30話.夜のお茶(食事)会
ポケットハウスの中に入ってから、まず仮の部屋を複数作る事にした。
作るって言っても、兄さんも居るわけで、私はまたもや何もしていないんだけどね。
「こンな家あったら、もう家から出ない自信あンだけど」
「専用の部屋にくつろぎスペース、台所に加えて、カジノ部屋なんて場違いな部屋まであって、訓練場所みたいな部屋に加えてゲーム部屋まであるし……俺も多分、引きこもっちゃうなこれは」
玲於奈ちゃんと照矢君が、色々な部屋を覗いて感想を言ってくれたけど、それ作ったの私じゃないからね。
私が言ったのは休める部屋と台所とお風呂くらいだったのに、後のは母さんとアリス姉さんが色々と……。
ともあれ、どれくらい一緒に居る事になるかも分からないので、とりあえず4つの部屋を割り振った。
スラリンはミレイユの枕になるという事だったので、1つ部屋を減らしたんだ。
うん、変な事言ってるのは分かってるんだけど、そうなんだから仕方がない。
なんでも、スラリンは魔物かつ魔王らしいのだ。
ミレイユも魔王だけど、スラリンはミレイユが魔王に成る前の魔王だったらしい。
というのも、兄さんがスラリンに対して質問した事で判明したんだよね。
あれは、皆の部屋割りを終わった後、テーブルをソファーで囲ったくつろぎスペースでお茶を飲んでいる時。
レオン君とリタちゃんの話も聞いて、お礼を言った後に、無茶をしないように注意した後の事だった。
スラリンが皆にお茶を入れていると、兄さんが突然言ったんだ。
「貴方も神族に近い存在のようですが、何故魔物の体を取っているのです?」
「う"ぇ"!?」
スラリンが変な声を上げた。
ミレイユや照矢君に玲於奈ちゃん、ハルコさんも驚いた顔をしている。
「ななななななんの事ですぅ~!?」
「ふむ、周りの者もどうやら知っているようですね。という事は、魔物の体を取っているのではなく、魔王として存在していたという方がしっくりきますか」
「な、何者なんですか~、貴方は~」
「そうですね、貴方達からすれば、異界の神と思えば良いでしょう」
「「「「「!?」」」」」
まぁ、うん、そうだよね。
でもね兄さん、そう紹介してしまうとですね。
「それじゃ蓮華サンも神様なン!?」
そう思っちゃうよねぇ、知ってた。まぁ、女神ユグドラシルの化身なわけで、神様と言えば神様になるけど。
でもそれを言ったらノルンだってそうだし。
「ええと、私は……」
「もちろんそうですよ」
「兄さん、ちょっと黙ってて」
私はとても良い笑顔で言ったと思う。
「は、はい」
兄さんがとてもしおらしくなったのを見て、皆が吹き出した。
「もぅ~、一体どういう関係なら、そうなるんですか~!」
「あははっ!全くじゃ!蓮華の兄、ロキと言うたか?凄まじい力を持つ蓮華よりも、更に圧倒的な力を有しておきながら、その蓮華に言い含められておるとは……!」
「あー、私はちっと分かンかも。要は、兄ちゃんだからじゃン?」
「玲於奈、そういう分かり方はどうかと思うんだけど……」
照矢君が苦笑しているけど、その理解で良いと思う。
「つまり、お姉様と私のような関係という事ですねー!!」
言いながら、横にいるハルコさんが玲於奈ちゃんに抱きついた。
「爪の先ほども当たっちゃいねーンだよ!離れろケイ!!テメェは毎回毎回抱きつく癖をなンとかしやがれ!そのでけぇ脂肪の塊をぶつけてくンじゃねぇ!!」
「そんなー!私はお姉様一筋ですのにー!」
「グイグイとその脂肪の塊を押し付けてくンな!嫌がらせかっ!人の話を聞けぇ!!」
この短い間だけど、分かる。この二人はずっとこんな感じなんだろうな。
だって、その顔は幸せそうに笑ってるから。(もちろんハルコさんの方)
玲於奈ちゃんも本気で嫌なら、いくらでも方法はあるはずなのに、力づくでは引きはがしていない。
きっと、信頼しているんだと思う。
「これ以上その邪魔なモンを当ててくンなら、今日こそ今生のお別れさせてやンよ!!」
「みぎゃっ!?ぎにゃぁぁぁぁっ!!皆の前では絞っちゃダメですお姉様ぁぁっ!?」
「含みのある言い方すンじゃねぇぇぇっ!!」
「みぎゃぁぁぁっ!?」
玲於奈ちゃんがハルコさんの胸を鷲掴みにして、握りつぶした。
ハルコさんは本気で痛そうだけど……うん、きっと信頼してるからだよね。
「えっと、話を戻して良い?」
「ケイの事は気にしなくて良いのじゃ」
「玲於奈もいつもの事だからね……」
ミレイユと照矢君のフォローに、やっぱり……と思いながら、話を続ける。
「私は地球という星の日本という場所から、この世界ラースに召喚されたんだ。ただ、本来召喚されたのは一人だったんだけど……一つの魂を、2つに分けられたんだ。そのうちの1つが私」
「ちょ、ちょっと待って蓮華さん。それって、もしかして……」
照矢君が血の気の引いた、青ざめた顔で言うのを、遮って答える。
「うん。想像通り、私は元の体とは違う。元の体は、もう一人の私がそのまま。私はこの世界で創られた体に魂を融合したんだ。だから私は、この世界の住人と言えるね」
「ンだよ、それ……!そんな勝手な事、許されンかよ……!」
二人が私のおかれた状況に、憤ってくれた。
良い子達だと思う。ミレイユやスラリン、ハルコさんも気まずそうな顔をしている。
おっと、誤解させないようにしないとね。
「ありがとう。でも誤解しないで。私は、望んでこの世界に居る。私を召喚した人はね、私を、私達を帰してくれようとしたんだ」
「「「「「!!」」」」」
「でも、私は、私達は自分の意志で、この世界に残る事を……違うかな。この世界で生きる事を決めたんだ。その選択に後悔はないし、素敵な家族や友人に囲まれて、私は幸せなんだ」
それが伝わるように、できるだけ落ち着いて、ゆっくりと話しかけた。
皆、私の思いが伝わってくれたのか、笑ってくれた。
「そか、蓮華サンも私達と同じって事じゃン?」
「だな。その気持ち、俺達も分かります。俺達も、自分の意志で……ミレイユ達と一緒に居る事を選びましたから」
そっか、この二人も……。
私は自然と笑顔になるのを止められなかった。
二人も、ううん皆も笑ってくれた。
「だから、兄さんと血は繋がっていないけど、家族で兄さんなんだ」
「成程ね。それじゃ蓮華サンとロキサンは結婚できるって事かぁ」
「それはないかなぁ」
「ええ、それはないですね」
「あ、あれ、意外に冷静な返しが来ましたねお姉様」
いやだって、ねぇ。
兄さんは兄さんであって、夫にしたいなんて思った事がない。
「蓮華は私の宝物ですからね。妹のように愛する事はあっても、妻という意識はありませんね。もちろん、蓮華が望めば構いませんが」
「そこは構ってよ。兄さんは兄さんであって、ありえないからね?」
「ふふ、もちろん分かっていますよ蓮華」
というやり取りをして、お茶で喉を潤していたら、玲於奈ちゃんから恐ろしいツッコミを受けた。
「あー、そういう事か。なンつーか……蓮華サンとロキサン、年季のいった夫婦みてぇじゃン?」
「ぶふぅっ!」
お茶を吹いてしまった。
いきなりそんな事言われたら、しょうがないじゃないか。
「おっと、蓮華。はしたないですよ」
ハンカチで口元を拭われる。
うぅ、恥ずかしい。
「あぁ……更になンとなく分かった。蓮華サンのイメージ、人によってコロコロ変わりそうじゃン……」
「一応言っておくけど、コイツは家族といる時で、更に会長……じゃなくて、アーネストと一緒にいる時は、更に砕けるわよ」
「「「「「これ以上!?」」」」」
ノルンの言葉に、また皆が驚いた。
レオン君とリタちゃんは、もはや容量オーバーなのか、口をパクパクさせている。
なんでそんな事で驚かれるのか、よく分からないけれど。
「ええと……そんな事ないよ?」
「アンタ、自覚ないとは言わせないわよ」
それは、まぁそうかもしれない。
でも誰だって、人によって接し方は変わると思うんだよ。
アーネストは特に、何も気にしなくて良いから楽なんだよね。
「アーネストって、もしかして蓮華サンのもう一人の自分って事なン!?」
「蓮華さんは女性だけど、アーネストって名前からして、男性ですよね!?」
なんて色んな質問に答えつつ。
それからたわいない話を続けてから、途中でスラリンと照矢君と一緒に料理を作って、簡単な夜食を食べてから今夜はお開きとなった。
意外にも玲於奈ちゃんは家事全般ダメで、兄の照矢君は料理が得意との事だった。
スラリンは独特な調理の仕方で、教わる事が多かったよ。
照矢君は、私より手慣れた感じだったけど、大体は一緒だった。
ずっと作ってきたって感じだ。
ご飯を出した時の二人の反応が面白かった。
「「こ、米ぇぇっ!?」」
2人揃って叫んだのが印象的だったよ。うん、異世界によっては、米が無かったりするもんね。
この世界では転生者が割と居るから、普及してるんだよね。
普通の値段で売ってるし、平民貴族関係なく、誰でも手軽に食べられる。
うまいうまいって言いながら食べる照矢君と玲於奈ちゃんを見て、心が和んだ。
皆にも概ね好評だったし、機会があればカレーでも振舞ってあげよう。
インスタントカレーみたいに、お湯で温めるだけで完成のカレーも作っておこうかな。
さて、明日は母さんの所に行って、話を聞いてみよう。それじゃ、おやすみなさい。




