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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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14話.救う者、救われる者

「おやっさん、こいつら()()()()失敗しやしたぜ」

「そうか、なら()()だが、契約書通りにうちで働いてもらわないとなぁ」


 まったく残念ではなさそうに、依頼を失敗した者達を見下ろす男。

 その顔は笑っているのに、見られた子供達は全員震えていた。


「さて、それじゃ早速……」

「邪魔するわよ」


 バタンッと勢いよく開けられた扉に、怪訝な顔をする。

 それも一瞬で、後ろに居る二人を見てすぐに笑みを浮かべた。


「おやおや、これは今朝依頼をさせて頂いたレオン様とリタ様ではございませんか。依頼はもう終わったのでしょうか?」


 終わるわけがない、そう確信している男は内心で笑っていた。

 配下に付近のダウンズボーダー全てに幻惑魔法を掛けるよう命令しておいたのだ。

 必ず群れで冒険者を襲うように。


 ダウンズボーダーは確かにある程度の実力が無ければ倒せないが、1匹程度なら子供でも力を合わせたら倒せてしまう。

 それでは、こちらの思惑通りにいかない。

 依頼は失敗してもらいたいからだ。


 ギルドが機能していない今、生きていくのに困った者達は、街の住人からの依頼で金を稼ぐしかない。

 もちろん実力のある者達は、ギルドを使える。

 しかし、今のギルドは腐敗していた。


 ギルド職員と特定の冒険者による癒着からはじまり、依頼もギルド職員と仲の良い冒険者にしか回されない。

 新規冒険者など、依頼すら受けられないのだ。

 そうなればどうするか。

 別の街へ行くのが手っ取り早いとは思うが、地上と貿易のあるアクアマーリン港ではギルドは無く、地上に行く為にはギルドを通し許可証を得なければならない。


 そして、この街から次の街へ行く為には、迷いの森と呼ばれる広大な森を抜けるか、魔神の潜む山とされるアンデロックス山を抜けなければならない。

 この辺りとは比較にならない強力な魔物も多く、どちらも命を落とす可能性のある道だ。

 その為、冒険者を雇って次の街へ行くのが普通だ。高い金を払う必要があるが、ギルド側としても金払いの良い客を大切にしたい為、しっかりとした者をつける。

 金を払う方は安全に辿り着きたいし、守る方も次の利用を考え依頼人を大切にする。

 結果両者の意思が合致し、信用が生まれる。


 では他の街へ行く実力も、金も無い者が飛びつく先はどこか。

 それが街の経営者の個人的な依頼というわけだ。

 通常であればギルドが支援するような問題だが、この街のギルドはそんな事をしない。


 こちらも雇うのは良いが、人件費が一番の金食い虫だ。

 金を払わず、手軽に使える労働力を確保する方法はないかと考えた時、思いついたのだ。

 親も無く身寄りのない者は、どう扱っても問題ない、と。


 唯一魔王リンスレット様の政策により、表だって今までの様な事は出来なくなったが、契約という両者合意の元でなら、問題はない。

 そこに目をつけ、悪条件だろうが飲まざるを得ない者達に契約を持ちかけた。

 もちろん、仮に達成されれば多少とはいえ出費もあるが、こちらはもっと儲かるので問題はない。


 想定通り、ダウンズボーダーから逃げ帰ってきた子供達。

 これから奴隷として無料の労働力を手に入れたと、内心笑いが止まらなかった。


 そんな時に突然現れた美しい少女。ややつり目の、ブラックダイヤモンドを想わせる深淵の瞳で見つめられた時、背筋が凍った。

 その幻想的なまでの美しさにも関わらず、まるでこちらの事を全て見通すかのような……そんな目だった。

 完璧な方法だと、思っていた。その少女が現れるまでは――




「アンタがこの子達に契約を持ちかけた奴で合ってる?」

「そうですが……貴女は?」

「この街には来たばかりでね、偶々この子達の事を見かけたのよ。で、契約書を見たから一緒に来たってわけ」

「成程成程。地上から来られたのですね。ですが、地上の方であれば、契約の意味をご存知かと思われますが……」


 そうニヤついて言う男に、ノルンは淡々と告げる。


「その子達も、この契約書のミミズ書きのような部分の意味は説明してるのよね?」


 そこにはこう書かれていた。

 依頼に失敗した場合、依頼者であるダニエル=ギグヘルブの奴隷と成る。


「奴隷制度は現魔王リンスレット様に禁じられたって理解してる?」

「お言葉ですが、これは両者の合意の元でございます」

「あっそ。まぁこの写しは撮ってあるし、一応知ってるかの確認しただけだから、良いわ。それで、その子達もダウンズボーダー引き取りの依頼なのかしら?」

「そうでございますが……」

「そ。それじゃ、その子達の依頼は私が代わりに果たしてあげる」


 目の前に、9匹のダウンズボーダーの死体が積みあがる。


「なっ!?」


 男は驚愕した。

 ダウンズボーダーを倒すのは、一般の大人でも苦労する。

 苦労するが倒せない事は無い、というのは、1匹を対象にした場合だ。

 複数のダウンズボーダーと出会えば、逃げるのが普通だった。

 この魔物は自身を傷つける(たぐ)いの魔法には、強力な抵抗力を誇る為だ。


 倒すには力で挑むしかなく、冒険者でもオーラを扱える者が魔族では少ない為、需要が多い割に供給が少ないのが実情だった。

 それ故に高く売れるのだが、今は奴隷を得る為に幻惑魔法をかけ、少しでもダメージを受ければすぐに仲間の元へ行くように暗示を掛けていた。

 故に、より一層討伐難度は上がっているのだ。

 だというのに、だ。

 目の前の少女は、これを倒したというのか。


「依頼達成料は5万Gだったわね。アンタ達、依頼は合計何枚あるの」

「えっと、3枚で……合計3体、です……」

「そ。なら、こっちのと合わせて4体でオーケーね。これで依頼は達成よね?契約書にサインしなさい、ちなみに残りの肉は他のとこで卸すから」

「ま、待ってください!貴女様程の腕前であるなら、是非うちと専属雇用させて頂けませんか!?最高の待遇をお約束します!」


 ダウンズボーダーの死体を見るに、一刀の元に断ち斬られている。

 相当の腕前である事が伺えた。

 彼女なら、もっと入手難度の高い魔物ですら、手に入ると思った。

 商売人としての、経営者としての本能が、彼女を逃がしてはならないと訴えたのだ。


「ばっかじゃないの。こんな契約をする奴に、私が乗ると思ったのなら、見くびられたものね。安心なさい、これからダウンズボーダーの肉は売り払うから。それも、1体3万ゴールドで、ね」

「なっ!?」

「それから、ギルドは明日から総入れ替えよ。今までの様な阿漕(あこぎ)な事はできなくなるわよ。で、もう一回言うけどサイン早く書きなさい」


 ノルンはレオンから受け取った契約書を読み取り、シャイデリアの街付近のダウンズボーダーを狩り尽くした。

 そして、ほぼ無料に近い形で、この契約書を作った奴以外の店に渡していったのだ。

 要は、一時的にダウンズボーダーの価値を下げたのだ。


 これから売り払うと言ったが、すでにもう売り払った後だ。

 この男が値の下がる前に売り(さば)こうと足掻くのも、計算に入れていた。

 もう遅い。


 ノルンはダウンズボーダーの肉を渡す際に、この契約書も同時に見せている。

 だから、安く渡すのだと。

 それを理解してくれた店のオーナーは多かった。

 商売は、情報と横の繋がりが大切だ。

 仕入だってそう。誰も卸してくれなくなれば、店を畳むしかなくなるのだ。


 この店の非道な行いは、この街の同じ経営者に広まった。

 そして、実力のある冒険者に目を付けられているという点も拍車をかけるだろう。

 ダウンズボーダーの肉の値段は、いずれまた上がるだろうが、この悪評の流れた店から仕入れる店はあるだろうか。

 それを理解したのかは知らないが、膝から崩れ落ちる男を前にして、ノルンは微笑んで言った。


「悪い事はするもんじゃないわよ」


 レオンとリタは、そんなノルンを見てただ驚いていた。

 強さと、行動力の高さと、その優しさに。

 店の外に出て、レオンは気になっていた事を聞いた。


「ノルンお姉ちゃん、この子達はどうするの?」

「ん?そうね……あのおっさんの知恵を借りようかしら」

「「あのおっさん?」」


 レオンとリタは、同時に首を傾げる。

 その姿が可愛くて、ノルンはクスッと笑った後、表情を引き締めて言った。


「アンタ達、今日は助けたけど、私はずっとこの街に居るわけじゃない。自分の明日は自分で買いなさい。でも、ここで投げ出すようなら最初から助けたりなんかしないわ。アンタ達が一人でも歩けるようになる靴は、用意してあげるつもりよ。信じられないなら、ここで別れて良い。ただ私を信じられるなら、ついてきなさい。損はさせないつもりよ」


 言いながら、契約書を破り捨てるノルン。

 こんなもの、持っていても仕方ないと判断したのだ。

 レオンとリタを含む子供達は、ノルンについて行く事にした。

 子供達は自分達を救ってくれたノルンを、煌めく星々のような瞳で見つめるのだった。

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