19話.ギルドの依頼
「コキュリケ草摘んできたぜ!次の依頼くれっ!」
「こっちはマナリーフ草摘んできた!こっちも次くれ!」
「はいはい!ちょっと待ってくださいね!」
「ぐぁぁっ!また低級ポーションじゃねぇかっ!」
「おま、いくら素材が一杯あるからって、低級量産してんじゃねぇ!!」
「お前だって目の前の瓶全部低級じゃねぇかっ!」
という声を聴きながら、私もせっせと仕事をしている。
え?なんの仕事かって?
――錬金術の先生です、はい。
あの後、夜まで宴会が続き、ギルドカードも受け取ってはい次の街、とはいかず。
まずは冒険者の皆が錬金術の基礎知識を得て貰う為に、『転写』という魔法を掛けて行った。
私の中にある錬金術の基礎知識を、一時的に覚えて貰う為だ。
錬金術だけに使える魔法ではないけどね。
ただ、これは一日で効果が切れる。
だから、反復して覚えて貰い、『転写』の効果が切れても作れるようになるように、練習して貰う事にした。
皆魔族というだけあって、錬金術に必要な魔力は十分に持っていた。
問題なのは素材だ。
幸い、この街の外にはポーション作成に必要な素材は山ほど生えていた。
なので、ギルドの依頼として、素材を取ってきてもらう事にしたのだ。
採集依頼という奴だね。
難易度は低いけど、取れば取るだけお金になる。
そしてその素材は、巡り巡って自分の為になるんだから、力も入るってものだろう。
「蓮華先生!中級ポーションが出来ましたっ!」
「どれどれ……うん、良い出来だね。慣れてきたら、そのまま上級ポーションまでいけそうだね」
「本当ですかっ!?」
「うん。後はそうだ、素材を少し変えて、キュアポーションを作るのも良いね。こっちは、毒とか麻痺を治してくれるポーションなんだけど、素材が一部違うだけで、基本の作業である『薬効抽出』『不純物浄化』『成分固定』『昇華』『封入』の流れは一緒だからね」
「頑張りますっ!」
皆に教えて周ってるうちに、ここでも先生と呼ばれるようになってしまった。
私より年上の方からそう呼ばれるのは、くすぐったくもあり……未知の物に取り組んで、目を輝かせてる人達を見ると、可愛く思えたりもして。
……おじさんとか見て可愛いと思う私は、もしかしてヤバいのでは……!
「蓮華先生。集まってきた素材、こちらに置いて構いませんか?」
おっと、新しく配属されたギルドの受付嬢の……えっと……そうだ、マチルダさんだ。
「大丈夫です。ありがとうございますマチルダさん」
「ふふ、仕事ですから。それにしても、凄いですね蓮華先生は……こんなに、皆を動かしてしまうんですから」
「あはは……私の力ってわけじゃないですよ。皆が、皆の事を想っているからこそ、だと思います」
「そう、ですね。私、ここに派遣されて良かったです。ここでなら、楽しく働けそうです。実を言うと、アンジェラス様の依頼とはいえ、少し不安だったもので……けれど、そんな不安はすぐに消し飛びました。私、頑張りますね!」
そう笑顔で言って、受付に戻るマチルダさん。
うん、私も頑張ろう。
「蓮華お姉ちゃん!依頼達成しました!」
「たくさん取れたよ!」
「レオン君、リタちゃん。お疲れ様、マチルダさんの所に持っていくんだよ?」
「「はいっ!」」
そうして駆けていく二人を見守る。
マチルダさんが笑顔で対応してくれている。
「ふぅ、こっちは落ち着いた?」
「ノルン、そう見える?」
今もポーション作りを皆が頑張っているのを見る。
不慣れながらも、一生懸命取り組んでいるのが分かる。
「ま、レシピはあるんだから、後は『昇華』の大事さに気付けばなんとかなるでしょ」
流石にノルンは詳しい。
そう、錬金術も魔法と同じで、イメージする事が大切なんだ。
家を建てる事になった時に、設計図が必要なように。
薬草にはどういう成分が含まれているのか、それが人体にどういう風に作用するのか、しっかりと『想像』して、効能を『昇華』させる。
『転写』によって知識は与えたけれど、それをイメージ、『想像』する事はまた違う。
その点で、成分に差が出てしまうんだ。
こればかりは、言葉で説明してもしょうがない。
皆の中に基礎はある。
後は反復して覚えて貰うしかない。
どういった時に上手く出来たか、どうしていたら、上手くいかなかったか、考えて欲しい。
幸い、素材はいくらでもある。
アンジェさんは時を操る事が出来る為、種からでも一気に成長させられるらしいので、狩り尽くしてしまっても問題ない。
いや問題大ありなんだけど、今回に限り見逃してほしい。
なんせ、これからこの街を起点に、広げていくつもりだからね。
皆には私の役をしてもらうつもりだ。
だから、大事な基盤である皆に教えるのに、手は抜かない。
「ノルン、そっちはどう?」
「レオンにリタの事?問題ないわね。あの歳でって考えるなら、大した物よ。秘めた魔力も高いし、扱い方を教えれば戦力になると思うわ」
「そっか、それは何よりだね。私達と離れてもやっていけるようには、鍛えてあげないと」
「そうね。それじゃ、次は私達もポーション作りに入るから、頼むわよ蓮華先生?」
「勘弁してよノルン……ノルンに教えられる事なんて、ホント何もないんだから……」
「あはは。分かってるってば。私も手伝うわよ」
「助かるよ」
そうして、ギルドの依頼としてポーション作りの素材を集めて貰い、作成していった。
冒険者達は素材集めとポーション作りを交代で行い、その日を終えた。
翌日は『転写』なしで作成して貰ったが、半数くらいの人は作る事ができたので、まずまずといった所かな。
作る事ができなかった人には再度『転写』をかけ、作れた人にはそのまま練度を上げて貰う事にした。
そうして数多く出来た低級ポーションは、各家庭に配る事によって、住民の皆に物凄く喜ばれた。
元の世界だって、何かあった時の為に救急箱とか置いていた。
それが出来たんだから、良かったと思う。
もちろん依頼料も掛かっているし、いくつかは無料でプレゼント、残りは格安でギルドで買えるようにした。
ポーションを買いに来ると同時に、何か依頼をする事がしやすいようにだ。
まずは気軽に足を運べるようにする事、それが大事だと思ったから。
ギルドと街の住民の距離が縮まる事によって、結束力が高まると良いな。
そうして、今日も今日とてギルドに足を踏み入れる。
すると、玄関の掲示板に、こんな内容の紙が貼ってあった。
――――――――――――――――――――
何でも討伐依頼
依頼対象:魔物なら何でも
依頼内容:何でも良いのでとにかく倒して、持ってきてください。
――――――――――――――――――――
なんだこれ。
不思議に思って、受付嬢のマチルダさんの元へ向かった。
「これは蓮華先生にノルン先生、ようこそおいでくださいました。それにレオンさんにリタさん。おはようございます」
「おはようございますマチルダさん。先生はやめてくださいってば」
「ふふ、善処致しますね蓮華先生」
「……まぁ良いです。それより、表の依頼は?」
「あれですか?実は、一週間後にある祭りでたくさんの食材が必要なんですよ。指定するよりも、適当に倒して頂こうと思いまして」
ぶっとんでますね魔界のギルドは。
ギルドマスターがいないから、止める人も居ないわけか。
「あ、それなら。ノルン」
「そういえば、色々あって忘れてたわね。魔物を出す部屋に案内して貰っていいかしら?」
「畏まりました。ミリル、少しの間受付変わってもらって良い?」
「はーい!私が行っても良いよ?」
「嫌よ。蓮華先生やノルン先生とお話できる時間を、譲るものですか」
「ちぇー。良いなぁマチルダさん」
「ではでは、こちらへどうぞです」
そうにこやかに笑うマチルダさんだったけど、まぁ気にしなくて良いか。
そして案内された場所で、ノルンがアイテムポーチを開く。
山積みされる魔物の死体。
これには流石に、マチルダさんもポカーンと口を開けた。
「あ、あの、これだけの、量を?」
「ああ、少ないわよね。安心して、まだ半分くらいだから」
「はん、ぶんっ!?ブクブク……」
「マチルダさんっ!?」
マチルダさんが倒れた。
弱い魔物だったし、そんな凄い事でもないんだけどな……。
ノルンだって驚いてなかったし、普通だと思うんだけど。
「な、なんですかこの量はー!?」
続いて来たギルド職員の方々も、次々に同じ事を言う。
でも、街に来るまでに襲い掛かってきた魔物倒しただけなんだけどなぁ。
それを説明したら、また驚かれた。
普通、そんなに魔物は襲い掛かってこないんだとか。
何か、魔物をおびき寄せるような物を口にしたのでは、と言われたので、船で食べたイカ料理とタコ料理の事を話した。
すると、それが原因との事だった。
なんとあの海の魔物は、魔物を引き寄せるフェロモンを含んでおり、食べると数日魔物が近寄りやすい体質になるのだとか。
あの海賊達のせいかいっ!と心の中で叫んだ。
まぁなにはともあれ、魔物の数はどうにかなったみたいで、玄関の依頼書はすぐに撤去されたのだった。




