187.ウロボロスの戦力
円卓を囲うように、十傑が集結していた。
「みな、集まっているな」
そこに、バルビエルがやってくる。
全員の視線が集まる中、バルビエルは視線を扉の前に移す。
そこから遅れて、運命神ウルズが現れる。
これには全員が息を飲んだ。
その身から感じる圧倒的な魔力量に。
そして、その赤い、狂気に狂ったような瞳に畏怖を感じたのだ。
ウルズはゆっくりと歩みを進め、最奥の上座へと腰を落ち着ける。
「バルビエル、手筈は任せるわ。私が今日ここに来たのは、敵にアリスティアが居ると聞いたからよ」
そう、十傑の三強である"大蛇"と"徹"から、その話を聞いていたのだ。
「いくら力が弱まっているとはいえ、アリスティアは強いわ。貴方達が束になった所で勝ち目は薄いでしょう。だから、この子を貸してあげる」
ヴン!
ウルズの言葉と同時に、現れる。
黒装束に身を包み、腰には刀を差していた。
「イヴ、挨拶なさい」
ウルズに言われ、頷く。
「イヴ、宜しく」
その声色から、まだ幼い少女だと察する事が出来る。
背丈も小さく、ウルズの半分程度だ。
だが、その身から感じる魔力量が、ウルズとそう変わらない事に、全員息を飲んだ。
「この子はこんな姿だけど、貴方達より年上よ?もう千年は生きている魔族だから」
バルビエルは驚愕した。
この"ウロボロス"を発足させる前から、すでに育成に取り掛かっていたという事になるからだ。
それはつまり、保険。
自分が失敗しても、このイヴという少女が居れば、成し遂げられると。
そう考えていたのだろう、と推測した。
けれど、バルビエルはそれでも構わなかった。
自分とウルズの思想は同じ。
だからこそ、だ。
「学園には誰が行くのかしら?」
「ハッ、僭越ながら私めが行かせて頂きたく思っております」
そう言うのは、十傑を束ねる轟炎の刃"大蛇"だった。
「ふぅん、貴方アリスティアを見たんでしょう?それでも学園に?」
「はい。あの時の私では勝てないと判断し、退却致しました。ですが、今の私ならば別です」
「ふぅん?」
瞬間、イヴが大蛇に斬りかかる。
一瞬の斬撃、それを大蛇は苦も無く防ぐ。
「へぇ……先生、こいつ、強いよ」
「そのようね」
刀を下げるイヴ。
凄まじい速度の剣閃を確認できたのは、十傑三強と呼ばれる漆黒、神雷、轟炎の三人くらいであっただろう。
「では大蛇、貴方にイヴを付けましょう。必ず学園を制圧しなさい。良いわね」
「ハッ!」
「それではバルビエル、後は任せましたよ。地下世界を血で染め上げなさい……!」
頭を下げ、最敬礼をとるバルビエル。
「畏まりましたウルズ様」
それを見たウルズは、この場より退出した。
残されたイヴは、ウルズの座っていた場所に座る。
「それでは、作戦を説明する」
そうバルビエルが告げた。
-草薙 明視点-
円卓を囲む十傑達とは別に、その少し離れた位置に、各隊長達は膝をつき待機している。
俺もその一人。
そうして全員が集まるのを待っていたら、規格外の魔力を放つ存在が来た。
なんだ、アレは。
あんな、凄まじい魔力量を感じる存在が、居る、なんて……。
あの力は、今まで感じたどんな力より、凄い。
アーネスト、それにレンゲさん……あの二人を、俺はとてつもない強さだと思っていた。
事実、今もそう思ってはいる。
思ってはいるが……その強さが、まるで赤子のように感じるくらいに、凄まじい魔力だ。
自身の力が上がったからこそ、より一層はっきりと分かる。
アレは、人間が立ち向かえるレベルじゃない……!
あんな奴が敵に居るんじゃ、いくらアーネストにレンゲさんでも……!
そう思っていたのだが、どうやらあのウルズという者は戦いに参加しないようだ。
少し安心したが、それでも敵にあんな存在が居る事は変わりがない。
どうしたら……そう考えていたら、その場に突然何かが現れる。
イヴと紹介されたその子は、突然斬りかかったように思う。
それを大蛇は防いだようだが……一瞬、何が起こったか理解できなかった。
全てが終わってから、何が起こったのかを理解した。
それ程の一瞬の出来事。
あのアリスティアさんに勝つ為の兵。
敵側の戦力の高さに、俺は不安が募る。
かくいう俺も、敵なのだ。
なんとかして、二人に操られない方法を探し出そうとしたが、無理だった。
ずっと、それを考えてはいる。
だが、時間は刻一刻と迫っている。
今も、バルビエルにより誰がどこを攻めるかの話し合いが行われている。
俺達隊長格は、その下につき、国を攻める事になるだろう。
望んでいない戦いを、戦争をする事になる。
今度装着する仮面は、俺達の魔力を更に引き出す呪われた仮面だ。
代償に、俺達の生命力を使う。
要は使い捨てという事だ。
その代わり、凄まじい力を発揮する事が出来る。
今ここに居る隊長格は、それぞれが……あの闘技大会で見せてくれた、凄まじい力のアーネストやレンゲさんと、渡り合えるほどの力を秘めている。
学園で操られた俺とアーネストが戦った力を基準に、再調整された俺達の力。
それを更に、この仮面が引き出す。
もはや一人一人が一個師団のような強さを誇る。
それが、十傑の下にそれぞれつくのだ。
その戦力たるや、いくら地上のインペリアルナイトやロイヤルガードが強くても、止められるものではないだろう。
俺は願わずにはいられなかった。
アーネスト、レンゲさん……頼む……俺を、俺達を……止めてくれ……!!
-草薙 明視点・了-