25話.異世界の魔王と勇者達との出会い③
雷が剣へと落ちる。
バヂバヂと音が鳴り響く剣を構え、彼女が言葉を発した。
その表情は、とてもイキイキとしているように見える。
「自己紹介が遅れたけど、私の名前は御剣 玲於奈。お察しの通り、日本人」
「私は蓮華。蓮華=フォン=ユグドラシルだよ」
「え?蓮華サンは日本人じゃないン?」
「あはは、言ったよね?詳しい事は……」
ソウルを彼女に向けて構える。
玲於奈ちゃんはそれを見て、笑みを深めた。
「良いね。蓮華サンの強さはさっき見せてもらったし、手加減はいらなそうじゃン?だから、こっちも最初から最強のスキルで行かせて貰うよ」
その言葉と同時に、横で剣を掲げた彼の剣にも、雷が落ちる。
「俺は御剣 照矢。蓮華さんなら分かるだろうけど、玲於奈は妹なんだ」
「そっか、兄妹で異世界召喚されたんだね。だから二人とも雷属性の魔法を使えるのか」
その言葉に、二人が顔を見合わせた。
どうしたんだろう?
「ま、手の内は明かせねぇンよ。行くぜ蓮華サン!『ギガストラッシュ』!」
「合わせる玲於奈っ!『ギガントブレイク』!」
二人が私の元へ突撃してくる。
玲於奈ちゃんは剣を逆手に持ち、横薙ぎに雷を纏わせた剣を振るってくる。
一方照矢君は、剣を両手で縦に構え、そのままの体制だった。
斬撃がクロスするその瞬間に、私もソウルを振るう。
「『地斬疾空牙』!」
零距離でのカウンターだ。
剣が交わった際の衝撃が、腕を痺れさせる。
「マジ、かよっ……!私と兄ちゃんの合体技でも、通じねぇンかっ!?」
「まだだ玲於奈……!このまま押し切るっ……!」
二人の振りぬく力が強くなる。
そこで、私は力を抜く。
「「なっ!?」」
剣を振り抜き、無防備になった所へ一撃を入れた。
「がっ!?」
「ぐぅっ!?」
二人は吹き飛ばされ、空に体が投げ出される。
「お姉様っ!!」
「テリー!レオナ!?」
「うわ~、お強いですねぇあの人~」
なんか一人、凄くのほほんとした声が聞こえたけど。
後方に飛ばされた二人は衝撃を受け流し、綺麗に着地した。
「くぁ~!やるじゃン蓮華サン!こんな強い人初めてじゃン!」
「あはは、楽しそうだね玲於奈……」
「うしっ!こんなモンいらねぇっ!」
え。玲於奈ちゃんが、剣を投げ捨てたんですけど。
「悪いね蓮華サン、私はコッチのが得意でさ。一応証拠に……よっ!」
玲於奈ちゃんが地面に拳を放つ。
その瞬間、地面が凹んだ。いやいや、オーラで拳を包んでもいないし、魔力で覆ってもいない。
あれは、単純な力だ。
「ええと……玲於奈ちゃん、化け物?」
「ンなっ!?これでも16歳の乙女なンですけどっ!?心外なンですけど!?」
「いやだって、16歳の女子高生はパンチで地面を凹ませないよ……」
「ンな事ねぇよ!周りの皆、剣とかハンマーとか使って地面ボコボコにしてたって!」
「うん……武器を使ったり、手を魔力で覆うとか、魔法や魔術で肉体強化したり……そういうのしてたら分かるんだけど……玲於奈ちゃん、それ素だよね?」
衝撃を受けたのか、青い顔をしている。
もしかして、異常を異常と思ってなかったんだろうか。
「あ、あの、お姉様。私の胸を揉む時は優しくしてくださってるじゃないです、か?」
「時と場合と内容を考えて喋りやがれこの駄狐がぁぁぁっ!!」
「ひぃぃん!?お姉様を慰めようとしたんですよぅ!?」
あまりの事に一瞬眩暈がした。
む、胸を揉んで……良く見たら、巫女服から零れ出るくらい大きい。
「ま、まぁケイの言った事はおいておくにしても、じゃ。この世界では、肉体的強さは魔力によって補うようじゃな。先程から気になっておったのじゃが、空気中に何か漂っておるでな」
「!!貴女には見えるんですか?」
「うむ。妾はミレイユ。お主らからすれば、異世界の魔王じゃ」
「「魔王!?」」
「そして私は、そんな魔王様に仕えるメイドです~」
「スーラーリーンー」
「コホン。もぅ~、皆さん正直者なんですから~。まだ何も分からない状況で、素直にこちらの事をペラペラ喋ってどうするんですか~」
「「「「うっ」」」」
なんとなくだけど、力関係が分かってしまった。
だって分かりやすいし……それに、お互いの事を信頼しているのが見て取れた。
うん、この人達なら……大丈夫かな。
「いきなり襲いかかってきた私を信じてとは言わないけど、それはその人を皆が殺したと思ったからなんだ。それは、本当だよ」
「じゃが、それは真実じゃぞ?」
「うん、そうなんだろうね。でも、理由があったと思う。それを、この戦いの後に話してほしいな」
そう言ったら、5人が微笑んでくれた。
「ン、蓮華サンはやっぱり信用できると思うンだよな。直感なンだけどさ。私こういうの、外した事ないンだよね」
「玲於奈の人を見る目は信頼してるよ。その玲於奈が言うからってだけじゃないけど……俺も、信じても良いと思う」
「わ、私はお姉様がそう決めたなら、それに従います!」
「ふむ……そうじゃな」
「もぅ~。これじゃ私が悪者みたいじゃないですか~ぷんぷんです~」
「ごめんごめんスラリン、そういうつもりじゃないって。スラリンの事は信頼してるんだから、拗ねないでくれよ」
「後でオムライス作ってくださいね~?」
「そんなもんで良ければ、喜んで」
「あ、兄ちゃん私の分も頼むかンな!」
「はいはい」
ちょっと話をすると和気藹々とするこの人達に、私は表情が緩んでしまう。
なんだろう、家族って感じがする。
兄妹の二人は当たり前だけど、全員そう感じるんだ。
「で、続きすんの?私とイフリートも攻めて良いわけ?」
痺れをきらしたのか、ノルンが問いかけた。
イフリートも待ちきれないといった感じだ。
「当然!こっちから行かせて貰うかンなっ!」
「我が弟子とばかり遊んではつまらんぞ!わしと戦ええええいっ!!」
玲於奈ちゃんの突撃に合わせ、イフリートが飛び出した。
右ストレートを右ストレートで合わせ、衝撃波が飛んだ。
「っとぉ!?爺サン、なンて力してやがるっ!!」
「フハハハハ!娘、中々良い力をしておるではないかっ!」
「ざけンなっ!これからだっての!!」
イフリートと玲於奈ちゃんが、凄まじい速度で拳と蹴りを繰り出している。
女子高生VSお爺さんという、なんとも言えない構図なんですけども。
まぁ、あっちは放っておこう。イフリートだけじゃなく玲於奈ちゃんも笑ってるし、楽しそうだから。
「俺、あの玲於奈とまともにやりあってるのを見たの初めてだよ……」
「あの者は人型をしておるが、火の大精霊じゃろうからな。大精霊は、契約者の扱える力で出せる力が変わるはずじゃから、その者がそれだけの強さという事じゃ」
「へぇ~……蓮華さんはやっぱり凄いんだな」
「この世界もそうかは、分からぬのじゃがな」
赤い、吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳に見つめられる。
この世界で色々な人と出会って、綺麗な人もたくさん見てきた。
ミレイユと呼ばれたこの人も、その中でも上位と言って良いくらい綺麗だ。
「私の事は蓮華と呼んでくれていいよ」
「では妾の事も、ミレイユと呼ぶ事を許そう。異界の者達よ、素晴らしい力じゃな。一手、妾達に付き合って貰うのじゃ」
「当然、私も一緒ですからね~。もう主に言われちゃいましたが、改めまして~。スラリンと申します~。ミレイユ様が呼び捨てで良いと仰られておりますので、私の事も呼び捨ててくださいね~。あと私スライムですので、擬態は得意なんですよ~」
「スラリンは魔物だけど、俺達の仲間なんだ。当然、俺も一緒に戦うよ」
照矢君とスラリンが前に立ち、ミレイユが後ろか。
「さて、それじゃやろうかしらね。蓮華、後ろの魔王行かせて貰って良い?」
きっと、ノルンは魔王に思う所があるんだろう。
私は頷き、前を向く。




