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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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15話.新たな家族

「っ!?」


 目の前の料理を一口食べて、衝撃が全身を駆け抜けた。

 長い時間、コトコトと煮込まれたのが分かる。

 口の中の肉が、ちょっと歯に力を入れただけで溶けていく。

 そこから肉本来の旨味がじわっと浸透し、優しく舌を包む。


 これはショウガの辛みだろうか?肉の臭みをうまく消すどころか、肉のもやっとした後味を爽やかに感じさせてくれている。

 そして、極めつけは味噌の味。甘く、程よい塩気が最高だった。肉の旨味と絡まって、相乗効果を生んでいる。

 味の層が幾重にも重なり、噛む毎に色々な味が口の中を満たしてくれる。


 食レポかっ!と自分で自分に突っ込みたくなったけど、それくらいに衝撃だった。

 美味しい、こんな美味しい料理を私は食べた事が無い。


「お口に合いましたかな、レディ」


 そう微笑んでくれるアンジェさんに、私は笑って感想を伝える。


「美味しいなんてもんじゃないです。母さんの料理も、学園の料理も凄く美味しかったのに……これはそんな次元じゃないですよ!」

「ふふ、ありがとうございます。私は料理が趣味でしてな、レディのように喜んで頂けると、本当に嬉しいのですよ」

「あ、あの、アンジェさん。この料理、ノルンの分も作れますか……?」

「ご安心を、レディ。これはダウンズボーダーの味噌煮でしてな、鍋で作っておりますから、まだまだありますよ」


 これが、味噌煮だって!?

 母さんが家庭の味での最高級の腕前だとするなら、アンジェさんは料理の最上級のプロと言えるんじゃないだろうか。

 そんな事を考えながら、料理を堪能していたら、シュンランさんがノルンを連れて戻ってきた。


「蓮華、ただいま。ちょっと相談したい事があるんだけどさ」

「おかえりノルン。えっと、相談って、後ろの子達の事?」


 ノルンの後ろから、ぞろぞろと数人の子供達が一緒に居た。


「ふむ、シュンラン」

「畏まりました。皆様、どうぞ奥へ。今から食事をお持ちしますので、どうぞごゆるりとお待ちください」


 そう一言告げてから一礼し、シュンランさんは部屋から出て行った。

 そわそわしている子供達を見てから、アンジェさんに声を掛ける。


「アンジェさん、足ります?」

「ふふ、ご安心をレディ。実は、少々作りすぎましてな。いやはや、趣味に興が乗ると、よくやらかすのですよ。お恥ずかしい限りです」


 きっと、嘘だろう。

 本当は、私とノルンの分に+αくらいしか作っていなかったはずだ。

 けれど、私達に……いや、子供達に遠慮させないように、そう言ってくれたんだ。

 本当に紳士だなぁ。


 それから、ノルンと子供達も席につき、事情を説明して貰った。

 話の途中から目の前に置かれていく食事に、子供達がもはや我慢できないと言った表情でノルンを見ていた。


「えっと……食べても良いのかしら?」


 ノルンが照れながら言うのが可笑しくて、笑ってしまったのは秘密だ。


「ふふ、どうぞ召し上がれ」


 アンジェさんの言葉に、子供達は凄い勢いで食べ始めた。

 ノルンも一口食べて、滅茶苦茶驚いた顔をしていた。

 美味しいよね、分かるよ。


 食事をしながら、話を続ける。

 しかし、あのギルドのせいで、そんな所にまで皺寄せが行っていたのか。


「ギルドには基本不干渉である事が、仇となりましたな……」

「あの、領主とかって居ないんですか?」

「地上では各街を領主が治めているのでしたな。ですが、魔界では領地を7つに分断し、領地を支配する者が全てを治める者となるのです」


 成程……。

 つまり、街を管理するような立場の者は居ないって事なのか。


「ただ、統治の仕方は支配する者によって様々です。地上の様な統治の仕方をしている領地も、もちろんございます。例えば、ルシファー殿の治める領地では、各街に領主を配置しておられますぞ」


 ルシファー。

 元の世界でも、よく聞いた名前だ。

 大罪の悪魔の1人、光をもたらす者と呼ばれる堕天使。

 この世界でどうなのかは知らないけれど、一度会ってみたいな。

 ルシファーの名が出た時、一心不乱に食事をしていた子供達のうちの一人が、手に持っていたスプーンを置いた。


「どうしたの?」

「ルシファー……会いに、行かないと……」

「リタ?」


 黒いローブに身を包んでいる二人。

 何かあったのかな?

 そう思ってノルンを見る。


「詳しい話は後でするわ。まずはこの子達の処遇を決めたいの。その事で、アンジェさんに相談があるんだけど……」

「聞きましょう、レディ」

「この子達皆、親が居ない。ギルドもあんな状態だったでしょ?これから良くなるにしても、すぐにとは行かないでしょうし……だから、この子達、鍛えてくれない?」

「……」


 うん、事情は理解できるけど、まさかの丸投げとは……。

 私も良くそうするから分かるんだけど、分かるんだけど!


「成程、この街の冒険者として、育て上げると?」

「ええ。この街は地上に近いんだし、治安は良くしたいじゃない。で、身寄りのないこの子達の故郷になれば、この子達はこの街を守る戦力になるでしょ?」

「ふむ……それは面白いですな。明日には職員を呼ぶつもりでしたが、追加で指南役も呼ぶとしましょうか」

「アンジェさんはナイツオブラウンドの幹部なんでしょ?なら、顔も広いわよね。この子達に合った育成と、それから身寄りのない子達を集められないかしら」

「ノルン嬢、もしやクランを作るおつもりで?」

「私が、じゃないけどね。この街を見て、思ったのよ。あーいう馬鹿が悪知恵働かせた時に、取り締まる力が届かないって、不便でしょ。それに人間と違って、魔族は長い時を生きる。そのせいで生まれた子を大切にしない奴が多い。その結果がこれよ」


 子供達を見渡す。

 皆ノルンの事を真剣な表情で見ていた。


「身寄りが無いなら、無い者で集まって家族になれば良いのよ。アンタ達は、身寄りのない辛さを知ってる。なら、同じ境遇の子に優しくできる。辛さを知ってるから、優しくなれるのよ」

「ふむ……確かに、今の魔界は停滞してますからな。新しい風を吹かせるのも、一興……ですな。なにより、ノルン嬢に言われたのでは、断れますまい」

「へ?」

「世界樹イグドラシル嬢の化身であるノルン嬢。この魔界をずっと守って頂いていた方の現身(うつしみ)にそう言われては、力に成らずは魔族の名折れ」


 そう恭しく礼をするアンジェさんとシュンランさん。

 ノルンは戸惑っていたけど、子供達の目を見て姿勢を正した。


「私自身が何かを成したわけじゃないけど……今はその威光に乗らせて貰うわ。よろしくねアンジェさん」


 そう言うノルンに微笑みを返し、やる事があるのでと言って、子供達を連れてアンジェさんとシュンランさんは出て行った。

 部屋は好きに使って良いと言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。

 残されたのは私とノルン、それに二人の子供だった。


「事情は話したけど、この子達はさっきの子達と違って、特別でね」

「特別?」

「ええ。まだ魔界が魔王達の争う戦乱の時代。その時から今まで、『コールドスリープ』で眠らされていたみたいなのよ。アンタ達、挨拶なさい」


 ノルンの言葉に、おずおずと私の前に一歩踏み出す。

 頭に被っていたフードを取った二人は、私とノルンのように、双子と見間違えそうな顔立ちをしていた。


「僕はレオンと言います。ノルンお姉ちゃんに、命を助けてもらいました」

「私は、リタです。同じく、ノルンお姉ちゃんに命を助けてもらいました」

「そっか、紹介ありがとう。私は蓮華。蓮華=フォン=ユグドラシルって言うんだ」


 そう自己紹介をしたら、リタと名乗った少女がこちらをマジマジと見てきた。


「ユグ、ドラシル……」


 この子はさっき、ルシファーという名前にも反応していた。

 一体どうしたんだろう?


「それでね蓮華、レオンの方は違うみたいだけど、リタの方は堕天使みたいなのよ」

「堕天使!?」


 堕天使ってあれだよね、天使が堕天したっていう。

 うん、そのまんまだ。

 私の語学力の無さに軽くへこんでしまう。

 驚いてはみたものの、別にだからなんだってレベルだ。


「気持ち、悪くないんですか?」


 なんて、恐る恐るといった感じで、レオン君だったかな?が言ってきた。


「え?なんで?」

「だって……天使の翼に、悪魔の翼があるんですよ……。皆、気持ち悪いって……汚らわしいって……そう言って……!」

「うーん?リタちゃん、翼を見せて貰っても良い?」

「……え?その……」


 そう言って、ノルンの方を見るリタちゃん。

 ノルンは、それに対して頷いた。

 『大丈夫よ』と言ってくれたのだと思う。

 それが伝わったのか、リタちゃんの背中に、綺麗な翼が現れた。


 淡く白く輝く翼。

 そしてもう片方は、漆黒の色をした翼。


「綺麗……」

「「え!?」」


 私の思わず漏れた言葉に、二人は驚いた顔をする。


「凄く綺麗な翼だね。触れても大丈夫?」

「え、う、うん……」

「ありがとう」


 怯えてるように見えるリタちゃんの翼に、そっと触れる。

 白い翼も、黒い翼も、どちらも凄く滑らかな感触をしている。

 柔らかく、それでいて撫でるとすっと滑る。

 毛並みの良い動物を撫でている感じというか、ずっと撫でていたくなるから不思議だ。


「あ、あの、蓮華お姉ちゃん、くすぐったい……」

「あっ!?ご、ごめんね!?凄く手触りが良くて、それでね!?」


 慌てる私に、リタちゃんは初めて、笑ってくれた。


「ううん、嬉し、かった。私を気持ち悪いって思ってないのが、分かったから……蓮華お姉ちゃん、ありがとう」


 ぐっはぁ!この子滅茶苦茶可愛いよぅ!

 私は思わずリタちゃんを抱きしめてしまった。


「ふわっ!?」


 リタちゃんは驚いたみたいだけど、特に抵抗をしなかった。


「ノルンお姉ちゃん、蓮華お姉ちゃんって、あったかい方ですね」

「ええ、そうね。レオン、アンタはリタのお兄ちゃんでずっと気を張ってきたんでしょ?これからは、お姉ちゃんズに少しは頼っても良いわよ」


 そう笑って言うノルンに、レオンは涙で顔をくしゃくしゃにして言った。


「はいっ……!」


 妹を守る為に、ずっと頑張ってきたはずだ。

 心無い中傷を受けてきたはずだ。

 特に、今の時代ではなく、戦乱の時代で生きていたのなら。

 それが分かったノルンは、手を貸そうと思ったのだ。


「って蓮華、それくらいにしなさい!いつまで抱きしめてんのよ!苦しそうでしょうが!?」

「あっ!?ご、ごめんね!?」

「だ、大丈夫、です。その……蓮華お姉ちゃんに抱きしめられると、あったかくて……嬉しい、です……」

「可愛いー!!」

「んにゅ!?」

「蓮華!!」

「あはは……あはははっ」

「お兄ちゃん、泣いてるけど、笑ってる……?」

「うん、リタ……涙はね、嬉しい時にも、出るんだよ」

「そっか……そうみたいだね……」


 二人の兄妹は、その瞳に涙を宿しながら、笑っていた。

 両親を失い、魔族の争いから逃げ続け、ある者に『コールドスリープ』を掛けて貰う事になるまで、ずっと辛い時間を生きてきた。

 そんな二人にとって、この時間は夢のようだった。

 自分達を毛嫌いせず、気持ち悪がらず、ありのままを受け入れてくれた二人。

 

 二人の兄妹を、蓮華とノルンは優しい目で見守っていた。


「ねぇノルン」

「何よ蓮華」

「ダウンズボーダーの肉、調理してみても良い?」

「アンタまだ食べるの?」

「だって、美味しかったんだよ」

「……好きにしなさいよ」


 その日の夜。

 蓮華の作ったダウンズボーダーの煮込みは、凄まじい不味さで四人の悲鳴が轟くのだが、それはまた別のお話。

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