16話.二人の過去と今
追いかけてくる魔族から逃げ、黒いローブに身を隠した。
街にはあまり寄りたくなかったけれど、食料を得る為に仕方が無かった。
ゴミ箱を漁り、まだ食べられそうな食料を手に入れる。
ティーパックと呼ばれる、お湯に浸せば味が出る袋と、食べ掛けのチョコレートというお菓子を手に入れ、街を離れた。
「お兄ちゃん、ごめんね……私のせいで、ごめんね……」
「リタのせいなんかじゃないよ、謝らないで。僕はリタを守るって、父さんと母さんと約束した。僕が、絶対に守るから……!」
「うん……」
リタは背中の両翼を長時間隠す事ができない。
だから、街で過ごす事はできなかった。
街の外には魔物が多いけれど、魔王達の争いから逃げるように、魔物も散り散りになっていたのが不幸中の幸いだった。
街から少し離れた山の麓で、たき火をつけて二人毛布に包まる。
運良く防空壕の様な洞窟を見つけたから、利用させてもらっている。
隣のリタは震えていた。
きっと、寒さでじゃない。
「大丈夫、大丈夫だから……」
そうリタに声を掛けてすぐ、凄い音がした。
まるで、隕石でも落ちてきたかのような。
もしかして、この近くで戦いが!?
「お、お兄ちゃんっ……」
僕は急いで立ち上がり、外へ出ようとした。
「お兄ちゃん、どうするの……?」
「僕は様子を見てくる。もし戦いになってるなら、位置を把握しておきたいから」
「お兄ちゃん……」
裾をぎゅっと握ってくるリタに、安心させるように笑えただろうか。
「大丈夫、すぐ戻るからね」
音がした方に向かうと、そこには血だらけの魔族が倒れていた。
周りには他に誰も居ないのを確認して、慌てて近寄る。
良く見ればその魔族は、妹と同じ両翼の色が違った。
「う、ぐ……」
まだ、意識があるっ!
「大丈夫ですかっ!?」
「……き、みは……にげ、なさい……」
咄嗟の事だったけれど、誰かに追われているんだろうという事と、逃げろと言ってくれた事から、悪い魔族じゃないと判断した。
「こっちへ……!」
「なに、を……」
「まだ、歩ける力はありますか!?僕に持たれても良い、追われてるなら、助けます!」
僕が本気で言っているのが伝わったのか、足を引きずりながらもついてきてくれた。
そして、僕達が寝床に使おうとしていた洞窟へと連れてきた。
「お兄ちゃんっ……!」
リタが駆け寄ってきて、僕に抱きついてきた。
「リタ、心配かけてごめんね。この方が、倒れてたんだ。癒せるかな?」
「酷い、怪我……!今、治します、ね!」
リタが両手を前に出し、光魔法を唱える。
まばゆい光が体全体を包み込み、先程まで血が出て酷い事になっていた部分が、綺麗になっていく。
「ふぅ、おしまい、です。大丈夫、ですか?」
「ありがとう……君は魔族なのに、回復魔法が使えるんだね」
「っ!!それ、は……」
「いや、恩人に不躾な事を言ってしまったね。気にしないで欲しい」
そういって微笑む彼、彼女?は美しく、思わず見惚れてしまった。
「助けてくれてありがとう。私は……」
きゅるる……
自己紹介をしようとしてくれたのだろうけど、可愛い音が鳴った。
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃんが無事で、安心したらお腹が……」
顔を真っ赤にしたリタが、もじもじとしていた。
「あはは。それじゃ、ご飯にしよっか。僕はレオン、この子がリタです。理由は聞きませんけど、夜が明けるまではゆっくりしてください。ここは見つけにくい洞窟ですから、大丈夫だと思います」
「これ、お兄ちゃんの水魔法と火魔法で作ったお湯に、ティーパックをいれた飲み物と、チョコレートです!」
「……良いのかい?それは、君達が一生懸命手に入れた飲み物と、お菓子だろう?」
「良いんです。困ったときはお互い様じゃないですか」
「……!そうか、ありがとう。私はルシファーという。レオン、リタ……君達に感謝する」
それが、ルシファーさんとの初めての出会いであり、僕達に『コールドスリープ』を掛けてくれた方だったんです。
カチャン。
紅茶を一口飲んで、カップを置く音が響く。
大罪の悪魔の1人、"傲慢"のルシファーか。
アスモデウスさんや、この地の支配者であるレヴィアタンの仲間、なんだよね。
「ねぇノルン、ルシファーさんの領地って、ここから遠いの?」
「滅茶苦茶遠いわね。っていうか、ここからだと反対側だし、魔界を横断する形になるわよ」
うへぇ、そんなにか。
「私も行った事ないから『ポータル』は使えないし、これからの移動も考えるなら、馬車も用意した方が良さそうね」
「なんで?」
「アンタね、全員で飛んでいくとか阿呆な事考えてるんじゃないでしょうね」
考えてましたとは口が裂けても言えない雰囲気だったので、コクコクと頷くことにする。
「はぁ、ったく。アンタが常識の無い奴だってのは分かってるけどさ」
ノルンだって大概じゃないかーって言おうと思ったけど、藪蛇になりそうだったので我慢した。
「えっと、それはともかく。レオン君とリタちゃんも、私達の旅に付き合うって事で良いの?」
二人に問いかけたら、姿勢を正して答えてくれた。
「はい!もしご迷惑でなければ、僕達もご一緒させてくださいっ!お願いします!」
「お願い、します!私達、なんでもします!だから……だから……!」
ふふん、なんでも、と言いましたね?
言質取っちゃいましたよ?
「蓮華、あんた悪い顔してるわよ」
「そんなバカな」
というわけで、私は今二人の服を買いに来ている。
もちろんノルンも一緒だ。
レオン君とリタちゃん以外の子供達は、アンジェさんと一緒にギルドへ先に向かった。
お昼くらいに来てくれたら良いとの事だったので、この買い物を終えてから行くつもりだ。
「レオン君これカッコイイよ!リタちゃんもこれ可愛い!うわー、迷うね!!」
「蓮華、アンタね……」
ノルンに呆れた目で見られたけど、二人はすっごく可愛い見た目をしているのだ。
それが黒いローブを羽織っていて、中もボロボロな布の服を着ていた。
アンジェさんに服まで用意してもらうのも気が引けるし。
というわけで、先に二人の服と、それから食器類も買っちゃおうと思ったのだ。
ポケットハウスの中に、置いておきたいからね。
「あ、あの、蓮華お姉ちゃん、良いんですか?」
「良いに決まってるじゃないか。お金なら大丈夫、ノルンお姉ちゃんが出してくれるからね」
「蓮華ー!!」
「だって私お金持ってないんだもん」
「それでなんで堂々と買い物に行こうとすんのよ!?」
「え?だってノルンだって同じ気持ちだと思って」
「うぐっ……!ま、まぁそうだけど……!」
「ごめんね二人とも。ノルンはこれでツンデレだから、自分から言い出さないと思って」
「「ツンデレ?」」
「蓮華ぇぇぇぇっ!!」
「ぎにゃぁぁっ!?両腕を抓るのはやめてぇ!?」
「「あは、あははははっ!!」」
私とノルンのやりとりを見て、二人が笑いだした。
うん、子供は笑ってるのが良いよね。
ヒリヒリとする腕をさすりながら、二人に似合いそうな服を選んで、試着してもらった。
流石に全部買うとかできないので(ノルンのお金だし)、着替えも含めて3着程買う事にした。
二人ともとても嬉しそうだ。
ちなみに、リタちゃんの翼については、認識阻害の魔法を掛ける事にしておいた。
大丈夫だと思うけど、リタちゃんの気持ちの問題だからね。
リタちゃんがもう大丈夫と思えるまでは、そうしておく事にした。
買い物も終えたので、今度はギルドへと向かう事にする。
まだお昼まで時間はあるけれど、早めについても問題ないだろう。




