193.VS漆黒の刃”奏音”
-王都・オーガスト-
「グハァッ……!!」
ズバッ!!
「ガァッ!?き、貴様、が、何故、ここに……!」
戦場を疾風のように駆け抜ける少女が居た。
すでに王城は半壊しており、至る所に騎士達が倒れていた。
その騎士達を連れ去ろうとしていた仮面を被った者達を、なぎ倒しながら進むのは。
「決まってるだろ。友達を、助けに来たんだっ!」
ズバァッ!!
「グァァッ!!れ、レンゲ、フォン……ユグドラシル……!!」
ドサァ!!
蓮華もまた、その命までは奪っていない。
気を失わせるだけに留める。
騎士達を全て助け、仮面の兵達全てを相手にしていては、時間が足りない。
そう判断した蓮華は、奥へと駆ける。
その途中、倒れているロイヤルガードを見つける。
王覧試合で言葉を交わしたアルスだった。
蓮華は『ヒーリング』を施し、目を覚まさせる。
「う……俺、は……そうだ、侵入者!!って……蓮華、様!?」
「ごめん、話してる時間は無いんだ。ここに来る途中で見かけた仮面の兵達は、あらかた倒しておいたから……後始末を任せて良い?あの仮面を、これで壊して欲しい」
「それは、もしかしてマーガリン様の魔道具ですか!?」
その言葉に微笑む蓮華。
「頼んだよ」
そうして立ち上がり、奥へと進む。
その後ろ姿を見つめるアルスは、思考を切り替え、まずは騎士達を救助する事にした。
数多く倒れる仮面の兵達の仮面を、自分一人で破壊していくには時間が掛かるからだ。
「蓮華様……俺は、俺は自分が不甲斐ないっ……!」
そう独り言ち、拳を握りしめながら……。
アルスが倒れていた場所の一つ奥の間。
そこで倒れる友人を見つけ、蓮華は駆け寄る。
「シリウス、今癒すからね。『ヒーリング』」
蓮華の使う癒しの魔法は、下位回復魔法である『ヒーリング』ですら、凄まじい回復量を誇る。
他の者が扱う同魔法の『ヒーリング』とは、明らかにレベルが違う。
シリウスの傷も瞬時に癒え、目を覚ます。
「ぅ……私、は……れ、蓮華様!?」
目が覚め、目の前にいる少女に驚きを隠せないシリウス。
そうして、震え、蓮華を抱きしめる。
「蓮華様……!お会い、したかったです……!でも、私、守れなかった……蓮華様に、次会う時は……強くなった姿を、見てもらおうと、思っていたのに……!!」
そう嗚咽を漏らすシリウスを、優しく抱きとめる蓮華。
「強かったよ、シリウス」
「え……?」
「シリウスが、敵の強さに気付かないわけがない。でも、それでも逃げなかった。王を、国を守る為に、精一杯頑張ってた。だから、私は今、ここに居る」
「れん、げ……様……」
目に涙を浮かべ、蓮華を見つめるシリウス。
蓮華はそんなシリウスに、優しい笑みを向ける。
「国王陛下は母さんの魔道具でその姿を隠せているんだよね?だから、まだ見つかっていないはず。場所、シリウスなら知ってる?」
その言葉に、力強く頷くシリウス。
立ち上がり、真剣な表情で言う。
「私は、自分の力の無さが憎い。今の私では、何も守れない……!蓮華様、この不甲斐ない私に……力を貸してくださいますか?」
その言葉に、微笑む蓮華。
「その為に、来たんだよ」
そう短く自分の意思を伝える蓮華。
慰めをかけたりはしない。
強くなる為の想い、そのきっかけは人それぞれ。
蓮華は、シリウスがここで止まるような人じゃないと信じていた。
だから、それ以上の言葉は要らない。
そしてシリウスも、そんな蓮華の心を、言葉を発せずとも感じていた。
「蓮華様、こちらです。もう一人この国最強のロイヤルガードが陛下の護衛をしてくださっていますが、敵の強さは異常です。ここに攻め入ってきた兵達一人一人が、とてつもない強さでした。それを束ねるあの女の強さは……」
そこで言葉を止める。
口を強く結ぶシリウスに、蓮華は目を瞑った後……力強くその目を開き、言った。
「さぁ、行こうシリウス。まだ、間に合うはずだよ!」
「はい、蓮華様!」
シリウスと蓮華は王の元へ駆ける。
いくつもの階段を昇降し、辿り着いた先は、何もない空間。
ただ広い部屋であるその場所。
その隅に、良く見れば空間の歪みのようなものを感じる。
「成程……これは、ここって知ってないと、気付かないね」
「はい。マーガリン様の魔道具は、本当に素晴らしいです」
そこには、国王夫妻とその娘。
そしてオーガストのロイヤルガード最後の一人、グルヴェイグと数人の騎士が、三人を守護するように囲んでいた。
「おおシリウス!無事であったか!!」
老齢の騎士と侮る事なかれ。
このグルヴェイグは、オーガストの誇る最強のロイヤルガードなのだ。
国王の信頼厚く、他の騎士達から絶大な支持を得ている。
「申し訳ありませんグルヴェイグ様。私も、敗北致しました……」
「なんと、其方が……という事はアルスも、だな。だが、無事で良かった。して、そちらの方は、件の?」
全員の視線が、蓮華へと向かう。
「初めまして、になりますね。レンゲ=フォン=ユグドラシルです。救援に来ました」
蓮華の言葉に、国王が前へ出る。
「すまぬ、初めての顔見せが、このような形になろうとは……。マーガリンからはこのような事態の時、王である我らの裁量に託すと言われておる。それなのに、こうして手を貸してくれるとは……感謝してもしきれぬ」
そう言う国王に、笑顔を向ける蓮華。
「私は、友達を助けに来ただけですよ」
そう言って、シリウスを見る。
「蓮華様っ……!」
感極まったシリウスは蓮華に抱きつこうとしたが、国王夫妻にグルヴェイグの前である事をすぐに思い出し、なんとか踏みとどまった。
「それと、もう一人の友達の為に、ね」
そう言って何もない空間に視線を向ける蓮華。
皆がその視線の先を追う。
すると、先程まで確かに何もなかったその場所に、漆黒の服に身を纏う女が現れた。
「二度目の出会いが、こんな形になりたくはなかったよ、あや……奏音ちゃん」
そう、十傑三強の一人であり、漆黒の刃"奏音"である。
少し寂しそうに笑う奏音は、それでも伝える。
「蓮華さん、どうしてこっちに来てしまうんですか。蓮華さんなら、他の場所に……ううん、違いますね。私だから、ここに来たんですよね」
その言葉に、肯定を示す蓮華。
だが、奏音は悲しげに笑う。
「もぅ……。私がこちらに居る理由、話しましたよね?」
「うん。だから、止めにきたんだ」
ゆっくりと刃を構える奏音。
それを見た蓮華も、ソウルイーターを構える。
「私は、こちらの世界から離れるわけにはいきません。蓮華さんは知らない、闇の深さを。でも、知らなくて良いんです。私が、受け持ちますから」
「奏音ちゃん、私はそんな事望んでない!今ならまだ間に合う、兵達も一人も殺していないじゃないか!私も一緒に謝る、だから!」
「ダメですよ蓮華さん。私は重罪人なんです。そんな私を救おうとしたら。貴女は光、地上の……ひいては世界を照らす太陽なんです」
「奏音ちゃん……!」
「邪魔をするのなら……蓮華さん、貴女を倒します……!」
「なら、力づくで止めて、こっちに戻してやる!奏音ちゃん!」
「「ハァァァァァッ!!」」
ガギィィィィン!!
元の世界で旧知の仲であった二人。
その二人の、互いが相手の事を想っての戦いが、始まったのだった。