197.隠された戦力
各国の状況を遠見の魔法で見ていたウルズは立ち上がり、バルビエルの元へと歩みを進める。
「バルビエル、戦況が芳しくないようだけれど?」
そう、多くの国は壊滅一歩手前まで押せていた。
それを笑って見ていたのだが、各国に大精霊達が現れ、段々と立て直しを見せてきたのだ。
「ウルズ様、ご安心ください」
「この状況で安心しろと言うの?貴方の用意した十傑、一部はできるようだけれど……」
「ふふ、ウルズ様。あれらは表向きの十傑として、他の組織への顔として用意したもの。本当の十傑とは、大蛇と組織の長である私めの二人の事」
「なんですって?」
「轟炎の刃"大蛇"と名乗っておりますが、奴こそは……八岐大蛇と呼ばれる、九つの生命と九つの頭を冠する大蛇。奴こそがウロボロスの象徴なのです」
ウルズがイヴを用意したように、バルビエルもまた、八岐大蛇という切り札を用意していたのだ。
「ふぅん?期待して良いのね?」
「ハッ。奴がその身を解放すれば、地上の制圧など一瞬でございましょう。難点は八岐大蛇では巨大すぎて、味方の兵もろとも踏み潰してしまう事ですが……元々使い捨ての兵、失っても痛手はありません」
「そう、期待しているわよバルビエル」
そう言って、ウルズは戻る。
その後姿を見て、バルビエルは思う。
必ず、ユグドラシル様を復活させ、あのお方に以前のような姿に戻って頂くのだと。
-王都・オーガスト-
王城の最奥で、王達が見守る中、金属の鍔迫り合いの音が木霊する。
「ハァァァァッ!!」
ギギィィンッ!!
「くぅっ……!!蓮華さん、あの学園で戦った時と、太刀筋が全然違うっ!!まるで別人と戦ってるようですよ!?」
「私の元々の太刀筋は、奏音ちゃんは良く知ってると思う。だけど、この"ユグドラシル"の太刀筋は、初めてだよね?」
「!!」
「今、必死に矯正してるんだ。私の太刀筋と、ユグドラシルの太刀筋。それらを合わせて、本当の"私"の太刀筋が作れるようにね」
そう微笑んで言う蓮華に、奏音は思わず笑ってしまった。
「ぷふっ……蓮華さん、本当に変わってない。あの頃も、そんな事言ってた」
-過去-
ギィィィン!!
「そこまでだ蓮二、彩香。俺は他の門下生を見てくるから、少し休んでいなさい」
その言葉を聞いて、座り込む二人。
「ぶはぁ……くっそぅ、父さんの太刀筋を見様見真似でしても、全然上手くいかないな」
「ふぅぅ……お兄さん、お兄さんは無理におじさんの真似しなくても良いんじゃない?」
「やっぱりそうだよなぁ。なぁ彩香ちゃん、少し付き合ってくれないか?」
「良いですよー。まずはお買い物して、次に食事を……」
「待て待て彩香ちゃん。この流れでそういう冗談は良いから」
苦笑して言う蓮二に、彩香も苦笑する。
「本気で言ったんだけどなー」
と小さく言ったのを、蓮二は聞こえていない。
立ち上がり、刀を見つめて言う蓮二。
「俺自身の太刀筋と、父さんの太刀筋……合わせてみせる。それが、本当の俺の太刀筋になるはずだ!」
「ぶふっ!お兄さん熱血すぎ!」
「わ、笑うなよ彩香ちゃん。だってさ、父さんの真似するだけじゃ、超えられないじゃないか。まぁ、父さんの真似しても上手くいかないんだけどさ……」
「あははは!良いですよお兄さん、今日の夕飯はおじさんのとこで食べていくつもりですし」
「はは。彩香ちゃんが来てくれると、母さんがはりきって食事の質が上がるから嬉しいよ」
「蓮二ー!聞こえてるのよー!アンタの食事だけ量を減らしても良いんだからねー!?」
「うっそぉ!?ごめんって母さん!いつも美味しい食事をありがとうー!!」
「あははははははっ!!」
この稽古場は、端と隣の実家の台所がすぐ傍で面していた。
だから、端で稽古を行っている二人の声は丸聞こえだったのだ。
母から言われ、慌てて返事を返す蓮二。
そんなやりとりを見て、心底おかしそうに笑う彩香。
-現在-
昔を思い出し、微笑む奏音。
「お……蓮華さん、どうしても、私を止めます?」
「もちろんだ。奏音ちゃんは、私の家族だからな」
「!!……もぅ、そういうの反則です」
そう言い、刃を収める奏音。
「奏音ちゃん?」
「前会った時も言いましたけど、私はこの生き方を辞めるつもりはありません。ですから……蓮華さん、刀を上に振り上げてくれます?」
「え?こう?」
素直にソウルイーターを振り上げる蓮華。
「はい、そのまま振り下ろす」
「はい」
またも素直に振り下ろす。
それを直撃する奏音。
「なっ!?」
もちろん、なんの力も込めていない振り下ろしなので、ダメージはない。
障壁がダメージを肩代わりする為、刃物が当たっても障壁が残っている限り、傷は受けない。
「やーらーれーたー!」
バタン
「え?」
倒れる奏音に、呆気にとられる蓮華。
よろよろと立ち上がる奏音。
「くっ……この借りは必ず返す!覚えておけ蓮華!さーらばだー!」
そう言い残し、消える奏音。
「……え?ちょ、奏音ちゃん!?」
呆気に取られている間に、奏音は逃げてしまった。
「こらぁー!次会う時は絶対に連れて帰るからなー!!」
そう叫ぶ蓮華の事を、ぽかーんと見ている王達。
「ど、どういう事だ?」
訳が分からず、シリウスに尋ねるグルヴェイグ。
「わ、分かりませんが、蓮華様が敵を退けてくれたという事、でしょう?」
「そ、そうだな」
と二人のロイヤルガードが会話を交わしていた。