180.蓮華VSユグドラシル
「でやぁぁぁっ!!」
「踏み込みが甘いですよ蓮華」
ギィン!!
「くっ!!」
「『エターナルウインド』」
ゴォォォォッ!!
「うぁぁぁぁっ!!」
ドサァ!!ゴロゴロゴロっ!!
斬りかかった私を、軽くいなして凄まじい威力の風魔法で吹き飛ばされる。
これが、この力が、ユグドラシルの本当の力っ……!
「違いますよ蓮華。この力はまだほんの一部。私の生まれ変わりである貴女なら、もっと上を目指せるはずです。さぁ、来なさい蓮華」
「うぉぉぉっ!!」
ギィィィィン!!
-少し前-
「え、私とユグドラシルが、戦う事になるの?」
そう母さんから言われた。
「ええ。私が掛けた封だけだと思っていたんだけれど……レンちゃん、世界樹の中に入ったでしょう?」
「あ、あの時かな」
「ああ、あの時だな」
アーネストと一緒に思い出す。
あの、イグドラシルに魂を抜き取られた時だ。
「レンちゃん……もしかしてだけど、ユグドラシルと会話した?」
「「!!」」
「ううん、答えなくて良いの。その時だと思うんだけど、レンちゃんにユグドラシルからの封が追加されてるの」
「ユグドラシルからの、封?」
「うん。私が封じていたものと、全く異なる封。調べて見たら、どうやらユグドラシルの魂の欠片が守護しているみたいなの。それを解くには、倒すしかないと思う」
「ユグドラシルを、倒す……」
「私の封を解こうにも、その上からユグドラシルが封をかけているから、無理なの。でも、凄いよ?もしユグドラシルの封を解ければ、それは本当のユグドラシルの力を引き継ぐ事に他ならないの。それはつまりね、女神の中でも最強のユグドラシルの力を、レンちゃんが扱えるようになるって事だから」
ちょっと待って。
母さん、今なんて!?
「な、なぁ母さん。ユグドラシルって、そんな凄いの?」
「うん?そりゃそうだよ。最強の神だよ、ユグドラシルは。私はユグドラシルには勝てないし、ロキも難しいんじゃない?」
そう言って兄さんを見る母さん。
兄さんは涼しい顔をして答える。
「そうですね、ユグドラシルが本気を出したならば……私でも、勝てないかもしれませんね」
「「!?」」
心の底から、衝撃を受けた。
母さんが勝てないと言うだけでも衝撃なのに、あの兄さんまでもが、認めるなんて。
「お、おい蓮華、そんな相手に勝てるのか!?」
「いや、無理でしょ。無理に決まってるよそんなの……」
「安心してレンちゃん。あくまで、封だよ。ユグドラシルに勝てなんて話じゃないと思うから。でも、戦う事にはなるだろうけど……」
「もしかして、母さんと同じで、私が慣れていくように段階の封っていう事?」
「うん、多分ね。私の考えが及ばない事も、あのユグドラシルの事だからしてそうだけれど」
「そうですね、恐らくなんらかの思惑で、封をしたのでしょう」
母さんと兄さんの言葉に、頷く。
「それじゃ母さん、私はどうやったら良いの?」
「心の中で、ユグドラシルに問いかけてごらん。きっと、答えてくれるよ」
その母さんの言葉に、目を瞑る。
ユグドラシル……私の声が聞こえる?
ユグドラシル……。
そう何度も問いかけているうちに、意識がこの世界から隔離される感覚。
目を開ける。
そこは、先程まで居た場所ではなく、真っ暗な世界。
そこに、輝く何かが居た。
「ふふ、いらっしゃい蓮華。ようこそ、私の世界へ」
「貴女、は……!」
分かる。
体が、歓喜に打ち震える。
この方は、この方こそが……!
「私は世界神、女神ユグドラシル。貴女の元、ですね」
「ユグドラシルさん……」
「さん、は要りませんよ蓮華。貴女は私。マーリンには感謝しているんですよ?貴女という、素晴らしい魂を私の器に込めてくれた」
「あの……」
「ふふ、聞きたい事はたくさんあるでしょうけれど、この第一の門では、話せる事は限りがあるの。たくさん聞きたければ、全ての門を打ち破り、私の元へ来て」
「門?」
「ええ。ここは私の魂の世界。蓮華、貴女の力は私の力。けれど、それはほんの一部しか扱えていない。この世界で魂を融合させ、真の私と成って、蓮華」
「!?」
「第一の門は、風の力。私を打倒して、力を手に入れなさい蓮華」
ユグドラシルが細い剣を構える。
あれは、レイピアか……。
私はソウルを構えようとして、気付く。
な、ない!ソウルがないよ!?
「ふふ、ここは魂の世界。貴女の魔剣は、この世界に来れない。イメージなさい蓮華。貴女の力を、刃にするのです」
イメージ……。
私はずっと、ソウルと共に在った。
これからも、ずっと。
なら、私のイメージは、これだっ!
「ふふ、刀の鍔が蓮華草なのですね。素敵ですよ蓮華」
「ありがとうございます。ソウルが、そう形どってくれたんです。私の大切な相棒だから、例え傍に居なくても……いつでも一緒です」
「その想い、素敵ですよ蓮華。さぁ、来なさい蓮華。私を打倒し、風の力を解放するのです!」
「……行きます、ユグドラシル!!」
力を込め、駆ける!
「でやぁぁぁっ!!」
「踏み込みが甘いですよ蓮華」
ギィン!!
「くっ!!」
「『エターナルウインド』」
ゴォォォォッ!!
「うぁぁぁぁっ!!」
ドサァ!!ゴロゴロゴロっ!!
斬りかかった私を、軽くいなして凄まじい威力の風魔法で吹き飛ばされる。
これが、この力が、ユグドラシルの本当の力っ……!
「違いますよ蓮華。この力はまだほんの一部。私の生まれ変わりである貴女なら、もっと上を目指せるはずです。さぁ、来なさい蓮華」
「うぉぉぉっ!!」
ギィィィィン!!
「力任せに私を倒そうとしても無駄です。ここは魂の世界。そして、私を知る世界。私と同調しなさい蓮華。私を感じるのです」
「ユグドラシルを、感じる……!」
「さぁ、行きますよ。『エターナルウインド』」
ゴォォォォッ!!
「ぐぅぅっ!!」
今度は全魔力を込め、防御する。
凄まじい風の刃が、全身を駆け巡る!
「この、風の魔力を、扱うっ……!」
ユグドラシルの魔力を、いや違う……これは、私の魔力だ!
ギュゥゥゥゥゥン!!
「そうです蓮華、これは私の魔力であり、貴女の魔力なのです蓮華。感じなさい、私の魔力を」
「うおおおぉぉぉぉっ!!」
ユグドラシルが放った『エターナルウインド』を自身の体から『生成』する。
凄まじい魔力量に全身が悲鳴をあげる。
「そう、その調子です蓮華。さぁ、放ってみなさい!」
「おおおぉぉぉっ!!『エターナル……ウインド』ォォォッ!!」
ゴォォォォォォオッ!!
凄まじい風の嵐が、ユグドラシルを襲う。
この桁違いの魔法の威力、今まで母さんから習ってきたどの魔法にも、こんな魔法は無かった。
紛うことなき、ユグドラシル専用の大魔法だ。
バシュゥゥゥゥゥン!!
「合格です蓮華。『エターナルウインド』、習得しましたね」
「は、はい……全身の魔力を、全て使い切った気がします……」
その場に座り込む私。
「ふふ、こちらへ来なさい蓮華」
そう優しく言うユグドラシルの元へ、フラフラとよろめきながら向かう。
「さぁ、私に触れて。貴女の封を、一つ解いてあげる」
ユグドラシルに触れる。
そうすると、体内に魔力が駆け巡る!
「う、ぐぅ、あぁぁぁぁっ!?」
ゴオオオオオッ!!
とてつもない魔力が、全身から吹き荒れる。
バヂバヂバヂ……!
「これ、は……」
全身から、オーラのようなものが見える。
なんだこれ……!
「私の力の一つを、解放しました。これで蓮華、貴女は受ける全てのダメージを半減できます」
「え!?」
「神が人間に与えるスキル、それは神が持っているスキルを与えているにすぎません。蓮華、貴女は私。私の持つスキルを扱う事ができるのです」
な、なんてこったい。
ここにきて、スキルを覚えれるようになるなんて!?
「その一つ、永久の防護壁。どんな攻撃であれ、受けた時のダメージを半減する事ができます。ダメージを無効化はできませんが、この効果はレジスト(抵抗)されませんから、無効化より有用ですよ?無効化は、レジスト出来てしまいますからね」
「あの、なんでそんなにゲーム用語に詳しいんです?」
「ゲーム用語?」
あ、これ知らないやつだ。
「ごめんなさい、なんでもないです……」
私は口をつぐんだ。
「そうですか?とりあえず、こういった門が全属性分ありますから、頑張って解放してくださいね蓮華」
「全属性分!?」
いやちょ、それどんだけなの!?
というか、これ一つで結構規格外な能力だよ!?
「一つの門を開放すれば、一つの能力の解放と、魔力量の最大値の解放ができますからね?」
「あの、どうしてこんな事を……?」
「ふふ、イグドラシルを私と会わせてくれたお礼と……いつか、貴女が成長した時、私と貴女で、世界に共存できるかもしれませんから」
「え?」
「それでは蓮華、次の門で待っています。けれど、これは魂に凄まじい負担を掛けます。今日は、戻りなさい」
「あ、ちょ、待って!」
言うも、意識は急速に覚醒していく。
「レンちゃん?」
どうやら、戻ってきたようだ。
目を開けたら、皆が私を見ていた。
「す、すげぇ……一体、どうしたんだよ蓮華。お前から、凄まじい魔力を感じるぞ……」
アーネストが驚いていた。
「うん……ユグドラシルと、会ったよ」
「「「!!」」」
その言葉に、全員が驚く。
私は事情を説明した。
「そう、ユグドラシルがそんな事を……」
「ふむ……ありがとうございます蓮華。年甲斐もなく、少し嬉しくなりましたよ」
「ふふ、ロキも?」
「ええ」
二人は微笑んでいる。
昔を懐かしむように。
「そうか、蓮華は道が開けたんだな。母さん!次は俺を頼むよ!」
「うん、任せてアーちゃん。レンちゃんがユグドラシルの力を引き継ぐなら、アーちゃんはこの私の力を引き継いでるんだからね!」
「うは、それはそれで羨ましいなアーネスト」
「へへ、お互い様だろ蓮華!」
「まぁね」
二人微笑み合う。
「ふむ、でしたら私は二人の修練に付き合ってあげましょうか?」
「「本当に!?」」
私達は同時に言う。
「ええ、構いませんよ。二人の成長の為、力を貸しましょう」
「ありがとう兄さん!」
「ありがと兄貴!!」
そう言って、私達は兄さんに抱きついた。
滅茶苦茶照れてる兄さんがおかしかったけど、横で母さんが、私はー?
なんて言ってて笑ってしまった。
もちろん母さんにも抱きついておいた。
母さんに抱きつくのは、アーネストはなんか気恥ずかしかったみたいだけどね。
私はもう慣れたよ、うん。