191.ヴィクトリアス学園での攻防
学園街フォルテスから、ヴィクトリアス学園と続く街道。
その街道から逸れた道には、セルシウスの仕掛けた数多の罠が設置されており、その侵攻を遅らせる事に成功していた。
学園街フォルテスでは、まだ学園に向かう前だった生徒達が、仮面をつけた者達と戦いを繰り広げていた。
ガギィィィン!!
「くぅっ!!こいつら、強すぎるだろ!?」
「兄ちゃん、これ使いな!うちの商品だ、今回はタダにしといてやるっ!」
「あんがとおっちゃん!!」
「全員、一対一では決して戦うな!相手の方が悔しいが力は上だ!必ず3人以上で当たるんだ!」
「ああ、分かってるよエリク!俺はポーション系を仕入れてくる!持ちこたえろよ!」
「分かった、頼むアーク!皆!必ずセルシウス様や、アーネスト様達が救援に来てくれる!それまで持ちこたえるんだ!」
「「「おおおぉぉぉっ!!」」」
街の者達と生徒達が、協力をして仮面をつけた者達を取り押さえようとしていた。
ドゴオオオオン!!
「大丈夫か、助太刀に来たぞ」
3メートルは超すであろうその巨体。
仮面の男をその巨大な槌で薙ぎ払い、現れた。
誰しもが驚く中で、生徒達から声が上がる。
「ヘラクレスさんっ!」
「ヘラクレスさんだっ!!」
「ヘラクレスさんが来てくれたぞ!これで勝てる!!」
そう、学園で警備をしている姿は生徒達皆知っている。
そして、生徒達が憧れる、生徒会長であるアーネストや、蓮華と戦っている所を幾度となく見てきたのだ。
皆の士気が目に見えて上がる。
一人の男が駆け寄る。
先程皆をまとめていたエリクだ。
「ヘラクレスさん!学園に残られなくて良いのですか!?」
「ああ、大丈夫だ。そこには、俺より強いお方がいらっしゃるからな」
そう不器用な笑顔を見せるヘラクレス。
「ヘラクレスさんより、強い……!?」
その言葉に驚いたエリクだったが、心当たりはあった。
そう、小柄ながらに、あのお二人の信を最も得ているであろう少女。
「ああ。反対側はセルシウス殿が向かってくれた。さぁ、お前の力も借りたい。この街を守るぞエリク」
自分の名を名乗っていないのに、知ってくれていた事が嬉しかった。
エリクは、声を張り上げる。
「はいっ!よーし、皆行くぞ!!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
学園街フォルテスの士気は高い。
一方、学園のすぐ傍の街道では。
「……成程、獣道には罠を仕掛けていたか。いくら強化された兵と言えど、この力は大精霊の物……防げはしないか」
「どの道、将を狩るのは私達。道具がどうなっても良いよ」
そう言うイヴに同意する大蛇。
最強と最狂の二人が、ゆっくり街道を進む。
そこに、二人の強者が待ち受けていた。
「ここから先は、行き止まりよ?」
大罪の大悪魔の一人、"色欲"のアスモデウス事、アリシアと。
「この間の仕返し、これからするんだからねー!」
今でこそ力を失ってはいるが、原初の精霊女神、元精霊王であるアリスティアである。
流石の大蛇とイヴも、この二人の登場には歩みを止めざるを得ない。
「アリスティアは任せて。お前はそっちの女」
「了解だ」
四人から、強大な魔力が迸る。
人知を超えた戦いが、始まったのだった。
学園の裏手。
西門と東門は閉じられ、中から結界も張られている。
正門では今まさに凄まじい魔力を感じた所だ。
そこに、仮面をつけた者達が数名、潜んでいた。
大蛇に命じられ、侵入する為だ。
しかし、その手を読んでいた者がいる。
ガサッ……。
「ま、やっぱここを狙うよな」
「「「!?」」」
そう、生徒会長……否、生徒会長であるアーネストの姿をした、タカヒロだ。
「学園に何かあった時の為の避難経路。そこが逆を言えば、侵入経路にもなる。すでに学園の見取り図がお前達の手に渡ってるなら、すぐに考え付くさ」
仮面の兵達は刃を抜く。
この男を始末すれば、障害は消えると判断したのだ。
「俺と殺り合うつもりか。言っておくが、な……」
その身に纏う魔力の濃度に、仮面の兵達は一歩後ろに下がる。
「俺は蓮華達のように、優しくはないぞ。敵となった者に、容赦はしない。そこにいかなる理由があれど……本当に守りたい者の為なら、その命を奪う事に抵抗はない」
そうして、仮面の者達は一瞬で灰と消えた。
「……」
一瞬悲しい表情をするが、それもすぐに戻し、学園内に戻る。
それは弱肉強食の魔界で生きてきた男の、強さだった。
ドゴオオオオン!!
「ぐぅっ……ごめん、なさいアリスティアさん……この身では、ここまでのようです……」
魔力を失い、体が薄れゆくアリシア。
「アリシアちゃん……!」
「本体に、この事は伝わります……どうか、無事で……」
そう言い残し、アリシアは消えた。
「これで二対一だ」
「今で互角、勝負あったねアリスティア」
「ふふん、それはどうかなー?」
すでに、マーガリンから受け取った腕輪は外している。
だというのに、このイヴと名乗る少女は押せない。
そこに、大蛇まで加わっては、勝ち目は薄かった。
けれど、蓮華とアーネストに任された。
その事がアリスティアの気持ちを後押ししていた。
「勝負はやってみないと分からないってね!いっくよー!」
残されたアリスティアと、イヴ・大蛇の戦い。
段々と押され始めるアリスティアは、想う。
もし私が負けたら、死んじゃったら、蓮華さんはどう思うだろうと。
負けられない!そう心に火を灯し、アリスティアは本気を出す。
戦いは激化していくのだった。