181.実戦修行蓮華・アーネストVSロキ
「とりあえず結界を張っておきましたから、どれだけ力を出しても大丈夫ですよ」
そう言ってくれる兄さん。
私とアーネストが全力を出して、周りの木々に被害を出さない為に結界を張ってくれたのだ。
「ま、無いとは思うけど、もし仮にロキの結界を超えるような衝撃が行くようなら、私の方でも補強するからねー」
なんて母さんが補足してくれる。
「うっし、母さんから解放してもらった力、存分に試させてもらうぜ兄貴!」
そう言ってネセルを構えるアーネスト。
アーネストの力の解放はすぐに終わった。
なんせ母さんの力そのものを移植していて、その封を掛けたのも母さん自身。
解くのは一瞬で、何が起こったのか分からなかった。
私のように魔力が全身から放出される、なんて事も無かった。
だけど、アーネストは自身の力を感じるのか、ワナワナと震えていた。
自分の今の力を、試したくてしょうがないのだろう。
「兄貴!早速で悪いんだけど、戦ってくれよ!」
そのアーネストの言葉に、兄さんは微笑んで言った。
「ええ、良いですよ。蓮華も一緒に戦いますか?」
「うん!」
そして、今に至る。
私も、自身の力を試したかった。
まだ一つの門をクリアしただけ。
だけど、その魔力は単純に倍近くになっているように感じる。
解放された魔力量が、今まであった魔力量と偶々同じで、倍に感じるのか……それとも、解放される度に倍くらいになるのか、分からない。
でも、母さんが最初に言っていた、私の魔力量が世界に満ちているマナであり、世界樹と同じ。
その言葉の意味を、今噛みしめている。
ソウルを構え、兄さんを見つめる。
「フフ……アーネスト、それに蓮華。二人の修行に付き合えるなんて、嬉しいですよ」
そう言って微笑む兄さん。
兄さんは武器を持たない。
どんな武器も扱えるのは知ってる。
だけど、兄さんは武器を使わないのだ。
それは、私達を傷つけないようにだろう。
優しい兄さんは、私達を傷つけた事はない。
物理的にも、精神的にもだ。
でも、そんな気遣いは、ここでは邪魔になる。
「兄さん、いつも大切にしてくれて、嬉しいよ。でもね、私達は今、何を望んでるか……分かって欲しいんだ」
横で、アーネストも頷く。
その言葉に、兄さんは驚いた顔をする。
「!!……そうですね、宝石のように輝く貴方達を、ただ見守るだけでは貴方達の為にならない、という事ですか。分かりました、私はただ攻撃を防ごうとだけ思っていましたが……」
ゴォォォォォォッ!!
「「!!」」
瞬間、兄さんからとてつもない魔力が巻き上がる。
今までの私達なら、足が竦んで動けなくなるような、そんな膨大な力。
そして、何も持っていなかった兄さんの手に、剣が生み出された。
兄さんの魔力で生み出されたのだろうその剣は、透き通る水晶のように綺麗だった。
「私はまた一つ、教えられました。蝶よ花よと愛でているだけでは、駄目なのですね。時には厳しく接する事もまた、愛する方法なのだと」
兄さんが、恥ずかしい事をスラスラと言ってくる。
兄さんがどれだけ、私達の事を大切に思っているかは知ってる。
でも今、私達が求めている事は……!
「行きます兄さん。私達の、全力で!」
「ああっ!」
私とアーネストが揃って言う。
兄さんは笑った。
「ええ、貴方達に挑まれる事が、こんなにも誇らしい。来なさいアーネスト、蓮華。遠慮は要りませんよ!」
私達は駆ける。
兄さんの元まで、その時間1秒にも満たない。
今までの速度とは違う、魔力強化による補正が跳ね上がっている。
自身でも把握していなかった速度が出て戸惑うが、すぐに矯正する。
「でやぁぁぁっ!」
「はぁぁぁっ!!」
私がソウルを兄さんに向かって上から斬ろうとする。
アーネストは二刀による左右同時攻撃。
計3つの斬撃の同時軌跡を、兄さんは事も無げに防ぐ。
「「なぁっ!?」」
「まだ遅いですね。それでは、尚私の方が速いですよアーネスト、蓮華。こんな風にね」
ズバッ!ズバッ!
「ぐぅっ!?」
「うぉぉっ!?」
弾き飛ばされる。
地面を滑り、止まった場所は兄さんからかなり離れていた。
でも、ダメージはそれほどない。
「いっちぃ、なんて威力だよ。……って蓮華、お前ほとんどダメージ受けてないっぽいな?」
見れば、アーネストは斬られた場所の服が破け、赤くなっている。
障壁を破られ、その身にまでダメージが届いたのだろう。
「あー……多分、新たに得たスキルのお陰かな。このスキル、永久の防護壁って言って、全ダメージを半減するらしいんだ」
「マジで!?」
アーネストが驚いているけど、私だって驚いたよ。
まさか、ここまでダメージを和らげるなんて。
ダメージを和らげるというか、ダメージを受けなかった気がする。
「ふむ、ユグドラシルのアレですか。蓮華、その力は単純にダメージを半減するだけではありませんよ」
「え?」
「全ての属性に耐性がつくのです。それは、物理攻撃である斬、打といった事にもね。その上で、更にダメージを半減するのです」
嘘ぉ……ユグドラシル、そんな事まで言ってなかったよね!?
「そのスキルがあるユグドラシルは、正に難攻不落の要塞だったのですよ。私が勝てないかもしれない、というのは……ユグドラシルの防御を、突き破る事ができないかもしれないと判断したからですよ」
「兄さん、でも!?」
「ええ。更に、今の蓮華はまだ無いでしょうが……ユグドラシルには超回復・超再生のスキルがありますからね。体力、魔力共に凄まじい速度で完全に癒えてしまう。ユグドラシルが最強の女神と呼ばれる力の一旦ですね」
攻撃が通りにくくて、更には時間ですぐに全快って、ゲームだと倒すのは無理ゲーだと思う。
大抵、そういうのは弱点があって、何かに弱いとかあるものだけど……。
「さて、蓮華にはその力があるのでしたら、少し強めにいきましょうか。アーネスト、マーガリンの原初回廊をいくらか使えるようになったのでしょう?遠慮せずに、今使える全ての回廊を使いなさい。そうすれば、『オーバーブースト』だけでなく、全ての強化系魔術を重ね掛けできます」
「マジで!?」
「ええ。そして……アーネスト、『魔法』の強化系も、使ってみなさい」
「え?俺には魔力がねぇから、使えないんじゃ……」
「そうですね、アーネストにはない。ですが、マーガリンから移植された原初回廊は別です。その回廊は、魔力を貯めておける」
「ど、どういう事だよ兄貴!?」
「そこから先は、私が説明するねアーちゃん。私の原初回廊は、それ自体が魔力を生成する回廊なの。それは、世界樹の魔力でも、私自身の魔力でもない、異質な魔力だけど……まぎれもない、魔力なの」
「そ、それじゃ、俺もその魔力を使って、魔法も使えるって事!?」
「ピンポーン。それに、回廊を使った魔法だから、伝達力になんの影響も及ぼさない。アーちゃんは、魔法も魔術も最高位で扱える、ハイブリッドなんだよー!」
アーネストが、信じられないって顔してる。
うん、母さんの力を引き継いだって時点で、そんな気はしてた。
だって、母さんは魔術に魔法の両方を、とんでもない威力で行使できる。
あの説明なら、それはおかしい。
だけど、原初回廊……それが母さんの魔力として存在しているなら、可能なのだ。
「覚えていますかアーネスト。魔術の強化は効果の重ね掛け。そして魔法の強化は、時間の更新。それを組み合わせれば……アーネスト、貴方はずっと強化状態で戦える。それに、マーガリンの回廊は、とてつもない大きさです。まさにブラックホールと言っても良い。どれだけのマナを取り込もうが、負担など感じない事でしょう」
「!!」
とんでもなかった。
アーネストは体への負担から、強化魔術の重ね掛けを普段は行っていない。
それを、これからは常時使えるって事。
「あ、でもまだ全部解放したわけじゃないよー?まだまだ力あるから、楽しみにしててねアーちゃん!」
そう笑顔で言う母さんに、困った顔で驚いているアーネスト。
気持ちは分かる、今の時点で、すでに凄すぎる。
「そうですね、今は魔法と魔術をそれぞれ組み合わせる事しかできないでしょうが、魔法と魔術の合成術も、扱えるようになりますよ」
「「なっ!?」」
「あー!ロキー!先に言っちゃうなんてずるいー!!」
「どうせ次の解放でしょう。まだあるのですから、それくらい良いではないですか」
「ぶー!」
なんて母さんと兄さんが言い合っているけど、ちょっと待って欲しい。
魔法も、各属性の合成魔法はあった。
だけどそれは、魔法というくくりでの合成だ。
魔法と魔術、それは同じ力でも効果が異なる場合がある。
更に、同じ系統の魔法でも、効果に違いがある場合、別の魔法となる。
力、攻撃力を上げてくれる『アタックアップ』と、それの上位強化魔法である『パワーブースト』。
例えば、それを同時に掛ける事はできる。
でも、アーネストなら……魔法のそれらと、魔術のそれらを併用できるわけで……更には、それを合成して、新たな力を生み出せるって事、か!?
「アーネスト、後でツネって良い?」
「なんでだよ!?ってかお前も十分凄いだろ!?」
それはそうなんだけども。
「ふふ、解説はここまでに致しましょうか。さぁ、二人とも。自身の力を確認しながら、全力で来なさい」
「「はいっ!!」」
そうして、私達は暗くなるまで兄さんと戦った。
結果は、言うまでもなく惨敗で……。
兄さん、途方もなく強い……。
後、普通にダメージ通してくる兄さんが容赦なかったです、痛い。
でも終わったらすぐに駆け寄って傷を治してくれたよ、何度も何度も謝る兄さんが面白かった。
アーネストも苦笑してたよ。