194.王国フォースのインペリアルナイトマスター
-王都・フォース-
「第七、第八部隊はそのまま逃げ遅れた市民の救助を!第九、第十部隊は倒れた騎士達と仮面の者達を確保なさい!」
「「「ハハッ!!」」」
カレンの指揮の元、王都・フォースは立て直しを見せていた。
仮面の者達による急襲により、街は当初大混乱に陥った。
しかし、予めカレンとアニスにより指示を受けていた騎士団が、すぐにこれを対処。
街の住人の避難は滞りなく進むかに思われた。
そう、十傑を名乗る者が現れるまでは。
「俺は"ウロボロス"十傑、閃空の刃"剛毅"。中々骨のある騎士団で嬉しいぞ。殺し合おうぞっ!!」
そう言い放ち、暴れ始めたのだ。
凄まじい力で街を破壊していくこの男に、騎士団の者が挑むが、一撃の元に倒されてしまう。
「脆い、脆いぞ!束になって掛かってこい!!」
剛毅の一撃は街を破壊していく。
それにより混乱が大きくなり、騎士団でも抑えきれなくなっていた。
そんな時、民が、そして騎士団のみなが待ち望んでいた存在が来てくれたのだ。
「そこまでですわ!」
「蓮華お姉様との思い出が詰まったこの街を……私的にギルティです」
「「「カレン様ー!!アニス様ー!!」」」
逃げ惑う民達が、その姿を見て歓声をあげる。
応戦していた騎士達も、その姿を見て士気が上がる。
「カレンお姉様は騎士団の指揮をお願い致します。あいつは、私が片づけます」
「アニス……分かりましたわ」
そう言い、カレンは騎士団の皆の元へ移動する。
アニスは男の前へと歩みを進めた。
「インペリアルナイトマスター、アニス卿とお見受けする」
その問いかけに、アニスは冷笑を浮かべる。
「下種に語る舌を持っていません。さっさと死ね」
巨大な鎌を軽々と構えるアニス。
その姿はまるで死神のようでいて、白く清楚でいて煌びやかなインペリアルナイトの正装。
そして狙った魔物の首を確実に狩り取るその姿から、アニスは白き死神と仲間内からも恐れられていた。
アニスは心を許した存在以外には、非常に冷徹な態度を取る。
それは、幼くして騎士団を率いる者になる為の教育を受けていた事から、そうなってしまったのだ。
幼き頃から自分をずっと守ってくれた、最愛の姉であるカレン。
そして、その姉と共に尊敬し、憧れを抱いた蓮華。
そんな蓮華との思い出のつまったこの街を汚された事が、アニスを激昂させていた。
その身に纏うとてつもない魔力に、剛毅は口元が吊り上がるのを抑えられず、笑った。
「フハハ……!その魔力、そしてその隙の無さ!地上のインペリアルナイトやロイヤルガードなど、大した事は無いと聞いていたが……そうではなかったようだな!」
剛毅から、凄まじいオーラが迸る。
「オーラを扱う格闘家のようですね。その剣は飾りですか」
「俺の拳を使うまでもない相手には、この剣で相手をしている。分かるぞ、お前は強い。手加減などできる相手ではないと、俺の直感が告げている」
その言葉に、冷笑を浮かべるアニス。
「良かったですね、生存時間が少しだけ伸びましたよ」
「フハハハハハ!!良いぞ、その減らず口がどこまでたたけるか、試してやろう……!!」
「無論、お前が死ぬまでですよ!」
アニスの大鎌が剛毅の首を狩り取ろうと踊る。
しかし、剛毅はそれを見切り、回避する。
「遅い遅い!俺は閃空の刃"剛毅"!俺のスピードに勝る者などおらぬ!」
「フン、そう言う奴は大抵パワーも負けてるんですよ!」
ギィィィン!!
剛毅の首を狙った一撃は、オーラに包まれた腕により防がれる。
「チッ……下種の分際で、強固なオーラを纏っていますね」
「フハハ!!これでもパワーが劣っていると思うか?」
「一撃を防いだ程度で、図に乗るなです。下種には勿体ないですが、この力を見せてやります」
そう言い放つアニスは、その身に氷の魔力を纏わせる。
「!!その力、大精霊の加護を得ているのか」
アニスは冷たい瞳で剛毅の方を見る。
だが、その瞳にはもう剛毅は映っていない。
「感謝しろです。この力を最初にお見せしようと思っていた蓮華お姉様より早く、見れる事を」
凄まじい魔力が迸る。
その絶大な氷の魔力に、一歩後ずさる剛毅。
事氷を操る、という点において。
アニスは、蓮華をすでに超えていたのだ。
その戦いに見惚れる市民達を、安全な場所まで避難させる騎士団。
しかし、その騎士団の者達もまた、アニスの強さに見惚れていた。
自分達の隊長が、人知を超えた力を持っている事が誇らしく、憧れが以前よりも強くなっていた。
そんな中、もう一人の隊長であるカレンの叱責が飛ぶ。
「何をしていますか!早く民達を避難させなさい!セシルが王城に居るとはいえ、まだ安心できる状態ではないのですわ!私は王城に向かいますわ、第一部隊は私に続きなさい!」
「「「ハハッ!!」」」
そこに、カレンの直属の部隊である副隊長ローガンが聞く。
「カレン様、アニス様お一人でよろしいのですか?」
その言葉に、カレンは笑みを深くする。
「あの程度の者に、アニスが負けるなどあり得ませんわ。私達は城に戻り、侵入した者達を捕えますわよ!」
「ハッ!!」
威風堂々とした自分達の大将に敬意を抱く。
自分は、この方の下につけて幸せだ、そうローガンは思っていた。
「アニス!終わったら城へ!」
「了解です、カレンお姉様!」
振り返らず、そう答えるアニスに微笑み、カレンは城に馬を走らせる。
心配などしていない。
アニスは、自分と共にシャルロッテ先生との特訓を乗り越え、ミレニア師叔の教えを受けた。
その強さを、姉である自分が誰よりも知っている。
今はいち早くこの国を救い、苦境に立たされているであろう他国の救援を視野に入れているのだった。