいにひっついてますので~、お気になさらず~」


 とスラリンが言うので、異世界5人組は皆バニラおばあちゃんの車に乗る事になった。

 なので、車に乗る前に一言だけ伝えておいた。


「照矢君、玲於奈ちゃん。意識をしっかり保ってね。日本の常識を知ってる二人が特に心配だけど、大丈夫、気がついたら着いてるからね……」


 遠い目をしてそう言う私に、二人が心底驚いた顔をしていたのが忘れられない。

 安全運転をする私の前で、凄いスピードで通行人を吹き飛ばして走行するバニラおばあちゃんの車。

 案の定、照矢君と玲於奈ちゃんの叫び声が聞こえてきた。


「バニラさん!人をはじいてます!はじいてますってぇぇぇっ!!」

「ちょっ!街中で出すスピードじゃないンですけど!?蓮華サンの車がどんどん離れて行ってるンですけど!?」

「また何かぶつかったのじゃ!?なんでこの車無事なんじゃー!?」

「こ、怖すぎますぅ!お姉様ぁっ!!」

「だーっ!どさくさに紛れてどこ掴んでやがるケイ!!」

「え!?背中……あれ、前……?」

「良い度胸だなぁケイ……このまま外に投げ飛ばしてやっかぁ!!」

「ひぃぃっ!それだけはやめてくださいお姉様ぁ!だ、大丈夫ですお姉様、まだお姉様は成長期……」

「やかましいンだよっ!」

「ひんひんっ!」


 段々と離れて行くバニラおばあちゃんの車。

 それに伴って声も聞こえなくなってきたけど……


「「蓮華お姉ちゃん……」」

「うん、何も言わないで」

「「……」」


 素直な良い子達だった。バックミラーで見た表情が何とも言えなかったけれど、気持ちはよく分かる。

 それからユグドラシル社に着いた時、看板の前で両手両膝を地面につけて、息を整えている4人の姿を見かけた。


「れ、蓮華サン、帰りはどうか逆で、マジお願いします……」

「お、俺も、帰りも同じは耐えられないかも……」


 二人が泣きそうになって言うので、笑顔で言った。


「大丈夫、帰りは『ポータル』使うから一瞬だよ」


 その言葉を聞いて、二人は笑顔になった。

 うんうん、そうだよね。


「待つのじゃ蓮華。帰りが出来るのなら、行きも出来たのではないか?」


 しまった、流石に気付かれたか。


「えっと、うん。でもさ、皆にも同じ気持ちを味わってほしくて。てへ」

「「「「「蓮華 (さん)ー!!」」」」」


 笑顔で言ったけど、怒られました。

 それから社長室に行く為に受付の前を通り過ぎる時に、春花ちゃんを見つけた。


「春花ちゃん、こんにちは」

「れ、蓮華様!?じゃなくて、社長!」

「あはは、形だけだし、良いよ。ユグドラシル社の社長はバニラさんだよ」

「レンちゃん、ダメですからねぇ?社長はレンちゃんとアーネスト君なんだからぁ」


 困った顔で言うバニラおばあちゃんが可愛い。

 春花ちゃんも苦笑している。


「明先輩は一緒じゃないんだ?」

「お父……草薙さんは、この時間は王城の騎士団で訓練をしていると思います」


 そっか。そりゃこんな時間に居るわけがないよね。


「今日はここで色々買い物するつもりだから、夕方までかかるかもしれないし……夕食皆でどうかな?」

「本当ですか!?絶対、絶対予定空けておきます蓮華様!」

「あはは。それじゃその時は迎えに来るから。明先輩は終わったら春花ちゃんを迎えに来るんでしょ?」

「ど、どうしてそれを……」


 大切な娘に変な虫がつかないように、守ろうとしてる気がしたんだ。

 人それを過保護というんだけど、春花ちゃんはアリス姉さんくらい小さいし、守ってあげたくなるんだよね。


「なんとなくね。それじゃ、また後でね」

「はいっ!」


 そうして、魔方陣に乗って社長室へと移動する。

 魔方陣に乗る前に、同じ受付の女性に言い寄られて困った顔をしている春花ちゃんが見えた。

 険悪な雰囲気ではなかったと思う。多分、友達なんだろう。

 言う場所を考えるべきだったと反省しつつも、まぁこれが自分の性格だし……と諦めていたりする。


 皆の自己紹介を終えて、スマホを人数分用意してもらった。

 もちろんプレゼントという形でだ。

 今は皆、スマホの使い方を教えて貰っている。

 照矢君と玲於奈ちゃんは大体分かってるだろうけど、この世界特有の使い方、スマホを持っていなくてもメッセージが読めたり送れたりする方法は初めてだろうからね。

 練習もして貰って、慣れてきた頃合いを見て、話しかける事にした。


「皆、大体使い方は分かったかな?バニラさんの連絡先も入ってるから、分からない事は聞いてみてね。そろそろ皆の小道具とか必要な物を買いに行こうと思うんだ」

「ン、蓮華サン。何から何までありがと。今の私達じゃ、なンも返せるもンがねぇンだけどさ……」

「困った時はお互い様って言うじゃないか。偶々、私には助けられる力があった。それだけだよ。それも、私だって助けて貰ったからなんだ。私が助けて貰えた恩を、別の形で伝えて、また伝えられた人が別の形で伝えてくれたら……優しい世界になると思わない?」

「蓮華サン……」


 元の世界であった、因果応報って言葉。この言葉の意味は、結構的を射てると思う。

 良い事も悪い事も、巡り巡って自分に返ってくる。

 なら、良い事をして良い事が返ってくる方が、絶対に良いじゃないか。


「蓮華さん。俺、やらない善よりやる偽善の方が嬉しかったのを覚えてます」

「照矢君?」

「俺達がまだ幼い頃に、両親が亡くなった時……周りの人は優しい言葉をかけてくれました。でも、何もしてはくれませんでした。そんな中で、俺達の事を厄介者だと言いつつも……生活を助けてくれたおじさんが居たんです。そのおじさんが言ってました。これは俺の偽善だって。お前達を助ければ俺の株が上がるから助けるだけだと。でも俺達にとって……何もしてくれない優しい言葉よりも、言葉は冷たくても、俺達を助けようと行動してくれた事に救われました。それが例え、優しさからの救いでなくても」

「兄ちゃん……」


 その人は、不器用な人だったんだろうな……。

 言わなくて良かったはずだ、そんな事。

 もしくは……本当に嫌だったけど、世間体を気にして引き取ったのかもしれない。

 詳しい話は分からないけれど……やらない善よりやる偽善という言葉の意味は、分かる。


「だから……蓮華さんがどんな理由で俺達を助けてくれるのだとしても、俺達は嬉しいです。もし、俺達にできる事があれば、なんでも言ってください。この恩は、必ず返しますから!」


 そう言ってくれる照矢君に、頷く玲於奈ちゃん。

 でも、違うんだよ。

 そんな小難しい事を考えなくて良いんだ。


「うーん……理由って、友達だからじゃダメかなぁ?」

「「!!」」

「友達が困ってたら、助けたいと思うじゃない?それに、やらない善ってね、やれない善かもしれないでしょ?自分に助ける力が無いと思っているから、助けられないんだ。自分に助ける力があれば、その人も助けたかもしれない。まぁ人によるかな?それでも私は、自分に助けられる力があって、困っているのが友達なら……助けたいと思うよ」


 そう言ったら、二人が……ううん、皆笑ってくれた。


「だから、恩とか考えなくて良いよ。多分ね、逆でも……皆なら助けてくれたと思うんだ。さ、この話はこれでおしまい。バニラさん、総合ショップって近くにある?」

「もちろんよぉ~。お洋服からアクセサリーまで、全てが一つのお店で揃えられるユグストアがあるからねぇ~」


 ゆ、ユグストア。まぁ深くはつっこまないよ。


「場所知らないんだけど、案内してくれる人とか居ないかな?」

「アタシが案内するわよぉ?」

「バニラさんは責任者でしょ!?」

「それを言うなら、レンちゃんは社長よぉ?」


 もはや何も言えなくなってしまった。


「……お願いします」

「任されましたぁ♪」


 嬉しそうにそう言うバニラおばあちゃんと、項垂れる私を見て、皆楽しそうに笑うのだった。

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