204.出会う親子
-アーネスト視点-
アリスから送られてきた内容に、舌打ちする。
「明、これ見て見ろ」
そう言って、隣に居る明にスマホを渡す。
それを見た明が、表情を変える。
「これ、本当に……?」
「アリスが嘘を言ってなけりゃな。で、アリスがこの場面でそんな事言うわけがねぇ。つまり……」
「真実、って事か。参ったな、まだ遠いこの位置ですら、あの巨大な首と頭が見えてるっていうのに、あれがあと8つもあるのかい?」
「そうなるな。ったく、とりあえず次々出される前に、一個でも潰しに行こうぜ明」
「そうだね……!アーネスト、行こう!」
「おうっ!」
明と頷き合い、俺達はヴィクトリアス学園へ急ぐ。
街の人達は皆ユグドラシル領へ避難を始めている為、ほとんどすれ違う事はない。
でもそんな中で、一直線にヴィクトリアス学園の方へ向かっている少女が居る。
「お、おい!そこの子!そっちは危ねぇぞ!?」
思わず声を掛けてしまった。
そりゃ、あんな小さな子がって、どっかで見たような?
キキーッと、まるでタイヤが急停止したかのような音を立てて、立ち止まるその子。
思い出した、この子ユグドラシル社で受付に居た子じゃないか!?
「あ、あああああアーネスト様ぁ!?」
どうやら、向こうも俺の事を知っているみたいだな。
って当たり前か、一応俺名前だけだけど社長だもんな。
「何してんだ?あのでかいのが見えてるだろ?危ねぇぞ?」
「あ、はいっ!見えてるから、一直線に来ましたっ!」
「へ?」
「あの、私戦えます!邪魔にはならないと思います!私も、協力させてくださいっ!」
そう真剣な表情で言うこの子。
ただ、俺の直感が正しければ、この子は見た目通りの子じゃない。
「……分かった。えっと、俺の事は知ってるだろうけど、アーネストだ。んで、こっちは草薙明。よろしくな」
「はい!宜しくお願いしますアーネスト様!草薙さん!私は桜井春花と言います!」
「おう、よろしくな。……どうした明?」
「そん……な……まさ、か……!?そんな事、あるわけ……」
明を見たら、カタカタと小刻みに震えて、驚愕の表情をしていた。
まるで、お化けでも見たような顔だ。
「あの、どうかしたんです?」
可愛らしく小首を傾げるその子に、明は問いかけた。
「桜井……春花……ちゃん。俺の、間違いだったら、そう言って欲しい。君は、もしかして……前世と同じ名前、だったりしないかい?」
「!?」
桜井春花と名乗った少女が、明らかに動揺したのが分かる。
どういう事だ?
「どうして、その事を?私、その事は地上ではバニラ様にしか話していないのに……」
「やっぱり、そうか……!そうかぁ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁっ!!」
突然泣き出し、地面に座り込む明に驚く。
「お、おい、どうしたんだよ明!?」
「っ……アー、ネスト、俺さ……今日ほど、神様に感謝した事、ないよ……。俺の亡くした、宝物に……また、会える、なんて……」
「亡くした、宝物?」
「ああ……。俺の前の名前、教えてなかったかアーネスト。俺の前の世界での名前は、桜井昭。今と漢字は違う昭だけどさ、呼び名は一緒なんだ……」
その言葉に、目の前の少女の瞳から、涙が零れる。
「ま、さか……お父、さん……?」
「ああ、ああ……!春花、会いたかったよ……俺は、お前を助けてあげる事が出来なくて……!血を吐きながらも、俺達の事を大好きだと言ってくれた、俺達の宝物を!守れなくてっ!!ごめん、ごめんなぁ春花ぁぁぁっ!!」
「お父……さんっ!!」
二人、涙を流しながら再開を祝う。
そうか、こんな出会いも、あるんだな。
元の世界で死んでしまった二人が、時と場所を違えて、また出会えるなんて。
それも、すれ違ってはいたんだ。
こんな事が無ければ、ずっと気付けなかったかもしれない。
時間は確かに無い。
だから、俺はそっとその場を離れる。
ようやく会えた親子なんだ。
このまま、避難してほしい。
そして今度こそ、親子で幸せに生きてくれ。
そう思って。
だけど、明は俺の名を呼んだ。
「アーネスト!待ってくれ!俺も、俺達も行く!」
「行くってお前……やっと、会えたんじゃねぇか。わざわざ危険な所に行く必要はねぇ。お前達も一緒に避難してこい」
そう、できるだけ優しく言った。
けど、明はそれに同意しなかった。
「アーネスト、俺はお前と出会わなければ、灰色に見える世界をただ生きていた。お前と出会えたから、俺の世界に色がついた。お前と出会えたから、春花とこうして再会できた。俺に、お前を助けさせてくれ!」
「明……」
「アーネスト様!お父さんとのお話は、後でいくらでもできます!だけど今は、あの蛇をなんとかしないとです!私も、頑張ります!」
二人の気迫に、俺は両手を上げる。
「分かった、分かったよこの馬鹿野郎共が。ったく、親子揃って頑固っぽいよな。お前達の力、貸してくれ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
二人の頼もしい返事を聞いて、俺達はヴィクトリアス学園へ、八岐大蛇の首の元へ急ぐ。
しかし、そうしようとしたそのすぐ後。
遠くでずっと鳴り響いていた地響きが、大きな音となりすぐ近くで聞こえてくる。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
「アーネスト、これはっ!!」
「ああ、どうやらここにも出るみたいだな、八岐大蛇の頭の一つがっ!」
「よーし、移動の手間が省けちゃいました!一気に倒してしまいましょうお父さん!アーネスト様!」
「ははっ!全く、頼もしい子だな明?」
「全くだ。でも、無理はするんじゃないぞ春花!」
「大丈夫だよお父さん!私、もう病弱じゃないからね!今はもう、立派に戦えるってとこ、お父さんに見せてあげるから!」
そう笑顔で言う春花ちゃん。
明も笑顔だ。
この二人の笑顔を守る為にも、この頭を早々にぶっ潰す!
ゴゴゴゴゴゴッ!!
ドゴオオオオオオオ!!
凄まじい地響きと共に、現れる巨大な頭。
こいつからしたら、俺達は蟻のようなものだろう。
間近で見れば、それが良く分かる。
「ネセル、力を解放するぜ。人間の力、化け物に見せてやろうじゃねぇかっ!!」
-アーネスト視点・了-




