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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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11話.父と娘

 アンジェさんに案内されたナイツオブラウンド支部は、なんというかザ・お城って感じだった。

 中に通されて、アンジェさんの部屋に行くまでに幾人かの人と挨拶したけれど、皆礼儀正しい方だったよ。


 内装は質素な感じだけれど、それが貧相かと言われればそうではなく。

 派手さはないけど、落ち着いた感じを受ける。


「お座りください、レディ。今飲み物を用意させましょう」

「あ、はい。ありがとうございます」


 対面式のソファーに腰かけると、すぐに紅茶が目の前に置かれた。

 ここでもメイドさんが居た。


「彼女はハウスキーパーのシュンラン。彼女自身はメイドではなく、他のメイドを取り仕切る役目を担って貰っているのですが、今この支部ではメイドは出払っていましてな……申し訳ない事をさせています」

「とんでもございませんアンジェラス様。初めまして、シュンランと申します。至らぬ点もあるかと存じますが、どうぞよろしくお願い致します」


 そう言ってお辞儀するシュンランさんに、私も立って挨拶をする。

 にしても、メイドが出払うってどんな状況なんだろうか。

 私の中のメイドのイメージと違う。


「さてレディ、私も聞きたい事はあるのですが、レディもあるでしょう。まずは、質問があればお答えしましょう」


 そう微笑んで言ってくれるアンジェさんに、私は疑問だった事を聞く事にする。


「ミレニアのお父さんって事は、その……」


 そこまで言って、シュンランさんが居るから躊躇った。

 言っても良いのか分からなかったからだ。


「ふふ、ご配慮感謝しますレディ。大丈夫です、彼女は私の信頼するレディですので」

「恐れ入ります」


 アンジェさんの右後ろに控え、お辞儀するシュンランさん。

 アンジェさんは見えないだろうに。

 きっと、そんな事は関係ないんだな。

 心から慕っているって事なんだろう。


「分かりました。えっと、アンジェさんも吸血鬼なんですか?」


 そう、ミレニアは吸血鬼。それも、真祖だって言ってた。

 あれ、真祖って最初のって事だよね?なら、お父さんが吸血鬼ならどういう事なんだろうと疑問だった。

 だけど、答えは意外だった。


「レディ、あの子は吸血鬼に成ってしまったのです。私は、ほんの少し時を操れる程度の魔神ですよ」


 ま、魔神!?


「あの子は妻に似て、魔力がとても高かった。そして、研究馬鹿とでも言うのでしょうな。ひたすらに魔法の実験をしておりました。ありとあらゆる魔法、魔術を研究し、果ては呪法に至るまで……その結果、ミレニアは自身の体を吸血鬼と化してしまったのです。始祖……真祖とは、それから後継に呼ばれた名ですな」


 そんな事が、あったのか……。

 自分の娘が、血を飲まないと生きられない体に成ったと知った時のアンジェさんの気持ちは、どうだったんだろう……。


「最初は吸血衝動を抑えきれず、何人かの者の血を吸って自分の眷属へと変えてしまったミレニアは……その後なんとか抑える方法を見つけ、それ以来血を吸っておりません。その最初にミレニアによって血を吸われた者達は、今では吸血鬼の中でも最高位の存在、オリジンブラッドと呼ばれ恐れられているようですな」

「そう、なんですか」


 流石に、娘が吸血鬼になって、どう思ったかなんて聞けない。

 きっと、複雑な気持ちが心を襲ったに違いない。

 でも分かる。

 アンジェさんがミレニアの話をしている間、とても穏やかな表情だったから。

 きっと今でも、ミレニアの事を愛しているんだろう。


「娘はマーガリン殿やロキ殿とも仲が良かった。レディはそのマーガリン殿の娘だという。ならば、私にとって娘の友達という事になります。再度になりますが、どうぞよろしくレディ」


 そう優しく微笑んでくれるアンジェさんに、私も笑ってよろしくと伝えた。


 それから、今魔界で起こっている、不可思議な事がある事を聞いた。

 なんでも魔族の者が、魔物へと変わってしまい、他の魔族を襲うというのだ。

 その魔物を倒すと、必ず魔石が落ちているとの事。

 今はその事を調べる為に、各支部の多くの者が出払っているのだとか。


 今回のギルドも、そういった観点からも怪しいと踏んでいたそうで。

 これから内部調査を行うらしい。

 アンジェさんと他愛無い雑談をしながら、時が過ぎていった。




 その頃、魔界のリンスレットの執務室。


 コンコンとノックの音がして、リンスレットは顔を上げる。


「べリアルだな、入って良いぞ」

「失礼するわね。魔王様がそんな簡単に部屋へ通して良いのかしら?」

「おいおい、本当の仲間と思ってるべリアルにまで心を許せなかったら、私は誰に心を許せば良いんだ?」


 そうおどけて言うリンスレットに、べリアルは微笑み返す。


「アスモデウスはどうしたの?魔力を感じなかったけれど」

「あいつは地上だ。なんでも、やりたい事があるらしくてさ。今は特に急ぎの案件も無いし、自由にさせてる」

「クス、相変わらずねリン」


 そう微笑むべリアルの表情は、旧友に向けるもの。

 それもそのはずで、魔王リンスレットと元魔王べリアルは、昔からの友人なのだ。


「それで、どうしたんだ?わざわざべリアル自身が訪ねてきてくれたんだ、何かあったんだろ?別に何もなくても、ゆっくりしていって欲しいが」


 リンスレットの言葉に微笑むべリアル。


「クスクス、変わらないわねリン。でも、用があったから来たのは本当。これを見てくれる?」


 そう言ってべリアルが懐から取り出した指輪。

 禍々しい紫色のオーラを放っている。


「ソロモン王の指輪か。ちょっと待て、紫になってるだと!?」

「ええ。丁度世界樹ユグドラシルと世界樹イグドラシルが、『サリギアの儀』により繋がった頃かしら。白く力を失っていたこの指輪が、紫色へと変わったわ」

「……アイツが、復活したって事か」

「恐らくね」


 ソロモン王。

 かつて72の力ある悪魔達を従え、魔界を蹂躙していた者。

 その力は凄まじく、配下の悪魔達も強大で、魔界は彼の者の支配下に置かれていた。

 それを打開したのが、現魔王であるリンスレットと、リンスレットに協力をした大罪の悪魔達。

 そしてソロモン王を裏切り、リンスレットについた悪魔達である。


「べリアルはもう、その指輪の連盟から脱退してるんだろ?」

「ええ、裏切った時に名は消えているはずよ。だから、指輪の効力は無いわ」

「それは良かった。あの時みたいにまた、べリアルと戦うのは勘弁だ」

「私もよ。できればリンスレットとは戦いたくないもの。友達だからね」


 微笑み合う二人。

 リンスレットは真剣な表情で呟いた。


「しかし、ソロモン王はガブリエルによって倒されたはず。あいつが魂を仕留め損ねるとは考えにくいんだけどな……」


 今は亡き、自身がその命を奪った大天使・ガブリエルの事を想った。


「そうね……けれど、この指輪が効力を取り戻している事が紛れも無い事実よ」

「ふむ……今、魔界で起こっている事件と関係があると思うか?」


 魔族が、魔物へと変化する事である。

 当然その情報は、リンスレットの元にも届いている。


「まだ結びつけるのは早計ね。私の方でも調査はしておくけれどね」

「頼む」

「ええ。それと、話はこの指輪なのだけれど……」

「私が持ってた方が良いかって事か?」

「ふふ、違うわ。この指輪を、逆手に使わないか?という相談よ」

「逆手に……?」

「このソロモン王の指輪は、72体までの契約をした悪魔を、瞬時に召喚する事ができるでしょう?それを逆手にとって、ソロモンを召喚して、もう一度今度は魂を転生させる事なく消滅させてしまいましょうかってお話」

「ふむ……面白い発想だけど、できるのか?」

「多分、ね。でも、出来れば戦力を集めて行いたいわね。準備も入念にして、絶対に逃げられないようにしてから」

「そうだな……その方法に乗るとしよう。アイツが復活したとしたら、やる事は分かる。今は魔界を昔の体制から変えていってる大事な時だ、邪魔はさせない」


 魔王リンスレットと、元魔王べリアル。

 べリアルは唯一魔王をリンスレットと認め、自身は退いた。

 魔王アスモデウスと共に。

 領地を持つ事を拒否し、魔界の奥にてのんびりと暮らしていた。

 しかし、所持していたソロモン王の指輪に輝きが戻り、どうするか思案していた。

 ソロモン王の力は強大で、例え転生したばかりでも油断はできない。


 一度ソロモン王と契約した自分だからこそ分かるのだ。

 あの時の契約は、ソロモン王が敗れた時点で破棄された。

 けれど、契約の内容によっては、そのまま続いている者も居る。

 今では仲間と成っている者も、敵に成る可能性があるのだ。


 ソロモンと契約した悪魔の力は、爵位によって差がある。

 中でも魔王の爵位を得ている悪魔達の力は、自分とそう差がない。

 ソロモン王だけでも厄介なのに、集められれば勝ち目はない。

 そう考えたべリアルは、リンスレットに相談する事にしたのだった。

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