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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第四章 魔界編

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5話.ポケットハウス

 そうして私達は、街道を進んで行った。

 3時間くらい経っただろうか。辺りが暗くなってきたので、家をアイテムポーチから出す。

 すると、ノルンが滅茶苦茶驚いた。


「ちょっと!なんでアイテムポーチに家を入れてるのよ!?」

「あはは。私も初めての時は、今のノルンと同じ反応したよ。でも、シリウスとカレンにアニスも普通に出してたよ?」

「違う、それは普通じゃない蓮華。そんな普通があってたまるものですか……!」


 そ、そうなの?

 だって、シリウスは普通に"私達のような階級持ちは、自宅ともう一つ、野営で使う家をアイテムポーチに入れています"って言ってたよ?

 カレンとアニスも普通に出してたし。

 だから普通なんじゃないかな?

 って伝えたんだけど。


「アンタはまず、普通の定義を知りなさい……!」

「えぇぇぇ……」


 だって、私の周りで普通な人って……うん、私が一番普通だよね?

 あれ、おかしいな。誰かに今貶された気がする。気のせいだよね。


 そうして家の中に入って、ノルンが再度驚いているのを見て、笑ってしまった。


「なんで家の外観と中で空間の大きさが違うのよ!?広すぎるにも程があるでしょ!何に使うのよこの空間!あの通路はどこまであるのよ!?私の目で見ても先が見えないってどういう事よ!!」


 ノルンが滅茶苦茶興奮して言ってくるので、私も説明をする事にした。


「その、私は普通の大きさで良いって言ったんだよ……でも、兄さんがね……」


「蓮華、何かあった時の避難場所として、ある程度の広さにしておきました。部屋をいくつか作っておきましたので、用途に分けて使うと良いでしょう」

「う、うん、ありがとう兄さん。でも広すぎないかな?この廊下、先に壁が見当たらないんだけど……」

「壁なんて作っていませんから、どこまでも伸びますよ?必要に応じて、蓮華が望めば部屋が出来ますよ」

「……そ、そう。相変わらず出鱈目だね兄さん……これ、空間魔法、だよね?空属性の……」

「ええ。正確には空間魔法と創造魔法の合成魔法ですね。蓮華もいずれ出来るようになりますよ。私が保証しましょう」


 なんて会話があった事をノルンに話す。


「……ロキさんって、化け物を通り越してない?」

「……」


 否定は、出来なかった。

 ごめんなさい兄さん。今頃くしゃみしてたりするかな。


「それじゃノルン、そこのソファーでゆっくりしてて。今日は私がご馳走するよ!」


 気を取り直して、エプロンを身に付ける。

 アリス姉さんが猫の刺繍をしてくれた、マイエプロンだ。

 これをしないとアリス姉さんが凄く悲しそうな顔をするので、料理を作る時は必ずするようになった。


「アンタ、料理できるの?」


 意外そうな顔で言われた、失礼な。

 いやまぁ、以前はできなかったけれど。


「少しづつレパートリーを増やしていったんだ。今では簡単な物なら、ある程度作れるよ?」


 食堂のおばちゃん達と、空き時間で一緒に作っていたのだ。

 おばちゃん達は手際も良くて、凄く勉強になった。

 ほら、私授業免除されてて、時間あったからね。


「へぇ、それじゃその腕前、見せて貰おうじゃない?」


 フフンといった感じで、ノルンが見てくる。

 ま、まさかノルンは料理もプロ級だというのかっ!


「あいたぁっ!?」

「ノルン!それ指!自分の指!食材こっちだから!?」

「皮がないの!?」

「それ身!身だから!皮と身を大分削ってる!残り芯だよ!?」

「ねぇ蓮華、まな板って柔らかいのね」

「……ノルン、ソファーへ行ってて」

「……はい」


 結論、ノルンは料理が下手ってレベルじゃありませんでした。

 野菜を切ろうとしたら自分の指を切るし(包丁が負けて少し刃こぼれしてた)、皮を剥いてもらおうとしたら、皮と身を一緒に削ってしまうし。

 挙句の果てには、まな板を一刀両断しちゃうし。


 おかしいなぁ……ノルンって器用だし、力加減とか絶妙に上手いはずなのに、どうして料理ではこんな……。

 とりあえず、ノルンにはテレビでも見て貰っておいて、私は料理に集中した。

 なんとなく、手伝いたそうなノルンの視線を心を鬼にして無視する。

 うぅ、捨てられたワンコみたいな表情は罪悪感がわくからやめてほしい。


 そんなこんなで、なんとか完成したのでテーブルに並べ終える。


「「いただきます」」


 そう言って手を合わせ、食べ始める。

 うん、上手に出来たんじゃないかな。


「美味しい……蓮華、貴女本当に男だったの?」

「元の世界では、料理のプロって男性が多かったくらいだけどね。家庭の味を作ってくれるのは、女性というか母って感じだったけど」

「そうなんだ。このお味噌汁っていうの?これも凄く美味しい……ねぇ蓮華、これ毎日でも飲みたいわ」

「ぶふぅっ!!」


 思わず飲みかけの味噌汁を少し吹いてしまった。


「ど、どうしたのよ蓮華」


 どうしたもこうしたも、そのセリフは……プロポーズの言葉の一つだったりして、ですね。

 ノルンにそんな意図が無いのは分かってるんだけど。


「え、えっと……」


 一応、理由を説明する。

 すると、茹蛸(ゆでだこ)みたいに真っ赤になるノルン。


「ち、ちちちちちがっ!?私にそんな趣味は無いわよ!?」


 そっち!?

 ああそっか、私も今女の子だもんね。

 慌てるノルンがおかしくて、私は笑ってしまった。

 ノルンもそれから笑いだした。

 あったかい時間。ノルンとこんな時間が過ごせている今を、嬉しく思う。

 それからお風呂に入って(勿論別々だよ。カレンやアニスみたいに入ってこようとしないので、安心して入ってられた)、モコモコの羊パジャマに身を包み、ベッドにもぐる。


 このパジャマ、凄く眠気を誘ってくれるんだよね。

 母さん作の安眠パジャマ。

 着ぐるみみたいで、モコモコしているんだけど、凄く着心地が良い。

 アリス姉さんが可愛いー!って大絶賛するくらいだよ。

 まぁ、アリス姉さんは私が着た服はなんでも可愛いと言ってくれるけどね。


 コンコン


 おっと、扉をノックする音が聞こえたね。


「蓮華、起きてる?」

「うん、まだ寝てないよ。どうぞ」

「お邪魔するわね。……その、部屋が広すぎて落ち着かないから、こっちで寝て良いかしら?」


 そ、それはいわゆる、ベッドで二人!?

 って慌てていたら、アイテムポーチからベッドを取り出すノルン。


「あ、ああ、ベッド持ってきたのね……」

「当たり前じゃない。でなきゃどうやって寝るのよ?」


 うん、ノルンも大概天然なんじゃないだろうか。

 まぁ、私が俗世にまみれてるだけかもしれないけど……。


「そういえば、昼間にワルドモンスターについて話したじゃない?」


 ベッドに横になったノルンが、こちらを向いて話しかけてきた。


「うん。魔界のマナから生まれたんだったね」

「ええ。蓮華はマナと魔力の違いって知ってる?」

「えっと、マナそのものは魔力じゃないんだよね。マナを体の魔力回路で取り込んでから、魔力になる。その魔力の事をエターナルマナって言って、魔術を使う時に消費するんだよね?』


 ユグドラシルから聞いた事だけど。

 それを言ったら、ノルンが驚いた顔をした。


「そこまで知ってるのね。でも、魔力じゃないっていうのは正確じゃないわ。要は、魔力として生物が扱えるように加工したものがエターナルマナなのよ。気になってたんだけど、アンタはどうして精霊術を使わないの?確か、ずっと魔法を使ってたわよね?」

「精霊術?」

「なんで初めて聞いたみたいな顔するのよ。あのマーガリンさんから教えて貰ってるんでしょ?」

「魔法なら色々と……」

「アンタもしかして、魔法で一括りにしちゃってるの……?」


 え?どういう事だろう。

 魔法は魔法じゃないの?

 思っている事が顔に出ていたのか、ノルンが溜息をつきながら教えてくれる。


「あのね、魔法と魔術の違いは分かるわよね?」

「それはもちろん。体内の魔力を直接使うのが魔法で、マナを取り込んで使うのが魔術だよね」


 それくらいは覚えてるよ?


「そうね。そして魔法とは、精霊術の模倣なの」

「え!?」

「精霊は自分で魔力を作れない代わりに、世界に満ちるマナを変換せずに自分の中に取り込むことが出来るの。食事から魔力を得るのも手段の一つ」


 そういえば、そんな事言ってたような……。


「つまり、精霊はマナを直接行使する事ができる。マナという源泉を、加工せずに使える精霊術は……魔法とは一線を画す力があるの。そして、世界樹ユグドラシルの化身である蓮華の魔力はマナそのもの。蓮華の魔法は、本来精霊術なはずなのよ」


 そう、だったのか。

 あれ?もしかして母さんが最初の頃に言ってたのって、これを私が分かりやすいように噛み砕いてたの!?

 確か、私の使う魔法は他の人が使う魔法と同じ物を使っても違うとかなんとか……!


「体内から生成される魔力と、取り込んで作られた魔力は本来別物。通常、元から存在する魔力の事をオリジンマナと呼ぶのよ。ただ、このオリジンマナは個によって大小の差が大きい。これを使うのが魔法。そしてこのオリジンマナが、蓮華の場合はマナなの」

「えっと、私は魔術は使えないって聞いたよ?魔力が膨大すぎて、マナを取り込む隙間が無いって」

「言い換えればそうとも言えるわね。だって、蓮華の体内のマナはオリジンマナでもエターナルマナでもなく、純粋なマナなんだから、取り込んでも一緒でしょ。体の中に満たされたマナに、追加でマナを取り込もうとしても、溢れるだけよ」


 水一杯入ったコップに、更に水を足す感じだろうか。

 それなら確かに意味は無いけれど。


「でもその理屈なら、私は普段から精霊術を使ってるって事だよね?」

「それならこんな事は聞かないわよ。蓮華が使ってる魔法は精霊術じゃないんだもの」


 ちょっと頭がこんがらがってきたぞっと。

 整理すると……魔術は空気中のマナを魔力回路に取り込んでエターナルマナに変換、加工するって言うのかな?それを消費して魔術が使える。


 魔法は通常、体内にあるオリジンマナを使う。この量は個人差があると。

 精霊が使う魔法は精霊術と呼ばれるもので、その精霊術を模倣した物が魔法。

 で、精霊はマナを直接行使する。

 あ、ここか。


「えっと、精霊は空気中のマナを直接使うんだから、オリジンマナを使ってるわけじゃないからじゃ?」

「そこまで気付いてなんで気付かないのよ。蓮華の中にある魔力はオリジンマナじゃなくて、マナだってさっきから言ってるでしょ」

「あ……」

「良い?蓮華は世界樹ユグドラシルが放出してるマナが体内に生成されてる。で、精霊術を使う時にそれをわざわざオリジンマナに変えてるのよ。精霊術から魔法に、要はランクを落としてるって事。それがなんで?って聞いたの」


 それを言われて気付いた。

 それってつまり、母さんの封と、ユグドラシルの封じゃないだろうか。

 ノルンにその事を伝えてみたら、あー……って表情になった。


「成程ね。蓮華が意識してしてたわけじゃなかったのね」

「うん、今初めて知ったくらいだもん」

「蓮華はこれからも大精霊と契約をするのよね?」

「そのつもりだよ。今も向かってる途中だよね」

「そうだったわね。そもそも精霊って、契約したらその属性の魔法にかなりの強化が掛かる代わりに、他の属性の魔法を使えなくなるのよ。例え生まれから複数属性持ちでもね。精霊も生きてるから、やきもちを焼くとでも言うのかしらね。知ってた?」

「そうなの!?」

「ああ、うん……マーガリンさんも、アンタには関係ないから教えなかったんでしょうね……普通はそうなの。ただ、精霊達の長である大精霊は別だけどね」


 そんな事全然知らなかった。

 それに、大精霊の皆も基本仲良しなのに。


「はぁ……アンタの知識って、アンタに直接関係なさそうな事は全て省かれてそうね。良い意味でも悪い意味でも」

「そんなバカな……」


 母さん、兄さん、そういう大事な事は教えておいてほしかったです。

 というかアリス姉さんが精霊王って口滑らしたの今思い出した。

 追及するの忘れてたよ、不覚。


「ま、理由は分かったわ。多分全大精霊と契約を結んで、大精霊との結びつきを強くして、体の抵抗力を上げてから精霊術を使えるようにするつもりなんでしょうね。過保護と言うかなんというか……」


 呆れた感じで言うノルンに、苦笑してしまう。

 母さんは、本当に私の事を気遣ってくれるから。


「というか、ノルンもそうじゃないの?」


 だって、イグドラシルに操られていたとはいえ、セルシウスと契約してたし。


「イグドラシルは元々、ユグドラシルのサポートのつもりで世界樹と成ったのよ。だから、私には全大精霊を宿す事はできないわ。そのつもりもないし、それはアンタに任せるわ。私はアンタとは別の形で、力をつけるつもりよ」

「ノルン……」

「さ、そろそろ寝ましょ蓮華。話していたら眠たくなってきたわ」


 うーん、もっとノルンと話したいけど、これからいくらでも時間はあるもんね。


「了解。それじゃおやすみ、ノルン」

「ええ、おやすみ蓮華。というかアンタ、船ではそんな着ぐるみ着てなかったじゃない。あ、すっごく可愛いけどね?羊よねそれ」

「うん、母さんお手製でね。アイテムポーチじゃなくて、この家の中に置いてたから。すっごく着心地良くて、安眠できるよ?ノルンもどう?」

「まだあるの?」

「うん。私のは白だけど、他に黒とピンクと黄色があるよ」

「なんでそんなに種類があるのよ……というか羊の色なの、それは」


 呆れるノルンだったけど、ピンクを選んで着た。

 やばい、こうしてみると本当に可愛い。

 母さんや兄さん、アリス姉さんの言ってた意味が分かったかも。

 なんせ、ノルンは私と双子かと言わんばかりの見た目なのだから。


「すっごく良く似合ってるよノルン。頭のフードの羊の目がチャーミングだよね」

「自覚無さそうだから言うけど、アンタもかなり可愛いからね。もう抱きしめたいくらいに」

「あはは、私も今のノルンを抱きしめて寝たいくらいだし、気持ちは分かるよ」

「「……」」


 無言になって見つめ合う私達。

 どちらともなく笑いだし、そのままベッドにもぐった。

 こうして、私達は明日に向けて、ゆっくり眠ったのだった。 

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