217.VS八岐大蛇
八岐大蛇の最後の頭は、今まで戦った頭とは比較にならない強さだった。
炎・氷・雷を絶え間なく放ってくる上に、暴風で体の動きを制限され、重力の力で引き寄せられたり、地面に落とされそうになったりする。
おまけに、召喚の力もあるようで、魔物達がどんどん増える。
しかも、その魔物達の強さが、先程まで召喚されていた時よりも強くなっているようで、皆が押され始めた。
「アーネスト!皆を頼む!」
「蓮華……分かった、危なそうならすぐ戻る!」
「ああっ!」
アーネストには皆の指揮を頼んだ。
徐々に押され始める戦況を、なんとか打破しようと八岐大蛇に攻撃を仕掛けるが、硬い鱗に覆われたその表面に、傷をつけられない。
「くっ……!斬鉄さえ使えれば……!」
そう小さく零した声を、ノルンが聞こえたみたいで、言ってくれた。
「蓮華、アンタにはアイツを倒す手段があるのね?」
「ノルン……うん、私の使える技の中でも、絶ち斬る事に関しては最強の技があるんだ。でも、この技は溜めが要るし、直線上に味方が居たら、巻き込んでしまう」
「オーケー、ならその時間は私が稼ぐ。アリシアは会長にも話して、戦線を移動させて」
「了解ですよノルン。蓮華さん、この位置からの後方、という事でよろしいですか?」
「うん、頼んで良いかな?」
「ええ、任せてください。こんな事で、以前のお詫びになるとは思っていませんが、力をお貸しします」
そう言って微笑み、アリシアさんはアーネストの元へ行く。
会話してる間も、八岐大蛇の攻撃は絶え間なく続いている。
回避しながら、ノルンは言う。
「蓮華、私が絶対にアンタに攻撃は通さない。だから、安心してぶっ飛ばしなさい!」
「ノルン……うん!任せるよ!」
八岐大蛇に視線を向けるノルン。
その手に持つ剣は、タイムの花がモチーフにされている。
花言葉は「活発」「行動力」そして……「勇気」という、ノルンにピッタリな花だと思う。
その後姿を見て、私は嬉しくなる。
あのノルンと、一緒に戦えて……私を信じて、力を貸してくれる。
期待には、応えないとね!
私はソウルイーターを鞘に納める。
それを確認した八岐大蛇が、私を警戒するように声をあげる。
「その技は一度受けたな。撃たせはせぬっ……!」
私目掛けてブレスを放つ。
でも、私の前にはノルンがいる。
「させない為に、私が居るのよ。波動を、斬れ!『ルーンセイバー』!!」
八岐大蛇によって放たれたブレスが、真っ二つに割れる。
海を裂くって、こういう事を言うんだろう。
簡単にとんでもない事をやってのけるノルンに感嘆しながら、私はソウルに魔力を込めていく。
「おのれ、イグドラシルの化身が、ユグドラシルの化身を守るか……!!」
その言葉に、鼻を鳴らすノルン。
つまらない、そんな態度に感じる。
「フン、馬鹿じゃないの。私はユグドラシルを守ってるつもりはないわよ。ま、結果的にそうだとしてもよ?私が今ここに居るのは、友達の為よ!」
そんな、普段なら絶対に言ってくれないだろう言葉を、ノルンははっきりと言う。
嬉しいな、ノルンもそう思っていてくれた。
気持ちが、力になる。
湧き上がる想いを、魔力に変えて。
私の全身を光が包む。
「蓮華ー!皆は下がらせたぞっ!!」
アーネストの声が聞こえる。
私の直線上に居るのはノルン、そして八岐大蛇だけとなる。
「蓮華、アンタの力、見せてもらうわよ!」
そう言って、私の後ろへ『ワープ』する。
私は八岐大蛇へと視線を向ける。
「八岐大蛇!これが防げるものなら、防いでみろぉっ!!『ユグドラシル流居合術極の型・斬鉄』!!」
音速を超える光速の衝撃は、八岐大蛇の首を上下に分断する。
この居合術は、確実に物を『絶つ』奥義だ。
元々の居合術と、ユグドラシルの剣技の複合技。
必ず『絶つ』という性質は、ユグドラシルの力によるものだけど。
音速は約340m/sだけど、光速は約30万km/sとなる。
これは1秒間に340m進む、1秒間に30万km進む、という事なんだけど、その差なんと約88万倍。
どれだけのスピードの差があるか、言葉にしたら分かってもらえると思う。
その速さで放たれる衝撃を、避けるなんて不可能だ。
上下に分断され地に落ちる瞬間、八岐大蛇が笑った気がした。
地面に大きな音を立てて崩れ落ちた後、最後の頭が出た時と同様、凄まじい地響きが起こる。
「蓮華さん!気を付けて!次が、最後だよ!全部いっぺんに出てくるよ!!」
「なっ!?」
その言葉に、生徒達全員衝撃を受ける。
ウルズが去った後、アリス姉さんは戦いに参加しなくなった。
恐らく、母さん達と同じように、何かあるんだろう。
ユグドラシルも言っていた。
ウルズは神だから、相手を自分がすると。
そんなアリス姉さんからの警告。
「アーネスト!前線を下げさせてくれ!どこに出るか分からないし、全部出るなら、最悪避難させてくれ!」
私はそう叫んだ。
でも、皆は違った。
「蓮華様!俺達も戦わせてください!」
「私達も戦えます!蓮華様達の力に、ならせてくださいっ!!」
皆、戦い続けて満身創痍だ。
だと言うのに、目の前に死の可能性があるというのに、そう言ってくれる。
誰一人、引こうとしない。
「……分かった。でも、危ないと思ったら退く事、それだけは守ってね皆」
「「「はいっ!!」」」
だから、私の方が折れる事にした。
皆、まだ目が死んでいない。
士気も高い。
あれだけの力を誇る八岐大蛇を見ても、逃げない、立ち向かう。
私はここの生徒達が、国の未来を担うのなら、きっと大丈夫……そう思えた。
地響きが続く。
どこから頭が出現しても良いように、油断なく構える。
すると、私の足元から、私を囲うように九つの頭が出現する。
「!!」
「「蓮華っ!!」 」
九つの頭の双眸に睨まれる。
八岐大蛇が口を開く。
「貴様さえ倒せば、私の勝ちだろう。私の糧となれ、レンゲ=フォン=ユグドラシル!!」
全方位から迫りくる大きな口。
私を飲み込むつもりなのだろう。
避けられる隙間は無い。
バクゥ!!
「蓮華ぇぇぇー!!」
「蓮華!?」
「「「そんな……!!」」
「ククッ……実に、あっけなかったな。しかし、私の頭を全て倒すとは恐れ入った。敬意を表し、貴様ら一人一人、丁寧に踏み潰してやろう……!」
「何があっけなかったんだ?」
「な、に……!?」
自信満々に私を飲み込んだと思っている八岐大蛇の後ろから、普通に声を掛ける。
皆、私が飲み込まれたと思ったのかな?
「「蓮華!!」」
「いや、あんなので飲み込まれるわけないじゃん。『ワープ』使えば後ろに回れるよ、残念だったね?」
なんて笑って言ったら、皆が歓声を上げた。
「ククッ……やはり、貴様を倒すには、その身を粉々に砕くしかなさそうだな」
九つの頭の双眸が、私を捕えて言う。
普段なら、これだけ巨大な化け物に睨まれたなら、気圧されてしまっていただろう。
だけど、ここには皆が居る。
それが、私の心を強くする。
「やれるものなら、やってみなよ」
私はそう言い、ソウルを構える。
さぁ、これを倒せば終わりだ。
明日を皆と楽しく迎える為に……倒させてもらうよ、八岐大蛇!




