185.変わらないもの
ギィィィィン!!
ユグドラシルと兄さんの剣が交差する。
二人は、そこで静止した。
「フ……」
「ふふ」
二人して笑い、兄さんは剣を消し、ユグドラシルはソウルを鞘に納める。
そうして、戦いは終わった。
凄い戦いを間近で見せてもらった。
ううん、感じる事ができた。
これだけの力を、私は出す事が出来るのか。
感動に打ち震えていると、ユグドラシルが倒れる。
それはつまり、私が倒れたって事なんだけど。
「あら?」
とか言ってるけど。
「だ、大丈夫ユグドラシル!?」
母さんとアーネストが駆け寄ってくる。
「はぁ、ユグドラシル。その体は蓮華の物なのですよ。それを、あれだけの魔力を出し続ければ、体が軋みもするでしょう」
やれやれと言った感じで、兄さんが言う。
「あ、あはは……ごめんなさい蓮華、少し調子に乗ってしまいました」
そう言うユグドラシルに、母さんと兄さんが微笑む。
なんかアーネストが赤面してる気がするんだけど、どうしたんだろう?
あ、そうか。
さっきの戦いを見て興奮してるんだな。
分かるよ、私もそうだからね。
私達の辿り着く先を、示してもらったんだ。
まだまだ遠い……だけど、いつか必ず、到達して見せる!
「ユグドラシル、今レンちゃんに変わるとか駄目だからね?」
「そうですね、今変わったら、蓮華が凄まじい苦しみに合うでしょうから」
ひぃぃぃ!?
「分かっていますよ。少し動けそうにありませんから、お願いしても良いかしらマーリン」
「ええ、任せて」
そう言って、私を、もといユグドラシルをお姫様抱っこする母さん。
うぅ、私じゃないけど、恥ずかしい!
「あら、これは楽ちんですね。ついでに世界樹の周りを一周しませんかマーリン」
「ふふ、良いよユグドラシル」
そう笑顔で言う母さん。
ユグドラシルと会えて、話せて、嬉しいのが伝わってくる。
「やれやれ。その前に、荒れた大地を戻しておきますか」
兄さんがそう言うと、先程の戦いで凸凹だらけになっていた大地が、戦う前の綺麗な草原に戻った。
相変わらず、兄さんは凄い。
「ありがとうロキ。時の魔法も、随分と慣れたのですね」
「ええ、君を失ってから、そちらにも力を入れましてね」
そう微笑み合う二人。
時の、魔法。
これが、そうなのか。
会話をしているのを見て、思う。
ユグドラシルは、最初何故、母さんや兄さんと会話しないと言ったのだろう。
私が教える事を頼んだら、承諾してくれて、普通に会話しているけれど……。
こんなに、穏やかな時間なのに。
アリス姉さんも、きっと……。
「アーネスト」
「は、はい!?」
ユグドラシルに呼ばれて、アーネストが驚いている。
おい、私の時となんか違うぞ。
「ふふ、緊張しなくて良いのですよ。それよりも、貴方は蓮華と同じ、なのでしょう?」
「そうです。でも、今はもう違うと思います」
アーネストが敬語だ。
うん、気持ちは分かる。
だけど、話したら変わるよ、私が保証する。
「そうですか。愛しい子、こちらへいらっしゃい」
「へ?は、はい」
そう素直にユグドラシルの元へ来るアーネスト。
ふと見れば、母さんと兄さんがめっちゃ微笑んでる。
も、もしかして。
予感が的中した。
ユグドラシルはアーネストを抱きしめたのだ。
「愛しい子、蓮華を守ってくれてありがとう。貴方の想い、いつも感じていました。優しい子」
ぎゅぅぅぅぅっ!!
「!?」
やめぇてぇぇぇっ!?
アーネストを抱きしめるとか、嫌じゃないけど恥ずかしすぎるぅぅぅぅっ!!
「うわわっ!?」
アーネストも滅茶苦茶焦っているけど、私はそれ以上に焦っていたりする。
母さんに抱っこされた状態で、そこからアーネストを抱きしめているから、振り払おうにも振り払えないのが分かる。
だって、落っことしちゃうかもしれないもんね。
それは分かるけど、なんとかして離れろアーネストォ!
「ふふ、蓮華が物凄く慌てているので、面白いです。名残惜しいですけど、これで離しますね」
そう言って、アーネストを離す。
アーネストは顔がさっきより真っ赤だ。
母さんと兄さんは、凄く優しい表情で私達を見守っていた。
うぅ、恥ずかしすぎてヤバイ。
顔から湯気が出そうだ。
「マーリン、ロキ。私は最初、貴方達とお話をするつもりはなかったんです。だって私は、私であって私ではないから」
その言葉を、先程までの表情とは打って変わって、真剣な表情で聞く母さんと兄さん。
「けれど、蓮華に言われて、話す事にしました。……いけませんね、私はやはり、貴方達との会話を懐かしく思ってしまう」
「それは、私もだよユグドラシル」
「ええ、私もですよ」
「そう、ありがとう。ねぇマーリン、ロキ。蓮華を宜しくお願いしますね。今はまだ、確かな事は言えないけれど、いつか……」
そこで、言葉を止めるユグドラシル。
母さんと兄さんが続けた。
「ええ、言われなくてもその点は大丈夫よ。レンちゃんにアーちゃんは、ユグドラシルの事は関係なく大好きなんだから」
「当然ですね。君の事とはもはや別問題。蓮華にアーネストは、私の宝ですからね」
もうね、私とアーネストはさっきから恥ずかしくてどうにかなりそうなんですけど。
「ふふ、そうですか。それじゃ、マーリン号発進です!」
「はいはーい♪」
そう言って笑いながら、ユグドラシルを抱えて歩き出す母さん。
それに続く兄さんとアーネスト。
穏やかな時間。
変わらない想い。
私は、こんな時間を守っていきたい。
その為にも……強く、ならないとだね。
道は、すでに示してくれたのだから。