26話.異世界の魔王と勇者達との出会い④
今まさに戦いを始めようとしたその時、ミレイユの後ろに歪みを感じた。
「ミレイユ!後ろ!」
「なんじゃっ!?」
「うぉぉっ!!」
私の言葉を聞いて、真っ先に動いたのは照矢君だった。
ミレイユを抱きかかえ、そのまま地面へと転がる。
「ミレイユ様!テリー様!」
スラリンがそこへ駆けつける。
私はそれを確認してから、歪みへと魔法を掛ける。
「『気配遮断』に『認識阻害』の魔法を掛けているとはね。それも、凄い練度だ。私も姿が視えなかった」
「魔物、いえ……あれは単純な魔物じゃなく……合わさってる、わね」
ノルンが言っているのは正しい。
獅子の頭と前駆に山羊の後躯、そして毒蛇の尻尾。
キメラと、そう呼ばれる作られた魔物。
私がこの世界に来て、最初にシリウスと共に行ったオーブの遺跡。
そこで見たキメラよりも、一回りも二回りも大きい。
いや、今はそれよりも、キメラが背に乗せているのは……!
「ケイッ!ンのやろう、ケイを離しやがれっ!」
イフリートと戦っていた玲於奈ちゃんが、キメラを恐れずに向かって行く。
しかし、その巨大な前足に薙ぎ払われる。
「チィッ……!」
その間に後ろに回り込んだけれど、蛇の目がこちらを視ている。
死角は無いって事か。
倒すだけなら、簡単だろうけど……背にケイさんを背負ってる。
いつの間に捕えたのか分からなかった。
多分、認識阻害の魔法をケイさんにも掛けたんだろう。
それで、一時ケイさんの事が思考から外れた。
素で戦えば勝てないと悟って、人質を取ったって事か。
恐ろしく頭のまわる魔物だ。
「グォォッ!!」
巨体が、誰も居ない所へ走る。
まさか、逃げるつもりか!?
と思ったが、違う!そこは、誰も居ないけれど……死体が、ある!
キメラはその場所に行き、死体を一瞬で取り込んでしまった。
そして、地面に転がった魔石。
あの魔石は、なんだ。禍々しい魔力に満たされた魔石なのが分かる。
その魔石を、キメラは呑みこんだ。
瞬間、キメラが更に巨大化する。
「よっと。隙だらけだったから、この子だけでも返してもらっておいたわよ」
「ノルン!」
流石だ。私が状況を観察している間に、ノルンは行動していた。
ケイさんをキメラから取り返し、後ろに寝かせた。
「さて、後はこいつを倒せば良いんだろうけど……死体は食われたし、魔石まで取り込まれたのは痛いわね。証拠が無くなっちゃったじゃない」
「それは後回しだよ。まずは、こいつを倒そう。放っておいたら、街に被害が出るかもしれない」
「そうね。多分、こいつがそうなんでしょ」
「魔賊の話?」
「ええ。繋がってるかどうかは、あの二人の調べに期待しましょ」
「そうだね。それじゃ……まずはこいつを倒そうか」
私とノルンは武器を構える。
イフリートもいつのまにか横に居て、構えていた。
なんだか不思議な感じだけど、頼もしく感じる。
「ケイを助けてくれて、あンがと。えと……」
「ああ、私はノルンよ。ノルン=メグスラシル=ディーシル。ま、蓮華と友達みたいなもんよ」
「みたいじゃなくて、友達なんだけど……ノルンってツンデレだからね」
「蓮華ぇぇっ!!」
「ま、まぁこんな感じで」
「ぷはっ!そっか。私も協力すンよ。借りは、返すぜ化けモン」
玲於奈ちゃんがそう言ってキメラを睨みつける。
キメラは動かず、取り込んだ魔力を咀嚼しているように感じる。
獅子の目が黄色く光ったと思ったら、物凄い魔力の波動が風のように巻き起こる。
「な、ンだぁ!?この化けモン、何しやがった!?」
「魔力を解放したんだ。気を付けて、キメラの強さが跳ね上がってる」
瞬間、その巨体が空に跳躍する。
「愚か者おおおおっ!」
そこへ向かってイフリートも飛び上がり、拳を炸裂させた。
「『バーニングナックル』ォォォォッ!!」
ぶはっ!あの巨体が一撃で吹き飛んで、木々をメキメキと倒していく。
「すっげぇな、あの爺サン……」
「元気だよね……」
玲於奈ちゃんと二人、そう言っていると、イフリートが叫んだ。
「我が弟子と娘っ子!後ろだ!」
「「なっ!?」」
木々の先を見れば、キメラが居ない。
「はぁぁっ!!」
ノルンがキメラの攻撃を防いでくれる。
まさかこのキメラ、『ワープ』を使えるのか!?
「チッ……中々厄介ね。この巨体にこのパワー、それに無属性魔法を多々扱えるときてるわ」
「なら、動きを止めて、一撃で斬り捨てるしかないか」
「ふむ……なら動きを止める役目、妾達に任せよ」
「ミレイユ……分かった。止めは任せて」
「うむ。テリー、レオナ、術式の発動まで妾を守れ。スラリンはケイを頼むのじゃ」
3人が頷き行動を開始する。
イフリートとスラリンは倒れたケイさんの近くへ。
照矢君と玲於奈ちゃんは、ミレイユの前に。
そしてノルンは私の前に。
何も言わなくても、ノルンは察してくれる。
私はソウルを鞘へと納め、居合の型を取る。
キメラが魔力を感じ取ったのか、私の方へ飛び掛かってきた。
それを、ノルンが切り払う。
「四大宝石……ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド……この辺りを使うとするか。死を運ぶ風よ……『デッドブラストエアリアル』」
ミレイユが宝石を空へと投げ、魔法を唱えると同時に、キメラに凄まじい風の渦が襲い掛かる。
矛先を私からミレイユと変えるが、照矢君と玲於奈ちゃんが行く手を阻む。
そこへ、更にミレイユの追撃がキメラを襲う。
「束縛する重力……『チェイングラビティ』」
凄い。風の渦で身動きを制限し、さらに重力の枷をキメラに加えた。
あれでは動けないだろう。
あれが、異界の魔王の力――
「さぁ蓮華、頼むのじゃ」
思わず見惚れていたけれど、魔力を込めるのは忘れていない。
「了解。キメラ、君は誰かに創られたんだろう。安らかに眠ってほしい。君をそんなにした奴らは……私が、潰すから。『ユグドラシル流居合術極の型・斬鉄』!!」
キメラを襲っていた魔法ごと、真っ二つにする。
綺麗に分断されたその体は、再び融合する事は無かった。
「す、げぇな玲於奈……」
「今の、なンなン?スキルでもあっこまで凄い力は、ないよな兄ちゃん」
「少なくとも、俺は見た事ないな。ミレイユやスラリンなら分からないけど……」
私はキメラの死体を、アイテムポーチへと入れる。
「さて、戦いの続きをするって感じじゃ無くなっちゃったね。お互い、話をしよっか」
「そうじゃな、妾達もそれで異存はないのじゃ。ケイも助けて貰ったでな、礼を言うのじゃ」
「気にしなくて良いよ。多分、君達なら私達の誰かが捕まっても、助けようとしてくれたと思うからね」
皆が微笑んでくれた。
これだけで、分かるよ。
そしてアイテムポーチからポケットハウスを出そうとしたら、ノルンに止められた。
ゆっくり話をするなら、ポケットハウスの方が楽なのに……。
でも、ノルンだって虫が居る森は嫌なはずだし……それでも、まだ警戒して我慢したって事なんだろうからなぁ。
「それじゃ、少し場を整えるね。ノルン、シートを広げるから手伝って貰って良い?」
「ええ」
そして、正方形のビニールシートを地面に広げ、土魔法で地面を柔らかくして、風魔法で湿気を飛ばす。
「さ、靴は脱いで、上がって上がって」
皆ビニールシートの上に上がると、驚いた声が上がった。
「な、なんじゃ!?ベッドみたいに柔らかいのじゃ!?」
「本当だ!?これただの地面じゃないの!?」
「ただの地面だよ?土魔法で地面を柔らかくして、風魔法で湿気を飛ばしただけだよ。フカフカでしょ?」
「て、テリー、魔法の革命なのじゃ……!」
「蓮華サン、マジパネェ!!」
こんな簡単な事でそんなに驚かれても……。
「食器はアイテムポーチに一杯あるから、これで良いかな。うーん、食べ物は流石に新たに作れないから……これ使うかな」
カップの中に水魔法で水を入れて、火魔法でお湯に変える。
その中に携帯保存食を入れて、スプーンで混ぜ混ぜ。
「はい、どうぞ。あんまり種類は作ってないけど、おかわりはこの中から好きなの選んでね。このポットにお湯作っておくから。皆服も汚れてるみたいだし、洗濯しておこうか?魔法でちゃっちゃっと出来るよ」
「蓮華サン……お母サンみてぇ」
「こ、こら玲於奈!?す、すみません蓮華さん。蓮華さんは俺達と変わらない歳だろうに……」
「あ、あはは……」
いやこれ、こっちの世界に来て学んだ事とは言い辛いなぁ……。
携帯保存食は、調理済みの食品を氷魔法で急速冷凍して、風魔法で乾燥させて作るだけなんだよね。
コーンスープとかきのこリゾット等、味や食感を損なわないので、手の込んだ料理を作れない時とかは便利。
ただ、ポケットハウスもあるし、あんまり使う事ないかなぁと、そんなに準備してないんだけど……今回は役だった。
一応、また作り貯めしておこうかな。
そうして、ゆっくり話をできる場を整えてから、私達は互いの話をする事にした。




