24話.異世界の魔王と勇者達との出会い②
時は蓮華達と出会う少し前――
「なぁ兄ちゃん、ここ異世界だよな?」
「あー……多分そうだろうなぁ。あの女神が飛ばす瞬間言ってたし」
「すまぬテリー、レオナ。まさか問答無用とはおもわなんだ……」
「あんの駄女神、人の話を聞きやしないんですから~」
「スラリンは人じゃ……」
「テリー様~?」
「……ナンデモナイデス」
ロッテンベリクの街のすぐ傍の森。
そこで話しているのは、異世界"ラース"へと飛ばされた者達だった。
「とにかく、まずは情報集めから……っ!!この気配は、魔物!?」
「ったく、この世界にも魔物はいンのかよ!ケイ、退魔術で結界は張れっか!?」
「ええと……はい!大丈夫ですお姉様!この世界でも問題なく力は使えるようです!」
ケイと呼ばれた、獣耳の巫女服姿の女性が術式を発動させる。
自分達の力を外に漏らさない為の結界である。
「結界、完了です!これで全力を出しても大丈夫ですお姉様!」
「オーケー!良くやったケイ!迎え撃つぞ兄ちゃん!」
「おうっ!ミレイユは下がっててくれ!」
「うむ!妾を守れ勇者よ!」
「ミレイユ様ももう戦えますのに、これですもんねぇ」
「妾が手を下すまでもあるまい?」
「うわー、魔王様みたいですミレイユ様~」
「魔王なんじゃー!!」
そこへ、すでに傷だらけの魔物がヨロヨロと現れる。
全身が何者かに噛み砕かれたのようにボロボロで、複数ある腕や足が、いくつか千切れかけている。
「ふむ……すでに、死にかけじゃな……」
「……タ……ノム……オ……レヲ……コロシ……テクレ……」
「「「!!」」」
魔物だと思っていた者が、言葉を発した事。
普通であれば、それに驚くかもしれない。
けれど、この者達は違った。元から、魔物が言葉を話す世界に居たのだ。
だから、驚いたのは別の事。
「何故、助けて欲しいと言わぬのじゃ?」
ミレイユと呼ばれた美しい女性が、目つきを鋭くし問いかけた。
その瞳には、強い意志を宿しているのが一目で分かった。
「オレハ……コンナチカラガ……ホシカッタワケジャ、ナイ……!オレガ、ホシカッタノハ……ナカマヲ、マモレルチカラ、ダッタ……!」
「お主……」
「ソノナカマヲ……オレガ、コロシタ……キヅイタラ、ナカマガ、モノイワヌカタマリ二……ナッテイタ……アノキメラニ……コロサレタラ、リヨウ、サレル……!タノ、ム……オレヲ……コロシテ、クレ……!」
その姿は魔物でありながら、魂は人の心を持っている。
気になる言葉もあったが、異世界の魔を総べる王であるミレイユは告げる。
「分かった。妾は魔王ミレイユ。その名において、お主を魂の牢獄から救おう」
魔力がミレイユの体から流れ、その手には剣が創られた。
「その魂に、安らぎを――」
ミレイユの剣が、魔物の心臓を突き刺した。
「ギャァァァァァッ!!あぁぁぁぁっ!!……あり、がとう……皆、すまない……俺の、せいで……」
魔物だったその体は、人の形を取り戻し……静かに息を引き取った。
「ミレイユ様……」
「うむ、この世界……何か厄介な事件が起こっているのかもしれぬな……」
「!!兄ちゃん、こっちに向かってきてる魔力、分かンか!?」
「ああ、いきなり巨大な魔力が二つ……!」
「ケイ、結界は張ってたんじゃねぇンか!?」
「ちゃ、ちゃんと張ってましたよぅ!絶対に力は漏れてないはずですぅ!」
「ケイちゃん~、声は~?」
「あっ……」
「……ケイ、後で覚えとけ」
「ひぃんー!ごめんなさいー!」
「どうやら、逃げる暇は無いようじゃな」
そんな言い合いをしている5人の元へ、女神の化身達が現れる。
こうして、運命は交わった――
「はぁぁぁぁっ!!」
私が繰り出す剣撃を、全て防ぐ二人の男女。
高校生の様な彼と、女子高生の様な彼女。今の私と、歳はそう変わらないんじゃないかと思った。
まだ若いのに、凄く強い。
剣の腕は、私より下だと思う。
駆け引きとか、そういうのがまったくない、純粋な剣閃だ。
だからこそ、不思議だった。何故、こんな実直な剣を繰り出せるのに、あんな酷い殺し方を?もしかして、別の――
「隙、ありっ!!」
「ぐっ!!」
考えていたら、死角から良い蹴りを貰ってしまった。
少し後ろに下げられたけれど、そこまでのダメージじゃない。
「うっそだろ!?割と本気で蹴ったンだけど……ケロッとしてやがる……」
「うん、凄いな……玲於奈のあの蹴り受けたら、俺なら1時間は立ち上がれない」
確かに凄い威力だったけど、私には打撃耐性があるし、その受けたダメージもすぐに回復していってるからね。
絶え間なく受けたら別だけど、そうやって時間くれるなら、私にダメージは蓄積しないよ。
「なら、これならどうですぅ~?」
「!?」
気が付いた時には、すぐ後ろに何かが居た。
透明の……スライム!?
「飲み込んで差し上げますねぇ~」
全身を液状の何かが包み込む。
息が出来なくなり、視界も悪くなる。
スライムって確か、火に弱かったよね?
声には出せないので、心の中で呼びかける。
イフリート、頼むよ!
呼んだ瞬間、私を包んでいた液状の物が離れるのを感じた。
「きゅぅぅ……!な、なんてものを呼ぶんですかぁ~!?」
「す、スラリン!大丈夫なんじゃな!?」
「まさかスラリンでも抑えられないなんて……!」
燃え盛る炎の魔神……大精霊イフリートが、目の前に膝をついていた。
「我が弟子蓮華よ、よくぞわしを呼んだ!」
「うん、ありがとうイフリート。でも弟子じゃないからね」
ちゃんとそこは否定しておく。
「だ、大精霊!?超上位種族ではないかっ!?」
「イフリートって事は火だよな、だからスラリンが離れたのか」
「あんな化けモンまでいンのかよ……!」
驚いているようだけど、戦いはこれからだ。
「イフリート、森を燃やさないように調節できる?」
「フハハハ!そんな事は朝飯前よ!弟子との共同戦線とは胸が躍るのぅ!」
「いや、私も居るんだけど……」
様子を見ていたノルンが、控えめに声を掛けてきて笑ってしまった。
「ちょっとは落ち着いたの?」
「うん。剣を受けてね、分かったんだ。彼らの剣はまっすぐだった。人殺しの剣じゃなかったよ」
「「「!!」」」
その言葉に、5人が驚いた顔をした。
まぁ、そうだろうね。いきなり襲いかかってきた相手が、そう言うんだから。
「なら、なんでまだ続けるわけ?」
「え?うーん……楽しかったから?」
「アンタね……」
いやだって、この人達凄く強いんだよ。
身内以外でこんなに強い相手、久しぶりなんだもん。
悪い人達じゃないって、会話を聞いてても分かるし、ある種の直感だ。
「えっとね、間違ってたら言って欲しいんだけど……そこの彼と、そこの彼女。日本人じゃない?」
「「なっ!?」」
「あっ、やっぱり。知らない人に聞いたら、何言ってんの?って感じなんだけど、二人の反応は違うもんね」
「え、えっと、もしかして貴女は……」
「さーて、話を聞きたかったら、私に勝ってからかなー。私達が勝ったら、君達の事教えて貰うよ。ついでに私達の事も教える。君達が勝ったら、私達の事を教えるよ。ついでに君達の事も聞かせてくれたら嬉しいかな?」
「アンタね……それ……」
うん、どっちに転んでも私にとって良い展開というか同じなんだけど、どうだろう。
「ぷはっ!アハハ!兄ちゃん、私はなンかこの人気に入った。話を聞く為にも、全力で相手してやろうじゃン?」
「玲於奈……。そうだな、俺達も聞きたい事だらけだし……やってやるか!」
後ろの3人も同意してくれたみたいだ。
「ノルン、様子見はそれくらいで良いよね?」
「はいはい、いざとなったらアンタを止めようと思ってたんだけど……本当にアンタは私の予測の斜め上を行くわね」
「あはは。イフリートも良い?」
「フハハハハ!!任せよ蓮華!わしの拳の威力、魅せてやろうぞ!」
相変わらず元気なお爺ちゃんだ。
紫色の拳法着がこんなに似合う精霊、他にきっと居ない。
「それじゃ、第二ラウンド……行くよ!」




