222.ふたゆめ
ダンスパーティー会場の舞台裏。
私とアーネストは、その場所から最初に移る事になる。
「皆、これまでやれるだけの事はやってきた。緊張するなっていう方が無理だと思うけど、どうせなら楽しもうね」
そう皆に声を掛けたんだけど、返ってきたのは意外な言葉の連続だった。
「ふふ、蓮華お姉様や皆様と公の場で踊れる、ワクワク致しますわ!」
「はい!カレンお姉様!」
「まぁ、私は人って皆同じに見えるから」
あるぇ、緊張してるの私だけぇ!?
そんな事を考えていたら、肩にポンと手を置かれる。
「蓮華、アンタの感性は間違っていないわ。こいつらが異常なのよ」
そう言うノルンは、緊張しているようだった。
良かった、仲間がいた!
「なぁアリシア、後ろ大丈夫か?」
「大丈夫よ。どうせ踊り始めたら着崩れるんだし、気にしなくて良いと思うけど?」
「いやそこはやっぱりな。ビシッと決めたいじゃないか。それに、リンスレットまで来てるんだぞ、おかしい事をしたら、後で絶対にからかわれるぞ」
「あぁ、うん……リンなら絶対やりますね……」
そう、今回のダンスパーティーは、地上の有権者達に加えて、魔界からも王様が来ていたりする。
何を隠そう、魔王リンスレットさんだ。
ノルンが参加すると知ったリンスレットさんは、速攻で参加の意を伝えてきたらしい。
ノルンはそれを聞いて、やっぱり……とすでに諦めの極みになってた。
なんか体が勝手に反応しそうな物言いをしてしまった。
「蓮華さん、一番手はアーくんと踊るんだよね?」
「うん。それが終わったら、皆舞台に走ってきてね」
「了解だよ!」
明先輩と話していたアーネストが、こちらに来る。
「さて蓮華、そろそろ時間だぜ」
「はぁ、お前と男女で踊るとか、しかも私が女側とかホント人生どうなるか分からないよな……」
「お前が言うと重みが違うな蓮華」
皆が苦笑する。
だって、こんな事になるとか考えた事も無かったよ。
ブー!!
ブザーの音が聞こえる。
会場が暗くなり、舞台に光が差す。
ナレーションの生徒の説明が始まる。
さて、そろそろか。
「アーネスト、足踏むなよ?」
「はは、任せろよお姫様?」
「……」
ゴスッ!!
「ぐはっ!?お、お前、直前で鳩尾に肘鉄とか、どんな奴でもやらん事を……!?」
「やかましい!」
皆が笑う。
でも、良い感じに体の緊張は解せた気がする。
まさかこれを狙ってアーネストは……いや、ないな。
こいつは思った事をそのまま言う奴だから。
私が、そうだからね。
「うし、行こうぜ蓮華!」
「ああ、アーネスト!」
私達は舞台中央へ進む。
ホールの二階に、母さんや兄さん、ミレニアにシャルロッテ、それに大精霊の皆が人型になって見に来ているのが見えた。
そちらに笑顔を向けてから、アーネストと踊り始める。
この日の為に、一生懸命練習した。
踊りなんて、ほとんどした事が無かった私が、皆のお陰でこうして踊れている。
静かな、それでいて美しいメロディーと共に、アーネストと踊る。
そして、メロディーが終わり、拍手が巻き起こる。
その拍手が鳴りやまぬうちに、続いて音楽が鳴り始める。
会場の人達は驚いた様子だったが、私達は駆けてくる皆から衣装の上着を受け取り、それを羽織る。
皆それぞれに武器を持ち、ズラッと並ぶ。
そして、私とアーネストが前に出る。
まぁ私は横に居るだけだ。
「皆、今日は少し余興を楽しんでもらおうと思ってさ。俺達、この日の為にダンスの練習をしてきたんだ。それも、ただのダンスじゃねぇ。剣舞っていうのかな?それを組み合わせた踊りでさ。是非楽しんでくれよな!」
そのアーネストの言葉の後、凄い歓声が起こる。
そして、私達の目の前。
ホールに来ている人達からしたら、後ろ側。
そこから、私達が歌を流す予定だった、ボーカルの人達が現れた。
「なっ!?アーネスト!?」
「へへ、驚いたか蓮華?話をしたらさ、是非歌わせてくれって言ってくれたんだよ」
元の日本で言うなら、いきなりアイドルグループが私達の踊りの為に、歌いに来てくれた形だ。
会場がヒートアップする。
中央に立つリーダーが、私達に向かってマイクで言ってくれる。
「蓮華様、アーネスト様!今回私達の歌を使ってくれた事、本当に嬉しく思います!だけど、音楽媒体なんて使わずに、私達に直接歌わせてください!皆さん、凄くかっこよかったです!これは、私達からのお礼です、是非受け取ってくださいね!」
会場が湧き上がる。
熱い曲に想いのこもった、熱い歌。
それを聞きながら、私達はダンスを舞う。
スポットライトから感じる熱を、心地よく思いながら。
私達の踊りは、大盛況で終わりを迎えた。
-テラス-
体のほてりを冷ます為に、2階のテラスに来た。
皆はホールで思い思いに踊ったり、ディナーを楽しんだりしている。
「ふぅ……この世界でも、満月はやっぱり綺麗だ」
「ここで、お前の方が綺麗だとか言ったら、口説き文句だよな?」
なんて笑いながら近づいてくる。
アーネストだ。
「主役がこんな所で油を売ってて良いのかアーネスト」
「それはお前もだろー。良いんだよ、今日は皆が騒ぐ日だろ。ほれ、お前の分も持ってきてやったぞ蓮華」
そう言って、グラスを渡してくる。
「おい、私はワインは飲めないぞ」
「違げぇ!まぁ色的にそう見えなくはないけどな!」
知ってたので、笑って受け取って飲む。
さっぱりとした、のど越しの良い飲み物だ。
私達は、空を見上げる。
元の世界でも見た、満月。
とても綺麗だった。
「なぁ蓮華、お前はこの世界に来た事、後悔してるか?」
ふいに、アーネストがそんな事を聞いてきた。
「どうしたんだよ、アーネスト」
「良いから、答えてくれよ」
その質問の意図を測りかねる。
だから、私は思った事を言う事にする。
「全然。むしろ、ワクワクしないかアーネスト。まだまだ、私達の知らない世界が一杯あるんだぞ?それに、ユグドラシルとイグドラシルも皆と一緒に暮らせるようになったら、更に賑やかになると思わないか?」
「ぷッ……お前、もうそんな先の事まで考えてんのかよ」
「当たり前だろ!それに、母さんからの許可は得てるから、ユグドラシル領に遊園地作るぞ!」
「マジで!?」
「大精霊の皆の家を作った時に、すでに考えてたんだ。お前も乗るだろアーネスト?」
「当然だぜ!ってか、タカヒロさん達も混ぜてさ、皆で色々考えねぇか!?」
「ああ、それも良いな!」
なんて、話が弾む。
だけどふいに、静寂が訪れた。
「なぁ蓮華。俺もさ、この世界にきて良かったと思ってる。そりゃ、残してきた家族には悪いと思うけど……あの二人にも、俺が事情を話して別れを告げてきた」
「そうか……なんて、言ってた?」
「好きに生きなさい、お前の人生だ。だってさ。はは、まったくあの二人には敵わねぇよな」
あの二人、アーネストもそう言った。
そう、私達の母さんは、もうマーガリン母さんだ。
父親は、この世界では居ない。
だけど、それで良い。
私達には、血が繋がっていなくても、本当の家族が居る。
「さて、そろそろ皆の元に戻ろうぜ蓮華。ずっといないと、あいつら騒ぎだすぞ?」
「あ、あはは……そうかもしれないな。アーネスト、これからもよろしくな」
「おう!俺達でこの夢みたいな世界をさ、謳歌しようぜ!」
「ああ!」
私達は、皆の元へと歩みを進める。
母さんの想いと共に、異世界へと召喚された私達。
それから、色んな事があった。
まだ、学園生活は続いていく。
きっとこれからも、楽しい事はいっぱいあるだろう。
私はこの異世界を、もう一人の自分と共に謳歌していく。
私と俺の夢世界を。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
これにて、第三章学園編は終了となります。
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それでは、繰り返しになりますが、ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。




