215.VSウルズ② ☆
-アーネスト視点-
蓮華からユグドラシルへと変わる。
姿は髪の毛の色が変わるだけのはずなのに、雰囲気ががらりと変わった感じがする。
蓮華はなんていうか、綺麗なんだけど話しやすい雰囲気を纏っているっていうんだろうか。
それに対してユグドラシルは、どことなく神聖さを感じる。
母さんや兄貴が特別視してるって点の先入観もあるかもしれないけどさ。
顔つきも、どことなく凛々しく感じる。
そんな事を考えていたら、ユグドラシルがこっちを見て微笑んだから、驚いてしまった。
どうやら、俺とノルンを見たようだ。
見惚れてて会話を聞き逃してしまった。
「ユグドラシルとイグドラシルの化身達、が?」
「ええ。今はまだ可能性です。けれど、これまで待てたのでしょう?ならもう少し、見守れませんかウルズ」
どうやら、これで解決って感じだな。
ウルズは戦う気を無くしたみてぇだし、後は八岐大蛇を片付ければ良いだけだな!
そう気合を入れ直していたら、ユグドラシルがとんでもない事を言う。
「まぁそれはそれとして。ちょっとオイタをしたウルズには、友神として、お仕置きが必要ですよね?ほら、多くの方達に迷惑を今もかけているわけですからね?」
そう言いながら、ソウルイーターを構えるユグドラシルを見て。
「ちょっ!今良い感じに終わりそうだったよな!?」
思いっきり突っ込んじまったよ。
いや、だってしょうがねぇじゃん!
綺麗にまとまりそうだったじゃん!
なんでそこで、そんな流れになるんだよ!?
「それはそれ、これはこれですよアーネスト」
なんて微笑んでくるユグドラシルに見惚れ……じゃなくて、唖然としてしまう。
イメージしてたユグドラシルの印象が、どんどん変わっていくんだけど!
見た目はすっごい神聖な風格なのに、中身が蓮華にちけぇ!
そうか、だから蓮華が選ばれたのか!?
ってそれ言ったらブーメランだな。
色々考えていたら、ユグドラシルとウルズが戦いを始めた。
お互いに空を駆け、刀と拳で戦っている。
なんだこりゃ、バトルアニメでも見てる気分だぜ……。
なんで普通に空飛んで戦ってるんだよ!
ってそういや、古代魔法『フラート』ってのを使えるようになったって言ってたな。
蓮華が使えるんだから、ユグドラシルも使えて当たり前なのは分かるけど……今度俺も教えてもらおう。
そんで、蓮華と空中戦だっ!
考えるだけでワクワクしながら、二人の戦いを見守る。
ユグドラシルの一閃をウルズは避ける。
避けるのは良いんだが、その一閃は衝撃波となり、避けた先の多くの魔物達へとぶつかる。
魔物達は避けられず、そのまま消えていく。
召喚された魔物だからなのか、死体が残らない。
その代わり、すぐにまた召喚されるのだが……。
ウルズの『双導気流掌底破』を、ユグドラシルは流れるような動作で受け流した。
すげぇ、まるで柳みたいだ。
その力に立ち向かうんじゃなく、力の方向を変えて受け流す。
一つの、戦い方の極みなのかもしれない。
ウルズの使う魔法も、さっき戦った時に凄まじい威力なのは身をもって知ってる。
それを、ユグドラシルはいとも簡単に打ち消す。
ウルズは確かにとんでもない強さだった。
だと言うのに、ユグドラシルは更に上をいっている。
「はぁはぁっ。ユグドラシル、流石に強いわね。これでも全力なんだけれど……」
「ふふ、その体の、でしょう?ウルズの全力なら、こんなものではないでしょう」
「それを言ったら、ユグドラシルだってそうじゃない」
「いいえ?私は本体からマナを供給してますので、そうでもないですよ?」
「え……ちょ、それズルくない!?私最初から勝ち目ないじゃない!?」
「だから言ったじゃないですか?お仕置きだって」
「……」
うわぁ、大人気ねぇ……。
魔物達には攻撃が行ってるが、幸い生徒達には衝撃波も飛んでいない。
いや、多分ユグドラシルがそこら辺も計算しているんだろう。
「ねぇ会長、あの二人の戦いを見るのも良いけど、この間に八岐大蛇の首を狩りましょ」
いつの間にか、俺の横に居たノルンとアリシア。
そう言われ、俺も頷く。
「そうだな、召喚の首を倒せば、タカヒロさん達だって手が空くだろうしな。よし、行くかっ!」
ユグドラシルとウルズの戦いを見守るのを止め、俺達は八岐大蛇へと向かう。
途中魔物達が立ち塞がるが、壁にもなりはしない。
「邪魔だっ!!」
斬り捨て、進む。
左右にはノルンとアリシアが居る。
二人も強い、魔物達を蹴散らしていく。
アリスは二人の戦いを見守っているようだったから、そっとしておく事にした。
ユグドラシルを、見ていたいだろうからな。
なまじ俺達の近くにいるから、忘れやすいけど……母さんや兄貴と同じ時を歩んだ人なんだ。
それに、アリスにはずっと助けられてきた。
頼ってばかりいられねぇ!
「会長、首の周りは私達で一掃します。会長は頭を仕留めてください」
「おう、任せろアリシア!」
二人が魔法を使い、魔物達によって防がれた首へ一直線の道を、開いてくれる。
「おおおぉぉぉっ!!」
俺は声を出しながら、駆け抜け、駆け上がる。
八岐大蛇が首を振り回すが、振り落とされる事はない。
別に八岐大蛇の体を支点にはしていないからだ。
上に駆け上がる為の足場、ただそれだけ。
一気に駆け上がり、頭へと到達する。
巨大な眼が、俺を睨んでいる。
「ネセル、ぶった斬れ」
頭から空中へと跳躍する。
原子回廊の魔力を込め、ネスルアーセブリンガーを超巨大化させる。
「グオオッ!?」
「そのまま、真っ二つになりなぁぁっ!!」
ズバァァァァァッ!!
「グギャァァァァァァッ!!」
遥か上空から、地上まで重力をプラスして、斬り落としていく。
首は二つに分かれ、地面へと倒れた。
「ふふ、会長お見事です」
「ったく、とんでもない倒し方するわね」
「へへ、巨大化って男のロマンだろ」
笑って言う俺に、二人は苦笑する。
女の子には分からねぇかなぁ。
蓮華ならノリノリでそうだよなっ!とか言ってくれそうだけど。
っとそうだ、蓮華は!?
空を見上げると、二人の戦いはまだ続いていた。
戦いというか……もはやウルズが防戦一方に見えるけどさ。
「さて、これで後はあの二人の戦いが終わったら、終わりか?」
「そうね……」
とノルンが同意しかけたその時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
凄まじい地響きと、今までにない地面の揺れを感じる。
「な、なんだぁ!?」
「アーくん!」
アリスが駆けてきた。
「どうしたアリス!」
「召喚の頭で、合計八つの頭を倒したんだよね!?」
「あ、ああ!それがどうしたんだ!?」
「忘れちゃったの!?八岐大蛇は、合計九つの頭なんだよ!」
「あっ!」
そうだった。
八岐大蛇って言うから、つい頭の中で八つの頭と勘違いしてしまう。
この八岐大蛇は、九つだったな!
「最後の頭が、出るよ!これが、八岐大蛇の本当の頭だよ!」
「!!」
ドオオオオオオオッ!!
凄まじい音を立て、今までの首の中でもひときわ大きい、巨大な頭が出現する。
そう、丁度ユグドラシルとウルズを分断するように。
「八岐大蛇……」
「貴方、邪魔よ!私とユグドラシルの間に入らないで頂戴!」
「イヴ、いやウルズ。貴女はもう、用済みだ。この世界を争い溢れる世界にする気が無いのならば、死ね」
その大きな牙が、ウルズを飲み込もうとする。
「調子に……!っ!?体が、動か……!?」
避けようとしたウルズだったが、その体が止まる。
多分、イヴの体が限界を迎えたんだ。
ユグドラシルが助けようと動くが、駄目だ、間に合わない。
瞬きをするよりも一瞬の出来事。
ウルズは、その大きな牙に噛み砕かれ……てはいなかった。
変わりに、あれは……誰だ?
背中に羽がある。
天使、か?
その男が、体に牙を突き立てられていた。
ウルズを、突き飛ばして。
「ゴフッ……!う、ルズ様、ご無事、ですか……」
「ば、バルビエル!?」
あいつが、バルビエル!?
以前タカヒロさんの体を乗っ取ってた奴か!?
「よか……た……。ウルズ、様が、ご無事で……ゲホッ……」
「バルビエル、貴方、どうしてここに……!」
「私、は……ただ、ウルズ様が、微笑んでいるお姿を見るのが、好きでした……。ユグドラシル様を失い、毎日やつれていくウルズ様をお見掛けするのが、辛かった……」
言葉を終える前に、八岐大蛇はバルビエルを地上へと吐き捨てる。
ドサァッ……!
それを見た俺は、頭に血が上る。
野郎っ……!
男が、大事な事を言ってる時にする事じゃねぇ!!
バルビエルは確かに敵だった。
だけど、あいつはウルズを守った。
そんな男に、あんな扱いをされて、黙っていられるかっ!
強化魔術と強化魔法を併用させ、一瞬でウルズの所まで行く。
「ウルズ、バルビエルの所へ行けっ!」
「え?」
「あいつは、お前に伝えたい事があるはずだ!行ってやれ!」
「……!恩にきるわ、アーネスト」
ウルズはバルビエルの元へと飛ぶ。
俺は八岐大蛇へと視線を移す。
「お前、あいつらは仲間じゃねぇのかよ」
「青いな。仲間など不要。仮にいるなら利害の一致の協力者だ。戦場で敵味方を意識して戦うのか?敵がいるなら、協力者ごと倒せば良かろう」
「テメェッ!!」
反吐が出る考えだ。
俺はこういう奴は大っ嫌いなんだ!
「俺がぶっ倒してやるよ!」
「フ……他の頭を倒したからと、調子に乗るな。一にして全。それが八岐大蛇だという事、教えてやろう……!」
-アーネスト視点・了-
ウルズを庇い、全身を噛み砕かれたバルビエルは、地上の毒素も合わさり、もはやその命は風前の灯火に思われた。
「バルビエル、どうして私を……」
「ウルズ様……ユグドラシル様と、お会いできたのですね」
「!!」
「表情が、昔に戻られました、から……すぐに分かり、ました……。私、は……ただ、ウルズ様の笑顔が、微笑む姿を……見ていたかった。ただ、それだけ、なのです……」
「私、私は、ユグドラシルやイグドラシル以外、どうでも良いと言ってきたでしょう……!どうして、そんな私に……!」
「私は……アークエンジェルと成りました……ですが、力こそあれど、誰も私を気になどかけてはくれなかった……。なのに、ウルズ様だけは……そんな私にも、優しくして頂けた……。恋心、ではありません……憧れ、や、この方の力に、なりたいと……そう、思っていたのです……ゴホッ!」
「バルビエル!」
自分の想いを告げ、咳き込むバルビエル。
その口からは血が零れる。
「ウルズ様が望むなら、地下世界など壊しましょう……ウルズ様がお守りするのなら、地下世界をお守りしましょう……私の心は、ウルズ様の……」
そして、バルビエルは口を閉ざす。
その瞳はもう、開かれる事はなかった。
「バルビエル……馬鹿な、男。私が貴方に声を掛けていたのは、別に挨拶みたいなものなのに……本当に、馬鹿なんだから……私なんかを、守って……!」
その瞳から涙が零れる。
失って初めて、自分の事を大切に想っていてくれる存在に気付いた。
「ううん……本当に馬鹿なのは私。ずっと昔を見て、周りを見ていなかった。すぐ傍に、私をこんなに大切に想っていてくれた……居た、のに……!」
嗚咽をもらすウルズ。
その横に、静かに着地するユグドラシル。
「ウルズ、ラケシスの元へ行きなさい。復活の力を司る彼女なら、今ならまだ間に合うはずです」
「ユグドラシル……!でも……!」
「行きなさい。後で、ちゃんと地上の皆さんや、魔界の皆さんに謝罪しましょうね」
「……分かった。ユグドラシル、これでもう会えないなんて、ないよね……?」
そう不安げに言うウルズに、ユグドラシルは優しく微笑んだ。
「当然です、友達でしょう?」
その言葉に、ウルズは嬉しそうに微笑み、バルビエルを抱えて魔法を発動させる。
その姿が消えるのを確認し、ユグドラシルは蓮華へと体を返した。
「さて……八岐大蛇、覚悟しろ……!」
そう強い意志を秘めた瞳で、ソウルイーターを鞘から抜き、空を駆ける蓮華。
八岐大蛇との最終決戦が、始まろうとしていた。




