9話.シャイデリアの事件
朝起きてから、朝食の準備をする。
流石に凝った物を作るつもりも無いので、食パンを焼いて、目玉焼きとベーコンを乗せるだけだけど。
「おはよう蓮華、相変わらず早いのね」
「おはようノルン。朝食は軽めで良いよね?」
「ええ。なんだったら飲み物だけでも良いわよ」
「それはダメ。ちゃんと朝は食べないと元気でないよ」
「はいはい、ちゃんと食べるから」
なんて会話をしてから、ノルンは顔を洗いに行った。
ちなみに、私は朝食を作る為にいつもより早めに目を覚ましただけで、ノルンも十分早起きだ。
「「いただきます」」
ベーコンエッグとミルクココアを用意しただけの簡単な軽食を食べながら、これからの予定を話す。
「今日の午前中にシャイデリアに着くと思うから、そこでまずはギルドカードを作って換金するわよ」
「うん。宿はこの家があるから気にしなくて良いし、食料とかも長期保存できるから、その点は不安がないけどね」
「衣食住がすでに完璧なのがあれだけれど、まぁ修行僧になるわけでもなし、旅行も兼ねてるからそれは良いでしょ」
「だね」
二人で笑う。
ぶっちゃけて言ってしまえば、私達はお金が無くてもなんとかなってしまうのだけれど。
食料も大量にあるし、水も魔法でいくらでも出せる上に、火だって魔法で起こせるし。
テレビも魔力を通せば見れるし、テレビの中に魔力を貯蔵できる、電池のような魔石が内臓されているので、充填しておけば切れるまで見れる。
「ま、でも生活に使わなくても、他の事で使う事があるし。貯めるにこした事はないわ。それに、アンタも魔界で土地欲しくない?」
「土地?」
「ええ。私も考えてるんだけど、いつまでもリンスレットの城に居るわけにもいかないし……私の土地と家が欲しいのよ」
それは……リンスレットさん、悲しむんじゃないかなぁ。
いつまでも居て良いって言うと思うけど。
「だって、ずっと城に居るとか、なんていうか……言葉にできないんだけど、嫌じゃないんだけど、嫌じゃない?」
「……うん、言いたい事はなんとなく分かるよ」
私も、実家で働いてたし。
なんていうか、自立してないっていうか。
働いてても、なんとも言えない感じだった。
きっとノルンも、そんな感じなんだろう。
別にリンスレットさんが嫌とか、そんなわけじゃないんだろう。
「それで、なんだけど。アンタと共同で、家を建てられないかなぁって思ったのよ」
「成程……うん、それは良いね!具体的にどこを、とかは考えてるの?」
「一応ね。ただ、土地+家となると、かなりのゴールドが必要だから。それに、税も払わないといけなくなるし」
ああ、魔界にもやっぱりあるんだ、税って。
そりゃそうだよね、シャイデリアの街に行くのだって、街道がある。
つまり、道を作ってくれた方々が居るわけで。
その方々を雇うのは、国の税金から出されているんだろうし。
「そういえば、ここは誰が治めてるの?」
確か、魔界は大きく分けて七つの領地に分かれていたはず。
アスモデウスさんを除く大罪の悪魔の六人と、リンスレットさんが直接治める領地だ。
「海に近い領地だから、深海の魔と呼ばれるレヴィアタンね。こいつの正体、海獣だからね。敵に回すと厄介よ」
「か、海獣!?」
「ええ。900mくらいあるって聞いたわ。人間型の時は170cmくらいの体型で、格闘術が得意なのよね。何度か手合せした事あるけど、コテンパンにやられたわ」
「ノルンが!?」
「悔しいけどね。レヴィアタンは悪魔のくせに魔法を使えないんだけど、魔法が効かないのよ。で、素手で殴り掛かってくるわけだけど、その体も硬すぎてこっちの攻撃が通らないのよ」
さ、流石は大罪の悪魔。
滅茶苦茶な力だね。
「あれ?使えないって事は、魔力はあるの?」
「よく気が付いたわね。そうよ、魔力はあるわ。でも、使えない。それが効かない事と同じらしいけど、詳しくは知らないわ。教えてくれなかったし、まぁ普通言わないでしょ」
それはそうだ。
自分の弱点になるかもしれない事をぺらぺらとしゃべる人は居ないだろう。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「お粗末様。ミルクおかわり入れようか?」
「それくらいは自分でするわ。アンタも食べ終わったら、出るわよ」
「りょーかい」
朝食も終えて、話もそこそこに外に出る。
すると、家の周りを囲むように、魔物がびっしりと居た。
なんていうの?ガラス張りの外から顔をひっつけてる状態というか。
「うわぁ……」
「気色悪いわね。どうせアイテムポーチには入らないし、消し炭にするわよ」
「え?私のアイテムポーチなら入るよ?」
これ母さん作だからね、容量はとんでもないのだ。
「そのアイテムポーチは蓮華専用でしょ。それは蓮華だけの物を入れときなさい。共同で使う物は、用途を分けて使うようにするわよ」
成程。確かにその方が良いかもしれない。
どうせ後からアーネストも合流するんだし。
「さて、それじゃ邪魔だし消えて貰うわよ。『フレイム・トルネード』」
この家を中心に、炎の嵐が巻き起こる。
台風の目というか、この家はなんともないけれど、周りの魔物は全て消滅してしまった。
「あっけないわね。素材を集めるとかしなければ楽で良いわよね」
なんて言うノルンに苦笑してしまう。
手加減なしのノルンの魔法は威力の桁が違う。
弱ければ、魔物は消滅せずに黒焦げで残っているはずだ。
だと言うのに、言葉通り塵も残さず消えてしまった。
「さ、行くわよ蓮華」
「うん、そうだね」
そして私達は、シャイデリアへと向かう。
途中魔物が幾度が襲いかかってきたけど、近づく前にノルンに消し炭にされた。
私役に立ってないよね?そう思ってノルンを見たら、「ご飯作ってくれたんだから、これくらいさせて」とぷいっと横を向いて言われてしまった。
頬が赤くなっていたので、照れていたのかな。
微笑ましい気持ちになって、私は笑ってしまった。
そうして着いたシャイデリアの街。
なんていうかもっとこう、おどろおどろしい様子を想像していたんだけど、いたって普通の街だ。
屋台のような出店は無いみたいだけれど、人通り……魔族通り?は多いみたいだ。
街の入り口に着くと、すっごく見られる。
よそ者はやっぱり珍しいんだろうなぁ。
「ノルン、ギルドの場所って分かる?」
「ええ、看板があるから。蓮華も覚えておきなさい、あのマークがギルドの証拠だから」
ノルンの指差す方を見ると、地上の冒険者ギルドとは違うマークがあった。
あれが、魔界のギルドマークか。
髑髏に悪魔の羽が生えてるのって、気持ち悪いと思うんだけどなぁ……。
私とノルンは二人、並んで歩いてギルドへと向かう。
その後ろから、私達を追う存在には気付かずに。
カランカランと扉を開けたら音がした。
冒険者ギルドって、これおきまりなんだろうか。
中に入る大勢の魔族が、こちらに意識を向けるのが分かる。
ノルンは気にした風も無く、受付と思われる場所へ歩いていく。
私も一歩遅れて、ノルンを追う。
「ねぇノルン、やっぱりテンプレみたいに、私達みたいなのが来たら、絡まれるかなぁ?」
「テンプレ?」
ノルンがオウム返しに聞いてくる。
どう説明したものか。
こういう場合、お前達みたいなガキが冒険者に~とか難癖つけられる事なんだけど。
「蓮華が何を考えてるのか知らないけど、大丈夫よ。魔界のギルドは、強い奴に手を出さないから」
「うん、えっと……」
それは、私達の事を強いと知ってたらの話じゃないかなぁ、と思っていたら、案の定絡まれた。
「よぅ可愛いお嬢ちゃん達。ここは魔界の中でも、特に力の強い者が集まる場所だって知ってるかぁ~?」
酒に酔ったような、フラフラとしたおっさん?が話しかけてきた。
でも、ノルンはそいつを無視する。
「冒険者に登録したいのだけど」
「登録費10万ゴールドはお持ちですか?」
「無いけど、この卒業証書、使えるでしょ?」
そう言ってヴィクトリアス学園の卒業証書を出すノルン。
私も慌てて出して、受付のお姉さんに渡す。
「成程、あの学園の卒業生でしたか。では、登録費は免除かつ、ギルドランクはDからとなります。宜しいですね?」
「ええ」
「はい」
「おいっ!俺を無視すんじゃねぇ!!良い事を教えてやる!俺はギルドランクC+、もうB間近と言われるダウロ様だ!今から冒険者になるようなひよっこの、大先輩ってわけだ!」
そう大声で言う大先輩事、ダウロさんは、全身を舐めまわすようにその視線を向けてくる。
正直気持ちが悪い。
「それで大先輩のダウロ様が、私達に何の用ですか?」
努めて冷静に、応対してみた。
それが不味かったのか、調子に乗って言ってくる。
「おう!魔界のギルドでのルールってのを教えてやるよ!強者こそ全てなのは変わらねぇ!だからな、お前達みてぇなひよっこはよ!強者である俺の顔色を窺ってりゃ良いんだ!」
うーん、どうせこいつ、頭の中で気持ち悪い事考えてるんだろうな。
ノルンも我慢の限界に見えるし。
「受付のお姉さん」
「なんですか?」
助けて欲しいんですか?みたいな目で見られる。
そう思ったのは正しかったようで、すぐに言われる。
「魔界が弱肉強食なのは正しいのです。貴女達は地上から来たのでしょうが、良い経験になるでしょう。ダウロ様はこのギルドの中でもかなり上位の力をお持ちです。今この場に限るなら、逆らう者は居ないでしょう。ですが、貴女達は幸運です。その美しさがあれば、きっと可愛がって頂けるでしょう」
うんざりする。
受付の人もそういう考えで、私達が弱くて、そういう事になっても見捨てるって言っているわけだ。
「それじゃ、こいつ倒しても問題にはならないんですね?」
私の言葉に、きょとんとする受付の人……だけじゃなく、周りの奴ら全員か。
すぐさま笑い声が起こる。
ノルンから、凄まじい魔力が巻き起こりそうになるのを感じたので、視線を向ける。
すると、すぐに抑えてくれた。
「ふふ、もちろんです。仮に、もし仮にダウロ様がここで倒されたとしても、それは弱肉強食の掟に乗っ取り、貴女方に罰などない事をお伝えいたしますわ」
そうにこやかに言う受付の女性に、私は笑う。
言質を取ったからね。
優しい人には優しさで、そうでない奴には、同じ事を返してあげるよ。
「そう、ありがとう。それじゃ、もう我慢しないよ」
「弱肉強食、ね。こんな地上に近い街で、魔王様の掟をまだ守ってない輩が居るなんてね。いえ、地上に近いからこそ、かしら」
私とノルンの体から、魔力が吹き荒れる。
「「「なっ!?」」」
周りの者達が驚くが、もう遅い。
一歩、ダウロさん……ダウロに近づく。
「ひ、ひぃっ!?」
私達の魔力に当てられたのか、腰を抜かして後ずさる。
「さて、弱肉強食だったね。お前を殺しても罪に問われないみたいだし、容赦しないよ?」
「蓮華、半分は残しなさいよ?私を気持ち悪い視線で見た罪、ここで受けさせてあげるわ」
私達が一歩、また一歩と近づく度に、ダウロは後ずさる。
「ゆ、ゆる、ゆるしてくれ!俺が悪かった!まさかアンタ達がそんなに強い存在だなんて、知らなかったんだ!この通り、謝る!!」
こいつはきっと、私達が弱ければ……そう思い、手を上げようとした。
だけどその手を、掴まれた。
「お待ちを、レディ。こんな薄汚れたゲスを相手に、その美しい手を汚す必要などございませんとも」
「「!?」」
「ふっ」
「ぐぼぉぉっ!!」
ダウロの体が、下半身を残して消えた。
凄まじい威力の蹴り、だと思う。
「さて、魔王リンスレット様の掟を知らぬわけではあるまい?今まで上手い具合に隠してきたようだが、現行犯だ。一部始終見させて貰ったぞ屑共が……罪を償え。連れていけ」
「「「ハハッ!!」」」
何が一体どうなっているのか。
受付の女性はこちらを見て怯えているようだったけれど、このギルドに居た大勢の魔族達と一緒に、連れ去られていった。
「貴女達のお蔭で、ルールを犯す者達を捕まえる事が出来ました。感謝致します」
そう言って頭を下げるこの人。
黒い礼服をまとい、まるで神父の様な恰好をしている。
髪は白く、その口には葉巻をくわえている。
妙齢の御爺さんに見えた。
「あ、いえ……こちらこそ、ありがとうございます」
「一応感謝しとくわ」
私達の言葉に優しく微笑み、自己紹介をしてくれた。
「私の名はアンジェラス=トリスティア=リーニュムジューダス。どうぞアンジェとお呼びください、レディ」
そう恭しく礼をしてくれるアンジェさん。
私はその名前を聞いて、ドキドキが止まらない。
「あ、あの、もしかして……ミレニアの家族だったり、します?」
「おや、娘をご存知で?」
「娘ぇぇぇぇっ!?」
「れ、蓮華?」
ノルンがきょとんとしているけど、私は心底驚いてしまった。
だって、あのミレニアのお父さんって事だよね!?




