220.皆の想いを込めて
「レンゲよ、私が頭と首だけなのを不思議に思わなかったか?」
「別に。そういう存在なんだって思ってたよ」
「ククッ……そうか。だが、当然私にも体はある。遥か昔、古の神々に封じられた為に地下深くに眠っていた」
「眠って、いた?過去形なのか?」
「そう、つい先ほどまでは、な」
「!?」
「封の鍵を担っていたエンシェントドラゴンが倒れた今、もはや私の体を縛る物は何もない!見せてやろうレンゲ!私の真の姿を!!」
エンシェントドラゴン、つまりシオンさんが、倒れた。
その事にも驚いたけど、地下から感じる悪寒。
鳴りやまない地響き。
これは、マズイ……!
「アーネスト、皆を避難させてくれ!」
「……分かった。確かにこれは、皆にどうこうできる問題じゃねぇな」
そう言って、アーネストは皆の元へ飛んでいく。
八岐大蛇は、動かない。
眼光も光を失い、黒くなっている。
今のうちに倒したら……そう考えたけれど、体が動かない。
なんだ、これ……恐怖、か?
地面から、巨大な体が出現する。
まるで地面から生えたような巨体。
足はない、地面の下にはあるのかもしれないけど。
頭が九つ、それにあれは腕だろうか、それが体から二本生えている。
首の集まるその体には、凄く大きな、歪な色をしたクリスタルが埋め込まれているように見える。
体が竦むって、こういう事を言うのか。
恐怖に飲み込まれそうになる。
こんな化け物に、私は……。
弱気になりそうだった私に、皆に指示を出し終えたアーネストが近寄って言ってくれた。
「へへっ……ドキドキするけどさ、お前が居るから、なんとかなる気がするんだよな。やろうぜ、相棒」
そう笑って言ってくれるアーネスト。
まったく、お前って奴は……。
「その言葉、そっくりそのまま返すよアーネスト。ああ、やるぞアーネスト!」
弱気になりそうだった気持ちを投げ捨てる。
私は、一人じゃない。
アーネストが居る、皆が居る。
体が出現し、一つとなった八岐大蛇。
「的が絞りやすくなって大変結構だな八岐大蛇」
「ククッ……この私の真の姿を見ても、その威勢を保てるのは評価しようレンゲ。だが、この私の特殊能力を前に、動けるのは貴様達二人だけのようだぞ?」
「「!?」」
見れば、私とアーネスト以外、地面に座り込んでいる。
どうしたって言うんだ!?
「私と戦える資格を持つ者は、貴様達だけという事だ。転がられていても邪魔だ、まずは掃除をするとしようか」
八岐大蛇の口に、力が収束していくのが分かる。
マズイ、あんなものを撃たれたら!
私は八岐大蛇の前に立ち塞がる。
「そうだな、貴様はそうするだろうと思っていた。そして、避けまい!消えろレンゲ!『八又の波動・カラミティブラスト』」
ゴオオオオオッ!!
凄まじい音を立てながら、全ての頭の口から光線が放たれる。
私はソウルを前に構え、その光線を受け止める。
ズズッ……!
「ぐぅぅっ……!!」
その凄まじい力に、少しづつ後ろへ下がってしまう。
「蓮華っ!!」
ソウルに、ネセルが合わさる。
「アーネスト!」
「これは、俺が引き受ける……!お前は、行けっ!」
「!?何言ってるんだアーネスト!」
「聞け!あいつがとんでもねぇ強さなのは、魔力の感じで分かるだろ!悔しいけど、今の俺じゃ届かねぇ!でもお前なら……ユグドラシルの力を宿したお前なら、やれるはずだっ!」
「でもっ!!」
「良いか!奴も攻撃を放っている今、それを撃ち終えた後には隙ができるはずだ!その隙を、狙え!この攻撃は俺が、絶対に霧散してやる!皆には届かせねぇ!」
「アーネスト……」
「行け!蓮華!!」
「っ!!」
私はソウルを引き、空へと跳躍する。
アーネストは、笑った。
私に、全てを託してくれた。
だから、ソウルを鞘に納める。
魔力を、溜める。
アーネストが作ってくれるチャンスを、絶対に逃がさない為に。
「蓮華、頼んだぜ……。さぁネセル!お前の力、こんなもんじゃねぇよな!?俺も全力を出しきる!お前も、余裕ぶってんじゃねぇぞ!!」
アーネストの全身から、黄色い光が輝き始める。
オーラとは違う色。
戦いの最中だというのに、綺麗だと思ってしまった。
「おおぉぉぉぉぉっ!!」
そして、ネセルを振りぬく。
八岐大蛇が放つ光線が、霧散するのが分かる。
「なんだとっ!?」
「いけぇ、蓮華ぇぇぇっ!!」
「!?」
八岐大蛇が驚く。
だけど、遅い。
私は、アーネストが作ってくれたこの時を、無駄にはしない。
「その首、千切れろっ!『ユグドラシル流居合術極の型・斬鉄』!!」
バシュゥッ!!
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
八岐大蛇の首が、九つ全て分断される。
断末魔をあげる八岐大蛇。
倒した、そう思った。
だけど……。
「ククッ……見事だ、レンゲ。しかし、私は首を落とされても死にはしないのだ」
斬り落とした首が、再生する。
「!!」
「攻撃の後は隙が出来る、だったか?貴様にもそれは当てはまろう、レンゲ」
ドゴオオオオ!!
「ぐぅっ!?」
ドサァッ!!
「蓮華っ!?」
八岐大蛇から放たれる魔法に、直撃する。
空から落とされてしまった。
ダメージを受けはしたけれど、少しづつ癒えていく。
すぐに空へと戻る。
「ほぅ……流石は神界最強の女神、ユグドラシルの化身だな。私の魔法を直撃して、その程度のダメージである事もさることながら、そのダメージすら、癒えつつあるか」
「お前もな八岐大蛇。倒したと思ったから、油断したよ」
「貴様を倒すには、ただ闇雲に攻撃をするだけでは倒せないようだ。ならば、私の最強の魔法で、貴様を屠ろう、レンゲ」
八岐大蛇の体から、闇が広がる。
月の大精霊ルナマリヤによって、私は夜の暗闇を感じない。
だと言うのに、その闇は黒く、漆黒の闇が垣間見える。
集まっていく闇。
その凄まじい魔力は、私よりもすでに圧倒的に高い。
「この世界とお別れは済んだか?さぁ、死ぬが良いレンゲ!『極限の闇・ファイナリティデッドエンド』」
周り全てを覆い尽くすかのような、凄まじい闇。
闇が悪いわけじゃない。
闇は、月を輝かせてくれる。
眠る時に、優しく包み込んでくれる。
闇があるから、光もまた存在できる。
眩しすぎる光は毒にもなるんだ。
闇と光、共存する存在。
けれど、この破壊の為の闇は、許すわけにはいかない。
「光よ!闇を打ち払えっ!『エターナル・インフニティ』!!」
八岐大蛇の放つ闇の波動を、光の波動で相殺する。
しかし、闇が徐々に光を侵食していく。
「ククッ!その程度ならば、このまま闇で覆い尽くしてやろう……!」
八岐大蛇の力が増幅されていく。
くっ……このままじゃ……!
「蓮華ぇぇぇぇっ!!」
アーネストの呼ぶ声が聞こえる。
「お前は一人で戦ってんじゃねぇぞっ!俺達もいる!俺達の力を、持って行け!世界樹は、普段俺達にマナって力をくれてるだろ!その逆だ!俺達から、力を持って行け、蓮華!!」
皆の、力を……!?
ユグドラシル、そんな事が可能なの!?
"可能、といえば可能ですね。私はマナを放出していますが、それを取り込んだ場合、純粋なマナではなく、その人の持つ専属のマナに変わるのです。それは、単純なマナよりも強い物。それを更に力として集めるのでしょう?『エターナルマナ』と呼ぶのですが、今の蓮華に扱えるか、見させてもらいますね"
そう言って、ユグドラシルが微笑んだ気がする。
「……お願いだ、皆!皆の力を、貸して欲しい!私だけの力じゃ、勝てないかもしれない。だから……!」
「みなまで言うんじゃないわよ、蓮華!持って行きなさい!どうすれば良いの?手をかざせばいいの?」
「ノルン……!うん、手を空へ、力を空へ!」
この場に居る皆が、手を空へ掲げてくれる。
私の元へ、力が集まる。
あったかい……これが、皆の想い。
伝わってくる、熱い想いが……!!
「おおぉぉぉぉっ!!」
「ぬっ……!?」
力が拮抗する。
これだけの力を集めても、駄目なのか!?
「蓮華お姉様……!」
「蓮華……くそ!どうすりゃいい、あと一歩なのに……!」
皆の言葉が聞こえてくる。
そんな時に、優しい声が聞こえてくる。
"ユグドラシル領に集まっている皆さん。今、私の息子と娘、そしてその仲間達が、巨大な八岐大蛇と戦っているのは見えていますね。しかし、このままでは負けてしまうでしょう。今、あの子達は窮地に立たされている。それを救えるのは、この映像を見ている貴方達なのです。さぁ、力を貸したいと思ったならば、手を空に向かって掲げてください。あの子達の力になりたいと、想ってくれるのならば"
母さん……!
瞬間、世界が震えた気がする。
とんでもない力が、ヴィクトリアス学園へと向かってくる。
それは私の中へ、吸収されていく!
「これ、はっ!?」
「馬鹿な、こんな、事が!?」
八岐大蛇も驚愕しているのが分かる。
でも、私だって驚いている。
こんな、こんな凄い力が、集まるなんて……!
分かる。
これは、この力は、この想いは、この世界全ての人のもの。
私は、皆から託されたんだ。
……負けられない。
負けるわけ、あるかっ!
「八岐大蛇!お前が望む世界の果てに、この力は存在するのか!?」
「!?」
「皆の想い、私が預かった!この力で、お前を倒すよ!いけぇっ!!『エターナルリヴァイヴァー』!!」
「おぉっ……!おぉぉぉぉっ!?これ、が、これが光の力だと、いうのかぁぁぁぁっ!!」
飲み込まれそうだった深い、闇の力。
それを、更に大きな光が包み込んでいく。
その光は、やがて八岐大蛇をも飲み込んでいく。
「ぐぅぅぅぅっ!!レン、ゲ……!私は、間違っていたとは、思わぬ……思わぬが……!こん、かいは……貴様の、勝ちだ!ぐあああああああっ!!」
光が、地上から空へ向かって伸びる。
爆発が起こったかのように弾け、虹のように光が降り注ぐ。
八岐大蛇が居た場所には、大きなクレーターが残されていたのみで、その姿は完全に消え去っていた。
「勝った、のか……」
私は地上に降り、座り込む。
そこへ、アーネスト達が駆けつけてきた。
「蓮華!やったな!」
「「蓮華お姉様ぁぁぁっ!!」」
「ちょ、まっ!?ぐぇっ!!」
カレンとアニスに飛び掛かられて、転ぶ。
「ふふっ、たくアンタは」
ノルンも笑ってる。
皆が集まってくる。
だけど、その中に奏音ちゃんの姿は無かった。
おのれ、逃げたな奏音ちゃん。
生徒の皆も、歓声を上げている。
勝ったんだ。
私も脱力して、そのまま寝転がる。
まぁ、これからが後始末大変だろうけど……そこら辺は大人に任せよう、うん。
え、私も大人だろって?
外見は15歳ですからー!




