190.王都侵攻
-王都・オーガスト-
王城はすでに荒らされ、仮面をつけた者達に土足で踏みにじられていた。
ドサァ!!
「こんなものなの?がっかりするくらい弱いのね、地上の騎士達って」
すでに彼女の周りにはおびただしい数の騎士達が転がっている。
殺してはいない。
この後、魔界侵攻の兵として使う予定だからだ。
「こんなに弱いんじゃ、使えない気もするけど……」
そう言い捨てるのは、十傑三強の一人、漆黒の刃"奏音"である。
「貴様達の狙いはなんだ!?」
そう声を張り上げる騎士隊長だったが、それに答える事なく斬り捨てる。
「がはっ……」
ドサァ!!
他の数多の騎士達と同じく、床を舐める。
圧倒的なまでの力の差に、王国の騎士達は抵抗できなかった。
王都内もすでに蹂躙され、制圧まで残す所後わずかといった所だった。
「まさか地上の騎士達がここまで弱いなんて……ヴィクトリアス学園の戦力が異常だったのね」
そう言って歩みを進める。
目指すは王の間。
すでに避難しているのだろうが、そんな事は奏音には関係が無かった。
「止まれ!ここから先には行かせない!」
王国近衛親衛隊隊長、ロイヤルガード。
国の守護神と称えられる存在だ。
「貴方は、少しは強いのかな」
そう言い放ち、瞬時に後ろに回り、攻撃する。
それに反応できなかった男は、そのまま倒れた。
「これが、守護神、ねぇ……」
他の騎士達と変わらず倒せてしまった事に、何の感情も湧かなかった。
「はぁ、さっさと終わらせるか」
そこに、またロイヤルガードの服装をした者が現れた。
口上を述べるでもなく、ただ奏音を睨んでいる。
「へぇ……貴女は、少しはできるみたいね……?」
ここにきて奏音は、初めて刃を構えた。
今までの敵は一瞬のうちに片づけてきた奏音だが、目の前の女は、そう簡単に倒せると思わなかったのだ。
「一応、名乗ろう。私は王国近衛騎士団親衛隊隊長、ロイヤルガードのシリウス」
そう言い、構えをとるシリウスを見つめる。
先程の男と同じロイヤルガード。
けれど、この女の方が圧倒的に強いだろうと感じた。
「それじゃ、行くよ」
「っ!?」
あまりの速度に、シリウスはその姿を見失う。
奏音はその気配を完全に絶つ事ができる為、一度見失えば、どこに居るのか分からなくなるのだ。
ズバァッ!!
「ぐぅっ……!」
第六感で危険を感じ取り、なんとか致命傷を避けるシリウス。
だが、攻撃はそれで終わらない。
「やるね。なら連撃、行くよ。『桜花乱舞』」
ズバババババッ!!
目で追う事も出来ない速度で斬られ、地に伏せるシリウス。
「終わりかな。あっけなかったね」
そう言い、奥へ向かおうとする奏音だったが、後ろから気迫を感じ、立ち止まる。
「まだだ……この程度で、終われない。この程度で倒れたら、蓮華様に顔を向けられないっ!!」
そう言い、凄まじい気迫を見せるシリウス。
しかし奏音は、それよりも蓮華の名が出た事に驚いた。
「……貴女は、絶対に殺さないから。気を失わせるけど、ごめんね」
黒い服を身に纏う奏音と、白い正装に身を包むシリウス。
黒と白の戦いは、白が地面に伏す事で勝敗がついた。
奏音は歩みを進める。
王の命を、奪う為に。
-王都・ツゥエルヴ-
この王都・ツゥエルヴは、他の国と違い、一般の人々も多くが戦える。
それは亜人が多く、多種多様な種族の者が共に生活をしている事が起因していた。
その為、この国は十傑の三強の一人、神雷の刃"徹"が指揮をとっていた。
「全く、俺はアリスティア嬢の居るヴィクトリアス学園に行きたかったというのに、大蛇め……」
そう不満を零す徹。
「まぁ、この国にも美しい少女は居るかもしれないしな。探してみるとしよう」
彼は何を隠そう、ロリコンなのである。
ただ、決して手は出さない。
あくまで、見て愛でるもの。
そういう趣向だった。
彼もまた、転生者であった。
当時、日本でオタクと呼ばれていた彼は、美少女フィギュアやいわゆるギャルゲーと呼ばれるものをこよなく愛していた。
仕事で得た給料を全てそれらに注ぎ込む彼は、周りからは良い目で見られなかった。
けれど、彼はそれを理解していた。
周りに理解してもらおうなどと思っていない。
ただ、自分が好きであるなら、それで良い。
そう考えて生きてきた彼は、不慮の事故でその命を終えた。
自分には全く過失の無い、多くの命が失われた飛行機の墜落事故だった。
彼は幸いなことに、眠っている間にその命を終えた為、目が覚めて異世界だった事に狂喜乱舞した。
魔族の子として生を受けた彼は、生前頑張らなかった己を鍛えるという事を、望んで行った。
第二の人生を、楽しむ為に。
だが、そこで見た世界は、歪だった。
弱者は虐げられ、強者だけが幅を利かせられるこの世界。
これならまだ、弱者が守られる日本の方がマシだ……それが彼が感じた事だった。
それから彼の生きた世界、魔界は支配者が変わり、ルールが出来上がり、幾分かマシにはなった。
けれど、その統治も全ての国に行き渡っているわけではなく、まだ昔の名残を残している場所も多く存在した。
彼は、悲しかった。
別に他人がどんな趣味を持っていようと、良かった。
でも、自分が好きな事をできないのに、不満が溜まっていた。
そう、彼は美少女フィギュアを集める事や美少女ゲームが、ただやりたかった。
それだけだった。
しかし、どれだけ望んでも、この世界にはない。
なら、現実で集めてしまうか……そう歪んだ想いを抱いてしまった。
皮肉にも、彼は強さがあった。
魔界で生き抜いてきたのだ。
そんなおり、バルビエルからその強さを買われ、声を掛けられた。
彼は条件付きで、その話を受けた。
そう、美少女を見つけたら、自分の僕にしても良いかという、狂った思想。
その条件は飲まれた。
だが、彼は今まで誰も僕にしていない。
……彼は、思っても行動には移せないのだった。
そんな時、自分の正に理想とも言える少女に出会った。
女神かと言わんばかりの美しさに、目を奪われた。
彼女と話が出来たら、どんなに幸せだろう……。
思いは募る。
だが、十傑の中でも最強を誇る大蛇が行くと言ったなら、それには逆らえない。
そして今日も、彼は品定めをしているのだった。
「徹様、王城は取り囲んでおりますが……如何がされますか」
仮面の男の言葉を聞いて、徹は笑う。
「ああ、入口はこじ開けてやるから、お前達で制圧してしまえ」
「ハッ!」
そう言って下がる仮面の男は、囲んでいる兵達を少し下がらせた。
「さて、神雷の刃"徹"の力、見せてやるか……おっと、キャラ作りキャラ作り……。神雷よ、我が前に立つ敵を薙ぎ払え!"Mjolnir"!!」
瞬間、凄まじい爆音と共に、硬く封鎖されていた門が破壊される。
「さぁ、行け!王を討ち取るのだ!!」
「「「おおおおおぉぉぉっ!!」」」
王城に侵攻する兵達を見て、彼は思う。
あぁ、この兵達全員幼女だったら良いのに、と。