214.VSウルズ①
-アーネスト視点-
俺達4人掛かりでウルズに攻撃を仕掛けるが、その防御を崩せない。
信じられない事に、腕輪を外したあのアリスの攻撃すら防いでいる。
「てりゃぁぁぁっ!!」
アリスが跳躍し、ウルズにハンマーを振るう。
しかし、それも難なく弾かれた。
「!?」
「アリス!!」
俺は叫んだが、空中で体制を崩されたアリスは、ウルズの追撃を避けられない。
「沈みなさいアリスティア!『双導気流掌底破』!!」
ゴスゥゥッ!!
「うぐぅっ……!!」
凄まじい音を立て腹に一撃を受けたアリスは、後方へ飛ばされる。
「アリスッ!!っのやろうっ!!」
俺はネセルを構えて空へ跳躍する。
ノルンとアリシアが、アリスが吹き飛ばされたと同時に、ウルズへ左右から斬りかかるのが見えたからだ。
ウルズへ向かって突撃する!
「おおおぉぉぉっ!!『鳳凰天空牙』ッ!!」
「万物万象、遮る獄となれ……『インフニティプリズン』」
ガギィィィィィッ!!
「なっ!?」
俺の攻撃が、見えない何かに阻まれる。
透明な、壁か!?
「アリスティア程の攻撃力なら、破壊されたかもしれないけれど……貴方の攻撃力では、届かないわね。貴女達も、邪魔よ。虚無の彼方へ消え去れ!『インフニティシリンダー』!!」
ウルズの周りに球体が複数現れたかと思ったら、その球体から凄まじい轟音を鳴らしながら波動が放たれる。
俺とノルンにアリシアはそれを避けられず、直撃した。
「「「うぁぁぁっ!!」」」
全員、ウルズから離れた位置へ吹き飛ばされる。
くそっ、つぇぇっ!!
ネセルを衝立に、なんとか立ち上がる。
ノルンにアリシアを見ると、二人もなんとか無事のようだ。
だが、ダメージの深さからか、少しよろめいているのが見て取れる。
「その様子じゃ、もう何発も耐えられはしなさそうね。『インフニティシリンダー』はまだ消えていない。装填が終わり次第、止めを刺してあげる」
ギュゥゥゥゥン……!
ウルズの後ろの球体に、光が吸収されていく。
まずい、あれをまた受けたら、次は立てるか分からねぇっ!
俺はウルズへと駆ける。
気付けば、隣にアリスも並んだ。
「行くよアーくんっ!」
「おおっ!アリス!」
二人でウルズに向かう。
ゴンッ!!
「っぅっ!?なんだぁ!?」
見えない壁に遮られ、俺達は前へ進めなくなる。
「これは、『インフニティプリズン』!?」
「正解よアリスティア。彼に使ったの、忘れてないわよね?牢獄に捕らわれた貴方達は、もう動けない。さぁ、装填完了よ。死になさい!」
球体から光の波動が放たれる。
俺は咄嗟にアリスの前に出る。
「アーくん!?」
すまねぇ蓮華、俺はここまでかもしれねぇ。
だけど、せめてアリスだけは俺が!
そう思い、両手を前でクロスさせ、防御態勢を取る。
だけど、光線が俺達の前に届くと思ったその時、優しい光が辺りを包み、光線を掻き消した。
「なっ……!?」
ウルズが驚いている。
でも、俺だって驚いたんだ。
空から舞い降りる、女神のようなその姿に。
俺の、片割れ。
一番大切な、俺とこの世界を生きると約束してくれたあいつが、来てくれた。
「アーネスト、お前私を置いてリタイヤとか許さないからな?」
なんて、笑って言う蓮華に。
俺は、嬉しくなる気持ちを隠さずに言う。
「ははっ……!お前、遅いんだよ蓮華!!」
「いやだって、他の頭全部任せるとか言ったのお前だろ……!?」
そういえば、そんな事言った気がする。
いつも通りの変わらない蓮華に、俺は戦いの最中だと言うのに気が緩んでしまう。
「蓮華さん……!」
「アリス姉さん、遅れてごめんね。それと、ありがとう。皆を、守ってくれて」
「うん……!うん……!」
ノルンとアリシアも、こちらへ駆け寄ってくるのが見える。
周りの生徒達も、果ては魔物達まで、まるで時が止まったかのように静止している。
恐らく、蓮華に見惚れているんだろう。
その気持ちは良く分かる。
それくらい、蓮華は綺麗で、かっこ良かった。
-アーネスト視点・了-
「蓮華、他は大丈夫なの?」
そう聞いてくるノルンに、倒した事を説明する。
「そっか。つまり後は、まだ出ていない頭の一つと、目の前の召喚の頭って事ね」
「だね。八岐大蛇の頭だけなら、皆がこんなに苦戦するのはおかしいと思ってたけど……彼女が原因みたいだね」
まだ幼い少女に見える、その姿。
アリス姉さんくらいの背丈だろうか。
目が充血したかのように赤く、いや真紅に染まっている。
「ゆぐ、ドラシル……?」
「初めまして、かな?私は蓮華。レンゲ=フォン=ユグドラシル」
「そう、貴女がユグドラシルの……。よく、似ているわ。本当に、よく……」
そう言い、瞳から一筋の涙が零れる。
この人は、一体……。
そう思っていたら、ユグドラシルから話しかけられる。
"蓮華、どうやらあの少女は、ウルズに乗っ取られているようですね。本当は全てを蓮華に任せるつもりでしたが……神々が関わっているのならば、仕方ありません。そちらは、私が決着をつけましょう。少し、体をお借りしても構いませんか?"
なんて。
私はウルズって人は知らない。
だけど、ユグドラシルが自分の意思を伝えてくれた。
それが嬉しかったので、二つ返事で了承する。
"ありがとう、蓮華"
そう聞こえてから、私は中に入る。
精神の世界、そこから外を見ている感じ。
髪は黒髪からエメラルドグリーンへと変わる。
ユグドラシルが表に出た証明だ。
「「「!?」」」
アーネストは知ってるけど、他の人は知らないからね。
皆が一斉に驚いているのが分かる。
「え、え……!?ユー、ちゃん!?」
アリス姉さんが滅茶苦茶狼狽してる。
そりゃそうだよね。
あの母さんだって、泣いちゃったくらいだし。
「アリス、積もるお話は、また後でですね」
「え、いや、ちょっと、ねぇ!?ど、どどどどうなってるのぉー!?」
そんなアリス姉さんに微笑みを返し、ユグドラシルは目の前の少女に視線を向けた。
「ウルズですよね?」
「そん、な……その、姿は……まさ、か……ユグドラシル、なの?」
「まぁ、本体はあっちですよ?」
そう言って、世界樹の方を指さすユグドラシルこと私。
うぅ、なんか慣れないな。
「ユグドラシル……!私、私、約束、守ったんだから……!」
その瞳から、大粒の涙がいくつも零れる。
「なん、千年、も!ずっと、ずっと!ユグドラシルも、イグドラシルもいない世界で、ずっと……!」
「……ええ、本当にありがとうウルズ。でも、ならどうしてこんな事を?」
「ユグドラシル、言ったでしょ?貴女の生まれ変わりが存在したら、約束は守った事になるって。私はもう、二人の居ない世界なんて耐えられない。だからね、壊すの。もう知られちゃったから、地上と魔界の争いの体を成す必要もないけれど……二人を、復活させる。その為に、この地下世界には滅んでもらうわ」
そうか……ウルズは、ユグドラシルとイグドラシルを蘇らせる為に、世界樹を壊そうとしていたのか。
体だけ復活させても、魂は世界樹に在る。
だから、全てを取り戻す為に……今を破壊しようとしているのか。
自分の一番大切な物を、取り戻したいから。
その気持ちは、理解できるなんて言ったら、おこがましいかもしれない。
だけど、違う。
それは、相手の気持ちを汲んでいない。
"ええ、そうです蓮華。それを、ウルズに伝えます。そして、蓮華とアーネストのように、しますね?"
へ?私とアーネストのようにってなんだろう?
「ウルズ……貴女は今が、見えていませんね。ロキから、何か言われませんでしたか?」
「っ!!」
ウルズは、少し前にロキから言われた言葉を思い出す。
それは、今ユグドラシルから言われた言葉と同じだった。
「それは……!でも、だって!私には、二人が居たあの頃以外、何も……!」
「ウルズ、あの時と今では、状況が違います。この世界に世界樹を残したまま、私やイグドラシルが生存できる可能性が、あるのですよ」
「なん、ですって……!?」
その言葉に驚くウルズ。
いや、ウルズだけじゃない。
私だって驚いてるし、アーネストやノルン、アリシアさんだって驚いているだろう、見えないけど。
ユグドラシルは微笑んで言う。
「その可能性を見せてくれたのが、蓮華にアーネスト、そしてノルンの三人です」
ユグドラシルは二人を見渡す。
ようやく顔が見れた。
私が見たくても、ユグドラシルの視点で固定されちゃうので、振り向けないんだよね。
案の定、アーネストにノルンが驚いた顔をしてた。
うん、なんかこういう視点で見るとちょっと面白いとか思ったら変かな。
これ以上はユグドラシルに突っ込まれそうだから自重しよう。
ウルズはその瞳を見開き言った。
「ユグドラシルとイグドラシルの化身達、が?」
「ええ。今はまだ可能性です。けれど、これまで待てたのでしょう?ならもう少し、見守れませんかウルズ」
その言葉に、項垂れるウルズ。
両手を下げ、戦う意思はなくなったように感じる。
それはつまり、ユグドラシルの言葉を肯定したのだろう。
だが、ユグドラシルはここで終わらなかった。
「まぁそれはそれとして。ちょっとオイタをしたウルズには、友神として、お仕置きが必要ですよね?ほら、多くの方達に迷惑を今もかけているわけですからね?」
そう言いながら、ソウルイーターを構えるユグドラシル。
「ちょっ!今良い感じに終わりそうだったよな!?」
周りの皆の心を代弁したかのように、アーネストが叫ぶ。
うん、私もまったくの同意見だよ。
「それはそれ、これはこれですよアーネスト」
そう言って微笑むユグドラシルに、アーネストが唖然としてる。
うん、気持ちは分かるよアーネスト。
「ユグドラシル……ならこっちからも言わせてもらうけれどね!勝手に数千年も私の前から居なくなって!この寂しさが分かる!?貴女は意識なかったかもしれないけど、こっちはずっと!!あぁもう!今はなんか腹が立ってきたわ!この湧き上がる想い、ぶつけさせて貰うわよユグドラシル!!」
ウルズが叫び、再度凄まじい魔力に包まれる。
それを見たユグドラシルは笑った。
「ええ、受けて立ちましょうウルズ。思えば私達は、喧嘩をした事がありませんでしたね。でも、言いたい事を伝え合い、認められない事にだって自分の想いを伝える。それが、友達と言うのでしょう?」
「!!」
「蓮華にアーネスト、それにノルンは、自分達の想いをまっすぐに伝えています。そんな純粋な心は、私達神も見習わなければならない所だと思うのです。だから私は、人が、生物が愛おしい」
「ユグドラシル……」
二人、微笑む。
ユグドラシルとウルズ、古の神々の戦いが、始まる。




