210.模倣する八の頭
飛ぶ事数分、巨大な頭を間近で見る。
先程の八岐大蛇は、話す事が出来た。
けれど、全ての頭がそうではないのか、この頭は話しかけても答えない。
まぁ、無視してるだけかもしれないけどさ。
先程の居合術を警戒しているようで、こちらを凝視しているのが分かる。
どうやら、知識は共有されるみたいだね、厄介だ。
そんなわけで、鞘からソウルを抜刀する。
「さて……他の頭には仲間が行ってくれたけど、お前をさっさと倒して応援に行かせて貰うよ」
ソウルに魔力を込める。
付与した風の魔力が十分に込められた事を感じ取る。
「一撃で、沈めっ!『地斬疾空牙』!」
普段は地を這うように縦と横に衝撃波が飛ぶこの技だが、空からだと縦の衝撃派の形が違う。
八岐大蛇は避ける事なく、直撃した。
やったか……?
「『チザンシックウガ』」
ゴオオオオオッ!!
「なっ!?」
凄まじい衝撃波が飛んできたのを、なんとか回避する。
こいつ、今私の技を使ってこなかったか!?
「『チザンシックウガ』」
ゴオオオオオッ!!
「くっ!!」
再度放たれる技を、なんとか回避する。
間違いない、こいつ、私の『地斬疾空牙』を会得したのか!!
「なら、これならどうだっ!降り注げ流星!『ヴォルケイン・メテオスォーム』!!」
空より召喚される、凄まじい数の流星群。
その全てが、目の前の頭に降り注ぐ!
ドドドドドドドドドッ!!
「グオオオオオッ!!」
これには流石に耐えられなかったのか、凄い声音で叫び声が聞こえる。
しかし、その口からヤヴァイ言葉が零れる。
「『ヴォルケイン・メテオスォーム』」
空に、凄まじい数の流星群が召喚され、こちら目掛けて振ってくる!
うっそだろぉ!?これ、回避したらマズイ!!
全部撃ち落さないと、地上が滅茶苦茶になる!
「ソウル、ガンモードだ!」
"心得ました、我が主よ!"
カチャンカチャンッ!
刀から銃へ。
更に、その銃を二丁にし、両手で構える。
「照準は任せたソウル!」
"お任せを、我が主!"
「フルオートだっ!『ダブルアームクイックドロウ』!!」
ドドドドドドドッ!!
落ちてくる流星群を、全て破壊していく。
破片すらも、粉々に。
全ての流星群を破壊し、八岐大蛇へ向きなおった所へ、凄まじい弾丸の嵐を受ける。
「『ダブルアームクイックドロウ』」
ドンドンドンドンドンッ!!
「ぐぅっ……!?」
そのまま地上へと降下するのを、なんとか空中で踏みとどまる。
間違いない、こいつは私の技や魔法を、模倣してる!
「『チザンシックウガ』」
ゴオオオオオッ!!
「くっ!!」
模倣、か。
確かに、武道を志していたら、まずはソコにいきつく。
強い人のやり方を真似る。
それは、何も武道だけの話じゃない。
模倣を重ね、己の技に昇華させて行く人だっている。
それはそれで、武の道だ、良いと思っている。
だけどな……。
私はソウルをもう一度刀に変形させ、鞘に仕舞う。
「模倣は模倣。本物を超える事は出来ないって、教えてやるよ八岐大蛇」
私は居合の構えを取る。
でも、使う技は極の型じゃない。
奴が何度か真似してきた、『地斬疾空牙』だ。
私はこの技を、"居合ではない状態で"簡略して使ってきた。
でも本来、この技は居合の型なんだ。
八岐大蛇を見据える。
奴もこちらを、その巨大な眼で見てくる。
私の一挙手一投足を見逃さず、模倣するつもりか。
やってみろ八岐大蛇。
本当の技は、毎日の研鑽の果てに生み出されるんだ。
その場で真似をしただけのお前に、私が毎日研鑽したこの技の威力が、出せるかっ!!
鞘から刹那の速度で切り払う!
「これが本当の!居合術弐の型『地斬疾空牙』だぁぁっ!!」
ドゥッ!ズバァァァァッ!!
「グオオオオオッ!?」
居合ではない『地斬疾空牙』は、衝撃を横と縦に二発放ち、クロスさせる。
二発目の衝撃波を、一発目の衝撃波に追いつかせるように速度を上げるのがコツだ。
当然、二発目の方が速い為、タイミングを間違えれば威力は激減する。
一発目の衝撃波が当たる時に、二発目の衝撃波が丁度追いついた時、爆発的な威力に跳ね上がる技だ。
でも、この居合は横のみ。
ただし、鞘に入れている間に魔力を蓄積させた分と、二の太刀要らずな為、一撃の威力を極限まで高めている。
ま、これの上位版が斬鉄なんだけど……あっちは消費が大きすぎるのを実感したから、燃費の良いこっちを使う事にした。
巨大な八岐大蛇の首は両断され、二つに分かれて地に崩れ落ちる。
動かない事を確認する。
模倣の頭、中々の強敵だった。
もし、他に凄い技を使う人が居て、それを真似されたなら……考えるだけでも苦戦するのが分かる。
まぁ、倒したんだし……気にしなくて良いか。
「よし、カレンとアニスは任せて大丈夫だろうし、連絡のあった方に行くか!」
そうして、私はツゥエルヴの方面へ飛ぶ。
残り5頭。
しかし、私はこの時忘れていた。
この八岐大蛇が、全ての知識を共有しているであろう事。
そしてアリス姉さんが、全員に伝えてくれた内容。
最後には、全ての頭が"同時"に出現するという事を。




