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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第三章 学園編

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221.それから

「ぐ……ここは……」


「目が覚めたかの、大蛇」


 木々に囲まれたその場所は、少しの空間が草原となっていた。

 そこに寝かされていたのは、蓮華に倒されたはずの八岐大蛇だった。


「……何故私を助けた、メビウス」


「助けてはいない。お主は、体をもう失ったでな。今のお主はアストラル体ではなく、完全なアストラルボディになっているぞ?」


 本体である体がありながら、精神体として行動している場合、アストラル体という状態となる。

 しかし、その本体がなんらかの事情で存在しなくなった場合、完全な精神体、アストラルボディとなる。

 アリスティアが正にその状態だ。


「そうか。それで、冥界の王であるお前が、何故地上に居る?」


「あやつが地上を気にかけていたでな。私も少し見に来たのだが……お主を見かけて、酒のつまみにしておったのだ」


 そう言い、腰にぶらさげた瓢箪(ひょうたん)に口をつける。


「相変わらず、酒好きなのは変わっていないようだな」


「酒と温泉を知らぬのは、人生の半分を損していると思わぬか?」


 そう笑って言うメビウスに、大蛇は同意しなかった。


「それで、もう一度聞くが、何故私を助けた?」


「助けておらぬと……まぁお主に回りくどい言い方をしても仕方ないの。冥界に来ぬか?」


「私がか?」


「ああ。以前のお主は、アストラル体だったでな。長くは留まれなんだが……今のお主なら、もう大丈夫じゃからな」


 冥界は、魂の世界。

 現世に肉体を残した者は、特殊な結界に身を包まなければ、冥界では存在できないのだ。


「完全なアストラルボディとなったから、か」


「そうじゃ」


 考え込む大蛇。

 その姿を、冥界の王メビウスは興味深げに見つめている。


「……良いだろう。折角の誘いだ、乗ろう」


「ほぅ、私が言うのもなんだが、断られると思っておったぞ?」


「少し、思う所があってな」


 その言葉に、目を妖しく光らせるメビウス。


「ほぅほぅ。あのユグドラシルの娘に何か感化されおったか?」


「……黙れ」


「ふははっ!良いな、今のお主は昔より好感が持てるぞ?さぁ、ではゆこうか」


 歩き出すメビウスに、大蛇は続く。


「レンゲよ。今しばらくは、安寧の時を過ごすが良い。私は必ず、この地上へ戻ってくる。その時は……」


 そう呟き、大蛇は地上から姿を消した。



-天上界”ベルン宮殿”-



「これで、大丈夫でしょうウルズ」


「ありがとう、ラケシス……!」


 そう言って、バルビエルを抱きしめるウルズ。

 その姿を見て、ラケシスは慈愛の表情を向ける。


「ウルズ、貴女はようやく、周りが見えたのですね」


 その言葉に、ウルズはハッと目を見開く。

 この友人は、自分の事をずっと気にかけていてくれたのだと、その言葉で理解したのだ。


「……ありがとうラケシス。私、ユグドラシルと話せて、気がつけたの。私は、今が見えていなかった……ロキにも、言われたのにね」


 ラケシスは微笑む。

 友人の、久方ぶりに見る微笑みに、胸が温かくなるのを感じながら。


「ふふ、良いではないですか。全然、遅くはありません。それよりも、そろそろその子を解放してあげては?体を酷使させすぎていますから、その体も治療致しましょう」


「あ……ええ、ごめんねラケシス」


「ふふ、貴女からお礼と謝罪ばかり聞くのはくすぐったいですから、もう良いですよ。その代わり……」


「そ、その代わり……?」


 ゴクリと喉を鳴らすウルズに、ラケシスは笑う。


「今度からは、お互いに宮殿を行き来してお花見でもしましょうね」


「!!……ええ、そうね」


 天上界の最高神であるニ神。

 ウルズと交流を持たなくなってから数千年が経っていた。

 それは、お互いが過去を想い、今を見ていなかったから。

 すぐ傍に、同じ悩みを抱えた友が居たのに。

 二人はまた、同じ時を歩みだす。

 空白の時間を、取り戻すかのように。


「ロキと会ったら、今度は叱られないかしら……?」


 ふいにそう零すウルズに、ラケシスは苦笑してしまうのだった。





「ぎゃー!!もう勘弁してぇー!?」


「こら!逃げんな蓮華!取り押さえろ皆!」


「「「おおおおっ!!」」」


 なんなのこの一体感はぁ!?


「蓮華さん、大人しくしろぉ♪」


 アリス姉さん、楽しんでますねぇ!?


「確保ですわっ!!」


 カレンに背中から抱きつかれ、地面に転がる。


「ぐはぁ……!か、カレン、躊躇なく体当たりは酷いよ!?」


「だって、蓮華お姉様が逃げるからですわ」


「です!」


 そう言ってアニスまで抱きついて……いや、捕縛してきた、縄で。


「あ、アニス、どうして縄で縛るのかな?それもカレンごと……」


「カレンお姉様なら、蓮華お姉様と一緒なら喜ぶので大丈夫です」


「そういう問題じゃないよ!?」


「流石アニスですわ、もっときつく縛っても構いませんのよ……!」


「はい……!」


「はいじゃないからっ!!だって、痛すぎるんだよぉ!!」


 そう、私は八岐大蛇と戦った時の後遺症が出ていた。

 自身の許容量を超える力を行使したことによって、常に纏っていた障壁がなくなり。

 更に魔力が一切使えない。

 母さんが言うには、一時的なもので、体がビックリしてるだけだから、すぐ治るよって言ってくれたけど……。

 で、今はその体を癒すために、マッサージという名の拷問を受けていたんだけど……。


「バニラおばぁちゃんの施術、容赦なさすぎなんだよ!?皆も受けて見てよ!?」


 そう言ったら、露骨に目を逸らす皆。

 おい、それは良く知ってるのと同意だからな!?


「さぁレンちゃぁーん。観念しなさいねぇ?」


 バニラおばぁちゃんが、手をわきわきしながら近づいてくる。


「ひっ!?い、いやだぁぁぁぁっ!?」


 叫ぶも、縄に巻かれてて動けない。

 私はカレンごと連行された。

 そして医務室では、私の叫ぶ声が木霊(こだま)していた。


「おー、レンゲさんの叫び声が木霊してるねアーネスト」


「はは、まぁしょうがねぇよ。今のうちに体を解しておかないと、マナが戻った時にすげぇ痛みを伴うらしいからな」


「愛の鞭って事だね。アーネストは楽しそうだけど」


「はは、あの蓮華が本気で嫌がってるのが分かるからな、面白すぎるだろ」


「妹想いの兄だことで」


 そう笑いあう二人に、春花はぷんぷんと怒る。


「もうお父さん!それにアーネスト様!蓮華様本気で苦しんでるんだから、メッですよ!」


「はは、すまねぇ」


「い、いや、俺は違うよ春花!?」


「アーネスト様と一緒に笑ってたので、同罪です!」


「ぐはぁ……!?」


 四つん這いになる明に、アーネストは更に笑いだす。


「ま、蓮華の周りにはアリスも居るしな。そいや、ダンスは中止にならずに延期って事になったけどさ、春花ちゃんも一緒にやってみるか?」


「あの、私学園生じゃないですアーネスト様……」


「あぁ、そういやそうか」


 その見た目で、アーネストは勘違いしてしまうのだ。


「さーて、休憩も終わりだな。俺は生徒会から逃げるからよ、明も親子水入らずの時間、楽しめよ」


「ああ。春花はもうしばらく、こっちに居るからね」


「はいです。バニラ様が、ダンスパーティが終わるまで休暇で良いって言ってくれましたので!」


「そっか。やれやれ、この学園内だけでも処理が山積みだからな……あの量は流石に……」


「会長!見つけましたよ!!」


「ゲッ!?アリシア!」


「私に全て押し付けるとか酷すぎますからね!?今日という今日は、絶対に逃がしません!タカヒロ、そっち!」


「おう!」


「な、タカヒロさんまで!?」


「流石にあの量は俺も捌けん。机が書類で埋まってるぞ、観念しろアーネスト」


「うげぇ……」


 逃げる事を止め憔悴するアーネストに、明と春花が笑う。

 そうして、アーネストもアリシアとタカヒロに連行されていった。


「さて、俺達も何か手伝える事をしに行こうか春花」


「お父さん、どうしてそれをアーネスト様に言ってあげないんです?」


 春花の純粋な疑問に、明は笑顔で答える。


「友達に面と向かって言うのは気恥ずかしくてね。あいつは会長室で仕事をするはずだから、その外の部屋で皆の手伝いなら、さりげなく手助けができるだろう?」


「お父さん……ふふ、私も手伝える事があるなら、言ってくださいね!これでもデスクワークは得意なんですよ!」


「そうか、春花もこの世界で仕事をしてきたんだったね。俺よりももう先輩かもしれないね?」


「あはは!」


 二人の親子は、笑いながら生徒会室へと足を運ぶ。

 空から暖かい光が差し、ゆるやかに時は流れていた。



-その夜-



「ま、まさか一日中施術を受けるなんて思ってなかったよ……」


 部屋の中でぐったりする私に、アリス姉さんとセルシウスが苦笑する。


「蓮華さんが逃げなければ、もうちょっと早く終わったと思うよー?」


「いやだって、あれ痛すぎるんだよ……こう、雑巾を絞るみたいに体を絞ってくるんだよ?死ぬよ……」


「ま、それも今日で終わりでしょう?明日からは、ダンスの練習を再開するのよね?」


「そうだね。別に中止でも良かったのに……」


 遠い目をする私に、二人も苦笑する。


「蓮華さん、マーガリンにロキ、それにミレニアも来るって言ってたから、例え中止にしててもする事になったんじゃないかなぁ」


 ……うん、ミレニアはともかく、あの母さんや兄さんなら、するな。


「それでね、蓮華さん」


 いつになく真面目な顔で話しかけてくるアリス姉さんに、私も居住まいを正す。


「なにかな、アリス姉さん」


「ユーちゃんはどこ?」


「へ?」


「ユーちゃん、居たよね!?蓮華さん、ユーちゃんを隠してるよね!?」


「お、落ち着いてアリス姉さん!?別に隠してはないよ!?」


「だって、あの時ユーちゃんだったよね!?ユーちゃんだったもん!」


 激しく興奮してるアリス姉さん。

 ダメだ、私じゃこうなったアリス姉さんは止められない。

 ユグドラシル、へるぷみー!!


"はぁ……蓮華、貴女何も説明しなかったんですか……"


 いやだって、する暇一切なかったよね!?

 あの後、シオンさんが倒れてて、治療に取り掛かって。

 それで一日過ぎて、翌日は私が倒れちゃって。

 その間に、外では母さんが全国の王様達と話をして、修繕にかかる費用を全て母さんが負担してくれるとか、凄い話をテレビで聞いて。

 税率とかもしばらく10分の1になるみたいだった。

 まぁ、国ごとの話は私には分からないけど。

 で、私は私でその後治療を受け始めて、今の今までゆっくり話す事もできないでいた。


「落ち着きなさいアリス。これで良いですか?」


 髪が緑色に変わり、ユグドラシルが表に出る。

 セルシウスも滅多に見せない驚いた表情をしていた。


「ユー……ちゃん……ユーちゃん!!」


 アリス姉さんが、抱きついてきた。

 いつもの力強い抱擁ではなく、酷く弱々しい抱きしめ方だった。

 そんなアリス姉さんを、ユグドラシルは優しく抱きしめ返した。


「アリス、久しぶりですね。マーリンの為に、その身を無くしてしまったのですね……」


「そんな事、別にどうだっていいよ!それよりユーちゃんが……!」


「また貴女はそうやって、自身の事をないがしろにするんですから。いけませんよ、大事な事でしょう?」


「それ、ユーちゃんにだけは言われたくない……」


「あら、そうですか?」


 なんて、二人微笑み合う。

 うん、私の知らない時間が、二人にはある。

 それが分かるから、ちょっと寂しい気持ちもあるけど……二人が本当に仲良しなのは、今の会話だけでも分かった。

 ユグドラシルを、なんとかこの世界に戻してあげられないかな……。

 そう考えていたら、ユグドラシルが言う。


「アリス、私がこの世界に現界できるとしたら、精霊女神であるアリスの力が絶対に必要になります。なんとか、体を戻してくださいね?」


「え、えぇぇ!?なにそれ、それを先に言ってよぉ!?」


「いえ、私も気付いたのは蓮華やアーネスト、それにノルンを見てだったので。あの時は気付いてませんでしたから」


「ぐぅ、相変わらず、しっかりしてそうで抜けてるんだからー!あれ、なんか、そこはかとなく蓮華さんもそうなような……?」


 なんで私がそこで登場するんでしょうかアリス姉さん。

 セルシウスなんかめっちゃ笑ってるんですけど。


「ふふ、というわけで、なんとか体を取り戻してくださいねアリス?」


「あうぅ……後でマーガリンとロキにも相談してみるよ……」


 アリス姉さんの本当の姿か、どんな姿なんだろう。

 今でも天使みたいに可愛いのに。


「そうですね、アリスの本体は凄く美人ですよ蓮華。このアリスをそのまま成長させた感じですから」


「ふぇ!?」


「あ、ごめんなさいアリス。蓮華が今でも天使みたいに可愛いのに、どんな姿なんだろうって言うものですから」


「ちょ、ちょっと蓮華さん!?」


 いやその、真実だからあれなんだけど、それをそのまま伝えるんじゃないよユグドラシル!?


「ふふ、ごめんなさい。あら……私が表に出る事で、蓮華の魔力が少し戻ってきましたね。もう少しだけ、このままで居ましょうか」


 私はそれで構わなかったので、了承する。


「それじゃユーちゃん、今まで心配かけた罰として、私を抱きしめるよーに!」


 なんて可愛らしい事を言ってくるアリス姉さん。

 ユグドラシルは笑って、アリス姉さんを再度抱きしめた。

 幸せそうな表情のアリス姉さんを見て、私も幸せな気持ちになるのだった。



 翌日からは皆で集まって、ダンスの練習を続けた。

 そうして、ダンスパーティ当日がやってきた。


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