183.ユグドラシルの試練 ☆
私の全ての力が上がるのを感じる。
動体視力までも上がり、ユグドラシルの動きを追える!
ギィィィン!!
「!!お見事です蓮華。『エターナル』、習得しましたね」
そう微笑むユグドラシル。
「いやったぁぁぁぁっ!!」
滅茶苦茶嬉しい。
なんせ、ユグドラシルにボコボコにされ続けたので、若干ハイになってたりする。
「ふふ、意外と早かったですね。そんなに攻撃を受け続けるの、嫌だったんですか?」
「それを喜ぶ人は居ないよね!?」
ユグドラシルの言葉に即座に反応する。
ユグドラシルは凄く笑っていた。
なんだろう、美人って得だなって思う。
凄く綺麗で、笑ってる姿が絵になる。
私と同じエメラルドグリーンの瞳。
でも髪もエメラルドグリーンで、そこが私と違う。
白い女神のような服を着ていて、って女神だったよ。
黒いベルトをしているけど、引き締まっていてすごく細い腰だ。
なんだろう、美の女神ってこの人の事を言うんじゃないだろうか。
「どうしました?」
おっと、また見惚れていたら聞かれてしまった。
「あ、うん!その、スキル教えてもらえるんだよね?」
「ええ、約束ですからね。今回解放するスキルは、永久の再生。瞬間的に傷は癒えませんが、回復魔法を使わなくても、徐々に傷が癒えていきますよ」
キタコレ!
でもなんでだろう、ユグドラシルの扱うスキルには、なんていうか……永遠っていうのかな、そんな悠久を連想する言葉が多い気がする。
「さぁ、私に触れて蓮華」
言われるがまま、ユグドラシルに触れる。
温かい光が、全身を包む感じ。
そして、また魔力が全身を駆け巡る……!
「ぐっ……うぅぅっ!?」
抑え込むのに、凄い集中力が要る。
ぐぅ……!なん、て凄い魔力なんだ!抑え、きれない!?
「あら、一気に解放を進めすぎたかしら」
バシュゥゥゥン!!
「っ!!はぁっ!はぁ……!」
ユグドラシルが手をかざすと、先程まで荒れ狂う波のようだった魔力が、まるで静かな湖面のように落ち着いた。
「ごめんなさい、少し急いてしまいましたね。蓮華の頑張る姿が嬉しくて、なんて言い訳にもなりませんね」
そう悲しそうにするユグドラシルに、私は笑う。
「ううん、そんな事ないよ。ユグドラシルは、私の為にその力を継承してくれようとしてる。ありがとう、ユグドラシル。私、頑張るから!」
そう言ったら、ユグドラシルは優しく微笑んだ。
「蓮華、貴女は……。うん、決めた。蓮華、貴女の体、少し貸して貰っても良いかしら」
「え?体を、貸す?」
「ええ。私が蓮華の体を扱う事で、その魔力をより馴染ませる事が出来ると思うの。一日に私が変われる時間は、蓮華の体の慣れ次第で変わってくるでしょうけれど……」
「それで、ユグドラシルが私の中から消えちゃうとか、ないよね?」
そう、こうして話せるようになったのに、そんなのは嫌だ。
「ええ、それは大丈夫。それに、第二の門を超えたから、私の意識と望めば会話できるようにしてあげるね」
「ほ、ホント!?」
「ふふ、ええ」
その言葉をすっごく嬉しく思う私が居る。
だって、母さんや兄さん、アリス姉さんだって、絶対に喜ぶよ!
「ユグドラシル!私ならいつでもOKだよ!母さんや兄さんだって、ユグドラシルとすっごく話したいはずだよ!」
その言葉に、ユグドラシルは困ったような表情をした。
あれ?なんで?
「ごめんなさい蓮華。私は、皆と話すつもりはないの。ただ、蓮華の力の為に、少し表に出る事があるだけ。そう理解して欲しいの」
どうして、だろう。
ユグドラシルだって、母さんや兄さんと話したいだろうに……。
でも、私が首を突っ込んで良い問題じゃ、きっとないよね。
「……そっか、分かったよ。でも、ユグドラシルとこの世界じゃなくても、会話できるようになった事、時々ユグドラシルが表に出る事は……言っても良いかな……?」
そう、聞いてみた。
ユグドラシルは微笑んで、言ってくれた。
「そう蓮華が望むなら、構いませんよ」
って。
ユグドラシルに何があったのかは分からない。
だけど、譲歩してくれた。
その事が嬉しくて。
私は、ユグドラシルに抱きついた。
「ありがとう、ユグドラシル!」
「あら……ふふ、蓮華も抱きつく癖があるのですね」
うぐ……母さんやアリス姉さんが、やたらめったら抱きついてくるから、私も何故か感情を抱きしめる事で表現してしまうように……。
き、気を付けよう。
「それじゃ、戻してあげるわね蓮華」
「うん、意識が戻っても、話せるんだよねユグドラシル?」
「ええ、今回の解放にまだ魔力が落ち着いていないようだから、少し私が先に出るわね」
「あはは、お願いします」
そう言ったら、またあの感覚に襲われる。
でも今度は、私を私の中で見ている。
そっか、これが体を預けているって事かな。
「レンちゃん、どうだった?」
母さんの声が聞こえる。
でも、私は答えられない。
すると、私の声が聞こえた。
「ふふ、蓮華なら大丈夫。ただ、少し制御が出来ていないから、変わってるの」
母さんが、物凄く驚いている。
そして、体を震わせ、涙を浮かべた。
「ゆぐ、ドラシルっ……!」
そう言って、母さんが抱きついてきた。
いつもの、私に抱きつくような感じじゃない。
力強く、そして泣きながら。
「会いたかった……会いたかった、ユグドラシルッ……!!」
ユグドラシルは、そんな母さんの頭を撫でる。
「ごめんなさい、マーリン。辛い役目を押し付けてしまって。そして……世界樹を守ってくれて、ありがとう……」
「うん……うん……!」
母さんが、まるで子供のように泣きじゃくる。
私は、目を閉じた。
きっと、私が立ち入って良い場所じゃない。
それからしばらく、ユグドラシルは母さんを抱きしめていた。
「落ち着いたかしらマーリン。しばらく会わないうちに、泣き虫になったのね?」
「こ、これは違っ!」
「ふふ、分かっていますよ」
そう言うユグドラシルに、ふくれっ面をする母さん。
「もぅ!そうやってからかう所は変わってないんだから!」
そっか、ユグドラシルってやっぱり、そんな感じなのか。
「それで、レンちゃんはどうしてるの?」
「蓮華ですか?中で、見ていると思いますよ?」
「え"?」
母さんが固まる。
「ふふ、先程のマーリンの泣いている姿、バッチリみられていますよマーリン」
「き、きぃやぁぁぁぁっ!?れ、レンちゃん、忘れてぇぇぇぇぇっ!!」
私は、母さんがあんなに慌てふためいている姿を始めて見た気がする。
「大丈夫ですよマーリン。蓮華は途中から目を瞑ってましたから」
なんでそんな事まで分かるんですか。
「ほ、本当?」
「ええ。まぁ、最初は見られていましたけど」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
また母さんが叫んだ。
そこへ、騒ぎ?を聞きつけた兄さんとアーネストがやってくる。
「どうしたんですかマーガリン師匠。いえもう師匠と呼ぶ必要は無かったですね」
そう、もう私達は、兄さんが母さんの弟子じゃないって事を知っている。
だから兄さんは、公の場面以外では、母さんの事を呼び捨てている。
「お帰りなさいロキ。それにアーネストも」
その言葉に、硬直する二人。
「え?蓮華、だよな?」
そう言うアーネストに、微笑むユグドラシル。
「まさ、か……ユグドラシル!?」
流石兄さん、すぐに分かったみたいだ。
「ええ。蓮華の為に、少しだけ表に出ています」
「成程、魔力の制御が出来なくなったのですね?」
「そういう事です。ロキは相変わらず……いえ、大分変ったようですね?」
「フ……何も変わらない君には、言われたくありませんね」
そう微笑む兄さんに、ユグドラシルが微笑んでいるのが分かる。
なんだろう、凄くあったかい気持ちになる。
このまま、ユグドラシルに全て任せたい気持ちになってくる。
「いけませんね……マーリン、ロキ。蓮華の存在が、私を前に押し出そうとしています。これ以上は危険ですから、少し任せて良いですか?」
「!!ええ、分かったわ!」
「任せなさいユグドラシル」
「お願いね」
視界が開ける。
目を開くと、皆が私を見ていた。
「あ、あれ?」
「レンちゃん、大丈夫!?」
「蓮華、なんともありませんか?」
えっと、何がだろう?
"蓮華、貴女は私に全てを任せたい、そう思いましたね?"
あっ……。
そうだ、確かにそう思ったような……。
"いけませんよ蓮華。私の本体は、世界樹なのです。この体は、蓮華の物。それを私に差し出そうとしては、絶対にいけません。私は、貴女の存在を消す為に、表に出たのでは決してありません"
そのユグドラシルの言葉に、私は反省する。
うん、ごめんよユグドラシル。
なんかね、皆を見ていたら……ユグドラシルが居た方が良いんじゃないかなって思っちゃって。
"蓮華……。そう思ってくれるのは嬉しい。けれど、どうせそう思うのなら、そこに貴女もいるように思って"
私、も?
"そう。皆と、私。そして蓮華……貴女も。忘れないで、マーリンもロキも、蓮華の事を大切に想っているの"
そうだ、私は何を考えていたんだ。
ありがとうユグドラシル。
私、ちょっとどうかしてた。
"そう、分かってくれたのなら良いの。さぁ、皆に声をかけてあげて"
うん。
ありがとう、ユグドラシル。
「心配かけてごめん。もう、大丈夫だから」
そう言ったら、皆安心したような顔になる。
「全くもぅ……それはそうとレンちゃん、少し、ほんのすこーし、忘れさせたい事があるんだけど、ちょっと良いかなぁ……?」
なんて、母さんが引きつった笑顔でこちらへにじり寄ってくる。
「わ、私はないですー!」
そう言って、外へ走り出す私。
「あ!待ちなさいレンちゃーん!!」
母さんが追いかけてくるぅ!?
「えっと……俺、何がなんだかよく分からないんだけど、教えてもらっても良いかな兄貴」
「蓮華とマーガリンが戻ってきてからで良いでしょう。先に汗を流してきなさいアーネスト」
「はーい」
「待ちなさいレンちゃんー!!」
「忘れた!忘れたから母さーん!!」
私と母さんの追いかけっこは、しばらく続いた。
途中から母さんは笑っていたので、多分遊んでるだけだったんだろうけどね。
途中の挿絵は、はるきKさんから頂きました。ありがとうございます。