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184.ユグドラシルの力

 その夜、私はユグドラシルとの話を皆に伝えた。

 言いたい事はあっただろうけど、母さんに兄さんは、飲み込んだようだ。

 ただ一言、そっかと言っただけだった。

 多分、あの時話せた事で、少し気が晴れたのかもしれない。


「それで、時々ユグドラシルが表に出る時もあるから……その時に違いが分かるようにした方が良いよね?」


 なんて言う私の言葉に、三人が笑い出す。


「あはは!レンちゃん、そこを気にするの!?」


「全く、蓮華は可愛いですね」


「ぶはっ!でもまぁ確かに、違いがあった方が良いかもな!」


 アーネスト、そう思うなら何故笑った!


"違い、ですか。なら、髪の色を私の色に戻すようにしましょうか?蓮華"


 なんてユグドラシルが言ってきたので、それに同意する。


"分かりました、ではそうしましょう"


 ユグドラシルと話はついたので、皆にも伝える。


「えっと、ユグドラシルと今話してね。それなら髪の色を自分の色にするって」


「「「!!」」」


 三人が驚く。


「ユグドラシルは話を聞いてるの!?」


 あ、そこに驚いたんだ。


「うん、常時ってわけじゃないみたいだけど、今は聞いてるみたいだよ」


「ほぅ、ならば言いたい事をこちらから一方的に伝えても構わないわけですね?」


 なんか、兄さんが邪悪な笑みをしている。


「そうねぇ、しかも何も言い返せないわけよねぇ?」


 兄さんだけじゃなかった。


"蓮華、明日またお話しましょうね"


 そう言って、ユグドラシルの気配というか、思念が消えるのを感じた。

 逃げたね、ユグドラシル。


「えっと、二人のその言葉を聞いて、また明日って」


「「チッ!!」」


 母さん、兄さん、仲が良いですね。

 お行儀が悪いですよとか言っても良いのかな。


「なぁ蓮華、頭の中にもう一人居るってどんな感じなんだ?」


「うーん、思ったよりも普通かな?それに、ずっと話してるってわけじゃないし……」


「ふーん、ネセルと会話してるみたいなもんか」


「そういえば、アーネストも魔剣と会話してるんだっけ。どう、仲良く出来てる?」


「おう、大丈夫だぜ。トイレに背負ったまま連れてったら、ギャーギャーやかましいんだけどさ」


 アーネスト……ネセルって女性だった事、もしかして忘れてるのか?

 あぁ、アーネストの中では、魔剣っていうカテゴリなのかな……アリシアさんもだけど、なんて不憫なんだ……。

 そして、夕食も食べ終わり、各自部屋に戻る。

 寝ようとしたら、ユグドラシルから話しかけてきた。


"蓮華、明日もう一度体を借りますね。その時に、力の使い方を見せてあげましょう"


 最強の女神と言われるユグドラシルの戦い方を、見せてもらえるなんて……!

 ヤバイ、興奮して眠れなくなるかもしれないじゃないか。


"ふふ、それではまた明日。おやすみなさい蓮華"


 おやすみなさい、ユグドラシル。

 私も布団にもぐる。

 意外と、すぐに眠る事ができた。

 やっぱり、疲れていたんだろうね。

 主に精神の方だけど。

 そして翌朝、母さんと兄さんに、ユグドラシルが言った事を伝えた。


「それじゃ私が相手してあげるね!」


「いえ、ここは私が相手をしましょう」


 と言って、言い合う二人に私が仲裁に入って、ジャンケンで決めてもらう事にした。

 で、結果、兄さんが相手をしてくれる事になった。


「くぅー!何故私はあそこでグーを出してしまったのかしら……!」


 母さん、ジャンケンは時の運だから……。

 そして、広い草原の場所へ着く。

 ここなら、何も気にする必要は無い。


「一応、結界は張っておくけれど……確認なんだけど、あくまでレンちゃんの力を、ユグドラシルが使うのよね?」


「うん、そうだと思うよ……?」


 その言葉に安心する母さん。

 さて、ユグドラシル、いつでも良いよ。


"分かりました。見ていてくださいね蓮華。私の戦い方は、蓮華の力になるはずです"


 そう言ったかと思うと、私が私の中に吸い込まれる感覚に襲われる。

 そうして、私とユグドラシルは入れ替わる。



-アーネスト視点-



 蓮華が、ユグドラシルと変わったのが分かる。

 蓮華は黒髪だが、ユグドラシルは緑髪だ。

 でも、表情が蓮華と違い、大人びている。

 セルシウスが憑依した時もそうだが、凄くドキドキするのは何故だろうか。


「ロキ、流石に全力で来られると負けてしまいますので、ある程度手加減してくださいね?」


「フ……君を相手に手加減ですか。例え魔力が今の蓮華の基準であろうと、君相手に手加減は難しいですね」


 兄貴の言葉に驚く。

 あの兄貴が、そんな事を言うなんて思わなかった。

 兄貴は信じられないくらい強い。

 それなのに、だ。


「あら、酷いですね。仕方がありません、なら少し、本体から魔力を供給致しましょうか。どの道、蓮華も到達できる力です。先を見せる、と思えばそれも良いでしょう」


「ちょ、ちょっと待ってユグドラシル!貴女が本気で戦ったら、この辺り一面滅茶苦茶になっちゃうでしょ!?」


 マジで!?

 母さんのセリフに戦慄している所へ、ユグドラシルの言葉で更に驚かされる。


「大丈夫です、ちゃんと後で"再生"させますから」


 そういう問題なのかよ!?

 あぁ、母さんが若干引いてるのが分かる。

 ユグドラシルって、俺の思ってたイメージと大分違うんだけど!?


「ククッ……貴女は相変わらずですね。久方ぶりに、楽しめる戦いになりそうです。ワクワクしますねぇ……」


 そう言って、とてつもない魔力をまとう兄貴。

 俺達の戦いの時には、一度だって見せなかった力。

 あれが、本来の兄貴の力……!

 遠い、でも、俺の強さのはるか先の頂きを、見る事が出来る!


「やれやれ……では蓮華、見ていてください。これが、貴女の目指す力です!」


 蓮華と、いやユグドラシルと兄貴の姿が消える。

 ど、どこに!?

 そう思ったら、空で凄まじい剣の乱舞が見えた。


 ゴゴゴゴゴゴッ!!


 地面が揺れる。

 先ほどまで晴天だったのに、吹き荒れる魔力に空が黒くなり、雷が鳴り始めた。


「ハァァァァッ!!」


 ギィィィィンッ!!


「チィッ!!」


 ドゴオオオオン!!


 あの兄貴が、地面に叩きつけられる。

 目の前の光景が、信じられなかった。


「風よ、荒れ狂え。『エターナルウインド』」


 ズオオオオオオオッ!!


 なんだ、あの魔法は。

 風属性の魔法で、あんな威力の魔法は見た事がない。

 蓮華や母さん、兄貴とだって何度も戦った。

 その中で、最上位と言われる風魔法を何度も見た。

 だけど、あれはそれすらもはるかに超えている!


「ククッ!流石ですユグドラシル!爆ぜろ!『エクスプロージョン・ゼロ』!」


 ドゴオオオオン!!


 ユグドラシルの放った魔法を、兄貴の放った爆炎魔法が覆う。

 俺は魔法の先を追っていた。

 そのせいで、二人の姿が消えている事に気付けなかった。


 ギィンギィン!!


 金属の鍔迫り合いの音で、気付く。

 二人は魔法を放った後、すぐに空を駆け、相手の元へ飛んでいたのだ。


「『地斬疾空牙』」


「喰らいませんよユグドラシル!『ヘル・カタストロフィ』!」


 ゴオオオオオオオッ!!


 凄まじい魔力にユグドラシルが包まれる。

 けれど、それをものともせずに、煙の中からユグドラシルが現れる。

 その姿に、その美しさに、俺は見惚れてしまう。


「『エターナル』」


 そうユグドラシルが言ったかと思うと、その姿が消える。

 その一瞬の後、また金属の鍔迫り合う音が聞こえた。

 その先を見ると、ユグドラシルが兄貴に凄まじい剣の乱舞を浴びせていた。


「チィッ……この実力で手加減をしろとは、冗談にもほどがありますねユグドラシル!」


「フフ、相変わらず強いですねロキ。それでこそ、蓮華に力を示してあげられる。もう少し、付き合ってもらいますよロキ!」


「良いでしょう、お相手致しましょうユグドラシル!!」


 そう話しながらも、凄まじい戦いを繰り広げる二人。

 遠い。

 あの背に追いつくには、あまりにも遠い。

 蓮華、見ているのか?

 俺達の家族は、あんなにも凄い。

 なぁ、お前もきっと震えてるよな。

 でも、これは恐怖じゃねぇ。

 超えるべき目標が、すぐ近くに居るんだ。


"アーネスト、あれを超えるつもりなの?"


 ネセルが聞いてくる。

 ああ、もちろんだ。

 今はまだ、遠い。

 だけど……諦めねぇ。

 俺も、あんな風に強くなりてぇ!


"そう、ならアタシも、頑張らないとダメね。あれを超えるなら、ね"


 そう真剣な声で言うネセル。

 ネセルも、今も繰り広げられる凄まじい戦いに、感化されているのだろう。

 すげぇ、ユグドラシルに兄貴。

 俺は、繰り広げられる戦いに、目を奪われる続けるのだった。



-アーネスト視点・了-

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