199.お姫様と従者
王国・ツゥエルヴの首都、王都・ツゥエルヴ。
その王城に攻め入っていた"ウロボロス"十傑三強の一人、神雷の刃"徹"。
彼は今、硬直していた。
それは、今目の前で、自分の兵である仮面の者達が、なぎ倒されていたから……ではなく。
いや、当然それにも驚いている。
何せ、ピンクのドレスに身を包んだ、正真正銘のお姫様。
あのアリスティアに勝るとも劣らない美少女の存在に、目が釘付けになったのだ。
「この太陽の力を継ぐ、リリア=ツゥエルヴの目が黒いうちは、パパとママに指一本触れさせないんだからっ!」
そう言い、剣を振り回す美少女。
その実力は確かで、強化を受けている仮面の兵達が薙ぎ払われていく。
「おのれぇっ!!」
仮面の兵が飛び掛かる。
「この姫の前に跪きなさい!『インペリアルアッパー』!」
懐に一瞬で潜りこまれた仮面の兵は、剣を突き上げられ吹き飛ばされる。
「怯むな!相手はガキだぞ!!」
「「おぉっ!!」」
そう言い、今度は数人掛かり襲い掛かるが……。
「お仕置きが必要ね!『セイクリッドレイジ』!!」
襲い掛かろうとした仮面の兵達が、ひたすらに切り刻まれる。
剣を空に投げた後、盾のアッパーで敵を浮かせるリリア。
「「「ぐぁぁっ!?」」」
投げた剣を空中で掴み、追い討ちを行うリリア。
その流れるような連撃に、徹は見惚れていた。
綺麗に地面に着地し、リリアはどや顔で言う。
「まあ、この姫にかかればこんなものね!」
徹は体に痺れが起こるのを感じた。
この子こそが、俺の姫だ、と。
「で、そこでさっきから戦いを見てる貴方!」
「お、俺ですか姫!」
「へ?そ、そうよ!」
「なんなりとご命令を、我が姫!」
その言葉に仮面の兵達が動揺する。
言われたリリアが一番動揺しているのだが。
「我が姫って……そうか!貴方私の親衛隊になりたいのね!?」
「サー!イエス!サー!ユアハイネス!」
ビシッと一礼し、リリアに敬礼する徹。
リリアは笑う。
「よーし、光栄に思いなさい!貴方は私の栄えある親衛隊第一号よ!」
「身に余る光栄!」
「それで、貴方の名前は?」
「ハッ!卑しき私めの名前など、姫が覚える必要など……!」
「良いから答えなさい!」
「ハハッ!徹と申します!」
「とおる?なんか言いにくいわね……これからはトールって呼ぶから!良いわねトール!」
「身に余る光栄でございます姫!」
「よーし!アンタの事気に入ったわ!私に続きなさい、こいつら殲滅するわよ!」
「ハハッ!!」
そう言い、リリア=ツゥエルヴの横に並び、構えを取る徹を見て、仮面の兵達に戦慄が走った。
「「「!?」」」
この時、仮面の兵達の想いは一つだった。
アンタこっちの大将だろう!?と。
「我が姫、リリア様の為……貴様ら全て、駆逐してやろう!」
それを見ていた国王夫妻は思った。
味方をしてくれるのならば、良いかと。
この異世界に来て、ずっと願っていた存在。
その存在に出会えた徹は、今日この時……初めて異世界に転生した事を喜んだ。
この人の為に、俺はこれからを生きる!そう決めた徹は、"ウロボロス"十傑の刃を抜ける道を選んだのだ。
「よーしトール!この姫に続きなさい!」
「はいっ!我が姫!」
太陽の力を操るリリア=ツゥエルヴと、雷を操る徹。
二人の力は凄まじく、大将を敵に回した仮面の兵達に勝ち目はなく、敗走していくのだった。
「あれ?ちょっと待ちなさいトール!」
「ハッ!」
リリアの影を踏まない位置に立つ徹。
従者の心得を元の世界で無駄に勉強していたのが、ここにきて役立っていた。
「あれって、大精霊様よね!?」
そう聞き、その視線を追う。
そこには、仮面の兵をなぎ倒す者が居た。
あの魔力量、そして風貌から、只者ではないと判断する。
なんせ、小さな太陽に乗っている。
「俺には、いえ私には分かりかねますが……姫はどうされたいのですか?」
「もちろん会いに行くのよ!」
「ハ!どこまでも御供させてください、我が姫!」
「よく言ったわ!行くわよトール!」
「ハハッ!」
二人は、その存在の前まで駆ける。
近づいてくる二人に気付いたのか、声を掛けてきた。
「あらー、貴方達、大丈夫?」
「はいっ!その、失礼ですけど、貴女様はもしかして大精霊様では!?」
そう瞳を輝かせて言うリリアの姿に、自分まで嬉しい気持ちになる徹。
「そうよー。あら?貴女……遠い昔に、わらわが加護を授けた家系の人間ねー?わらわの力を感じるものー」
「やっぱり!アマテラス様!私、リリア=ツゥエルヴって言います!」
「そう、リリアちゃんね。わらわはアマテラス。蓮華ちゃんにお願いされて、助けに来たよー。その様子なら、助けは要らなかったかなー?」
「と、とんでもないです!アマテラス様とご一緒できるなんて、今日はなんて素敵な日なのかしら!私の親衛隊第一号も手に入れたし、最高ね!」
「ふふ、リリアちゃんも蓮華ちゃんと同じで、可愛いねー」
そう言ってリリアを抱きしめるアマテラス。
その様子を父の顔で見守る徹。
美女が美少女をハグしている……俺はこの日の為に生きていた……!
なんて考えている徹であった。
「わぷっ!?アマテラス様、蓮華ちゃんって、あの蓮華様の事ですか!?」
リリアはその瞳を更に輝かせ、尋ねる。
王覧試合で見た、凄まじい美少女。
ヴィクトリアス学園での試合も、遠見の水晶を使い見る事が出来た。
リリアは、蓮華に憧れて剣の修練を始めたのだ。
「そうだよー。もしかしてリリアちゃん、蓮華ちゃんに会いたかったりするのー?」
なんて微笑んで言うアマテラスに、間髪入れずに答えるリリア。
「あ、会えるんですか!?」
「ふふ、それじゃこの国をしっかり救ったら、わらわから話を通しておいてあげるよー」
「ほ、本当ですか!?よーし!トール!行くわよ!この街を襲ってるやつら、一人残らず皆殺しよー!」
「ハハッ!!」
そう言って駆けていく二人を見て、アマテラスは思う。
「あの片方の人、敵じゃなかったかしらー?」
と。
だが、少しして思い直す。
リリアを見つめる表情を。
あの顔は、大切な人を見る目であったと。
ならば、大丈夫だろう。
そう判断したアマテラスは、仮面の兵達の呪いを解いていく。
「味方を増やしていかないと、ね。蓮華ちゃんの敵に周った時点で、貴方達は詰んでるのよー」
そう言い残し、アマテラスもまた、行動を再開する。
蓮華に頼まれた事を、果たす為に。




