200.激戦 ☆
「喰らえ!『音速剣』!!」
ノルンの放つ最速の剣技を、大蛇は避けながら魔法を放つ。
「『魔炎粧・轟炎』!!」
「その魔法は前回見たわ!そう何度も喰らうものですかっ!」
『ワープ』を使い、大蛇の背後を取るノルン。
大蛇が振り向き、対処しようとするが、アスモデウスの剣撃が襲う。
「隙ありですねぇ。『インスクライブレッドソウル』」
凄まじい剣の乱舞を受け、後ずさる大蛇に、後ろからノルンの一撃が襲う。
「もう一度!『音速剣』!!」
ズバァッ!!
「ガッ……!」
今度は避けきれず、直撃を受ける大蛇。
アスモデウスとノルンのコンビネーションに、押される大蛇。
「ククッ……良いぞ、お前達は強い!認めよう、私の敵足りえると!」
「認められても嬉しくないですねぇ……さっさと死んでくれる方が、お姉さん嬉しいんですけど」
そう言いながらも、アスモデウスは手を緩める事はない。
一方、アリスティアとイヴもまた、互角の戦いをしていた。
ガン!ガン!ドガガガガッ!!
ズザァァァァッ!!
「ぷはぁっ!イヴちゃんって言ったっけ?強いねー、私とここまでやりあえるなんて、驚きだよー!」
「アリスティア、ここまで強いのは想定外。さっさと、沈めっ……!」
二人の少女達は、目にも映らない速度で殴り合う。
体制を整える為に距離を開けようと片方が飛ぶと、そうさせまいと追いかける。
それを繰り返しながら、自分の間合いを確保しようと、制空圏を奪う殴り合いであった。
常人ではとらえきれない速度で放たれる拳の乱打に、避けられた拳は岩を砕き、道を半壊させる。
拳から放たれる衝撃波は、触れた物を破壊していた。
「そこだぁっ!!」
ゴスゥ!!
「っ!?」
ドゴオオオオンッ!!
アリスティアの一撃を腹に受け、空中から地面へと叩き付けられたイヴは、口から血を零す。
そこへ、アリスティアは更に追撃を仕掛ける。
「ぶっとべぇぇぇっ!!」
ゴスゥゥゥゥ!!
「あぐぅっ!!」
ベキベキベキッ!!
地面に凄まじい大きさのクレーターが出来る。
イヴはここにきて、地力の差を感じ始める。
「ゴホッゲホッ……あな、たは……弱ってるって、聞いて、た。なん、で、そんなに、強い……」
そう血を吐きながら問いかけるイヴに、アリスティアは笑って答える。
「そんなもん、決まってるよー。私が負けたら、悲しむ人が居るの。だから私は、負けられないの!その人の期待を、想いを、守りたいもん!」
「守り、たい……想い……そっ…か、私は、そんなの、ない、や……負けて、当然だね……」
ドサァ!
そうしてイヴは倒れる。
その表情は、どこか晴れやかだった。
「強かったよイヴちゃん。また目が覚めたら、話そうね」
そう言い、イヴの元を離れ、大蛇の元へ向かう。
「イヴが負けたか。流石はアリスティアという所なのか、それともイヴが大した事は無かったのか……」
「イヴちゃんは強かったよ。さ、後はお前だけだよ!観念しろー!」
そう言うアリスティアに、大蛇は笑い出した。
「ククッ!ハハハ!ハハハハハッ!!」
「「「……」」」
ひとしきり笑った後、大蛇は答える。
「そうだな、諦めよう」
「「「え?」」」
「勘違いするな。この体での勝利を、諦めるだけだ。お前達が暴れてくれたおかげで、地下の封が解けかかっている。これならば、俺の精神が入る事が可能だろう」
その言葉に、反応する者が居た。
そう、アリスティアである。
「!?学園の地下にって、ま、まさか貴方、八岐大蛇!?」
「「!?」」
「ククッ!そうだ、原初の神であるお前は知っているか。私は封じられている間に、この体を表に出し、力を蓄えた。そして、今度はこの地上と魔界の生物の力を喰らい、神をも超えてやろう……!」
「させるかぁっ!!」
そう飛び掛かるアリスティアだったが、大蛇の姿は霞み、当たらなかった。
「無駄だ、もう私の精神の大半は移動している。さぁ、恐怖に慄け……地獄の始まりだ……!」
その姿が消える。
瞬間、地響きが起こる。
まるで世界全体が揺れているかのような、そんな揺れ。
「な、何がどうなってるのアリスティアさん!?」
「……怪獣大決戦、かな」
「え?」
ノルンが素っ頓狂な声を上げる。
「言い得て妙なのが辛い所ですね……八岐大蛇……勝てると思います?」
半ば呆れているアスモデウスに、アリスティアは言う。
「皆をユグドラシル領に避難させよう!じゃないと、踏み潰されて死んじゃう!全国の皆に知らせないと!」
「「!!」」
そうして、動き始める。
鳴りやまぬ地響きに、皆が何事かと不安に駆られていた。
-ウロボロス内部-
「そうか、辿り着けたか、大蛇」
そう独り言ちているのは、バルビエルだった。
「地上の者達だけならば、表の十傑でもなんとかなったであろうが……やはり、邪魔をするのは奴等か」
バルビエルは、タカヒロの体に憑依し、戦った者達を連想していた。
「ユグドラシル様の為……そしてウルズ様の為……俺も命を掛けて、地上へ行くか」
天上界の者にとって、地上のマナは毒になる。
それは、人間にとって空気が全て二酸化炭素に変わるようなもので、長く留まる事ができないのだ。
だからこそ、バルビエルはこんな手段をとっていた。
「大蛇よ、お前は戦えればそれで良いのだろうが、俺はそうではない。その先が無ければ、俺には意味がないのだ」
バルビエルは、決意を秘めて地上へ赴く。
最後の戦いが、幕を上げようとしていた。




