201.救出、そして
-アーネスト視点-
これが今の明の実力か。
学園で初めて明と戦った時、蓮華と比べたら確実に弱かったけど、他の奴らよりは格段に強かった。
学園の奴らに物足りなさを感じていた俺は、明とよくつるむようになった。
学園の掃除をするとなったら、明と魔術で学園中の窓を綺麗に透明にして、窓が無いように見えるようにしたり、学園のゴミを魔術でかき集めて、中央でキャンプファイヤーしたり。
まぁ、色々と大げさにやりすぎていた自覚はある。
だけど、楽しかったんだ。
そんな明に、俺は生徒会長を勧められた。
正直、俺は生徒会長には興味が無かった。
そもそも、蓮華が入学してきたら、ずっと傍にいようと思っていたからだ。
あいつ中身はともかく、外見は美人で可愛いからな……どんな野郎がまとわりついてくるか分かったもんじゃねぇ。
その上あいつは警戒心ってもんがねぇからなぁ……俺が言うなって話だけど。
ま、それはともかく……俺は蓮華が入学してくるまでに、この学園全てを知るつもりで色々と動いてきた。
そんな時だった、あいつが俺を友達だと言ってくれたのは。
あいつはどこか、冷めた目をしていた。
退屈そうな、そんな感じだ。
だけど、俺と居る時は、本当に笑っていた気がする。
そんなあいつの言葉に、俺は嬉しくなった。
まぁそんなわけで、俺は会長になるのをOKしたわけだ。
結果的に、俺が会長になる事で、蓮華の力になりやすいんじゃないかとも考えた。
後でだけどな。
明に蓮華の話をしたら、興味深そうに聞いてくれたけど、俺の妹なら、俺も見守るよって言ってくれた。
そんなあいつは、いきなり蓮華に戦いを仕掛けて負けた。
当たり前だ。
俺に勝てないのに、蓮華に勝てるわけがない。
ただまぁ、あの戦いは蓮華に何かを残したようだったから、深くはつっこまなかったが。
けれど、今の明の力は、あの時蓮華と戦った力とは全く別物だ。
今の明の力なら、あの時の蓮華では間違いなく負ける。
そう確信できるくらいに、強い。
キィィィィンッ!!
「ったく!敵になって強くなるとか、どこのゲームだよ明!味方に戻ったら、弱体化するんじゃないだろうな!?」
「アーネストォ!!」
ギギギギン!!
俺の言葉には答えず、名前だけ呼ぶ明。
母さんと兄貴から聞いた。
恐らく、体を憑依しているのは『共生』と呼ばれる種族の一人だと。
生まれた時から、自分ともう一人の自分が存在している。
もう一人の自分は自意識が薄く、あまり物事を考える事はできないらしいが、その代わり他者に乗り移り、操る事が出来るんだと。
その際に、できうる限り本物に近づこうと、意識を探っていくらしい。
本物に近づけば近づく程、同調率……シンクロニティと言うらしいが、それが高まり力を引き出せるんだとか。
ま、それだけ種が分かってれば簡単で。
母さんからはそれを解除する魔道具を受け取っている。
それをすぐ使わないのは、明の体に憑依している存在ともう一人、本体が中に居ると聞いたからだ。
仮面の呪いの事もあるが……明の中に居る本体、これを明の中から出さなければ、憑依している『共生体』だけを消してしまい、その本体にどんな影響を及ぼすか分からないと聞いた。
最悪、明の精神と融合していまい、全く別の精神になる可能性があるらしい。
そんな事になったら、俺は明を救った事にならない。
だから、機を待っている。
そう、『共存体』だけでは勝てないと、思わせる為に。
「喰らえ明!『クロス・スラッシュ』!!」
ズバァァッ!!
「グゥゥッ!!」
俺の二刀による交差攻撃を、直撃する明。
手加減はしていない。
今の明の障壁はかなり分厚い。
仮面による強化は、明の全ての力を増大させている。
その代わり、生命力を削っていると聞いた。
待っていろよ明、すぐにそんなもん解呪して、元のお前に戻してやるからな!
「オノレ……コノカラダデハ、カテナイ……オマエノカラダ、モラウ!!」
待っていた、その時を!!
「へっ、乗っ取れるもんならやってみな!俺は逃げも隠れもしねぇ!!」
「ソノコトバ、コウカイスルコトニナル!!」
明の体から、黒い霧のようなものが出てくる。
多分、いや間違いなく、アレが『共生体』なのだろう。
その霧が俺を包むように、周りに集まる。
「アーネスト!」
そう俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
安心しろよ明。
俺は、大丈夫だからな。
-アーネスト視点・了-
-草薙 明視点-
アーネストが、アキラちゃんの、いやアキラに包み込まれるのが見えた。
アーネストは、俺が知ってる強さとは別次元の強さになっていた。
これだけ強くなっている俺の力を、ものともしない。
それを感じ取ったアキラは、アーネストの体に憑依しようとした。
くっ……俺は、見てるだけしかできないのかっ!
俺を助けにきてくれた親友が、体を奪われるのを、見ている事しか……!
……いや、待てよ?
いつも俺を支配していたアキラが、俺の体から出て行った。
つまり、今表に出ているのはアキラちゃんって事だよな。
アキラちゃんは、アーネストにアキラが憑依できたら、乗り移る算段をつけているはず。
そんな状態なら、俺の力でも取り戻せるんじゃないか?
やってみる価値は、ある!
アキラちゃん、俺の体……返してもらうぞ!!
「っ!?ナギ!?」
俺の意思に気が付いたアキラちゃんが、抵抗してくる。
だけど、もう遅い。
一度外に出ようとしたその体を、もう一度俺の中に入れなければ良い。
長い間俺の中に居て、俺は精神の扱い方を学んだ。
それは、魂の扱い方とでも言うんだろうか。
そして、俺はずっと、感じていたんだ。
レンゲさんが……大精霊シルフ様が、俺を守ってくれていたのを!!
「契約に基づき、我が呼び掛けに応えよ、シルフ!!」
瞬間、精神の世界だと言うのに、大精霊シルフ様が現れてくれた。
「やっ、アキラくん。レンちゃんからお願いされてるし、助けてあげるからね!まずはアキラくんを取り巻く重い霧、吹き飛ばしてあげる!」
そう言ったかと思うと、凄まじい風が巻き起こる。
「きゃぅっ!?な、ナギの力じゃない!?こ、れは……!きゃぁぁぁっ!!」
「ぐっ!ふぅ、俺の体、動くっ!!アキラちゃんは……気絶してるだけかな。っと、いまはそれよりも……!」
アーネストの方を見る。
しかし、俺の心配は全くの杞憂だった。
「へっ、だから言ったろ。やれるもんならやってみなってな!」
「ソ、ンナ……バカ、ナ……!オマエノ、タマシイ、ハ……ドウナッテ……アアァァァァッ!!」
黒い霧が、晴れていく。
消滅、したんだろうか。
それを見つめていたら、アーネストが笑いながら話しかけてきた。
「よぅ明、敵になって強くなった後に、味方になったら弱くなるとかねぇよな?」
なんて。
顔に着けていた仮面が音を立てて割れる。
「はい、その仮面も解呪してあげたよー!そっちの子、気絶してるだけだから、後は任せるからねー!ボク、まだやらなきゃならない事あるからね!」
そう言って姿を消す大精霊シルフ様に、頭を下げる。
本当に、大精霊様は凄い。
それを使役するレンゲさんは、どれだけ凄い存在なんだろうか。
使役、それも何か違うな。
レンゲさん風に言うなら、友達、なんだろうな。
「おい明、その子に乗っ取られてたんだろ?どうする?」
「……この子さ、悪い子じゃないと思うんだ。すまないけれど、俺に預からせてくれないか?」
そう言ったら、やれやれと言った感じで答えてくれた。
「お前な……体乗っ取られてたんだろ?ま、俺はなんも言うつもりはねぇよ。それより……」
ゴゴゴゴゴゴッ!!
「「!?」」
アーネストが言葉を言い終える前に、地響きが起こる。
「なんだ!?」
アーネストの方を向いたら、真剣な表情でスマホを見ていた。
「明、事情が変わった。国の皆をユグドラシル領に避難させるぞ」
「ど、どういう事だい!?」
それから、アーネストがアリスティアさんから聞いた話を説明してくれた。
八岐大蛇……!!
そんな、元の日本でも有名な化け物が、この世界でも居るなんて……!
アーネストと急ぎ王城へ向かう。
俺達だけでは、人手が足りない。
国の騎士達に応援を求める為に、俺達は行動を開始した。
-草薙 明視点・了-




